クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第19話:職人の街と、未完の銘木

 

 

「ふあぁ……よく寝たなぁ」

 

 翌朝、俺はリファルの街でも一流とされる宿『碧翠の休処』の豪奢なベッドの上で、大きく伸びをした。

 昨日、ギルドから支払われたワイルドボアの討伐報酬と、Dランクへの飛び級昇格による一時金。それらを合わせると、俺たちの手元には一般の平民が一年は贅沢に暮らせるほどの金貨が転がり込んでいた。

 これまでは安宿の固いベッドだったが、護衛であるシアと、新しく仲間になったフィリアの体調を万全に整えるのも、雇い主である俺の役目だ。

 

「おはようございます、アルト様」

 

 食堂へ下りると、すでに席についていたシアが、嬉しそうに一礼した。

 濃紺の革鎧は部屋に置いてきたようだが、緑のワンピースの着こなしだけでも、周囲の宿泊客が思わず目を奪われるほどの気品を放っている。

 

「おはよう、シア。フィリアはまだかい?」

 

「はい。先ほどお部屋を覗いたのですが、新しいお洋服が嬉しかったようで、鏡の前で何度も回っていらっしゃいました」

 

 シアがクスクスと笑う。

 その言葉通り、少し遅れて下りてきたフィリアは、俺が『手入れ』して純白に生まれ変わった魔導衣の裾を大切そうに押さえながら、顔を真っ赤にして俺たちの前の席に座った。

 

「お、おはようございます、アルト様、シアさん……! あの、お洋服、本当に着心地が良くて……ありがとうございます」

 

「気に入ってくれたなら良かったよ。さて、二人とも。今日は美味しい朝飯を食べたら、少し街を回ろうか。フィリア、君の『杖』を新調しにいかないとね」

 

 その言葉に、フィリアはハッと表情を強張らせ、それから申し訳なさそうに視線を落とした。

 

「あ……そう、ですよね。私のせいで、杖が、一撃でボロボロになっちゃって……」

 

「気にする必要はないよ。君の『古代魔法』の根があれだけ太いんだ。そこらの量産品の杖じゃ、流れる水の圧力に耐えきれずに折れるのは当然だ。君の力に見合う、最高の杖を探しにいこう」

 

 俺たちは朝食を済ませると、昨日シアの防具を購入した北の兵装街へと再び向かった。

 向かう先は、防具屋の親父から紹介してもらった、街一番の『魔導具・杖専門店』だ。

 立ち並ぶ工房の煙を見上げながら歩いていると、ふと、街の空気の中に昨日『迷い子の森』で感じたのと同じ、かすかな「不協和音」が混ざっていることに気がついた。

『剪定』の目を街の地下へと向けると、このリファルの街を支える地脈の根元が、ほんのわずかに黒く澱み始めている。

 

(森だけじゃない……。この街の周囲全体で、何かが始まろうとしているのか?)

 

 庭師としての不穏な予感を覚えつつも、俺たちは目的の店――木造の古めかしい、だが風格のある佇まいの魔導具店へと足を踏み入れた。

 店内に入ると、壁一面に様々な木材や鉱石が嵌め込まれた杖が飾られていた。

 奥のカウンターにいたのは、長い白髭を蓄えた、いかにも気難しそうな老店主だった。

 

「……ほう、Dランクのプレートか。だが、そこのエルフの娘が纏っている魔力、ただ事ではないな」

 

 老店主は一目でフィリアの本質を見抜いたようで、眼鏡の奥の目を鋭く光らせた。

 

「この子に合う杖を探しているんです。昨日、市販の杖に魔法を流したら、一撃で自壊してしまいましてね。彼女の膨大な魔力を邪魔せず、真っ直ぐに伝える通りの良い木材が欲しいんですが」

 

 俺の言葉に、老店主はフンと鼻を鳴らした。

 

「市販のゴミと一緒にするな。うちの杖はどれも一級品だ。……だが、その娘の魔力の『質』は、現代の術式とは根底から違うな。妙に懐かしく、そして恐ろしく太い。……普通の杖では、確かにまた一撃で消し炭になるだろうて」

 

 老店主はそう言うと、カウンターの奥から、一本の『未完成の杖』を持ってきた。

 それは、装飾も施されていない、ただの不格好な一本の木枯らしのような、黒い木の枝だった。

 

「これは『霊樹』の枯れ枝だ。魔力の許容量だけなら、この街のどの杖よりも高い。……だが、素材が頑固すぎてな。どんな優秀な彫刻師や魔術師が手を加えても、木の繊維が魔力を拒絶しちまう。加工もできん、ただの『死んだ銘木』じゃよ。もしこれを使うなら、金貨四枚で譲ってやるが……扱えるかね?」

 

 店主が差し出した黒い木肌の杖。

 フィリアが恐る恐る手を伸ばそうとした時、俺は一歩前に出て、その杖を遮るように見つめた。

 

『剪定』の目を向ける。

 

(――なるほど。死んでなんかいない)

 

 俺の視界の中で、その黒い枝は死んでいるどころか、内側で強大すぎる生命力があまりにも無駄に絡み合い、窒息しかけている状態だった。

 繊維の方向がバラバラで、お互いに栄養を奪い合っている不格好な生け垣。だから、外からの魔力を通さないのだ。

 

「この木、死んでるんじゃありません。ただ……『手入れ』の仕方が悪くて、息が詰まっているだけです」

 

「何だと……?」

 

 老店主が不快そうに眉をひそめる。

 俺は構わず、腰のポーチから愛用の剪定鋏を抜き放った。

 今日の手入れは、人でも防具でもない。世界樹の系譜を持つ、最高級の植物そのものだ。

 

「フィリア、君の新しい『枝』だ。綺麗に整えてやるからな」

 

 俺はハサミの刃を、黒い霊樹の最も窮屈そうに絡み合っている節へと滑らせた。

 

(第19話 終)

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