超あべこべ!   作:nalnalnalnal

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芦花さんメイン回です。


誰かを好きになるということ

 

 

 

 ──初めて誰かを好きになったのは、つい最近の話。

 

 それは何てことのない日常の中で起こった出来事で……私自身がいかにチョロくて絆されやすいのかを実感する出来事だった。

 こんな感情を持ってしまったのも──あの時、小日向トワという存在と出会ったからだ。

 

 

***

 

 

 ──それは、高校に入学してまだ間もない桜が散り始めていた、春の終わり頃。

 

 私──綾紬芦花はいつものように学校に登校していた。

 

 いつものように授業を受け、いつものように昼ご飯を食べて帰る……そして帰宅したら自身のSNS活動に精を出す。この頃は、まだそこまでファン数がいなかったからただの趣味程度だった。

 

 自分でメイクしてネイルして……元から興味のあった美容というジャンルで活動していた。

 中学とはまた違う新しい環境に心を躍らせていて、何かと浮かれていた時期かもしれない。

 

 そんなある日──授業内でペアワークを行うことになった。別に、入学して間もないけれど友達は何人か出来たし、昔っから人と関わるのか得意な方だったから困るようなことではないと思っていた。

 ──男の子と組むと聞くまでは。

 

 話を聞けばどうやら席の隣同士で行うらしく、自由に組むタイプではなかったみたい。でも、別にそれでも初めて喋る子だったとしても上手く話を広げていけば仲良くなれると……そう、思っていたから特段心配はいらなかった。

 

 でも、私の席の隣には……男の子が座っていた。

 

 ……私は、昔っから人付き合いは得意だった──男の子以外なら。

 

 男の子は純潔な存在で、希少な存在……それ故に国家を総動員して国際的な問題になっている男の子の減少傾向阻止に努めているのはニュースで既に知っていた。

 でも、男の子はそれ以上に危険が伴う人生を生まれた瞬間から約束されてしまっている。

 

 それは何故か──女性による性被害が多発しているから。

 

 私達女性は生まれた瞬間から本能的に男の子に惹かれやすい性質を持っている……それはきっと、この世界の現状が引き起こしてしまった変えることのできない自然の摂理なんだろう。

 そんな本能を持ってしまった私達女性の中には、その本能を抑えることが出来ずに男の子に手を出してしまう人が多くいる。

 

 そんな事件が多発しているから──男の子は自然と強気な女性を嫌うようになっている。

 これに関しては明確な根拠もデータもないけれど、私自身の経験による意見だ。

 

 強気と言えばまた語弊があるかもしれないが……ギャルっぽいというか、軽い雰囲気の女性は男の子には避けられやすい。

 

 私は、自分で言うのも何だけど人付き合いは上手い方だ……でも、男の子との付き合いだけは、苦手だった。

 男の子からすれば、私のような軽い女はもしかしたら距離感が近いから貞操を狙っているのかもしれないと、本能的にそう感じてしまうのだろう。だから今まで男の子には避けられてきたんだ。

 

 実際私は女子に対しては距離感は近いと自覚しているし……話してもいないならば、そういう普段の行いで判断するのは当然だよ。

 

 男の子が身の危険を感じるのは大人になってからではなくて……小学生の頃からも如実に現れている。きっと親の教育やテレビの影響で自然と自分の身の守り方を学んでいるからだ。

 それに、言ってしまえば極論、男の子は女性との関わり自体を好ましく思わない傾向にあるのかもしれない。

 

 家族関係や珍しい恋人関係などは除外したとしても、それ以上に今までの学生生活の中で男の子が女子と喋っている姿を見たのは小学生の頃以来あまり見たことがない。

 女性の本能から身を守る為に、男の子も自然と一緒に集まるようになって……年齢を重ねる内に、そういう常識が出来上がっていくんだ。

 

 勿論、全員が全員そうという訳じゃない──その内の一人が、この日私が初めて出会った小日向トワという男の子だった。

 

「あ、えっと……」

 

 ペアワークで唯一男の子と組む私は、今までの経験から小日向に上手く話しかけることが出来ていなかった。

 

 

***

 

 

「綾紬ってちょっと怖いよな……」

 

「ああいうタイプは苦手なんだよね……」

 

「ギャルっぽい子は色々と軽いからさ……難しいよ」

 

「距離感近いんだよね……だからちょっとね」

 

 

***

 

 

 勿論、男の子も悪気はないんだろう……でも、それは私だって同じ。悪気はないのに避けられてしまうのは、言い表せようもない孤独感に襲われる。

 

 そんなことを考えて一歩を踏み出せていなかった私を、小日向は怪訝な表情で見つめていた。

 ああ、きっと組むのが嫌なんだろう。私なんかと話したくないんだろう。

 

 そんな一種の被害妄想が私の脳内で繰り広げられていった。経験がないからどうやって話せばいいか分からないし、避けられているのにこっちから話しかけるのも気持ち悪いよね……と、そう思ってしまっていた。

 

 でも、小日向は違った──私と小日向の初めての会話は、この一言で始まった。

 

「もしかして、具合悪い?」

「……え」

「下向いて顔色悪かったから……大丈夫? 保健室行く?」

「う、ううん! 大丈夫……」

「そっか。あんまり無理はしないでね。んじゃとりあえず水飲んで落ち着こ」

「う、うん……」

 

 ──これが、小日向トワとの出会いだった。

 

 

***

 

 

「男子に避けられてきてた……ねぇ」

「だからその……小日向と初めて会った時もそうなんじゃないかって思って……」

「なるふぉぉへぇ(なるほどねぇ)……ふぉふぁひふぉいふぉふぁひふぁ(そりゃひどい話だ)」

「み、水飲んで落ち着こ?」

「……んっ……んっ……ふぅ……」

「あ、あのさ……私なんかとお昼一緒で、いいの?」

「だって綾紬とは話しやすいからね。友達は多いに越したことはないし」

「と、友達……?」

「うん。友達」

 

 授業でのペアワークを終えると小日向からお昼ご飯のお誘いが来たから一緒に食べることになっていた私。

 小日向は、私に全く物怖じしない姿勢を見せて、ペアワークでも率先して課題を進めてくれていた。その間も体調の心配もしてくれたり、私が話す時は邪魔せずに最後まで聞き届けてくれて……こんな男の子、初めてだった。

 

 今まで私は男の子に避けられてきたのに、突然友達だなんて言われたら……嬉しくなっちゃうじゃん。

 自分の存在を初めて男の子に肯定されたような気がして……もうこの時から、私は小日向に惹かれ始めていた。

 

 でも同時に小日向が迷惑してるんじゃないかとも思い始めていた。誘ってくれたのは小日向なんだけど、ただ気を遣っているだけなんじゃないかって……優しいから我慢して付き合ってくれているんじゃないかって……

 

 初めて男の子とちゃんとした会話を繰り広げたから、私は自分が何を話せばいいのか、何を思えばいいのかが分からなくなってしまっていた。

 

 ──でも、そんな考えは小日向が吹き飛ばしてくれた。

 

「……綾紬」

「……?」

 

「アヒル」

 

「んふっ……」

 

 なにせ──唐突にポテトチップスを口に挟んでアヒルの物真似をし出したのだから。

 あまりにも唐突過ぎてどうにもおかしくて……みっともない笑い方をしてしまった。そもそも何でポテトチップス持ってるのって話でもあるんだけどね?

 

「お、笑った……意外と効くもんだね」

「んふふ……き、急にどうしたの?」

「俺、幼馴染いるんだけど……その子が落ち込んでる時にこれやったら大爆笑したんだよね」

「そ、そうなんだ……?」

「だから綾紬も何か落ち込んでそうだったからやったんだ。こういう時は笑顔だよ笑顔。笑う門には福来るって言うでしょ?」

「……!」

 

 そう言っている小日向の笑顔は、私が今まで見た人の中で一番の、とびっきりの笑顔だった。

 とても女子である私に向けることのないようなとびっきりの笑顔……男の子が、ここまで太陽のような笑みを浮かべているのを、私は見たことがない。

 

 男の子は常に女性からの被害に遭わないように注意しながら過ごしている筈なのに……夢物語だと思っていたのに……それなのに、彼は私に笑顔を見せてくれた。

 

 ──きっと、この時だったんだろう。

 

 ──きっと、この笑顔を見た時なんだろう。

 

 ──私が小日向トワという人を好きになったのは。

 

 出会ってまだ一日目だと言うのに、私は彼に惹かれてしまった。今まで男の子には誰にも認められて来なかったから、その分の反動も来ているのかもしれないけど……何の一つとして悪い気はしなかった。

 むしろ、好きになって当然なんだと思うくらいに。

 

 一目惚れ……だったのかもしれない。

 

 単純って思う? 私だって思うよ。

 

 女性としての本能が、結局なんだかんだ言って私にもちゃんと根差しているんだと実感した。こんな一日だけで初恋を経験したのだから……

 

 こんなに自分がチョロくて、こんなに早く誰かを好きになるなんて思わなかった。

 でもね、好きになる理由なんて何だっていいし、好きになっちゃったのだから……仕方がない。

 

 

***

 

 

 その日から、私は小日向にアピールする為に色々な努力をした。

 

 髪型、制服、メイクに話し方など……とにかく小日向と会う時に視界に入るであろう全てを私は徹底して綺麗なものに仕立てあげていた。

 時には髪型を変えてイメチェンしてみたり、時には少し大胆なメイクをしてみたり……厚過ぎないメイクで小日向をどうにか惹きつけられないかと模索していた。

 

 この時は毎日が楽しかった……自分にとっての初恋を自覚してしまったのだから、もうこれ以降訪れることのない人生の分岐点だと思ったから、私は何だって頑張れた。

 

 既に友達だった真実は、中学からの付き合いだった彼氏ができていて、それはとてもとても羨ましがったなぁ。

 どうやって堕としたのか、どうやったら男の子に振り向いてもらえるのか。色々聞いたこともあった。

 

 でも、この時の私は知る由もなかった。

 

 まさか──もう一人好きな人ができるなんて。

 

 その子との出会いはあまり良いものではなかった。

 

 真実の紹介で初めてその子に会う予定になっていたんだけど……私は既に知っていたんだ。

 

 その子が小日向と一緒にご飯食べたり、一緒に帰っているのを。

 

 毎日が楽しいというのは嘘偽りない事実……だけれど、その裏で私はこっそりと小日向の動向を見ていたんだ。

 最近はご飯に誘われることも少なくなって教室で喋る程度に収まっていたから、何かあったんじゃないかって考えたんだ。

 

 別に、男の子の友達と仲良くしているくらいなら全然良かった。当然男の子なら同じ男の子との繋がりがないと平穏に学生生活を送れないだろうから。

 でも──違った。

 

 電柱の裏や教室の外からこっそり小日向を見ていれば、小日向の横には毎日のように同じ女子がいたのだから。

 小日向も小日向で何だかんだ言っているけど結局はとても楽しそうで……私なんかには見せてくれない顔をしていた。

 

 毎日、毎日……次第に私は気力が失われていった。

 

 楽しかった日々は、一瞬だけだった。

 

 ただの夢物語だった。

 

 きっと、小日向が言っていた幼馴染とはあの子のことだろう。私は、その子にしたことをされただけで、何一つとして小日向にとっての特別じゃなかったんだ。

 何回枕を濡らしたんだろう。何回嫉妬したんだろう。

 

 美容系の活動をしているのに正反対の醜い感情が無意識の内に溢れ出していた。

 同時に自分が嫌いになった。

 

 あの子は何もしていないのに私が勝手に嫉妬して……私だけが、私だけがひとりで勝手に嫉妬に狂って……小日向にも、あの子にも知られない内に段々と自分を責めるようになってしまった。

 

 私の初恋は、こんな一瞬で砕け散ったんだ……そう、思っていた。

 

 でも、あの子は──彩葉は、そんな私のことを気にかけてくれた。

 

 そうだ、それは初めて会った時の話だ──

 

 

***

 

 

「んで、こやつが芦花だよ〜」

「よ、よろしく……?」

「よろしく!」

 

 真実の紹介で私は小日向といつも一緒にいた子──酒寄彩葉と出会った。

 

 聞けば真実が楽しみにしていたドーナツを落としてそれを瞬時に彩葉がキャッチ……したのが出会ったきっかけだそうだ。

 中々どうして珍しい出会い方だけど、クラスが別なのだからそういう漫画みたいな出会い方もあるんだなと思った。

 

 でも、私はあまり乗り気ではなかった……それは彩葉が小日向といつも一緒にいるから。だから上手く言葉を紡ぐことが出来ないし、女子相手なのにどうやって話せばいいのかが分からなかった。

 

 話を聞いている感じだと、彩葉はつい最近上京して来てまたまだ不慣れなことが多いキラキラ女子高生だそうだ……だからこうやって友達を作れる会合的なものには喜ばしく思っているみたい。

 

 友達……

 

 最近できたばっかりの男の子の友達のことばかり不意に考えてしまって、私は上手く会話に溶け込めないでいた。

 わざわざ真実が紹介してくれたのに。

 

 まだまだ分からないことだらけの彩葉が話しかけてくれているのに。

 

 女子相手なら関係構築が上手いだなんて自分で言っておきながら、醜い嫉妬でこの有様だ。

 

 はは……ほんっと、私って馬鹿だなぁ。

 

 なんでこんなにも不器用なんだろう……なんでこんなにも醜いんだろう。

 活動を応援してくれているファンの人達に顔向けができないよ……結局、私の本質も……性格も……何もかもが、ニュースでよく見る女性と変わらなかったんだ。

 

 こんなことになるなら……出会わなければ──

 

「……あのさ、どっか具合悪い?」

「えっ、あ、いや大丈夫!」

「そっか……?」

 

 そんなに顔色が悪かったのかな。色々と考え込み過ぎて頭が疲れて来てるのかな……

 

 ああ、そう言えば小日向と初めて会った時もこんな感じだったっけ──

 

「……ねぇ、見て見て」

「……えっ?」

 

「アヒル」

 

「んふふふっ……!」

 

 何て考えていたら突然彩葉から爆弾のようなギャグが投下される。もう全く同じことをしている……小日向と。

 同じことをしているってことはやっぱり彩葉が小日向の幼馴染で間違いないと、この時実感した。

 

 それでね、彩葉のアヒルの物真似も中々どうして面白くて……真面目な顔でするもんだから余計におかしかった。

 

 だから何で皆ポテトチップス持ってるんだって話でさ……んふふ……

 

 でも、何で急に……

 

「あ、芦花笑ったら可愛いじゃん!」

「え、そ、そうかな?」

「知ってるかい彩葉よ? 芦花は美容系インフルエンサーなんだよ?」

「えっ凄いじゃん! だからこんなに肌綺麗なんだ」

「え、いやいやそんなこと……」

「照れてますな芦花さんや。いつもの調子はどうしたんだいっ」

「でも元気出た感じ?」

「う、うん」

「じゃあ良かったよ。てっきり私がいるから迷惑してるんじゃないかと……」

「そ、そんなことないよ! 悪いのは私だから……」

 

 ああ、何だ……簡単な話だったんだ。

 

 小日向と彩葉は、似てる。

 

 私が入る隙間なんて、なかったんだ。

 

 だってこんなに場違いな私を気にかけてくれる程優しくして、時にはおふざけもして励ましてくれて……二人とも、初めて出会ったのにこんなことをしてくれているんだ。

 私は大きな勘違いをしていたんだ。

 

 こんなにお似合いな二人に私なんかが敵う訳がなかった。

 

 幾ら可愛くなろうが、幾ら頑張ってアピールし続けようが、この二人がくっつくのはきっと運命──既に、決まっていることなんだ。

 それなのに私はいつまでもいつまでも醜く嫉妬を引きずって……私は彩葉に出会うまで、一体何をしていたんだろう。

 

 どうしてこんなに不器用なのかな、私は。人と関わるのは好きなのに、こんなに自分が惨めに見えたのは初めてだった。

 そうだ──この二人は、幼馴染。一緒に上京して来て、恐らくはもう同じ屋根の下で暮らしている程仲が良いんだろう。

 

 それなのに私と来たら……笑っちゃうよね。

 

 こんなに自分が惨めになるなら──もう、好きになるのはやめよう。

 

 この恋は、諦めよう。

 

 ……この時は、そう思っていた。

 

 でも、現実は──私の本質は、違った。

 

 この時彩葉に褒められて、少しでも嬉しいと思ったから──この時から、始まったんだ。私の……恋は。

 

 

***

 

 

 その日から、よく真実と彩葉で集まってご飯を食べるようになった。

 

 もう既に彩葉と友達になってから数ヶ月が経過していて……小日向とは教室で喋る程度に収まっていた。

 

 時折彩葉が凄い形相で教室を飛び出していくのを見ると、ああ、小日向のところに行ったんだなと毎日のように察している。

 最早彩葉は小日向への愛を隠す気がない。真実もそうだけど、少しは自重して欲しいかな〜……一応、諦めたってことにしてるんだから。

 

 でも、そんな日常の中に──よく違和感が紛れ込む。

 

 それは彩葉と話す時……彩葉が、私のメイクや活動を褒めてくれる時……彩葉が、彩葉が……全部、彩葉が関係していた。

 

 彩葉は、途方もないくらい優しい。バイトも勉強も毎日超人の如くこなしているのに全く疲れる気配を見せないし、日に日に活力で漲っているようにも思える。

 多分、小日向っていう存在が大きいからなんだろうね。

 

 それでも、どこかでガタが来るかもしれない……仮に小日向がいなかったら……彩葉に心の支えがなかったら、彩葉は既に壊れていたかもしれない。そう思ってしまう程、彩葉の生活状況には不安が残っていた。

 

 本当に無理はしてないのか。何連勤もして大丈夫なのか……普段の生活で毎日のように私は考えている。彩葉が本当に限界まで自分を追い込んでいないか。

 

 小日向がいるから大丈夫だとも思えるんだけど……それでも、普通じゃないから。だから、心配なの。

 

 でも、どうしてこんなに気になるんだろう。

 

 いや、友達なら普通心配するのは当たり前で……でも、それ以上に私は彩葉が気がかりだった。

 

 どうして?

 

 どうしてこんなに気になるの?

 

 

『芦花ってめっちゃ可愛いよね! 今度メイクのやり方とか教えてよ』

 

『えっこんなにファンいるの!? すごっ!』

 

『芦花って普段どんな生活してるの? 参考程度に聞かせてよ。美肌の秘訣とかさ?』

 

 

 どうして、彩葉に褒められるとこんなに嬉しいんだろう。

 

 私には分からなかった。そしてそれと同時に同(・)じ(・)感(・)情(・)を抱いているようにも思えるんだ……そう、小日向に初めて恋した時と同じ感情を。

 

 だからこそ余計に理解不能だった。私はもう小日向への恋を諦めた筈なのに、それなのにまたあの時の言い表せようもない楽しさが蘇ってくるから。

 また、最近毎日が楽しく感じるようになったんだ。

 

 ──彩葉と出会ってから。

 

 それと同時に彩葉への心配も募るばかりで……そりゃあ、常にあんな限界生活をしていたら心配しないといけないでしょ?

 でも、違うの。

 

 何(・)か(・)が(・)、違う。

 

 同じなんだ──心配や友達としての楽しさじゃなくて──あの時のような、小日向に抱いた感情と。

 

 いや、でもその理論で行けば私は彩葉を好きになっていることになる。

 

 それはおかしい。だって、私は今も小日向のことは……好き。

 諦めた。諦めたんだけど……それでもやっぱり、きっぱりと割り切ることなんてできない。

 

 未だに私の中でまだ燻り続けているんだ……小日向への想いが。

 でも、それはダメだよ。彩葉は小日向のことが尋常じゃないくらい好きなんだよ? 私なんかが割って入る隙間なんてないんだよ?

 

 それなのに──どうして彩葉にも同じ感情を覚えているの?

 

 彩葉の身体に限界が来ないか、いつか壊れてしまうんじゃないか……そんな心配だけに留まらない、この感情は何?

 

 分からない。分からないよ……

 

 私は、この答えを探す為に真実に聞いてしまったんだ。

 

 この感情の正体を──

 

 

***

 

 

「そりゃ、恋でしょ」

「え、でも……」

「私だって恋してるんだから、分かるよ。それくらいは」

「で、でもそれだと私は二人のことが好きだなんてヤバいやつじゃん……!?」

「……何がヤバいの? 恋をするのに、誰かの常識が必要なの?」

「え」

「恋なんて、自分の感情さえあればあとは何もいらないよ。私だって自分の感情に従ってアタックしまくったんだから」

 

 私が……小日向と、彩葉のことが好き……?

 

 でも、こんなのおかしいよ。きっと二人にこれを打ち明けてしまったらそれこそ嫌われてしまうかもしれないのに……

 

「……多分、二人は芦花のこと、嫌わないよ」

「え、なんで……」

「友達なんだから少しは分かるよ。自分のこと、気持ち悪いとか思ってるんじゃないの?」

「……」

「……私も今、恋してるからさ、下手なことは言えないけど……芦花は、どうしたいの? 打ち明けるの?」

「そ、そんなこと……できない。私にそんな勇気……ない」

 

 こんなことを打ち明ける勇気なんて私には備わっていない。だって諦めた筈の初恋だって結局は今も引きずっているんだから……しかも、その上別の人を好きになるだなんて……

 

 私は、一体どうすればいいの……?

 

「……だったら、まだやめた方がいいよ」

「……え」

「気持ちの整理がついてないまま告白だなんて、成功とか失敗以前の問題だよ。私は半ば暴走して告白したけど……ちゃんと好きだって気持ちは、整理したから。感情さえあればあとは何もいらないって言ったけど……その分、感情とはちゃんも決着をつけないと」

「でも……整理なんてできないよ……こんなの、おかしいから……」

「だーかーらー! 恋におかしいとかないから! 行動とかにはおかしいとかそういうのは伴うかもしんないけど、恋をすること自体におかしいとか関係ないから!」

「そ、うなの……?」

「そうだよ。だから、芦花がどうしたいか決めな? このことは誰にも言わないから……約束する」

 

 私が、どうしたいか……

 

 私は、一体どうしたいんだろう……

 

 ──でも、少しは落ち着いたかもしれない。恋をすることはおかしくない──うん、それだけでも、少しは気持ちが整理できるかもしれない。

 

 まだ決めきれないけど──ありがとう、真実。

 

 

***

 

 

 そこから、一年が経った。

 

 この一年でも、私の二人に対しての恋愛感情は途絶えることなく、より深いものになっていた。

 

 気持ちの整理──ついたよ。

 

 私は二人のことが好きなんだって、ちゃんと自分で自覚したよ。真実。

 でもね、真実みたいに私も、もう抑えられそうにないかも。

 

 多分、それは私の女性としての──いや、綾紬芦花っていう人間の本質がそう言っているから。

 きっと、私の本質は──誰かに愛されたいってことなんだ。

 

 今まで男の子には避けられて来たけど、小日向は私を『友達』だと言ってくれて私の不安を一蹴してくれた。

 彩葉は心からの本音で何度も私を褒めてくれた……私を否定しないでくれた。だから私は、『私を見てくれる人』が好きなんだ。

 

 そんな二人は、私を受け入れてくれた。第一印象が最悪だったとしても笑わせてくれて、本音で話してくれた。

 そんな人達に認められたい、特別になりたい……寂しがり屋でもあったのかもしれないね、私は。

 

 そうだ、女性の本能なんて関係ない。

 

 私は──私の意思で二人が好きなんだ。

 

 だから、私は今日ここで──告白するって決めたんだ。

 

 

***

 

 

「ねえ彩葉──男の子と女の子、どっちも好きになったこと、ある? 勿論、恋愛的な意味で」

 

 だから、今日は私だけを見ていてね、彩葉。

 

 小日向を呼び出していないのには当然理由がある──それはなぜかって?

 

 だって──彩葉も私も、小日向が好きなんだから……まずはお互いに決着をつけないと、そんなの卑怯でしょ?

 

「それは……ないかも……」

「だよね。そんな人、少ないもんね」

「……芦花、もしかして──」

「彩葉。言わなくて良いよ。私が言うから」

「……」

 

 でも、一日で決着がつくような話ではないって分かってる。

 

 だって彩葉は私よりも何倍もの時間、小日向を愛していたもんね。だからその分、じっくり考えないといけないよね。

 

「私ね──小日向トワと、酒寄彩葉のことが、本気で好きなんだ」

 

「──え」

 

「びっくりしたよね? 小日向だけだと思ってたでしょ?」

 

「それは──」

 

 ううん、彩葉。言わなくていいんだよ。彩葉に対しての感情は、ずっと隠して来てたんだから。

 どこかで関係が壊れるのも恐れていたんだと思う。でも、もう抑えられないんだ。ごめんね。

 

「……私は──」

「彩葉」

「……」

「──ヤチヨカップが終わるまで、答えは保留にしとこ?」

「……なんで……?」

「彩葉も、急に言われてびっくりしたと思うし……気持ちの整理が必要だと思うから。私が一年間かけて整理したように」

 

 彩葉……あなたがどんな返事でも、私は絶対に受け入れる。

 

 だから、彩葉も──自分の気持ちに整理をつけて欲しいんだ。そろそろ、小日向への想いが抑えられなくなっていると思うから。

 ……そうだと分かっているのにこのタイミングで告白するのも、意地悪な話だよね。

 

 でも、本当に私も抑えられないんだ──彩葉。

 

 彩葉がこれまで小日向とどんな人生を歩んで来たのかは、私は知らない。だけど……あなたは大切な友達だから。卑怯な真似はしたくないの。

 あなたにも──幸せになって欲しいから。

 

 ……かぐやちゃんにも、いつか言わないといけないかもしれないかな。

 

 きっとあの子も、小日向のことが好きだろうから。

 

「それまで、待ってるね。彩葉」

 

「ま、待って芦花──!」

 

 叶うことなら、小日向も彩葉も私も──かぐやちゃんも幸せになれるような未来が訪れるといいな。

 

 

 

 





この世界観も芦花さんが抑えられなかった理由の一つであると解釈していただければ……

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