クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第42話:地王への直談判と、四天王の影

 

 

「ガルドさん、朝早くから申し訳ないんだけど」

 

 石造りの客間の重い扉を開けると、すぐ目の前の廊下で腕を組んで壁に寄りかかっていたガルドが、ピクリと片方の眉を跳ね上げた。

 昨夜からずっと、一睡もせずに俺たちの見張りを続けていたのだろう。その厳めしい白い髭の奥にある目の下には、わずかに濃い疲労の影が滲んでいた。

 

「何だ、地上の庭師。用があるなら手短に言え」

 

「地王陛下に、もう一度会わせてもらいたいんだ」

 

 ガルドの鋭い眼光が、一段と細められた。

 

「昨日の今日だぞ。陛下は朝から公務でお忙しい。お前たちのような素性の知れぬ地上人を、そう何度も――」

 

「地底の世界の汚染速度が、この三ヶ月で『十倍』に跳ね上がっていること、知っています」

 

 しん、と張り詰めた沈黙が廊下に落ちた。

 周囲の壁に埋め込まれた発光鉱石の輝きが、まるでガルドの感情に呼応するかのようにじわりと不穏に揺らめく。老戦士の顔から一切の生気が消え失せ、代わりに、肌を刺すような圧倒的な警戒の光がその瞳に宿った。

 

「……どこで、その話を耳にした」

 

「ある人物から、直に聞きました。それよりも、もう一刻の猶予もないはずですよね? このままだと、1ヶ月以内に世界の『根の根』が完全に腐り落ちる」

 

 ガルドは値踏みするように、しばらくの間じっと俺の瞳を見つめ続けていた。

 やがて、諦めたようにフウと深く重いため息を吐き出すと、静かに踵を返した。

 

「……ついてこい」

 

「やったぁ……!!」

 

 シアが後ろで、周囲に聞こえないほどの小声で「ぴょん!」と嬉しそうに飛び跳ねた。

 

「さすがはアルト様です!! 交渉まで百発百中なんて、格好良すぎます……!」

 

「シア、声が大きいぞ」

 

「あっ、は、はい……っ! す、すみません……!」

 

 慌てて両手で口を押さえてペコペコと頭を下げるシア。その様子を横目に、俺たちは再び地王の待つ大神殿へと向かった。

 ◇

 案内された謁見の間は、昨日にも増して肌を刺すような重苦しい空気が立ち込めていた。

 地王は漆黒の玉座に深く腰掛けたまま、傲然と俺たちを見下ろしている。

 だが、昨日と決定的に違う点が一つ。その玉座の左右に、昨日は存在しなかった屈強な人物たちが、まるで彫像のように冷徹に控えていた。――その数、四人。

 全員が地の民の中でも一際異彩を放つ濃密な魔力を纏っており、全身から一戦も退かぬ苛烈な戦士の気配を爆発させている。

 

「……四天王だ」

 

 ガルドが俺の隣を歩きながら、極小の声で耳打ちしてきた。

 

「陛下が最も信頼を置く、直属の近衛武将たちだ。昨日の庭師――お前の不遜な発言を聞き及び、陛下がわざわざ全席へ召集された」

 

「地上の庭師よ」

 

 地王が重々しく口を開いた。その声には、地鳴りのような威厳が混ざっている。

 

「昨夜、我らの厳重なる警戒を掻い潜り、何者かがお前たちに接触したようだな」

 

「ええ。おかげさまで、とても有意義な話し相手になってくれましたよ」

 

「……」

 

 地王の目が一瞬だけ、刃のように鋭く細められた。すべてを察していながら、あえてそれ以上は追及しないつもりのようだ。

 

「それで、朝っぱらから我に直談判しに参ったということは……何か、我に乞うたい願いでもあるのか? 庭師よ」

 

「はい。あなたたちの世界の最深部――『根の根』まで降りる許可をください。俺が直接そこへ赴き、地脈の水の流れをせき止めている『詰まり』を取り除いてみせます」

 

 その瞬間、静まり返っていた謁見の間が、蜂の巣をつついたような怒号とどよめきに包まれた。

 地王が言葉を発するよりも早く、玉座の右側に控えていた四天王の一人が、大一歩を踏み出して前に出た。岩盤をそのまま人間の形にしたかのような、四人の中でも一際巨体を誇る大男だ。

 

「笑わせるな! 地上の軟弱な人間風情が、あの生き地獄たる『根の根』に辿り着けるわけがなかろう! あそこは我ら四天王が精鋭を率いて挑み、命からがら撤退するのが限界だった絶望の深淵だぞ! 生半可な者が足を踏み入れれば、二度と生きては戻れん!」

 

「知っています。道が完全に崩落していて迷うこと、闇に潜む汚染された化け物が巣食っていることも、昨夜すべて聞きました。……ですが、俺の目には『地脈の流れ』がすべて視える。どれほど腐っていようが、どれほど崩れていようが、かつての生命の跡を辿れば、それは確かな一本の『道』になるんです」

 

「戯言を……っ!!」

 

「――控えよ、グラム」

 

 地王の低く鋭い制止の声が響いた。

 グラムと呼ばれた四天王の大男は、不満げにぐっと奥歯を噛み締め、口を閉ざした。地王の燃えるような瞳が、真っ直ぐに俺を捉える。

 

「……証明できるか、庭師よ」

 

「何を証明すればいいですか?」

 

「言葉だけなら何とでも言える。お前たちの、その地上の『力』が本物かどうか、我らの前で見せてみろ。――グラム、そいつらの相手をしてやれ」

 

「御意……っ!」

 

 グラムがニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、ゆっくりと前へ進み出た。

 腰に下げた巨大な石剣を引き抜き、その重厚な刃に地脈石の濁った魔力をドス黒く纏わせる。ぐわん、と謁見の間全体の空気が目に見えて歪んだ。

 だが、俺は一歩も動かない。

 

「シア」

 

「はいっ!! アルト様!!」

 

 シアが待ってましたと言わんばかりに、最高に嬉しそうに、それでいて戦士としての凛烈な瞳を滾らせて前に出た。

 腰の鞘から、純白の剣を音もなく抜き放つ。

 その白銀の刃は、昨日までとは明らかに違う――神聖で、かつ圧倒的な鋭さを持った黄金の光の粒子を帯びていた。

 今朝、俺の手によって『植え替え』を施された、新生・聖剣術。彼女が奴隷時代に培った泥臭い生存本能が頂点へと接ぎ木された、一瞬だけ世界よりも速く動く「獣の剣」だ。

 グラムはシアの細い身体を見下ろし、鼻でフンと笑い飛ばした。

 

「ハッ、地上の若造、自らは戦わずにそんな貧弱な小娘を盾にするか」

 

「小娘で大変失礼いたしました」

 

 シアは満面の、どこまでも可憐な笑みを浮かべてお辞儀をした。

 

「――では、参りますね」

 

 次の瞬間。

 本当に、文字通り、シアの姿が完全に視界から消滅した。

 

「なっ――!?」

 

 グラムの動体視力が、彼女の初速に完全に置き去りにされる。

 大男がハッと周囲を見回そうとしたその時には、シアはすでにグラムの真後ろ、完全な死角へと音もなく回り込んで立っていた。狙い澄ました絶妙な力加減で、手にした純白の剣の「鞘」で、グラムの無防備な首筋を、トン、と優しく小突いた。

 

「あ、危ないので手加減しておきました。大丈夫ですか?」

 

 静寂。

 謁見の間全体が、凍りついたように静まり返った。

 グラムは自身の首筋をガチガチと震える手で押さえ、信じられないという表情で、背後に立つシアを凝視している。

 玉座に座る地王の目が、信じがたいものを見たように、ゆっくりと、深く細められた。

 

「……クク。面白い、面白いな」

 

 地王がゆっくりと玉座からその巨体を立ち上げ、一段ずつ階段を降りて、俺のすぐ目の前まで歩み寄ってきた。

 

「グラムは我が四天王の中でも、こと『瞬発の速さ』においては一、二を争う手練れ。それを、地上の娘が視認すらさせずに一瞬で背後を取るとは……」

 

 地王の鋭い視線が、シアから、その背後に立つ俺へと移る。

 

「庭師よ。お前が、この娘の眠れる力を『整えた』というのか」

 

「植え替えをしただけですよ。彼女が元々、過酷な過去の中で必死に培ってきた『生存本能の芽』を、より育ちやすく、力を発揮しやすい大樹の先端へと移し替えてやっただけです」

 

「植え替え、か……」

 

 地王は静かにその言葉を反芻した。その燃えるような瞳の奥底で、何かが激しく揺れ動いているのが分かった。

 

「庭師よ。……ならば、我から一つ、問わせてもらいたい」

 

「どうぞ」

 

「我らがこの、世界の底で枯れ果てようとしている『地底の庭』も……お前のそのハサミで、植え替えることができるか? 根が腐りかけたこの世界を、もう一度、美しく整え直すことが……可能か?」

 

 俺は剪定鋏の入ったポーチにそっと手を当て、不敵に笑ってみせた。

 

「それを実際にできるかどうか確かめるために、俺は『根の根』まで行きたいと言っているんです」

 

 痛烈なまでの、長い長い沈黙。

 四天王たちも、ガルドも、息を呑んで地王の次の言葉を待っている。グラムは首筋を押さえたまま、悔しさと恐怖が入り混じった目で、未だにシアから目を離せずにいた。

 

「地上の庭師よ」

 

 地王がゆっくりと、しかし確固たる決意を込めて口を開いた。

 

「お前たちの通行を許可しよう。ただし――条件を一つだけ課す」

 

「何なりと」

 

「我が四天王の一人を、お前たちの案内役として同行させる。だが勘違いするな、道案内ではない。徹底的な『監視』だ。もし道中、お前たちが我が地底の脈を少しでも傷つけようと目論むならば、その場で容赦なくお前たちの首を撥ねる」

 

「ええ、一向に構いませんよ」

 

「……即答するな。失敗すれば命の保証などないのだぞ」

 

「庭師ってのは、大体そういう仕事なんですよ。枯れかけの大木の根元に自ら潜り込んで、ドロドロに腐った部分を泥塗れになりながら探し出す。……俺にとっては、いつも通りの日常です」

 

 俺が肩をすくめて笑って答えると、シアが「アルト様……っ!!」と、今にも感涙しそうな表情で俺の袖をギュッと強く掴んできた。

 後ろではフィリアが「はぁ、さすがは私のアルト様です……」と誇らしげに呟き、エルダは呆れたように溜息をつきながらも、込み上げる笑みを隠すように美しく磨かれた爪で口元を押さえていた。

 

「アルト様って、本当に時々、心臓が跳ね上がるくらい格好いいことを仰いますよね……!」

 

シアが顔を近づけて熱烈に囁いてくる。

 

「そうか? 普通のことを言ったつもりだけどな」

 

「そうですよ!! 宇宙一格好いいです!!」

 

「シア、ここが地王の謁見の間だってことを忘れるな」

 

「あっ、は、はいっ……! す、すみません……!!」

 

 地王は、俺たちのその緊張感があるんだかないんだか分からないやり取りを、黙ってじっと見つめていた。

 そして――その威厳に満ちた口元を、今日一番、はっきりと、満足そうに歪めて笑った。

 

「ククハハハ……! 実にいい庭師だ。――行くが良い、地上の者たちよ!」

 

(第42話 終)

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