クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第54話:老将の壁と、咲きかけの花

 

 白銀の剣と、鋼の拳が正面から激突した。

 

 ――キィィィィィンッ!!!

 

 鼓膜を鋭く引き裂くような高音の金属音が炸裂し、シアの純白の刀身が容赦なく弾き飛ばされる。

 

(重い……ッ!!!)

 

 シアは凄まじい衝撃を殺しきれずに後退しながら、その華奢な身体を戦慄かせた。

 ガルドの一撃が、これほどまでの破滅的な質量を秘めているとは夢にも思っていなかったのだ。大地を切り裂く石剣を振るったドルグよりも、歪な魔導を操ったラグナよりも――遥かに、重い。老いたその肉体からはおよそ想像もつかない、極限まで圧縮された高密度の力がそこにはあった。

 

(四天王たちすら軽く凌駕する、絶対的な格の上位……! これが、王を支え続けた老将ガルドという存在の真の力……!!)

 

 ガルドは追撃に移るでもなく、ただ静かに佇み、虚ろな眼窩でシアを見つめていた。

 

(精神は死んでいて、『誰も通すな』という地王の絶対命令しか残っていない。なのに……その命令を完璧に遂行するための戦闘技術だけは、何一つ衰えずに残っている……!)

 

 シアが歯を食いしばり、鋭く地を蹴った。

 

「聖剣術・二の型――【刹那】ッ!!」

 

 空間を消し飛ばすほどの神速の踏み込み。一瞬にしてガルドの完全な側面の死角へと回り込む。しかし、ガルドはまるで最初からそこにシアが来ることを予期していたかのように、既に半身を滑らかに開いていた。シアの渾身の剣撃が、ただ虚しく空を切り裂く。

 

(読まれた……!? いえ、私の最高速度を先回りされた……ッ!?)

 

 刹那、無防備になったシアの側腹部へと、ガルドの容赦のないカウンターの一撃が突き刺さった。

 凄まじい衝撃波とともに身体が吹き飛び、背後の冷たい岩壁へと激しく叩きつけられる。

 

「……ぐ、っ……」

 

 それでも、シアはすぐに立ち上がった。両の膝が生まれたての小鹿のようにガクガクと笑っていたが、それでも視線だけはガルドから逸らさない。

 ガルドはやはり追ってこなかった。ただ、地王の部屋を守る絶対の楔として、大扉の前で泰然と立ち尽くしている。

 

(私の速さは、間違いなく届いている。なのに、この人は私が出現する未来の位置をすべて把握している。――ガルドさんの目には、私の動きがすべて視えているんだ)

 

 経験という名の、絶対に崩せない絶望の壁。

 だが、シアは再び地を走るようにして駆けた。

 

「聖剣術・三の型――【貫】ッ!!」

 

 今度は一切の小細工を捨て、真正面から、己が出しうる最大最速の質量を一点に集中させた突き。

 しかし、ガルドの手が、人間の限界を超えた信じられない角度と速度で駆動した。

 

 ――パァンッ!!

 

 凄まじい魔力を込めた両の素手で、シアの純白の刃を完璧に挟み込み、完全に停止させたのだ。文字通りの白刃取り。

 

「……あ、っ……」

 

 シアの細い両腕に、行き場を失った衝撃が逆流する。耐えきれずに聖剣が手元から弾き飛ばされた。

 シアは転がった剣を素早く拾い上げ、即座に構え直す。しかし、全身の筋肉が強烈な衝撃で痺れ、言うことを聞かなくなっていた。

 

(私の知る三の型まで、すべて完璧に対処された……!)

 

 一の型も、二の型も、三の型も。彼女がこれまで命懸けで積み上げてきた剣技のすべてを、老将は長年培った圧倒的な実戦経験によって完璧に先読みし、無力化していた。速さで圧倒しているはずなのに、その到達点には、常にガルドの鉄拳が待ち構えている。

 

(でも……っ!)

 

 シアの脳裏に、走り出す直前にアルトが残してくれた、あの温かい言葉が鮮烈に蘇った。

『その先へと進むには、生存本能としての速さだけじゃ足りないんだ。本当の意味で極致へ至るための、絶対的な守りの力が要る』

『それが今日この瞬間に咲くかどうかは、お前次第だ。でも――俺は、必ず咲くと信じてる』

 

(今が……その、時なんですか、アルト様……!?)

 

 だが、覚醒を待ってはくれない。ガルドが鋭く踏み込んできた。

 今度は向こうからの、圧倒的な攻勢。

 地の民特有の、大地を震わせるような重い一撃が、目にも留まらぬ連続攻撃となってシアを襲う。シアは生存本能を極限まで尖らせ、神速の身のこなしでそれを躱し続ける。紙一重で躱せてはいる。しかし、肉体は確実に追い詰められていく。背後には岩壁。もう、逃げ場がない。

 

 ――ドゴォッ!!!

 

「あ、が……ッ!!」

 

 ガルドの容赦のない拳が、ついにシアの華奢な胸元を真っ直ぐに捉えた。

 今度こそ、シアの身体は床へと激しく転がった。手から純白の剣が離れ、床に高い金属音を立てて滑っていく。全身の細胞が悲鳴を上げ、これまでに経験したことのない激痛が神経を焼き尽くしていく。

 起き上がれない。指先一つ、自分の意志で動かすことができなかった。

 

(立てない……! 動いて、私の身体……こんな、大切な時に……っ!)

 

 霞む視界の向こう、彼女の脳裏に、最悪の光景が走馬灯のように駆け巡る。

 玉座の間へと向かった、アルトの背中。

 

(もし、私がここで負けたら……アルト様とテラさんが玉座の間で窮地に陥ったとき、私はもう二度と駆けつけられない……!)

 

(フィリアやエルダさんが後ろから追いついて来たとしても四天王さん達との戦いで疲弊した身体ではガルドさんにはたちうち出来ない……!)

 

(――大切な人たちが傷つく…そんなの、絶対に嫌だ……っ!!!)

 

 シアは血の滲む爪を立て、必死に床の石畳を引っ掻いた。

 

(嫌だ。行かせたくない。アルト様の側にいたい。私が、あの人の盾になりたい。あの人を、絶対に、私の命に代えても守り抜きたい……っ!!!)

 

 ドクン――ッ!!!!

 

 その瞬間、彼女の胸の奥底が、爆発的な熱量を伴って激しく拍動した。

 アルトが、あの栽培のジョウロで優しく水を注いでくれた、冷たい暗闇の奥に眠っていたあの「小さな種」が。

 じわり、と。

 言葉にできないほどに温かく、そして圧倒的に神聖な純白の光が、彼女の胸の中心から奔流となって滲み出し始めた。

 

「……っ……ぁ……?」

 

 シアは、呆然と己の胸元を見つめた。

 光は彼女の肉体を駆け巡り、少し離れた床に転がっていた聖剣の柄からも、呼応するようにして眩い光の粒子が溢れ出している。

 立てた。

 先ほどまでの激痛が嘘のように消え去り、自分でも信じられないほどに滑らかに、自然に肉体が起き上がった。

 ガルドの動きが、完全に止まっていた。

 そのおぞましい腐りに侵された空洞の目が、シアの身体から放たれる圧倒的な神聖さを感知したのか、じっと彼女を凝視している。

 

「……なに、これ。身体が、すごく、温かい……」

 

 シアは自身の両手を見つめた。手のひらから溢れ出す純白の光は、留まることを知らずに輝きを増していく。

 それは恐怖から逃れるための速さではない。大切な人を守り抜くための、絶対なる守護の輝き

 

――聖剣術の『その先』が、今まさに産声を上げようとしていた。

 

(第54話 終)

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