クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第33話:お嬢様との買い出しと、新しい靴

 

 

「亡霊の迷い森」への出発を明日に控えた午前中。

 俺たちは宿でそれぞれ旅の準備を進めていた。

 

「アルト様。フィリアさんとシアさんは、馬車の調達とギルドへの手続きに向かわれましたわ。……ということは、今の時間はわたくしたち2人きり、ということですわね?」

 

 エルダがふわりと微笑みながら、俺の部屋のドアを開けて入ってきた。

 色褪せた学園の制服ではなく、旅用に新調した白いブラウスにダークネイビーのフレアスカートという私服姿だ。不格好な眼鏡を外し、金と紫のオッドアイを輝かせる彼女は、街を歩けば誰もが振り返るほどの美貌を放っている。

 

「そうだな。俺たちは森に入るための薬品や、保存食の買い出し担当だ。……エルダ、体調はもう大丈夫か?」

 

「ええ、驚くほど軽快ですわ。これまでは一歩歩くたびに頭痛がしていましたのに、アルト様に『手入れ』していただいてからは、世界がこんなにも鮮やかに見えますの」

 

 嬉しそうに胸を張るエルダ。その豊かな膨らみに少し目のやり場に困りつつ、俺たちはオルトヴィンの活気ある市場へと繰り出した。

 

「あら、これは……? 固いパンに、干し肉……。旅の食事とは、このようなものをいただくものですの?」

 

 市場の露店に並ぶ無骨な保存食を見て、エルダは物珍しそうにオッドアイを丸くした。

 ルクレツィア公爵家のお嬢様として育ち、学園でも大図書館に引きこもっていた彼女にとって、庶民の市場での買い物、ましてや旅の買い出しなど何もかもが初めての経験なのだ。

 

「森の中じゃ優雅に調理してる暇はないからね。でも、フィリアが干し肉を使ったスープを美味しく作ってくれるよ。……おっと、エルダ、足元に気をつけて」

 

「きゃっ……!?」

 

 石畳の段差に躓きかけたエルダの細い腰を、俺はとっさに腕を伸ばして抱きとめた。

 驚くほど柔らかい身体の感触と、彼女の髪からふわりと香る、どこか甘い花の匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「だ、大丈夫か? まだ少し、視界の距離感が掴みにくいのかな」

 

「は、はい……。長年、分厚い眼鏡の歪んだ視界に慣れていましたので、本当の距離感に身体が追いついていないようですわ……。それに……」

 

 エルダは俺の胸に顔を埋めたまま、白くしなやかな両手で俺のシャツの裾をぎゅっと握りしめた。

 見上げれば、金と紫の瞳が潤み、白い頬が耳の裏まで真っ赤に染まっている。

 

「……その、アルト様にこんなに近くで見つめられますと、胸の奥が別の意味でドキドキして、足元が覚つかなくなってしまいますの」

 

「エルダ……」

 

 お嬢様然とした毅然とした態度から一転、無防備な少女の顔を見せる彼女のギャップに、俺の心臓も不意にトクン、と跳ね上がった。

 俺は彼女をゆっくりと起こすと、ふと彼女の足元に目を留めた。

 履いているのは、学園指定の底の薄い革靴だ。これでは整備されていない「迷い森」の悪路を歩けば、すぐに足を痛めてしまうだろう。

 

「エルダ。食料の前に、まずは靴屋に行こう。君の足に合わせた、最高の旅靴を『手入れ』してやろう」

 

「わたくしの、靴を……?」

 

 俺たちは市場の隅にある老舗の靴屋へと入り、エルダを木製の椅子に座らせた。

 俺は彼女の前に膝をつくと、そっとその小さな右足を取り、靴を脱がせる。

 

「あ、アルト様……!? 地べたに膝をついて、わたくしの足を触るなんて……!」

 

「良い庭師は、土壌の状態を直接手で触って確かめるものさ。旅師にとっても、仲間の足の健康を守るのは大事な仕事だ」

 

 白く、驚くほど形の綺麗なエルダの足。しかし、過酷な実技訓練の痕跡だろうか、指の付け根にかすかな豆の跡が残っていた。あんなにバカにされながらも、彼女がどれだけ必死に走って、踏ん張って、魔法の修練をしてきたかが、足の裏からも伝わってくる。

 

「……よく頑張ってきたんだな。君のこの足なら、もっとクッション性があって、足首をしっかり固定できる丈夫なブーツが馴染むはずだ」

 

 俺は店内に並ぶ最高品質の魔獣革のブーツを選び、彼女の足に優しく滑り込ませた。

 そして、靴紐を一本一本、まるできれいに枝を整えるように、丁寧な手つきで締め上げていく。

 

「すごいですわ…… まるで、最初からわたくしの足の一部だったかのように、ぴったりと吸い付くようですわ。……本当に、アルト様の手は魔法の手のようですのね」

 

 エルダは嬉しそうに新しいブーツをトントンと床に打ち付け、それから、椅子から少し身を乗り出して、俺の頬にそっと手を添えた。

 

「アルト様。わたくし、実技がダメだった頃、いつか誰もいない暗い森の中で一人で朽ち果てるのだと思っていましたの。……でも、今は違いますわ。この新しい靴で、アルト様と共にどこまでも歩んでいきたい。貴方の歩む道のすべてを、わたくしの光と闇で照らしてみせますわ」

 

 オッドアイに宿る、深く、熱い、一途な忠誠と情愛。

 その真っ直ぐな瞳に見つめられ、俺は彼女の美しい手をそっと握り返した。

 

「ああ。よろしく頼む、エルダ。君という最高の『一輪』を、俺が咲かせ続けて見せるよ」

 

「ふふ、はい……。嬉しいですわ、アルト様」

 

 眼鏡のない絶世の笑みを浮かべるエルダと、買い出しの荷物を抱えて宿へと戻ると――そこには、予定より早く用事を済ませて腕を組んで待ち構えていた、シアとフィリアの冷ややかな視線が待っていた。

 

「……アルト様。ずいぶんと長いお買い物でしたね。エルダさんの足元が、何やら高級なブーツに変わっているようですが?」

 

「あーっ! エルダさんずるいです! アルト様に靴を選んでもらうなんて、私だってまだしてもらってないのにーっ!」

 

「あら、これは旅の必需品ですわ。アルト様がわたくしの足を『直接』触って、じっくりと選んでくださったの。お羨ましいかしら?」

 

「直接触った……!?」と、シアの瞳がスッと細まり、純白の剣が鞘の中で微かに鳴る。

 旅立ちの前日。俺たちのパーティの絆と正妻戦争は、さらに熱気を帯びて深まっていくのだった。

 

(第33話 終)

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