クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第40話:地底の秘密と、隠れた芽

 

 その謎めいた夜の闖入者《ちんにゅうしゃ》は、少しの間、俺たちのことを値踏みするように順番に見回した。

 シア、フィリア、エルダ。

 三人とも完璧に覚醒しており、一分の隙もなく俺の周囲を固めるように座っている。外套の人物はフードの奥で、かすかに眉を動かした。その過保護っぷりに呆れているのか、あるいは鉄壁の布陣に感心しているのかは、この薄暗い灯りの下では判断がつかない。

 

「……あらかじめ言っておくが、私はお前たちの敵ではない」

 

「知っています!」

 

 シアが待ってましたとばかりに元気よく、しかし声を潜めて言った。

 

「だって、もし本当に敵なら、こんな怪しい隠し通路からたった一人で来たりしないでしょ? 普通はもっと、むさ苦しい兵士の皆さんを大勢連れてくるはずです。……あ、すみません、私ちょっと喋りすぎましたっ」

 

 慌てて両手で口を押さえるシア。外套の人物は彼女をじっと見つめ、何か言いたそうな顔を泳がせたが、結局はため息を吐き出して言葉を飲み込んだ。

 

「……お前は、本当に奇妙で面白い連れを従えているな」

 

「ああ、よく言われるよ」

 

 俺は苦笑交じりに答えた。

 

「それで、命がけで伝えにきた『真実』とやらは何なんだ?」

 

 外套の人物は一度だけ、深く胸の空気を吐き出してから重い口を開いた。

 

「昼間の謁見の場で、陛下はお前に対し、世界の『根の根が腐りかけている』という事実を認めた。……だが、あの場では意図的に伏せられた、最悪の事実がある」

 

「最悪の事実……?」

 

「――根の腐敗の進行速度が、このわずか三ヶ月の間で、それまでの『十倍』に跳ね上がっている」

 

 シン、と石の客間に冷たい静寂が落ちた。

 

「十倍……」

 

 俺はその数字を、噛み締めるように繰り返した。

 

「そうだ。半年前までは、腐りの進行はまだ緩やかだった。我ら地の民の術師たちも、防衛線を少しずつ後退させながら、地脈の崩壊をなんとか均衡状態に保っていたのだ。だが……三ヶ月前のあの日を境に、突然その速度が異常に跳ね上がった。今のままのペースでは、確実に1ヶ月以内に『根の根』は完全に腐り落ちる」

 

「1ヶ月……っ!?」

 

 フィリアが短い悲鳴を上げ、自身の細い肩を抱くように息を呑んだ。

 

「もし……もしも根の根が完全に腐り落ちてしまったら、一体どうなってしまうのですか?」

 

「地上の地脈も、この地底の地脈も、世界のすべての魔力の流れが完全に停止する。あらゆる循環が絶え、地上の植物は枯れ果て、魔物は死に絶え、そして人間は――」

 

「世界そのものが、死に絶える。……そういうことですわね」

 

 エルダがいつもより一段と低い、凍りつくような声で冷徹に言い切った。

 

「御高説の通りだ。我ら地の民だけでなく、地上のすべての命が等しく滅びを迎える」

 

「だが、なぜ三ヶ月前という中途半端なタイミングで、急激に速度が上がったんだ?」

 

 俺の問いに、外套の人物はわずかに言葉を濁した。

 

「……それが、分からないのだ。根の根に『何か』が起きたのは間違いない。だが、狂った地脈の最深部まで辿り着けた者は、我が一族の精鋭の戦士であっても一人としていない。……行けば最後、二度と戻っては来ないのだから」

 

 俺は静かに目を閉じ、意識を集中させて、地面の遥か深くへと『作庭』の目を伸ばした。

 

(……確かに、この都市のさらに深い場所に、悍ましい『何か』が蠢いている)

 

 地下通路を歩いている時からずっと違和感はあった。この都市よりさらに遥か下、世界のすべての地脈の系譜が一本に集まる「根の根」に、強烈な歪みが凝縮されている。これはただの自然な腐食というより……何か巨大で悍ましい異物が、無理やり力任せに詰まっているような悍ましい感覚だ。

 植物に例えるなら、主根の先端に毒の棘が深く刺さっていて、栄養や水の流れを完全にせき止めているような――。

 

「行けば戻ってこないというのは、空間が歪んで迷うからか? それとも、何かに襲撃されるのか?」

 

「両方だ。深部には腐りの毒に当てられ、狂い果てた化け物どもが巣窟を作っている。それ以上に……そもそも『道』がないのだ。地脈そのものが完全に崩壊しているせいが、どこをどう歩けばいいのかすら分からなくなる」

 

「――なら、俺が『道』を作れば問題なく行けるな」

 

 外套の人物が、ビキリと息を呑んでその動きを完全に止めた。

 

「お前……今、何と言った?」

 

「道があれば行けるんだろ、と聞いたんだ。俺のこの特殊な『目』には、地脈の流れがすべて視認できる。たとえそこがどれほど腐っていようが、崩壊していようが、かつてそこに流れていた『生命の跡』は必ず残っている。それらを繋ぎ合わせて整えれば、それは確かな道になるさ」

 

 長すぎる沈黙が部屋を満たす。

 あまりの規格外の発言に、外套の人物は完全にフリーズしていた。

 

「アルト様……」

 

 シアが俺の袖を、今度はきゅっと愛おしそうに、そして誇らしげに強く掴んできた。

 

「また、そんなとんでもなく凄いことを、呼吸をするように自然に言っちゃってます」

 

「ん? そうか?」

 

「もの凄く凄いことですわ!」

 

 フィリアに代わって、エルダが豊満な胸の前で腕を組んでジト目を向けてくる。

 

「腐って崩壊した地脈の残滓を辿って道を作るなど、魔術の理論上は可能だとしても、実際にそれをやってのける人間など歴史上聞いたことがありませんわよ」

 

 外套の人物が、まるで幽霊でも見るかのような目で俺を見つめた後、ゆっくりと立ち上がった。フードの奥の瞳には、かつてないほど真剣な光が宿っている。

 

「……地上の庭師よ。一つ、私個人の我が儘として、問いに答えてもらえるか」

 

「ああ、何でも聞いてくれ」

 

「お前は、なぜそこまで命を懸けられる? 地上の人間が、自分たちを拒絶する地底の根腐れを止めに来る大義などどこにもないはずだ。命の危険を冒してまで……一体なぜそこまでする?」

 

 俺は少しだけ視線を彷徨わせ、それからいつもの答えを口にした。

 

「庭師だから、だよ」

 

「……それだけ、か?」

 

「ええ。腐りかけた庭を目の前にして、それを見て見ぬ振りして放っておけないのが、庭師という難儀な性分なんだ。地上だろうと地底だろうと、俺にとっては関係ない。荒れ果てた庭を見たら、ハサミを持って手入れしたくなる。ただそれだけ、本当にそれだけの理由だ」

 

 外套の人物は、言葉を失ったようにしばらく俺の顔を凝視していた。

 やがて観念したように、ふっと肩の力を抜くと、その細い指先でフードを少しだけ持ち上げた。完全には外さない。だが、その美しい顔の輪郭が、薄暗い部屋の琥珀色の灯りにしっとりと浮かび上がった。

 地の民特有の、神秘的で白みがかった透き通るような肌。しかし、その涼しげな目元には、地王と同じ――いや、それ以上に気高く、静かだが深い意志の光が宿っていた。

 

「……また来る。次に会う時は、もう少し、私から話せることが増えているはずだ」

 

「ああ、待っているよ」

 

 外套の人物は壁の隠し扉へと身を翻し、消える直前に一度だけ、切なげに振り返った。

 

「庭師よ。……絶対に、死ぬなよ」

 

「まあ、善処する」

 

 カタン、と小さな音を立てて隠し扉が静かに閉まり、夜の闖入者は再び闇へと消えた。

 

「……アルト様」

 

 シアが俺の顔を、下から覗き込むようにしてコクンと首を傾げた。

 

「あの外套の人、本当は一体誰なんでしょうか?」

 

「さあな。だが、地王に直接謁見したばかりの俺たちの居場所を正確に突き止め、警備の目を掻い潜って隠し通路から会いに来られる立場の人間だ。そんな奴、この都にそう何人もいないだろ」

 

「ということは……っ!」

 

 シアの瞳が、まるで冒険小説を読む子供のようにキラキラと輝き出す。

 

「謎の美女、隠し通路、地底の秘密……! なんだか、すっごくワクワクしてきました……っ!」

 

「ふふ、シアさんは本当に呑気ですねぇ」

 

 フィリアが張り詰めていた空気を緩めるように、クスりと苦笑いする。

 

「呑気じゃありませんよーっ! 私だって、ちゃんと心臓がバクバクするくらい緊張してました! ただ、アルト様のすぐそばにぴったりくっついていたから、平気だっただけで……っ!」

 

「……それを世間一般では『呑気』、あるいは『アルト様依存症』と言いますのよ?」

 

 エルダがフゥと呆れたように深い溜息をつき、部屋にはいつもの穏やかな空気が戻ってきた。

 

(『アルト様依存症』なんて言葉は一般には無いんだけどな…)

 

 俺は三人の微笑ましいやり取りをBGMに聞きながら、再び意識を地面のさらに深くへと向けた。

 腐りかけた世界の根の先に、何かが確実に詰まっている。それを取り除くことができれば、必ず、地底にも地上にも新しい道が開けるはずだ。

 

(よし。明日、目が覚めたらすぐに地王へ直談判しに行こう)

 

 世界を救う、ハサミの庭師の仕事。――その本番は、まだ始まったばかりだ。

 

(第40話 終)

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