クビになった庭師の俺、スキル『剪定』が覚醒して行き倒れ少女を整えたら実は最強聖剣士だった!? 訳あり美少女たちを手入れして最強英雄パーティを作ります   作:らっぽん

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# 第63話:帝国の使者と、剪定の価値

 

 

「――不躾な泥棒猫が、一体誰の許可を得て、わたくしのアルト様に触れようとしていますの?」

 

 大図書館の前に響き渡ったのは、冷徹極まりないエルダの声だった。

 彼女から放たれた圧倒的な『格』のプレッシャーに、俺の腕を掴もうとしていたランドルの手がピタリと止まる。

 

「な、なんだお前は……? いや、いくら顔が良くても所詮は辺境の小娘だろう。帝国のSランク大農園である我が『世界樹の息吹』の使者たる私に、そんな口の利き方をしてタダで済むと――」

 

「お黙りなさい、俗物が」

 

 エルダは冷酷に言い放つと、懐から美しく細工された純銀の印章を取り出し、ランドルの目の前に突きつけた。そこには、帝国最高峰の権威を示す『ルクレツィア公爵家』の家紋が刻まれている。

 

「ル、ルクレツィア……!? は? なぜ、公爵家の紋章が、こんな場所に……!?」

 

 ランドルの顔から、一瞬にして血の気が引いていく。

 帝国のSランクギルドや大農園といえど、帝国の頂点に君臨する大貴族の前ではただの民間組織に過ぎない。その公爵家の令嬢が、金と紫のオッドアイを怒りに燃え上がらせて自分を睨みつけているのだ。

 

「わたくしはエルダ・ルクレツィア。貴方が『無能』と蔑み、あろうことか我が物顔で連れ戻そうとしているアルト様は、現在わたくしが全幅の信頼を置いて出資している、我が専属の庭師(予定)ですわよ?」

 

「ひ、ひえっ……!? 公爵令嬢……!? な、何かの間違いだ! アルトはただの、無能な平民の庭師で――」

 

 ガチガチと歯を鳴らしながら後退りするランドル。

 その傲慢だった態度が見苦しく崩壊していく様を、俺は冷ややかに見つめていた。

 

「ランドル。お前、さっき『最高級魔力植物の生育がほんの少し滞った』って言ったな」

 

 俺が一歩前へ出ると、ランドルはルクレツィアの威圧と俺の視線に挟まれ、悲鳴のような声を上げた。

 

「う、うるさい! お前がいなくなってから、園内の『世界樹の苗木』が急に枯れ始め、結界の魔力炉が逆流して大爆発寸前なんだよ! 誰もあの複雑な魔力導線を管理できないんだ! だから、お前が大人しく戻って泥にまみれて手入れをすれば全て解決するんだよ!」

 

 逆ギレ混じりに、ランドルは農園の崩壊っぷりを自白した。

「ほんの少し滞った」どころか、完璧に壊滅寸前じゃないか。

 

「はぁ、やっぱりな」

 

 俺は呆れてため息をついた。

 

「あの農園の結界と魔力植物はな、ただ魔力を注げば育つ代物じゃない。周囲の土地の歪みを計算し、毎日ハサミを入れて余剰な魔力の『枝』を剪定することで、初めてバランスを保っていたんだ。それを無能だと追い出しておいて、今さら管理ができないから戻れ?」

 

 俺は腰の白銀の剪定鋏に手をかけた。

 

「悪いが、俺はもうあの庭の庭師じゃない。今の俺は、俺を信じてくれる仲間たちの庭を守る庭師だ。帝国の腐った庭にかけるハサミは一丁もない」

 

「な、なんだと……!? 拒否する気か! 私を誰だと思って――」

 

「まだ吠えますのね」

 

 エルダが冷ややかに片手を上げると、彼女の背後に光と闇が反転する巨大な魔力の陣が展開され、その圧迫感だけでランドルは地面に四つん這いになって平伏した。

 

「貴方のその不敬、ルクレツィアの名において、明日一番に帝国のギルド本部と貴方の農園のオーナーへ直々に抗議文を送らせていただきますわ。――『我が最愛の庭師を侮辱し、拉致しようとした不届き者がいる』と。覚悟しておきなさいな」

 

 最愛、という言葉に俺は一瞬眉を動かしたが、ランドルはそれどころではなかった。

 

「あ、あああ……あわ、わ、わたしは……命令に従っただけで……!」

 

 顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたランドルは、もはや完全に戦意を喪失し、這う失意のまま夜の闇へと逃げ帰っていった。

 

 静寂が戻った大図書館の前。

 

 ランドルの気配が完全に消えたのを確認すると、エルダは途端に「はっ!」とした表情になり、自身の展開していた魔力を消した。

 そして、ロボットのようなギクシャクした動きで俺を振り返る。

 

「あ、あの、アルト様……? いま、わたくし、大変な不敬と言いますか、その、口が滑って『わたくしのアルト様』とか『最愛の』とか、その、勢いで言ってしまいましたけれど……!」

 

 顔を真っ赤に染め上げ、金と紫のオッドアイを涙目で潤ませながらあわあわと言い訳を始めるエルダ。

 王都の使者を恐怖のどん底に叩き落とした大貴族の威厳は、どこへやら消え去っていた。

 

「いや、助かったよエルダ。おかげで元職場のスカッとする『剪定』ができた」

 

 俺が笑って頭を撫でようと手を伸ばすと、エルダは「ひゃゃっ!?」と可愛い悲鳴を上げて一歩下がった。しかし、拒絶する様子はなく、真っ赤な顔のまま両手で耳を隠している。

 

「も、もう! からかわないでくださいまし……! ですが、これで帝国の連中も、しばらくはアルト様に手出しはできませんわ」

 

「ああ。これで奴らの調査に集中できるな」

 

 俺たちは街灯の下、お互いの信頼をさらに深めながら、大図書館へと歩みを進めるのだった。

 

(第63話 終)

 

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