いやぁ大きなスクリーンでコラボライブとか見れるのやっぱり最高ですね!
トワに受け止められたあの日から、私の日常は変わった。ロマンチックな感じに言えば、薔薇色の日常とでも言うべきかな。
毎日のようにトワにアタックし始めたんだよ……まぁ、悉く持ち前の鈍感さで避けられ続けた訳なんだけども。
大体トワはどういうつもりなの?
あんな最早プロポーズと同じような言葉を吐いておきながら私の気持ちには気付かないとかさ。逆に考えて欲しい。あんな言葉を言われて堕ちない女なんてこの世界に存在するのかって話を。
時にはやり過ぎなくらいアプローチしても結局は笑って受け入れてしまう男の子……好きにならない理由なんて、ないよね?
だから私は吹っ切れてトワに猛烈なアプローチを仕掛けるようになった。
ただ、それとは別に問題が発生した。
お母さんがやけに厳しくなったのだ。
私は未だにお母さんの真意が理解できない……葬式の時、泣いていなかった理由も、厳しくなって理由も。
毎日のように言われるのは──
『彩葉。女は見た目も中身も舐められたら終わりや。心に決めた男がいるならまずやるべきことがあるやろ?』
『恋愛も勉強もやるなら一番を目指さな何の意味もない。この世界で生き残るなら……尚更や』
『これくらいで厳しい言うてたらあんたはいつまで経っても前に進めへん。あんたには憧れてる子がおるんやろ?』
──当然と言うか、私がトワのことを好いているのは見透かされていたようだ。だから私に身だしなみの整え方や仕草作法を厳しく叩き込んだのだろう……だけどそれでも限度ってものがないかな。
『やるなら一番』──ピアノの発表会で銀賞を取っても褒めてくれることはなく、更にプレッシャーがかかるばかり。
お兄ちゃんやトワが庇ってくれることが多々あり、前よりはマシになったけれど自分を責めることもあったんだ。それでもトワやお兄ちゃんが一緒にいてくれたから私は何とかお母さんに認められようと頑張った。
元々そんな考えを持っていたのかは私にも分からない。でもお父さんが死んでからお母さんは変わった。
それでも、お母さんが唯一変わらなかったところがある。
トワに対しての態度だ。
少し言葉遣いが厳しくなった節はあるけれど、お母さんは依然としてトワのことを尊敬しているようだった。
一人で自分の命を守って生き抜いている男の子──お父さんと比較しても申し分のないスペックの高さ、やる時はとことんやって後悔のないように無意識的に行動している小日向トワという人間を、お母さんは尊敬していた。
正直に言えば、お母さんに尊敬されているトワに嫉妬したこともあった。
それくらいトワは一人の人間として既に完成されきっていて、お母さんが私に『トワを逃すな』と暗に言っているのだと、この時に理解した。
トワを逃さない──その点に関しては、お母さんと考えが一致していた。
当然だ。あんなプロポーズまがいの言葉を私に言っておいて今更他の女にうつつを抜かされる訳にはいかない。
この頃から私の中でトワに対しての独占欲が渦巻き始めていて、私もそれを自覚していた。
お兄ちゃんも多分それを分かっていたと思う。
『ええんとちゃう? 同じ男から見ても
『色々と負けてんのは気にくわんけど……ゲームでようやく勝てるからな! それに彩葉も生き生きしとる。トワと話している時は』
『……頑張りや。彩葉』
そりゃあ家族全員の前で初対面で『あーん』をするような奴なんだからお兄ちゃんにそう言われるのも無理はない。
お兄ちゃんと私とトワでよくあの日からゲームで遊ぶことが多くなった。お兄ちゃんはお父さんがいないのに加えてトワとやれば殆ど全敗するのが目に見えてるからなのか、真意は分からないけど読書やゲームが娯楽になっていた。
だから家にいる時間も自然と多くなって……お母さんと言い合いになりかけた時によく仲裁に入ってくれていた。
ゲームではお兄ちゃんは天賦の才を発揮してまさかのトワがお兄ちゃんに勝つのは指で数える程だったのだ。
珍しくトワも悔しがって何回もリベンジマッチを申し込んだり……そんな様子を見て私はよく笑っていた。
多分、二人とも私がよく落ち込むようになったから何とか元気つけようとしてくれていたんだと思う。
落ち込むことは確かに多かったけど、あの日のトワの言葉を胸に据えていたら何も怖いものなんてなかった。
お母さんの言うことは胸に突き刺さるけど……トワやお兄ちゃんとなら、きっと乗り越えていけるって信じてた。
お兄ちゃんがよく『頑張れ』と応援してくれていたのも、元気つけ作戦の一環だと私は思っていた。
──でも、それは違った。
──その日は突然訪れた。
お兄ちゃんが突然上京すると言い出し、家を出て行ったのだ。
***
「……」
お兄ちゃんが一人いなくなっただけで、私の家は酷く静かになった気がする。
余りにも突然すぎた。『俺、東京行くから』──と、一言だけ残してお兄ちゃんは東京に行ってしまった。
ようやくお父さんの死から立ち直っていた私を置いて。
私にとってお兄ちゃんだって、トワと同じくらい心の支えになっていたんだよ?
トワよりも前から私の側で私を見てくれていた一人がお兄ちゃんだったのだから。
トワとはまた違う角度で私を見てくれる人。
きっと家族だからすぐにトワへの好意も見透かされたんだろうし、同じ男の子ならトワへの恋愛事情に関してしっかりと話し合うべきなのに、それでも『頑張りや』の一言で私の背中を押してくれた。
今の私を形作っている数少ない人の中の一人──お兄ちゃんからは、言霊というものの強さを学んだ。
トワからも学んだのは事実だけど……たった一言で元気がつくような言葉がとてもシンプルだったとしても、思いが込もっていればそれだけで誰かが一歩を踏み出せる勇気になるんだって、私は分かったんだ。
だからこそ、すごく寂しかった。
私にはトワがいたからまだお父さんの時のような弱い姿にはならなかったけど、これからお母さんと二人きりになることが多くなると考えたら、少し嫌気が刺してしまった。
お母さんを嫌いになったことなんて、結局なかったんだけどね。
何度も嫌いになろうとしたけど、お母さんの言う通りトワに振り向いてもらう為には並大抵の努力じゃ叶わないこと、トワのことが好きならトワの一番にならなければいけないということを、当時の私は分かっていた。
何だかんだ言って、お母さんの生き様は尊敬していたし。
でも今になって、お母さんの言葉に疑問を抱き始めているけれど。
本当に、トワの一番になるのは私だけでいいのか──なんて、ね。
そんな当時のこれからどうしたらいいのか、考えていた私の部屋の前からブツブツと何かを呟いている声が聞こえた。
「……や……も……さすがに……へ……か……」
それがトワの声だということはすぐに分かったけど、肝心なところは何も聞き取れなかった。
どうやら部屋の前でウロウロしてるみたいだったけど……
そうしている内に数分間が経過した時、部屋の扉からノック音が響いた。
「入っていい?」
「……うん」
私が承諾する声と共に部屋にゆっくりと入ってきたトワだけど……何故か下を向いていて顔色が分からない状態になっていた。
やっぱりトワも寂しいのかな……なんて、思ってたんだけど。
「ど、どうしたの? トワ……」
「彩葉──」
「アヒル」
「……」
──って、唐突にポテチを口に挟んでアヒルのものまねをしだしたんだ。
こんな状況で何やってんだって、言いたくなったけど──
「……ぷっ……」
「あっはははは……!! な、なにそれっ!!」
それがどうもおかしくて、耐えられずに吹き出してしまったんだ。
多分トワなりに私を元気づけようとしてくれたんだろうけど、急に慣れないギャグなんてするなら余計におかしくて……しかもちょっと変顔もしてるし、よく見たらちょっと可愛いし……ほんと、この時は久々に大爆笑したなぁ。
「あっはは……もう、急に何なの?」
「ありえないぐらいやろうか迷ったけど……ウケてよかった」
「……トワ、寂しくないの?」
「寂しくないと言えば嘘になるけど……どうせあいつのことだから東京でも呑気にゲームしてるって考えたら、寂しいと言うかちょっとムカついて来たんだわ」
「め、珍しいね……トワが怒るなんて」
「だって何にも聞かされてないんだよ? つい最近まで一緒にゲームしてたってのに……一発ぶん殴ってやりたいね」
「あ、ちょっと分かるかも……」
「でしょ?」
トワが落ち込んでおらず逆に珍しく怒りまで込み上げて来ていることを聞くと──私も何だか腹が立って来ちゃったんだよね。
大体実の妹に事情も説明せずに唐突に家を飛び出すなんて、一体全体どういう神経してんのって話でさ?
お母さんもお母さんで何で急に言われて認めちゃうかな。そういうのは前もって言うべきことであってそれについて叱るべきではないのか……そんなお兄ちゃんとお母さんに対しての怒りが私も込み上げて来てしまった。
──そしてその時に、私は決めたんだ。
中学を卒業したら上京しようって。
このままお母さんと二人きりで生活するなんて嫌だし、トワに助けてもらってばかりの私じゃダメなんだって気付いたから。
この日も結局トワに元気づけられちゃったし、同じ歩幅でトワと生きていくのなら、私も一人で生活ぐらいできるようにならなきゃって、思ったんだ。
……でも、トワには言い出せなかった。
トワなら、もしかしたら心配してついて来てくれるかもしれないって思っちゃったから。
……ほんとは、滅茶苦茶について来て欲しい。でも、迷惑じゃないのかな。
あんな言葉を言われた手前、今更何を言っても大丈夫なんじゃないかって思うかもしれないけど、やっぱり踏みとどまってしまう。
結局逃さないとか言っておきながら、私はこういうところで臆病なのには変わりなかった。
──でも、違ったんだ。
──結局、私はやっぱりトワのことが好きすぎるんだって、思い知らされることになるんだ。
***
「トワ、お母さんと何話してるんだろ……」
その日は中学の卒業式が終わった日。
私は、数日前にお母さんに上京したいという旨を伝え、承諾をもらった。
勿論、一筋縄ではいかなかった。
『あんたはそんな未熟な状態で東京行くんか? あんたは東京ってのがどういうところか分かってへんみたいやな』
『朝日に影響されたんか? あの子は自分で生活費も稼いどる分、私は認めとる。でもあんたはできるんか?』
『行くって言うなら私は何のサポートもせぇへんよ。あんたが一人で生活費も、学費も稼ぐって言うんなら、考えたるよ』
『……どうしても、行くんか』
『……後で泣きついて来ても、知らんよ。それにトワくんにそんな姿見られてもええんか?』
『……そう、ならやってみ。あんたがどこまでやれるか私が見たる』
まぁ、これはほんの一部に過ぎない言葉達だけど……悪戦苦闘しながらも何とか絶対自分で全部学費も生活費も稼ぐと貫き通して何時間か経つと、ようやくお母さんが折れてくれた。
でも、お母さんの言う通りこれからは自分で全部やらなくちゃいけないんだ。
当分、トワとも会えなくなるけど……やっぱり、寂しいな。
大丈夫だろうか。私がいない間に他の女にうつつを抜かさないだろうか。そんな心配すら吹き飛ばす程トワはお人好しだから全然大丈夫ではないと思う。
でも、もう私が決めたことなんだ。今更辞めるなんて言える訳がない。
そんな上京後の生活に不安を覚えつつも何とかやるぞと覚悟を決めていた時。一足先に帰宅していたお母さんの声がリビングから聞こえてきた。
「ト……は……ど……う……」
「な……言っ………です……」
「……ゆ……が……って」
「そ……が……お……に……す……」
「い……ゆ……ん。だ……ど……た……ろ……」
お母さんと話していたのはトワだった。しかもお互いにどことなく真剣な雰囲気で何かを話し合っている感じだった。
もしかして、私の話かな……トワにはもう伝えたけど、心配してくれていた。とても……それはとても。
でも、その優しさに甘んじていちゃダメなんだ。私は──
「──やっぱり彩葉のことは、心配ですから」
(……ぇ)
──余りにも予想外すぎて、衝撃的だった。
今の私の覚悟を真正面からぶち壊すような……私にとって、最も喜ぶべき言葉。
何を話していたのか、未だに分かっていないが……この言葉だけは、何故かはっきりと聞こえたんだ。
心配してくれているのは上京することを伝えた時にも分かっていたことだけど、今回の言葉には、何か別の感情が混じっているように思えたんだ。
私の理解が及ばない、トワの感情が……
どんな感情が混じっているの?
トワは私に何を思っているの?
瞬間的に爆発的な思考を私の脳は行ったが、答えに至ることはなかった‥…何故なら、その答えはトワから教えられることになったんだ。
リビングの前で呆然と立ち尽くしていた私の前に扉を開けて出て来たトワが私に気づくと、一言。
「俺も上京する」
「……ぇ、ええええええっ!?」
「一緒に行っちゃ、ダメかな?」
「だ、ダメじゃないよ! むしろ大歓迎! だ・い・か・ん・げ・い!!!!」
「そ、そうか……?」
その一言、たった一言で──私の覚悟はぶち壊された。
だって仕方がないじゃん! 理由はどうであれこれからもトワと一緒にいられるんだって考えたら嬉し過ぎて涙が出そうなんだもん!
一人で耐えられるか不安だったのに、そこにトワが加わってくれることに反対する人間なんてこの世に存在するの!?
生活費と学費は勿論自分で稼ぐけど、トワがいてくれるからバイトも勉強も永遠に頑張れる気がする。
会えなくなるって思ってたのにトワからそう言ってくれるなんて……最早相思相愛と言っても過言じゃないでしょ!? ねぇこれ過言じゃないでしょ!?
トワもきっと覚えていてくれたんだ。あの時、抱きしめながら言ってくれた言葉を……
私は、トワと一緒に生きていいんだ。
一人で東京に行くなんて、できる訳ない。
トワが一緒にいてくれるなら、私は何だってできるから……あの時の言葉、忘れられる訳が、ないよ。
一人で上京? そんなのくそくらえだ。トワと一緒がいい。トワと同じ屋根の下で暮らしたい。トワと添い寝したい。トワと一緒になりたい。
──これが、私とトワを好きになった理由だ──
***
「……あのさ、彩葉。すっごくいい感じで終わろうとしてるけど、一つ言っていい?」
「なに、かぐや?」
「すぅ〜っ……」
「トワがクソボケなのが悪いじゃん!!!! 彩葉にも芦花にもかぐやにもクソボケすぎるってば!!!!」
「だよね!!!???」
実はトワくんのアヒルモノマネは結構重要な行動だったり……
トワくんと紅葉さんの会話はもう少し先でわかります