クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第15話:次なる一手と、森の見捨てられ子

 

 

 防具屋を出た俺たちは、その足で再び冒険者ギルド『リファル支部』へと戻っていた。

 昨日とは違い、今のシアの姿はギルド内の荒くれ者たちの目を別の意味で釘付けにしていた。

 濃紺の革鎧に身を包み、要所の銀色の魔鉄が鈍く光る。その佇まいは、ただの美しい少女から、一国を背負うに足る『気高き女騎士』のそれへと完全に変貌を遂げていた。腰に下げた純白の剣も相まって、もはや彼女を「ただの元奴隷」と侮るような視線を向ける者は一人もいない。

 

「おい、あの防具……北通りの頑固親父の店の一品じゃねえか?」

「格好だけじゃねえぞ、あの纏ってる空気がヤバすぎる……」

 

 ひそひそ話が広がる中、俺たちはまっすぐ依頼掲示板へと向かった。

 ボルドの件や、キバウサギの大量持ち込みがあったせいで、俺たちの存在はギルド内である種の名物になりつつあったが、俺たちの登録証は依然として最低の『Fランク』だ。

 

「さて、シア。次はどんな依頼にするかだけど……」

 

 掲示板の初心者エリアに目を向ける。薬草採取や溝掃除といった、今のシアにとっては退屈極まりない依頼ばかりが並んでいる。昨日の今日で、さすがにこれらを地道にこなすのは効率が悪すぎる。

 

「あの、アルトさん、シアさん」

 

 声をかけてきたのは、いつもの眼鏡をかけた女性受付嬢だった。彼女は手元に一枚の、少し上質な羊皮紙を握りしめている。

 

「お二人に、ギルドからの『指名依頼』……いえ、正確には特例としての『昇格試験を兼ねた依頼』をご提案に参りました」

 

「昇格試験?」

 

 俺が首を傾げると、受付嬢は真剣な表情で頷き、持っていた羊皮紙を掲示板の空いているスペースにピンで留めた。

 

 > 【特例依頼:『迷い子の森』の狂暴化魔獣の調査および討伐】

 > 報酬:金貨二枚 (成果に応じて追加報酬あり)

 > 対象:Dランク相当の魔獣ワイルドボアなど

 > 備考:本来はCランク以上のパーティ向けだが、実力を考慮し特例での斡旋とする。

 

「昨日、シアさんが見せた実力、推し量れない魔力量、安全に整えられた防具、そしてボルドさんの腕の一件は、すでにギルド長へ報告してあります。この依頼を無事に達成していただければ、一気に『Dランク』への飛び級昇格を認めるとのことです」

 

「街の北西にある『迷い子の森』ですね。分かりました。その依頼、俺たちが引き受けます」

 

「ありがとうございます! では、手続きをいたしますね。くれぐれもお気をつけて……最近は、おとなしいはずの魔獣が狂暴化しているという不穏な報告が多いですから」

 

 受付嬢の心配そうな声を背に受けながら、俺たちはギルドを後にした。

 ◇

 翌朝、俺たちは準備を整え、商業都市リファルの北西に広がる『迷い子の森』の入り口へと辿り着いていた。

 見上げるほどの巨木が立ち並び、昼間だというのに森の内部は薄暗く、ひんやりとした不気味な空気が漂っている。

 

「なるほど……これは確かに『手入れ』が必要な状態だな」

 

 俺は一歩足を踏み入れた瞬間に顔をしかめた。

 森全体に視線を向けると、木々の生命力の系譜が、あちこちでどす黒く濁り、歪み合っているのが見えたのだ。自然にこうなったのではない。まるで、森の奥深くから「何か嫌な悪意」が、根を通じて植物たちの栄養を汚染しているかのような――そんな、奇妙な不協和音が五感に伝わってくる。

 その時だった。

 森の奥から、複数の人間の慌ただしい足音と、下品な罵声が響いてきた。

 

「走れ! 走れ! ほら、遅れるんじゃねえ、役立たず!」

 

「ひっ、う、あぁ……待ってください……っ!」

 

 茂みをかき分けてこちらへ走ってきたのは、三人組の軽薄そうな冒険者たち。そしてその最後尾を、みすぼらしいローブを着た小柄なエルフの少女が、大きな杖を抱えながら涙目で必死に走っていた。彼女の魔力の系譜を見ると――火や水、風といった複数の属性の根が、体内で不格好にこんがらがって暴走しかけている。

 

「おい、お前ら! 運がいいぞ!さぁここで役立てよ!」

 

 リーダー格の男が、転びそうになったエルフの少女の背中を、思い切り森の開けた中央へと突き飛ばした。

 

「ああっ!?」

 

「お前は魔法の発動が遅くて使えねえんだよ! 今日でクビだ! せめてあいつの『囮』になって、俺たちの盾になりやがれ!」

 

 男たちはそう叫ぶと、少女を置き去りにして、脇の茂みへと一目散に逃げ去っていった。

 自分たちが逃げるための、文字通りの『生け贄』。理不尽な仕打ちだった。

 ドシン、ドシン、と地響きを立てて、森の茂みをなぎ倒しながら現れたのは、通常の倍はあろうかという巨体を持つ、巨大な猪の魔獣――ワイルドボアだった。

 

 目は血走って真っ赤に染まり、口からは灰色の禍々しい泡を吐き出している。完全に、体内の魔力の枝が腐り落ちて暴走している状態だ。

 

「グルァァァァッ!!」

 

 狂暴化したワイルドボアは、目の前で地面にへたり込んでいるエルフの少女を見つけると、その巨大な牙を突き出し、地鳴りのような突撃を開始した。

 

「い、いやぁぁぁ……! 魔法、魔法が……っ、出て、お願い……!」

 

 少女は泣きながら杖を突き出すが、体内で複雑に絡み合った属性の根が邪魔をして、杖の先からは小さな火花がパチパチと散るだけ。突撃を止める術など、彼女には残されていなかった。

 

「シア」

 

 俺は静かに、隣に立つ護衛の名を呼んだ。

 

「御意に、アルト様――」

 

 シアの身体から、密度のある黄金の魔力が立ち上る。

 新調された防具が彼女の力を完璧に調和させ、光を無駄に散らすこともなく、ただ一筋の『洗練された刃』として、彼女は地を蹴った。

 突撃するワイルドボアと、泣き崩れるエルフの少女。

 そのわずかな隙間に、濃紺の革鎧を纏った漆黒の美少女が、神速の速度で滑り込む。

 

「聖剣術・一の型」

 

 シアが水平に構えた純白の剣が、美しい黄金の軌跡を描く。

 

「【閃《せん》】」

 

 キィィィン、と森の空気を震わせる澄んだ音が響いた。

 直後、エルフの少女の目の前で、巨大なワイルドボアの身体が、紙細工のように真っ二つに両断され、ドサリと左右に崩れ落ちた。完璧な切れ味による、一撃必殺。

 

「……え?」

 

 涙で濡れた目を丸くして、エルフの少女がぽかんと口を開ける。

 自分の命を奪うはずだった天災のような魔獣が、一瞬で物言わぬ肉塊に変えられていたのだ。

 シアはすっと剣を引き、残った血を払って鞘に収めると、俺の方を振り返って微笑んだ。

 

「アルト様、間引き、完了いたしました」

 

「ああ、お疲れ様。見事な剪定だ、シア」

 

 俺は歩み寄り、シアの健闘を称える。

 そして、未だに地面に座り込んだまま、ぶるぶると震えているエルフの少女を見下ろした。彼女の体内で、発動し損ねた複数の魔法の魔力が、今にも破裂しそうなほどに歪に絡み合っているのが、俺の目にはハッキリと見えていた。

 

「大丈夫かい? 随分と、不格好に『根』が絡まっちゃっているみたいだけど」

 

 俺は腰のポーチから、愛用の剪定鋏をそっと指先で転がした。

 見捨てられた魔法使いの少女と、道具も人の力も整える庭師。森の奥で、新たな『剪定』の幕が上がろうとしていた。

 

(第15話 終)

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