クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第41話:植え替えの朝と、二輪の覚醒

 

 

 翌朝。俺は地底の都で、誰よりも早く目覚めの時を迎えた。

 

 天井を埋め尽くす発光鉱石の輝きは、地上のような昼夜の区別なく一定の光を放ち続けている。それなのに、俺の体内時計は正確に「朝が来た」と告げていた。

 

 石の寝台から起き上がり、相棒である剪定鋏を丁寧に磨きながら昨夜の外套の人物との会話を頭の中で整理していると、すぐ隣の寝台から、もぞもぞとシーツが動く音が聞こえてきた。

 

「……ん、ぅ……アルト様、もう起きていらっしゃるのですか……?」

 

「ああ。おはよう、シア。起こしちまったか?」

 

「いいえっ! 私、アルト様が目を覚ましたら絶対に一番に気づこうって、心に固く誓っていましたので!」

 

 眠い目をゴシゴシとこすりながらも、ぱっと跳び起きるシア。その「絶対に気づく」という健気な宣言と、今まさに盛大に寝ぼけ眼であるという事実が真っ向から矛盾しているが、本人の表情はいたって真剣そのものだ。

 そんな彼女の様子に小さく笑みをこぼしながら、俺はふと思いついたことを口にした。

 

「シア、少しだけ見せてくれないか。お前の体内に流れる、魔力の系譜を」

 

「えっ? は、はい! アルト様なら、私のどこをどう見ていただいても大歓迎です!」

 

「……変な言い方をするな」

 

 苦笑しつつ、俺は『作庭』の目を解放し、シアの体内へとその視線をそっと向けた。

 

(……やっぱり、あるな。昨日から微かに違和感があったが、今朝はよりくっきりと視える)

 

 シアの【聖剣術】という名の精神の大樹は、実に見事で美しい。俺が最初にその枝葉を整えたあの日から、彼女自身の努力によって、当時に比べものにならないほど太く、逞しく成長を遂げている。

 だが、その大樹の根の深い暗がりに、一本だけ、酷く歪に捻じ曲がった「妙な枝」が潜んでいた。

 それは、彼女がかつて奴隷として地獄のような日々を生き延びるために、必死にかき集めた戦闘本能の残骸。

 

「傷つけられる前に、動く」

「殺される前に、相手より先に刃を当てる」

 

 恐怖と絶望の底から生まれた、泥臭いまでの生存本能の芽だ。高貴で洗練された聖剣術の大樹にはお世辞にも不釣り合いな、野生の獣のような反射神経の枝。

 これまでの俺の技術なら、大樹の調和を乱す「不要な忌み枝」として、迷わず綺麗に切り落としていただろう。

 だが、経験を積んだ今の俺には、別の選択肢が視えていた。

 

(切り落とすんじゃない。――『植え替え』だ)

 

 この泥臭い生存本能の芽は、生えている場所が悪いだけで、その本質的なエネルギーは決して悪くない。聖剣術の根元に無理やり絡ませるのではなく、大樹の別の場所に正しく植え直してやれば、全く異なる、凄まじい大輪の華を咲かせるはずだ。

 

「シア、少しだけ体が熱くなるかもしれない。だけど、じっとしていてくれよ」

 

「はい、アルト様!!」

 

 俺はポーチから剪定鋏を抜き放って構え、シアの体内の奥深くに眠る「恐怖の生存本能の芽」を、根元から丁寧に掘り起こしにかかった。切断するのではない。繊細な根を一本たりとも傷つけないよう、慎重に、細心の注意を払って……。

 

 ――ちょきん。

 

 脳内に響く、小さく、しかし決定的な剪定の音。

 

「あ……っ」

 

 シアが驚愕にその目を見開いた。

 俺は間髪入れず、掘り起こしたその野生の芽を、聖剣術の主幹の最たる「先端」へと植え直す。高貴なる白銀の大樹の頂点に、最も泥臭い生存本能を植え替えるのだ。

 

 ――チョキン――!!

 

「ふっ……あ、あぁ……!? な、何ですか、これ……っ!」

 

 シアの全身から、爆発的な黄金の光が噴き上がった。

 自身の両手を何度も裏返しながら見つめるシア。彼女の体内で、魔力がこれまでとは全く異なる超高速の回路を形成し、怒涛の勢いで循環し始めているのが俺の目にははっきりと視えていた。

 聖剣術の極限まで洗練された剣技と、生存本能がもたらす「世界の一歩先を行く」圧倒的な獣の反射速度。その二つが、今完全に融合を果たしたのだ。

 

「立って、試しに一度だけ剣を抜いてみろ」

 

 シアは無言で立ち上がると、腰の純白の剣の柄に手をかけ、一気に鞘から引き抜いた。

 

 その、瞬間――。

 

 シアの姿が、部屋から文字通り「消えた」。

 いや、消えたのではない。彼女の移動速度が、人間の動体視力の限界を遥かに超越していただけだ。

 気づけば、シアは部屋の反対側の壁の前に立っており、カチャリと静かに剣を鞘に収めるところだった。そして遅れて、彼女が立っていた壁に、髪の毛一本分という極限の薄さの、鋭利な切れ筋がスウッと走った。

 

「……速い。速すぎます……」

 

 いつの間にか目を覚ましていたフィリアが、ベッドの上で呆然と目を丸くしている。

 

「ちょっと、なんですの今の身のこなしは……」

 

 同じく起きていたエルダも、完全に絶句して固まっていた。

 

「シアがかつて持っていた生存本能の瞬発力を、聖剣術の先端に植え直したのさ。恐怖から生まれた反射だからこそ、本来の術理よりも一瞬だけ『速く』発動できる。戦場で最も恐ろしいのは、攻撃を認識する前に肉体が勝手に動くことだからな」

 

「アルト様……っ!!」

 

 シアが弾かれたように俺の元へと突っ込んできた。そしてその勢いのまま、思い切り俺の右腕にしがみつき、胸を押し当ててくる。

 

「速いです……! 凄く、凄く速いです、アルト様!! しかも、あんなに出したことのない速度を出したのに、身体が全然疲れていない……!!」

 

「ちょっとシア、公衆の面前でアルト様にそんな風に抱きつくなんて、破廉恥ですわよ」

 

 エルダが不機嫌そうに端正な眉をひそめる。

 

「絶対に放しません!! これはお礼なんです!」

 

 シアがフンスと腕の力を強めるので、仕方なく俺は彼女を右腕にぶら下げたまま、今度はフィリアの方へと向き直った。

 

「フィリア、お前のも少し見せてくれるか?」

 

「わ、私、私もですかっ!?」

 

 フィリアが慌てて自分の白銀の杖を胸元で抱え直す。

 

「は、はい、アルト様……どうぞ、よろしくお願いしますっ!」

 

『作庭』の目を、フィリアの持つ【古代魔法】の大樹へと向ける。

 それは相変わらず美しく整えられた、果実豊かな大樹だったが、一番下の根元のすぐ近くに、永い眠りについたままの小さな「芽」を発見した。

 それは、エルフが本来種族として持っていた【広域感知】の固有能力だ。現代魔法の強引な術式を脳内に無理やり詰め込まれた際、その歪みに圧し潰されてしまい、ずっと機能停止したまま眠り続けていたのだろう。

 

(これを、大樹の主幹の中段へと植え直す。一点に集中する局所的な破壊力から、空間そのものを支配する面制圧へ――)

 

 シアの時と同じように、俺はハサミの先でその眠れる芽を丁寧に掘り起こし、フィリアの大樹のちょうど中段、魔力が最も濃密に充実している箇所へとそっと植え直した。

 

 ――チョキン――!!

 

 フィリアの全身から、今度は清涼な純白の光の波紋が全方位へと広がっていく。

 

「う、わあぁ……!! なんか、頭の、視界の後ろまで……凄く広く世界が広がった感じがします……!」

 

「試しに、その杖で小さな魔法を前方に広く放ってみろ」

 

 フィリアは驚きに頬を昂らせながら、恐る恐る白銀の杖を水平に一閃させた。

 放たれたのは、これまでのような一点を穿つ熱線のレーザーではなかった。扇状に美しく広がる純白の光の幕が、部屋の前方の空間を、薄く、しかし一分の隙もなく均一に照らし出したのだ。

 

「……これで『面』での制圧が可能になったな。単一の標的への集中砲火だけでなく、広範囲への同時攻撃や、完璧な牽制ができる。シアが極限の『速さ』を得たなら、フィリアは圧倒的な『範囲』を得た形だ」

 

「す、すごいです、アルト様……っ!」

 

 フィリアが感動にその目を極彩色に輝かせた。そして――その勢いのまま、シアとは反対側の左腕にギュッと思い切り抱きついてきた。

 

「わわ、フィリアまで何するんですか!」

 

「えへへ、私もアルト様にお礼です……!」

 

 両腕を二人の美少女にがっちりとホールドされ、身動きが取れなくなる俺。

 

「……はぁ。それで、わたくしの【手入れ】は一体いつやっていただけますの?」

 

 エルダがベッドの上に腰掛け、豊満な胸の前でガッチリと腕を組んで、ジト目で俺をじっと睨みつけていた。

 

「シアとフィリアだけそんな風にパワーアップさせて、わたくしだけ置いてけぼりなんて、あまりにも不公平が過ぎますわ」

 

「いや、エルダの魔力の系譜は、また彼女たちとは全く別の形に手入れしなきゃならないんだ。だから、もう少しだけ待ってくれ」

 

「……別の形、とは?」

 

 エルダが怪訝そうに小首を傾げる。

 

「お前が持つ『光』と『闇』の相反する属性の魔力を、さらに深い根元のところで綺麗に繋ぎ直すんだ。今は光と闇の根が二本に分かれている状態だが、それを一本の、誰も見たことがない太い主幹にしてやれると思う。……ただ、俺の作庭の技術が、まだその領域に届いていない。もう少し俺自身とハサミを鍛えてからだ」

 

 エルダはしばらくの間、俺の言葉の真意を量るようにじっと見つめていた。

 やがて、観念したように小さくため息を漏らす。

 

「……そこまで言うのでしたら、極上の楽しみに待っていますわ」

 

 そう言ってそっぽを向いた彼女の白い頬が、琥珀色の灯りの中で、ほんの少しだけ朱に染まっていた。

 

(第41話 終)

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