超あべこべ!   作:nalnalnalnal

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海です。


前兆

 

 

 

 ──今、この世の中はまさに常夏。

 

 そして、常夏と言えば男性諸君は何を思い浮かべるだろうか?

 

 恐らくは殆どの男性は俺が今来ている場所に積極的に来ることはないだろう。素肌を少しでも晒してしまえば見知らぬ女性の餌食となってしまうのだから。

 だけど、自分の身を守ってくれる存在がいるならば、話は別だ。

 

 そうなれば人目を憚ることなくエンジョイすることができ、誰に見られようが守護者がいるならば関係ないのだよ。

 何故急にこんなことを言うのかって? そりゃあ、答えは簡単だよ。

 

 俺は今まさに常夏の象徴とも言える──海にやって来ているのだからね。

 いやぁいい海水浴日和だねこりゃ。空は青くて快晴、人の程よい混み具合……人が少ないと逆に盛り上がりに欠けるような気もするしね。

 

 意外と男性利用者もいるし……お互いに知らない人ではあるが、ナンパされないように気をつけよう。

 

「……お前マジか」

「なにが?」

 

 なんて心の中で考えていると、諌山に半強制的に連れて来られたであろう諌山彼氏が怪訝な視線を俺に向けていた。

 こいつもこいつて色々と苦労してるから、今日はとことんストレス発散をしてもらいたいところだね。いつもは諌山のハッスルに付き合わさらている訳だし……昨日の試着室の件は聞かないでおいてやるか。

 

 んで、なにがそんなにおかしいんだ彼氏よ。

 

「海パン単体ってお前……どういう神経してるんだ」

「あー……」

「普通ラッシュガードとか着るもんじゃないのか??」

「ラッシュガード張り付く感じが嫌なんだよね」

「他の選べよ」

「これしかなかった」

「他の買えよ!」

「ごもっとも……」

「やっぱお前もお前で悪いとこあるわ……気にしてくれほんとに」

 

 彼の言う通り、今の俺は海パン一丁で上半身は完全に露出している状態だ。しかし誤解しないで欲しい。決して露出狂とかそういう訳じゃないんだ。

 今言った通り本当に海パンの方が涼しくて機動性にも長けているから俺はこれを選んだのだ。他の買う手もアリだけど彩葉に選ばせる訳にはいかないんだってば。

 

 そう言えばかなり前にも朝久さんと大馬鹿お兄ちゃんにも同じようなことを言われた気がするな……ごめんなさい朝久さんともう一人。俺には俺の事情があるんです。

 

「はぁ……憂鬱だ……」

「まだ始まったばっかなのに……」

「お前も分かってるだろ……岩陰とかに連れて行かれないようにしなくちゃならないんだよ」

「それはそう」

「お互い気をつけようぜ……」

「俺は大丈夫だけどね」

「ふざけんな……畜生……なんでお前には守護者(ガーディアン)がいるんだ……」

「天運ってやつ?」

「羨ましいぜこんちくしょうめ……」

 

 彼氏も彼氏で綾紬のように話しやすさが段違いなんだよね。諌山本人に関しては色々思うところがあるから微妙な感じだけど、こうやって男同士でしか出来ないノリっていうのも中々に乙なものだ。別に諌山と話すのが嫌いな訳じゃないけどね。むしろ面白いよ。

 

 それと、海でもやはり貞操の危機には注意しなくてはならない。彼氏の言う通り岩陰ックスに持ち込まれないようにしなければならないし、とにかく人目のつかないところは危険だ。

 アダルティな漫画のシチュエーションでありがちな展開だからね。実行に移す人も少なくはない。

 

 ふと周りに目を向けてみれば、砂に埋まったり海の家で食べ比べなど、人々がエンジョイしている姿が垣間見える。と同時に俺達にも多数の視線が向けられていることにも気がつく。

 

 おっと不味いな。早めに彩葉達の所へ向かわねば……

 

 そして彼氏も察したのか早歩きでパラソルの下で寛ぐ彩葉達の元へと向かった俺達……だったのだが──

 

「「「……」」」

 

「……え、なに?」

「だから言っただろ……」

 

 何故だか唐突に談笑していた綾紬、彩葉にかぐやが俺の姿を見て呆然としていた。と言うか凝視されている。

 上半身を剥き出しにしているからなのか?

 

 だとしても綾紬は分かるけどさ、他二人は毎日のように抱きついて寝ているのだからその反応はおかしいだろ。

 そんなに少数派なのか。上半身を剥き出しにしてる奴って。

 

 ……あと綾紬は様子がおかしくないか。さっきまで彩葉の身体を凝視していたように見えたし……今度は俺?

 いやいや俺の他にも海パンだけの人は……あいないわ。皆ラッシュガードとか身体を隠す水着を着てるわ。

 

「さて、じゃあ私達はお邪魔にならないようにあっち行こっか」

「やめろ手を取るな離せ真実。俺は小日向(コイツ)に奢ってもらう約束してんだ」

「へーそうなんだ。じゃあ行こっか?」

「なにが『じゃあ』なんだふざけんな離せ……ちょっ、真実ィ!」

「別に取って食おうとしてる訳じゃないんだから」

「別の意味で食うつもりだろ……! ……ちょっ、た、助けてくれ小日向!」

「俺の目の前の人が『行ったら襲う』って目をしてるから無理」

「確かにそれはっ……無理かもな……! ふんぬっ……!」

 

 相変わらず理解のある彼氏だ。本当に不可抗力なんだ。彩葉が諌山達が去るまではここから俺を動かせないと言わんばかりの目力による圧を凄いかけてくるんだから……マジでごめん。

 

 そして諌山も相変わらずだ。少しは友達と談笑しようという気持ちはないのか。彼氏よ、貴殿が取るべきだった行動は仮病による欠席だったんじゃないか。

 

「……ま、真実……! 話せば分かる……っ! 友達と遊んでこいっ……よっ……!」

「だいじょぶだいじょぶ。全部終わったら戻るし、全員から了承もらってるから」

「なんで了承してんだよぉ……っ!」

「ほらほら諦めてあっち……い・こ?」

 

 諌山VS彼氏の攻防戦は徐々に終幕へと向かいつつある──滅茶苦茶彼氏が力負けしてる構図は最早彼氏が悪いと言う意見すら出てしまう程可哀想だった。

 段々と遠くへと引き摺られていく彼氏は最期まで必死に抵抗していた。速かったなー色々と展開が……来て早々にすることかよ諌山。

 

 それとこの三人は何で同意してんだよ。彩葉はギリ分かるけど綾紬とかぐやはそんなキャラか? それとかぐやは意味分かって了承してんのか?

 

 そんなことを考えていたらいつの間にか諌山達の姿は遠方へと消え去っていた……また後で会おうな彼氏。その時は体力回復するようなご飯奢ってやるよ。

 

 んで、本題のこの三人だけど……かぐやは中々様変わりしている。

 

「……お、かぐや似合ってるじゃんそれ」

「……はっ! で、でしょ〜!?」

「しかもツインテールにしてるじゃん。やっぱ何でも似合うよね」

「もっと褒めて褒めて〜! えへへ……」

 

 うーんやっぱり可愛らしい。今までは色んなファッションで着飾っていたことはあったが、今のように髪型を変えているのは見たことがないから新鮮だ。

 いつものロングもいいが、意外にもツインテールもアリだな。水着も若干彩葉と似ているものになってしまったのは俺の落ち度だが……露出は少ない方がいいだろう。

 

 それなのに俺は滅茶苦茶露出してるのは変な話だけどね。あとほんとに露出狂とかではないからね俺。

 

「……トワ」

「ダメ」

「まだ何も言ってないけど」

「分かるから言ってんだ」

 

 どうせ『匂い嗅いでいい?』とか『揉んでもいい?』とか言うつもりなんだろこの脳内ピンク野郎め。

 流石に俺でも分かるぞ彩葉の言いたいことなんて。綾紬の前だぞ抑えろ馬鹿タレ。

 

「ねえトワ〜お腹空いた〜……」

「まだ何もしてなくない?」

「何もしてないからお腹空くんだよ!」

「どーいう理屈?」

 

 まぁ、言っていることは分からなくもないが……そうだな。折角海に来たんだし美味いもの食べなきゃ遊ぶこともできない。

 腹が減っては戦はできぬって言うからね。

 

 こういう場所で食べる料理って普遍的なものであっても何故か格別に美味しいと感じるのは何でだろうね? ポテトとかジャンクフードは特に。

 

 まぁ、俺も朝ごはんは食べたけど若干腹減ってるからな〜……雑談しながら食べるのも海の醍醐味だろうし、早いとこ買って来てやるか。

 

 

***

 

 

「勢い余って買いまくってしまいましたわ」

「よく一人で持って来れたね」

「逆にこんだけあるからナンパとかされなかったよ」

 

 海に来てしまうとこんな価値観であろうと関係ないテンションは上がってしまうもの……そのお陰でこんな大荷物も一人で持って来れる程の馬鹿力を獲得することができるって訳だ。

 

 焼きそば、ポテト、かき氷、フランクフルトにイカ焼きなどなど……食べた分遊べばいいという思考で買って来たよ。

 それに一日爆食した程度で変わることもないだろうからね、夕方まで持つぞこの量は。

 

「諌山達まだ帰ってないんだ」

「そりゃあ……ね?」

「一回戦で終わるようなタマじゃないでしょ」

(岩陰で……ってこと……!?)

 

 さーてと、何から食べようかな……うーむこういう時の鉄板と言えばやはりジャンクフードなのではないだろうか。いやでも普段口にすることのないイカ焼きも捨てがたい……でもかき氷もすぐ溶けちゃうからな〜。

 

 ここは人が多いからこそ彩葉も普段の欲を抑えるしか選択肢がなくなるから安心して食べられるぜ……まぁ、食事中のあれこれは普段からされているから別に今更どうも思わない。

 

「かぐやポテト食べる〜!」

「じゃあ私フランクフルトにしよ」

「焼きそば食べよ」

 

 そう言えば水着選びとかで一瞬だけ忘れてたけど、ヤチヨカップの現状ってどうなってるんだ?

 男性ライバーの母数が少ないからな〜……自惚れかもしれないけど三桁代には突入していて欲しいものだが……やっぱりやってしまった以上目指すのは当然首位。もう少しで期限だから四桁辺りだと焦りが必要になってくるが……

 

 気になってヤチヨカップのランキングを見てみると──やはり首位はブラックオニキスの馬鹿タレ共……元々なファン数も多いがそれ以上に男性グループというのも珍しいのだろう。その結果がこれか……やはり強い。

 

 下にスクロールして行けばまた別の男性ライバー達が位置している。女性ライバーもチラホラ見えるが、新規ファン獲得数で勝負なのだから当然男性が強くなるのも頷ける。

 

 んで、今は大体20位辺りか……流石にこの時点では──ん?

 

 

19位:かぐや&TOWA&いろP

 

 

「……マジか」

「ん? なにが?」

「ヤチヨカップの順位」

「「「え、知らなかったの?」」」

「知ってたの??」

「てっきり知ってるものかと……」

「普通見るでしょ」

「トワ見てなかったの!?」

「いや三桁ぐらい行ってればいいかなーって感じで」

「何か風格あるな〜」

「これもお祝い的な感じだと思ってた」

 

 逆に全員知ってたのかよ順位……まぁ最近オリジナル曲とかダンス動画とか色々アップしてたからその反応もあるのか……え、俺? 

 やらないけど……普通に。歌うこととか踊ること自体が別に特段好きって訳でもないし、才能も実力もないんだからやらないよ。

 

 コメント欄で本気でやって欲しいというお願いコメントだらけだったがそこは妥協してよ。

 かぐやだけでも十分な反応貰ってるんだし……それに男性X女性ライバーという新鮮なジャンルなのだからそれだけでも十分。

 

 まぁ、いつかやるかもしれないけどね……やるとしたらダンスの方かな。歌は上手くないし……あ、でもヤチヨカップ優勝者はコラボライブなのか。

 でもその時はその時だ。後先のことばっかり考えるのはやめだやめ。

 

「んじゃあお祝いってことにする?」

「んーまだ一位じゃないからな〜……」

「まぁまぁそう言わずにさ……ほれ」

「「「……え?」」」

 

 にしても上位ランキングのライバー達の配信活動とか調べてみると、結構歌ってみたとかダンス動画とかアップしてる人が多いんだよね。

 こういう人たちを見習って俺もするべきなのか……体力には自信があるが、こんな短期間で上達できるものなのかね。

 

「こ、これいいのかな……? でも差し出してくれてるんだし……い、いいんだよね?」

 

 ……そういや、今かぐやにかき氷をスプーンストローで差し出したのに、やけに変な反応が返って来てたな?

 かき氷が好きじゃないのか? そう思ってスプーンストローの先端を見てみれば──

 

「……あ」

「……え、えっと……ご、ごちそうさま?」

 

 ──綾紬が咥えている状態だった。

 

「……」

 

 おーっとこれはヤバイぞ〜……よし、逃げるか。

 

「さらばーっ!」

「私に勝てるとでも思ってるのトワ?」

 

 逃げるが勝ちって言葉やっぱり俺は好きだ!

 

「あ、かぐやもやるっ!」

 

(こういうこと平気でしちゃうのが小日向って感じ……でも、今日は許してね彩葉。だって、今日は彩葉に──その為に、誘ったんだから──)

 

 

***

 

 

「いやぁ……疲れたな〜……ふぅ……」

「そうだね〜……ていうか彩葉どちゃくそ怖かったんだけど!」

「まぁ俺は見慣れてるからね〜。怖いのには変わりないけど」

 

 彩葉から本気で逃げて来て岩陰にかぐやと二人で迷い込んだ俺……逃げている道中で諌山達を見かけたんだけど、彼氏に口移ししようとしていてほんと自重しない人だと再確認した。

 

 彼氏も彼氏だけどね。あんなことされても結局心から愛してるんだから微笑ましくも……まぁ、感じるっちゃ感じる。

 いやぁしかし滅茶苦茶逃げ回ったな……一体何分間逃げ回ったんだろうか。

 

 だけど、かぐやが中々に楽しそうな顔をしていてだな……何が楽しいのやらって感じ。こちとらほぼ命懸け状態なのにさ? 

 でも配信とかさっきの逃走を見る感じだと……結構彩葉とも仲良くなってるんだよなかぐや。それは喜ぶべきことだ。

 

「あ、そうだ……フランクフルト食べる? こっそり持って来たやつ」

「あんな逃げながら持って来てたの!? さっすがトワ!」

「そんな褒めても何も出ないぞお嬢さん」

「ほんと〜? トワニヤけてるけど〜?」

「そりゃ褒められるのは誰だって嬉しいでしょ?」

「あっ開き直った!」

「事実だからノーカン」

 

 かぐやと話すのは楽しい。当然彩葉や綾紬、諌山に彼氏……全員話していて結局は楽しいという結論に至るんだけど、かぐやはまた別ベクトルの楽しさがある。

 それはひとえに純粋無垢だからだ。ピンクな雰囲気のコメントだらけだったり、彩葉や諌山による暴走で変な知識で染まらないか心配していたが、この月の住人はそんな考えをも吹き飛ばしてくれたのだ。

 

 ほんと、かぐやが来てから色々と変わったよな……彩葉も、俺も。

 

 以前までなら配信なんかしようとも思っていなかったし、彩葉が同じ屋根の下で暮らすことを許容するとも思えなかった。

 彩葉と二人っきりで過ごすのも全然楽しかったが、かぐやが加わるとまた大きく変化するんだなとよく思っている。

 

 それに、配信を始めてから色んな人と関わるようになった。諌山もそうだけど特に綾紬とは。

 彩葉、諫山、綾紬が一緒のクラスになってから話す機会が減ったから少し寂しくも感じてはいたが、最近またゲームしたりする機会が増えたのは純粋に嬉しいし楽しい。

 

 俺の高校生活で最初期にできた友達の一人だし、こんなに話しやすい女子なんて俺自身も珍しいなと感じている。

 そういうのもひっくるめて、かぐやという存在は俺達にとって大事なものになっている。

 

「ありがとう、かぐや」

「へ? 何のこと?」

「何でもないよ」

「……」

 

 面と向かって感謝の言葉を述べるっていうのは、意外と小っ恥ずかしいものだ……咄嗟に誤魔化してしまったよ。

 感謝するのが当たり前のようになってしまっているからこそ、恥ずかしいというのは実際あると思う。

 

 例えば両親に感謝を述べる時は、少し軽い感じだったりしれっと流す感じだけど、面と向かって常日頃からの感謝を伝えるとなれば、中々言い出せない人が多いんじゃないだろうか。

 こういう当たり前の事実があるだけでも、この世界もまだまだ捨てたものじゃないなと思い知らされる。彩葉やかぐや、綾紬に諫山達と出会えたんだからね。あべこべになっても人の心は根本的には変わっていないんだと思う……まぁ、色々と貞操の危機が訪れまくる世界だけどね。

 

 そんなことを考えていたら、不意にかぐやから変な質問が飛び出してくる。

 

「……ねぇ、トワ?」

「うん?」

「トワはさ、彩葉とかかぐやとか……皆のこと、好き?」

「どうしたんだ藪から棒に……珍しい」

「前、トワのいいところを彩葉と言い合う配信してたらさ、なんか急にそう思ったの。トワはかぐやのことが好きなのかなって」

「……」

 

 そう言うかぐやの面持ちは、いつもより真剣で真っ直ぐだった。珍しい顔をしているな……普段からおちゃらけていてどことなくヤチヨを彷彿とさせるような朗らかさを感じているから、余計にそう思う。

 

 それで、この質問の真意は何なのだろうか……?

 

「トワってさ、なんでもできるし、怒ったりしないしどちゃくそ優しいでしょ? だからあんまり困ってるとこ見たことないな〜って思うんだ」

「彩葉で十分困り果ててるけどね」

「そ、それは彩葉のせい!」

「誤魔化したな〜」

「も、もう……でもさ、だからこうも思ったんだ。『もしかしたらトワが迷惑してるんじゃないか』──って。言わないだけでそう思ってるのかもって思っちゃって……だってトワ、かぐやがお金使った時、何も言わなかったでしょ? 配信だって初めはやるつもりなかったって言ってたし……もしかしたら、ほんとはそう思ってるんじゃないかって……」

 

 ……何故かは分からないけど、珍しく意気消沈している様子だ。

 

 まさか、俺が心の中では乗り気ではないと考えているのか、かぐや。

 何かに影響されているのかもしれないけど、俺は自分の意思でかぐやのライバー計画について行ってるんだぞ?

 

 あのスマコンの件だって必要経費と考えたら安いものだ。バイトとかツクヨミですら小遣い稼ぎができるんだし、元々家賃とか光熱費とか以外に使う用途はなかったし。あったとしてもせいぜい漫画とかゲームを買う程度。

 

 困ってるところを見たことない……ねぇ。昔っから何かと飲み込みが早いと言われて来たから確かに彩葉を除けば困るということは少なかったかもしれない。

 家事や勉強だって誰かに教えるくらいは努力したらできた。そんなんだから校内で色んな頼み事をされることが増えたんだろうけど……別に、それも困るようなことでもない。

 

 ほんと困るのは彩葉周りで……それ以外では、かぐやの言う通り困ることは少なかった。

 

 そんな俺の心にはゆとりがあって……でも、だからこそ急に当初は乗り気ではなかったことに巻き込まれて俺が本当は困っているんじゃないかと考えているのか。

 急にお金を使ったことも、巻き込んだことも……心の中では色々とかぐや自身が思うところがあったから、俺ももしかしたら心の中では困ってるんじゃないかって……同じように思ってるんじゃないかって……そういうことだな?

 

 うーんでもなかぐや──そんな質問、一言で終わらせられるよ。

 

「別に迷惑なんてしてないよ。だって──かぐやといるのは楽しいから」

「──!」

「あ、質問はこっちじゃなかったか。俺は人のことを嫌いになることってないからさ……皆のことは好きだよ」

「そうなの……?」

「嘘はつかないよ。最近はかぐやのお陰で毎日が楽しいし……だから、さっきありがとうって言ったんだ。それだけじゃ、まだ納得できない?」

「……──ううん。もう納得したし、分かった!」

 

「かぐやは、トワのことが大好きなんだって!」

 

「……そっか。まぁ何にせよ、かぐやが悩んでいたのなら、それを解決できてよかった」

「……うん!」

「そんじゃ、フランクフルト食べて戻るか」

 

 

***

 

 

「……」

「……」

 

 

「……ねぇ、芦花。話って、何?」

「……急にごめんね。小日向のこと、追いかけたかったでしょ?」

「それはいいよ。どうせ家で捕まえられるから」

「それはそれでだけど……」

「でも芦花が凄い真剣な顔してるから、放ってはおけないかなって」

「……そっか。ありがとね」

 

 

「……彩葉も、薄々は気付いてるんじゃない? ここに呼び出した理由とか……海に誘った理由とか」

「……違うって言えば嘘になるかな」

「だよね……流石に、隠し切れてないよね。でも、多分それは全部じゃない。彩葉がまだ気付いてないことは、あるよ」

「それって……?」

 

 

「ねえ彩葉──男の子と女の子、どっちも好きになったこと、ある? 勿論、恋愛的な意味で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回も海要素が薄いかもしれませんが……ご了承を

追記 綾紬芦花タグを追加
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