クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第16話:絡み合う回路と、失われた系譜

 

 

「あ、う……あ……」

 

 真っ二つになったワイルドボアの巨体を前に、エルフの少女は座り込んだまま、ただただ呆然と俺たちを見上げていた。

 涙と泥に汚れた顔、ボロボロのローブ。その小さな身体はまだ小刻みに震えているが、それ以上に俺の目を引いたのは、彼女の体内を巡る魔力の『異様さ』だった。

 

「アルト様、この方……」

 

 シアが剣を収めながら、不審そうに少女を見つめる。

 

「あぁ、少し見せてね」

 

 俺は少女の前にしゃがみ込み、視線を引きつけるように優しく声をかけた。

 

「怪我はないかい? 驚かせて悪かったね。でも、もう大丈夫だ」

 

「た、助けて……くれた、の……? 私は、ただの囮だったのに……魔法も、まともに使えない、役立たずなのに……っ」

 

 少女は再びボロボロと涙をこぼし、抱え込んでいた安物の杖をぎゅっと握りしめた。

 その瞬間、杖の先から再びパチパチと不格好な火花が散る。だが、それと同時に、少女はウッと胸を押さえて苦しそうに顔をしかめた。

 

(……やっぱりそうだ。おかしなことになっているな)

 

 俺は『剪定』の目をさらに深く、彼女の体内の奥底へと凝らした。

 昨日治療したボルドの腕は、単に魔力が渋滞を起こしていただけだった。だが、このエルフの少女の体内は、そんな単純なレベルではない。

 彼女の魂の根源から伸びているのは、現代の魔導士たちが持つような細い「魔力の動線」ではなかった。それは、まるで神話の大樹を思わせるほどに太く、神聖な輝きを放つ、圧倒的な美しさを持つ『古代魔法の回路』だった。

 本来なら、一撃で天変地異を起こせるほどの、失われた超高位の系譜。

 しかし、その偉大なる大樹に、おぞましい「寄生植物」がびっしりと絡みついていた。

 それこそが、現代の、効率ばかりを重視した浅薄な『現代魔法の術式』だった。

 彼女の生まれ持った規格外の回路に、現代の矮小な魔法理論を無理やり流し込もうとした結果、回路のあちこちが急激な拒絶反応を起こし、迷路のようにぐちゃぐちゃにねじ曲がってしまっているのだ。

 例えるなら、世界樹の苗木に、そこらの雑草を無理やり突き刺して、強引に水を吸わせようとしているようなもの。これでは魔法が出ないどころか、使うたびに内側から身体が焼き切れ、激痛に襲われるのも当然だった。

 

「君が魔法を使えなかったのは、君の才能が足りないからじゃない。むしろ逆だよ」

 

 俺は静かに、しかし確信を込めて言った。

 

「え……?」

 

「君の身体の中には、ものすごく立派な『大樹』がある。それなのに、周りの人間が間違った方法で、無理やり変な雑草を巻き付けたんだ。君の回路は、その雑草を拒んで、今にも悲鳴を上げそうになっている」

 

「何を……言っているの……? 私はさっきのパーティでも、魔法の発動が遅すぎるって、出来損ないのエルフだって言われて……」

 

「遅いんじゃない。流そうとしている水の量が、器に対して多すぎるんだよ。現代のちっぽけな魔法の形じゃ、君の力を支えきれない」

 

 俺は腰のポーチから、ゆっくりと剪定鋏を抜き放った。

 銀色の刃が、薄暗い森の木漏れ日を浴びて冷たく光る。少女は一瞬、ハサミを見て身体を強張らせたが、俺の目を見て、何かを察したように動きを止めた。

 

「ちょっと、君の身体を縛っている『無駄な雑草』を切り落とすよ。少し、熱いかもしれないけれど、俺を信じてじっとしていてくれるかい?」

 

「アルト様がそう仰るなら、本当に救われます。……大丈夫ですよ」

 

 シアが横から優しく微笑みかける。その圧倒的な強さを持つ護衛の言葉に安心したのか、エルフの少女は、小さくコクリと頷いた。

 

「……おねがい、します……っ」

 

「よし。――手入れを始めよう」

 

 俺はハサミを構え、彼女の胸の前にかざした。

 ターゲットは、彼女の偉大なる古代の回路に、まるで癌細胞のようにこびりついている『現代魔法』の結び目だ。

 俺の視界の中で、切り落とすべき「黒い雑草の根」がハッキリと浮かび上がる。

 俺は迷わず、ハサミの刃をそこに噛み合わせ、一気に力を込めた。

 

 チョキン――!!!

 

 森全体に、これまでで最も高く、耳の奥まで突き抜けるような澄んだ金属音が鳴り響いた。

 

「――あぁっ!?」

 

 少女の口から、短い悲鳴のような声が漏れる。

 直後、彼女の身体から、凄まじい密度の『純白の魔力』が、文字通りの暴風となって吹き荒れた。

 

 ドォォォォン!!!

 

 シアが咄嗟に俺の前に立ち、その衝撃波を革鎧の魔力で受け流す。周囲の立ち枯れた木々が、その魔力の圧力だけでメキメキと音を立ててへし折れていく。

 ハサミを入れた瞬間、彼女を縛っていた偽りの術式がすべて消滅し、内側に閉じ込められていた『古代魔法』の奔流が、一気に解き放たれたのだ。

 ぐちゃぐちゃに絡み合っていた回路が、パズルのピースが嵌まるように、一瞬で本来のまっすぐな、美しい大樹の姿へと整えられていく。

 

「はっ、あ、あ……」

 

 暴風が収まると、少女は自分の両手をじっと見つめていた。

 その肌からは、先ほどまでの濁った気配は完全に消え去り、エルフの王族すら凌駕するような、神聖で透き通った魔力がオーラとなって揺らめいている。

 

「痛みが……消えた……? それに、何、これ……私のなかに、何か、すごい温かい力が……」

 

「それが、君の本来の姿だよ」

 

 俺はハサミをポーチに戻し、軽く汗を拭った。さすがに今の一撃は、世界樹の枝を切り落としたかのような手応えがあり、少し骨が折れた。

 

「試してごらん。現代の魔法の名前なんて、もう唱えなくていい。ただ、君が使いたいと思うイメージを、そのまま外に出すんだ」

 

 少女は戸惑いながらも、立ち上がった。

 そして、ボロボロの杖を、はるか前方の森の空いた空間へと向ける。

 彼女の唇が、失われた古代の言語を、無意識のうちに紡ぎ出す。

 

「――『純白の息吹《プラヴィナ・ブレス》』」

 

 ドガァァァァァァン!!!

 

 彼女の杖の先から放たれたのは、火花でもなければ、ただの火球でもなかった。

 それは、森の視界をすべて白銀に染め上げるほどの、超高密度の『純白の熱線』だった。

 一瞬にして、前方の直線上にある巨木たちが、跡形もなく消滅し、はるか奥の山肌まで届くほどの巨大な風穴が森に穿たれた。昨日のシアの攻撃をも越える、文字通りの戦略級魔法。

 

「……え」

 

 杖を持ったまま、エルフの少女は再び石のように硬直した。

 出来損ないと呼ばれ、パーティに捨てられた少女が、ハサミ一つの『手入れ』によって、世界を揺るがす古代の魔導士として覚醒した瞬間だった。

 

(第16話 終)

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