クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第51話:四天王の影と、純白の覚醒

 

 

「行ってください、アルト様。必ず追いつきます」

 

 フィリアの凛とした声が、重苦しい空気の満ちる城の中庭に響き渡った。

 俺はもう一度だけ振り返った。

 背中を預け合うようにして並び立つ、心強い三人の仲間たち。グラム、エルダ、フィリア。それぞれが全く異なる表情を浮かべていたが、その双眸に宿る決意の灯火だけは、誰一人として揺らいでいなかった。

 

「頼む。――誰も死ぬなよ」

 

「当然だ」

 

 グラムが地響きのような声音で短く答える。

 

「お任せくださいまし。泥泥の役回りは慣れっこですわ」

 

 エルダが不敵に、美しく唇の端を吊り上げた。

 

「……はい! 必ず、アルト様の後を追います!」

 

 フィリアが強く、激しく頷いた。

 

「……行きましょう、アルト様」

 

 シアが俺の袖を鋭く引く。すでにテラは、城の廊下へと続く重厚な鉄扉の前に立っていた。

 俺は、彼女たちの背中を信じて全力で前へ走り出した。

 ◇

 アルトたちの足音が遠ざかり、中庭に再び張り詰めた静寂が戻る。

 いや、それは静寂などではなかった。遠くの都から風に乗って聞こえてくる、民たちの狂乱の悲鳴と怒号。それが、今この場に残った三人の五臓六腑を激しく突き動かしていた。

 

「――グオォォォォ……ッ!!」

 

 濁った咆哮とともに、四天王の三人がゆっくりと間合いを詰めてくる。

 巨躯の剛腕ドルグ、魔導の異才ラグナ、神速の隠密シェイル。

 腐りに正気を奪われた彼らは、しかし身体に刻み込まれた極限の戦士の戦術を寸分の狂いもなく再現していた。魂を奪われてなお、肉体と本能が最凶の兵器として機能している。

 

「……ドルグ」

 

 グラムが、一歩前に進み出て低く呼びかけた。

 返事はない。

 

「俺だ。グラムだ。戻ってこい、相棒。……お前なら、俺の声が分かるはずだ」

 

 ドルグの虚ろな眼窩が、グラムの巨体をただ無機質に映し出す。しかし、ドルグが握る巨大な石剣の柄から、ミシミシと凄まじい軋み音が響いた。

 

「……やはり、少しは分かっているようだな」

 

 グラムが小さく息を吐き、獰猛に笑う。

 

「だからこそ、四天王筆頭である俺を、真っ先に圧し折ろうというわけか!」

 

「エルダさん!!」

 フィリアが、背中を合わせているエルダへ鋭く声を飛ばした。

 

「あの真ん中の人――ラグナさんの魔力の歪み方、あまりに複雑です! 外側から直接打撃を与えるよりも、内側の流れを乱した方が……!」

 

「言われずとも分かっていますわ」

 

 エルダが冷徹に魔力を練り上げる。

 

「ラグナという男ですわね。同じ頂点を極めた魔導の徒《ともがら》同士、術式の構築思想はだいたい透けて見えますわ」

 

「私は……っ」

 

 フィリアの視線が、最後に残った小柄な影――シェイルを捉えた。影は陽炎のように、音もなく左右に揺らめいている。重心がどこにあるのか、次にどの動きへ繋がるのかが完全に読めない絶望的な体術だ。

 

「……なんとか、してみせます」

 

 エルダが横目でフィリアの横顔を捉え、ふっと微笑んだ。

 

「アルト様が、貴方の内側に何かを咲かせたのでしょう? ――なら、ここで使いなさいな。今日、この瞬間のために授けられた奇跡のはずですわ」

 

「……はいっ!!」

 

 フィリアは白銀の杖を、壊れんばかりの力で握り直した。

 三対三が、同時に爆発した。

 グラムが地割れのような踏み込みでドルグへと肉薄する。しかし、グラムは石剣を抜かない。両の拳を固く握り締めた、完全な素手だ。

 

「お前を傷つけるつもりはない。――叩き起こして連れ戻すまではなッ!!」

 

 ドルグの石剣が空間を爆破しながら横薙ぎに振り下ろされる。グラムはそれを抜刀せず、自身の鉄腕のみで真っ向から受け止めた。鈍い肉撃音と骨の軋む音が中庭に響き渡る。だがグラムは眉一つ動かさない。

 ドルグは答えない。ただ機械的に、さらに重い第二撃を振り下ろしてくる。グラムがまた腕で受け、弾き返す。

 その狂気的な応酬の繰り返しだった。グラムは一度たりとも攻撃に転じない。ドルグの破滅的な剣撃を、身一つで全て受け止めることだけに、己の無双の巨体を使っていた。

 

 エルダとラグナの間では、魔導の火花が激しく飛び散っていた。

 ラグナが構築する地底の固有魔術は、地上の洗練された術式とは根本的に系統が異なる。石と地脈を強引に媒介とした、岩盤を砕くような重質にして暴力的な魔力だ。それがエルダの光と闇の魔力弾と、空間の至る所で激突しては爆散を繰り返す。

 

「……なかなか、骨のある圧力を寄越しますわね」

 

 エルダが口の端を上げた。しかし後退しない。一歩も。

 ラグナが今度は地脈から直接魔力を引き出し、岩盤の床を砕きながら石の刃を複数走らせた。通常の魔法使いなら回避一択の広域攻撃だ。

 エルダは回避しなかった。

 

「聖陰の渾沌解放《カオス・リベレイション》!!」

 

 光と闇が混ざり合った爆発が、石の刃を根元から消し飛ばした。さらにエルダは光と闇を織り交ぜた魔力糸を複数走らせ、ラグナの四肢をガチリと縛り付ける。

 

「――わたくしの方が、魔術の深さも格も上ですのよ」

 

 エルダの声は静かだった。怒りでも高揚でもなく、ただ確かな事実として告げた。

 

「少し大人しくなさいな。その狂気の下に、貴方自身がまだ残っているのでしょう?」

 

 その時、フィリアの死角から、シェイルの小柄な影が光速で迫っていた。

 

「フィリア! 後ろですわよッ!!」

 

 エルダの鋭い叫びに、フィリアが直感だけで身を翻した。シェイルの手刀が、ついった先まで頭があった空間を切り裂いて通り過ぎていく。

 

(速い……!! 目で追いきれない……!!)

 

 フィリアは体勢を崩しながらも白銀の杖を横に一閃させた。しかしシェイルはすでにそこにいない。また別の死角から、確実に心臓を穿つ間合いを詰めてくる。

 

「純白の翼ばたき《プラヴィナ・アーラ》!!」

 広域の光の幕を展開した。しかしシェイルは外縁に沿って精密に回り込み、的確にフィリアの死角を突いてくる。魔法の範囲と発動の隙を、完璧に見切っているのだ。

 

(駄目だ……どれだけ範囲を広げても当たらない。型通りの魔法じゃ、全部読まれて先回りされる……!!)

 

 冷たい死の刃が首筋に迫る。その絶体絶命の瞬間、フィリアの胸の奥底――アルトに水を注がれたあの場所が、ドクン、と熱く拍動した。

 

(そうだ……型通りの、意思のない魔法だから読まれるんだ。だったら――)

 

 フィリアは、迫り来る死の前であえて静かに目を閉じた。深く、深く、肺腑の底まで空気を吸い込む。

 脳裏に浮かぶのは、自分を信じて頭を撫でてくれた、あの温かい手のひら。

 フィリアがカッと目を見開く。その瞳が、今までにない純白の輝きに満ちた。

 杖を大きく、水平に空間へ薙いだ。

 

「純白の雄鹿《プラヴィナ・ディア》!!」

 

 中庭の空気が、一瞬静まり返った。

 

(第51話 終)

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