クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります 作:らっぽん
光が、止まらなかった。
シアの胸から溢れ出した純白の輝きは、彼女の全身を柔らかく包み込み、石畳の床を伝い、薄暗い廊下の壁さえも白く染め上げていく。
ガルドは完全に静止していた。腐りに侵された空洞の目であっても、空間を満たすほどの光の圧力は本能的に感知できるらしい。
「……これが」
シアは自分の両手を見つめた。指先まで、温かい光が脈打つように走っている。
不思議と、怖くはなかった。
これまでの彼女の速さは、恐怖から来ていた。傷つけられる前に動く。殺される前に斬る。それは過酷な生い立ちから来る、生き延びるための反射だった。
しかし今、胸の中心から湧き出しているこの力は、全く別の場所から来ている。
(守りたい。それだけだ)
アルト様を守りたい。共に戦うみんなを守りたい。
その純粋な祈りが、そのまま光の奔流となっているのだ。
その時、脳の奥底に何かが響いた。
無機質でありながら、どこか厳かな声だった。
『――個体名・シア。大切な者を守り抜くという絶対の誓約と、己の命を賭す覚悟を確認。条件を達成しました』
『【聖剣士】が、守護の覚醒【聖光騎士《パラディン》】へと進化します』
「……聖光、騎士」
シアの口から、微かな吐息とともに言葉が漏れた。
怖さはない。ただ、深く腑に落ちる感覚があった。
これが、自分の歩む道のずっと先にあったもの。アルトが見つけてくれて、静かに水を注いでくれて、今ようやく形になった本当の力。
「……行きます、ガルドさん」
シアは再び剣を構えた。その刀身は、かつての儚い蛍火ではなく、行く先を照らす太陽のように強く輝いている。
ガルドが動いた。先ほどと同じ、息が詰まるほどに重い一撃。あらゆる速さを先読みしてきた老将の、経験と執念の結晶が迫る。
だが、シアはもう躱さなかった。
真っ直ぐに見据え、右膝を地につける。
そして、純白の剣を石畳の床へと深く突き立てた。
「聖剣術・四の型――」
刃が床に触れた瞬間、爆発的な光が炸裂した。
床から同心円状に幾何学的な光の紋様が広がり、シアを中心とした守護の陣が、空間そのものに深く刻み込まれていく。
「――【守護方陣《しゅごほうじん》】!!」
ガルドの重い一撃が、方陣に激突する。
しかし、弾かれはしなかった。吸い込まれたのだ。
老将の拳が持つ凄まじい力が、光の陣の中へと波紋のように静かに収められていく。シアは全身の骨が軋むほどの圧力を感じたが、決して倒れなかった。地に突き立てた剣と、彼女の揺るぎない意志が、すべてを受け止めていた。
シアは地面に突き刺さった剣の柄を、両手でしっかりと握り直す。
陣に広がった光が、逆流するように剣へと集まっていく。ガルドから吸い込んだ力と、シア自身の守護の意志が混ざり合い、刃の中で清らかに純化されていく。
これを返す。
悲しい宿命ごと、全部。
「ガルド様」
シアは静かに、祈るように言った。
「目を覚ましてください。そして――地王様のお側にいてあげてください」
シアが立ち上がり、剣を地面から引き抜く。
目を開けていられないほど眩い、純粋な聖なる輝き。廊下の果てまで白く塗り潰すようなその光が、シアの刃に極限まで凝縮されていた。
「聖剣術・五の型――」
シアが、その輝きを高く掲げる。
「――【極光聖吼斬《きょっこうせいこうざん》】!!」
光が解放された。
圧倒的な量の聖光が、剣先から前方へと炸裂する。壁を、天井を、暗い廊下の先までを染め上げる光の奔流。それは決して対象を焼き尽くす暴力ではなく、ただそこに巣食う腐りの瘴気だけを、清らかな光で押し流していくものだった。
地を揺らすような轟音が響く。
やがて光が収まった後、廊下の中心にはガルドが静かに膝をついていた。
その老いた体を蝕んでいた腐りの瘴気は、嘘のように薄れている。完全ではないものの、虚ろだったその瞳の奥には、確かな理性の光が戻っていた。
「……姫様」
ひどく掠れた声だった。自分の発した声に驚いたように、ガルドは震える自らの両手を見つめた。
「……私は、一体何を……」
「ガルドさん」
シアが膝をついた老将の前にしゃがみ込み、その顔を覗き込む。
「地王様が、玉座の間で待っています。今、アルト様が助けに向かっています。……だから、もう少しだけ、ここで待っていてください」
ガルドの瞳が、眼前の少女をしっかりと映し出した。
「……地上の、娘か。お前が私を……強いのだな」
「はい」
シアは誇らしげに、ふわりと微笑んだ。
「私の主人が、とてもいい庭師なので」
シアは立ち上がった。胸の奥が、温かく満たされている。
(咲きました。アルト様、ちゃんと咲きましたよ)
「ガルドさん、少しだけ休んでいてくださいね」
シアは廊下の奥へと、一目散に駆け出した。
全身が光の余韻で包まれ、驚くほど体が軽い。足取りが、これまで出してきたどんな速度よりも速い。
ただ、守りたい人の元へ――アルトが向かった玉座の間へと、彼女は一直線に翔け抜けていった。
(第55話 終)