クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります 作:らっぽん
「今夜はこれにて身体を休めるが良い。……話の続きは、明日だ」
地王は威厳に満ちた声でそう告げると、傍らに控えるガルドへ短く目配せをした。老人が俺たちに向き直り、静かに顎を引く。
「案内を仰せつかった。客間を用意させる、ついてこい」
「あら、客間を用意していただけるということは……わたくしたち、ひとまずは捕虜ではなく客人として扱っていただけるのかしら?」
エルダがその美貌に探るような笑みを浮かべ、確認するように尋ねた。
「陛下はまだ決めていないと仰ったはずだ。もしお前たちが夜闇に乗じて逃げ出そうとするならば、その瞬間から捕虜となる」
「なるほど。――逃げる気はありませんわよ」
「ならば、大人しくしているうちは客人だ」
ガルドはそれだけ短く答えると、迷いのない足取りで歩き始めた。
その背中を追う道すがら、シアが音もなく俺の耳元へと顔を近づけて囁いてくる。
「アルト様、絶対に油断しないでくださいね。もし何かあれば、私が一瞬で盾になりますから」
「分かってるよ。でも、今夜はひとまず素直に休もう。みんなここまで歩き詰めで、本当はくたくたに疲れているだろ?」
「私はアルト様の護衛ですから、これくらい平気です!」
「――俺が、お前の心配をしてるんだよ、シア」
「えっ……」
シアはわずかにその大きな目を丸くし、それからみるみるうちに、ほんのりときつね色の頬を林檎のように赤く染めた。
「……は、はい。アルト様が……そこまで仰ってくださるなら、お言葉に甘えちゃいます」
どこか嬉しそうに、でも最高に照れくさそうに身を縮めたシアは、客間に到着するなり、当然のように俺のすぐ隣にある寝台を確保してちょこんと腰掛けた。
通されたのは、ここが地の底だとはにわかに信じられないほど、広々とした石造りの部屋だった。
発光鉱石が壁の至る所に美しく埋め込まれており、部屋全体を温かみのある琥珀色の光が満たしている。丁寧に磨かれた石の寝台には、地底独自の不思議な繊維で織られた分厚い毛布が、綺麗に折り畳まれて置かれていた。部屋は一つきりだったが、寝台は贅沢に四つ並んでいる。
「これほど立派な部屋が最初から用意されているなんて……地中の方々も、地上人の来訪をまったく想定していなかったわけではなさそうですね」
フィリアが感心したように天井の発光石を見上げて呟いた。
「あるいは、一網打尽にした複数人の重要捕虜を、まとめて監禁しておくための用途かもしれませんわよ?」
エルダが相変わらずのブラックジョークを淡々と口にする。
「まあ、どちらにせよ用意してもらったんだ、ありがたく使わせてもらおう」
俺が寝台の毛布を一枚手に取ると、フィリアがすかさず真横にすり寄ってきた。
「アルト様、これ! 地上では絶対に見たことがない特殊な植物の繊維で編まれていますよ! ほら、触ってみてください、信じられないくらい柔らかくて、すっごく気持ちいいです……!」
「お、本当だな」
差し出された毛布に触れてみて、俺は素直に目を見張った。
「地底にこれほど上質な素材が転がっているなら、地上に持ち帰っただけで腕利きの職人たちが泣いて喜びそうだ」
「ふふ、こんな状況でも相変わらず商魂たくましいですわね、アルト様」
エルダが呆れたように唇を尖らせながらも、自分でもこっそりと毛布の端に触れ、その極上の肌触りを入念に確かめていた。
しばらくすると、ガルドが自ら部屋を訪れ、俺たちに水と温かい食事を運んできてくれた。
石をくり抜いて作られた椀に入っているのは、どこか灰色がかった不思議な粥のような食べ物だ。見た目はひどく地味だったが、恐る恐る一口食べてみると――大地の温もりと鉱石の芳醇な風味が絶妙に混ざり合った、驚くほど深いコクと旨味が口いっぱいに広がった。
「美味しい……っ!」
フィリアの瞳が瞬時に輝く。「地底の食材って、地上のものとは味の深みが全然違います!」
「ものすごく美味しいですっっ!!」
シアもぱっと華やかに顔を輝かせ、スプーンを動かす。
「なんだか、大地の匂いがするのに、奥の方からじんわりと優しい甘みが染み出してきます……!」
「……ふん、お前たちの貧相な口に合ったのなら何よりだ」
ガルドが部屋のドアの外から、相変わらずの無表情でそっけなく言った。だが、その白い髭の奥にある口元が、ほんのわずかだけ満足げに和らいだのを、俺は見逃さなかった。
◇
やがて食事を終え、発光石の灯りも夜モードに落ち着いた頃。俺たちが各々の寝台に横になり、深い静寂に包まれていた――ちょうど夜中のことだった。
――カタン。
静まり返った部屋に、爪先で弾いたような微かな硬質の音が響く。
その瞬間、シアが完全に音を置き去りにしてベッドから跳び起きた。すでにその右手は、愛用の白銀の剣の柄をガチリと握りしめている。
「……アルト様、起きていらっしゃいますか」
極小の声で確認してくるシア。もちろん、俺もとっくに目を覚ましていた。
「シア、ひとまず落ち着いて」
「落ち着いています! 私はいつだって、最高に、頭が冷えるほど落ち着いていますとも……っ!」
小声でありながら全力の早口で主張するシア。……うん、絶対に落ち着いていない。
気配を察したエルダとフィリアも、いつの間にか音もなく身を起こし、それぞれの武器に手を伸ばしていた。
窓など一つもないはずの石壁の一部が、音もなくスライドするようにして、わずかに隙間を開けていた。――隠し通路だ。
そこから影のように滑り込んできたのは、一人の不審な人物。フードを深く被ったその外套姿には、見覚えがありすぎた。
「……また会ったな、庭師」
低く、しかし凛とした鈴の鳴るような女性の声。
フィリアが驚愕にその目を大きく見開いた。
「――っ! あなた、あの『亡霊の迷い森』で、後ろから私をいきなり羽交い締めにした不届き者ですよね……っ!?」
「そうだ」
「そうだ、じゃありませんよ……っ!! まずは今すぐ私に謝罪してください!! 本当に、本っっ当に怖かったんですからね……っ!?」
「……それについては、恐怖を与えてすまなかったと思っている」
「また驚くほど素直に謝った……っ!?」
あまりにもあっさりと頭を下げられ、フィリアがまたしても完全に毒気を抜かれた顔で拍子抜けしている。
横ではシアが「やっぱり、あの時の誘拐犯でしたか……っ!」と今にも剣を抜き放ちそうな勢いで一歩を踏み出したが、俺はそれを手で優しく制した。
「待て、シア。もしこの人に明確な害意があるなら、地上からわざわざ俺たちをここまで案内してきた意味が通らなくなる」
「……うぐっ、それは、そうですけど……っ!」
フードの奥から、外套の人物が小さく鼻で笑う気配がした。
「単刀直入に用件を言おう。話がある、聞いてくれるか、庭師」
「いいだろう」
俺は寝台から起き上がり、石の床の上にどっかと腰を落ち着けた。
すると、シアが電光石火の速さで俺の右隣にぴたりと座り込み、エルダが優雅な動作で左隣をキープ、フィリアが守られるように俺の背後にちょこんと落ち着く。
「地上の庭師よ。昼間の謁見の間で、お前は我が地王陛下に向かって豪語したな。我らの庭を整えに来た、と」
「見ていたのか。言った。一言一句、本気だ」
「本気、か」
「ああ、ここで嘘をついても何のメリットもないからな」
「……ならば聞く。この地底の惨状を、お前はその目でどこまで見抜いている?」
俺は腕を組み、脳裏に刻まれた地脈のビジョンを反芻してから答えた。
「回廊を降りながら地脈の流れを見た限り、汚染の本体は、この都よりもさらに深い場所から湧き上がってきている。地の民の術師たちが総出で食い止めようとしているが、その防衛線はもう、明日をも知れぬ限界の寸前だ。そして、その汚染の毒がもたらす『狂気』の影響で、民たちの怒りや苦しみが必要以上に増幅されている。地上への無差別な攻撃衝動は、その歪んだ魔力の発露だろ?」
外套の人物は、今度は完全に言葉を失ったように沈黙した。
「……驚いた。そこまで正確によく見えているとはな」
その声が、わずかに緊張を孕んで硬くなる。
「だが、お前の見立てはすべてではない。……まだお前たちが決定的に知らない事実がある。我が王が、今夜の謁見で決して口にしなかった、血の滲むような真実が」
「だから、わざわざ夜闇に紛れて俺たちの部屋に忍び込んできたのか」
「そうだ。庭師よ、お前が本当にこの地底の世界を、我らを救おうとしているならば――何としても、事前に伝えておくべきことがある」
俺は振り返り、後ろにいるフィリアと目を合わせた。フィリアは真剣な表情で、静かにこくりと頷く。
エルダは豊満な胸の前で腕を組みながら、
「……結構ですわ。続けてくださいな」と冷徹な笑みで先を促した。シアは外套の人物へ寸時も油断なく鋭い視線を向けながらも、俺の隣から片時も離れようとはしなかった。
「話してくれ。あんたが命がけで伝えにきた、その真実を」
外套の人物は深く一呼吸を置くと、静かに、その重い口を開いた。
(第39話 終)