超あべこべ!   作:nalnalnalnal

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 少し投稿が遅れてしまいました……すみません


月からの来訪者

 

 

 

「ほぇ〜……これが男……すっげぇぇ……!」

「……あのー」

 

 恐らくあの赤ん坊が急速進化したであろう女の子に声を掛けまくっているのだが、興味津々に俺の身体を弄りまくる様子を見ていると何か凄い変な気持ちになる。

 そりゃこの世界で男性の身体を触る機会なんて滅多にないのだから一度でも良いから感触を脳裏に焼き付けたいと願う女性がいることは分かる。自分で言っていて怖いものだが。

 

 しかし──本当にあの赤ん坊なのかが分からない。仮にそうだったとしたらどんな成長速度なんだ。普通の赤ん坊ならばまだ何一つとして変わりようがない短期間だった筈だが……幻覚でも見ているのかと錯覚する。

 

 思い返せば日に日に大きく成長していたような気もする。急に体重重くなったと感じてはいたが、これがその最終進化という訳なのか。

 

 後そろそろ弄るのをやめて欲しい。こんな状況を彩葉にでも見られたらそれこそ一巻の終わ──あ。

 

「……へぇ……?」

 

 ふと女の子の背後──つまりは彩葉の部屋から怨霊でもいるかのような悪寒を感じた為部屋の中を見やるとそこには──般若も尻尾を巻いて逃げ出すような顔をした彩葉がこちらを見つめていた。

 

 うーん怖い怖い怖い。女の子がそんな顔をするもんじゃないよ。いやほんとにマジで。彩葉の母親も泣いて逃げ出すんじゃないかと思わされる程だぞちょっとマジで怖いほんとに。

 段々と彩葉が近寄って来ていることを察した俺は何とか女の子に辞めてもらうように説得し始める。

 

「ちょ、とりあえず触んのやめて?? ねぇほんとに俺の命の危機が迫ってるから」

「えーもう少し! もう少しだけ!」

「後半部分聞こえないのかな??」

「だって男なんて見たことなかったし……ね?」

「ねじゃなくてね?」

 

 とりあえず色々と気になることだらけだし、女の子の正体も気がかりだが、それ以上に部屋から迫ってくる鬼をどうにかしないと俺が死ぬ。

 『私にも揉ませろ』だなんて言い出しかねない雰囲気だもの。それを言われて俺はどうすれば良いのか分からんし。

 

「ねぇねぇ今から困るのは君になるんだよ?? どうなっても知らないからね?」

「だいじょぶだいじょぶ!」

「なーにが大丈夫なのかな?? 後やっぱり俺も困るから離してお願いほんとにねぇ」

 

 男性の身体というものが余程物珍しいのか全く辞める気配を見せない女の子を必死に引き剥がそうとする俺だった──が、その努力も虚しく彼女の背後からぬるりと色白い手が姿を現し……女の子の肩に、触れた。

 

「へっ?」

 

 ミシミシと肩の骨が軋むような音をその手によって立てられていることでようやく事態を把握したのか、女の子は滝のような冷や汗を流しながらゆっくりと振り向く──

 

「わ•た•し•の•な•ん•だ•け•ど•?」

 

 違うんですけど?

 

「ぴ、びやぁ……」

 

「あんたも後で説教だからね」

 

「え俺被害者「初対面の女の子に身体触らせるってなに? 私もしたことないのに」もう欲しかないじゃん……」

 

 うーむこれは不味いな。本気でそろそろ貞操が遥か彼方へレッツゴーしてしまいそうだ。

 窓から逃げる作戦を今の内に練っておかねばならないな。

 

 

***

 

 

「──でこの子は何なの?」

「あんた切り替え能力凄すぎるよね」

 

 般若を超えた彩葉の説教を華麗な言葉巧みな話術で何とか受け流していざ本題に入ろうとしていた俺たち。

 言葉巧みと言っても彩葉に半ば強引に『私だけがあんたの身体触るから』なんて言われちゃって怖過ぎて受け入れるしか選択肢がなかっただけなんだけどね!! 何が言葉巧みやらって感じ。彩葉の掌の上で踊らされてるって感じだよ最早。

 

 そして本題の女の子の言えば──

 

「うめっうめっ!! なにこれ!? どちゃくそうめぇ!!」

「面と向かって言われると照れるね〜」

「……」

 

 腹が減ったと言って仕方がないのでとりあえず俺のお手製オムライスを振る舞っていたところだ。まぁ昨日の余り物だから多少は味の質が落ちていると思うが、こう純粋に感想を寄せられると料理人冥利に尽きるってものだ。

 

 すっかり彩葉に怯えたのかはたまた俺に興味があるのかピタリとくっつきながらオムライスを豪快に頬張っているが……彩葉からの何とも言えない視線が途轍もなく痛いです。でも無理やり引き剥がすのも可哀想だし。

 

「トワのご飯最高じゃん! いくらでも食えるわぁ……!」

「あれ俺名前言ったっけ?」

「まぁいいじゃんいいじゃん! 彩葉よりも断然マシ!」

「ねぇトワ? まさかとは思うけど私じゃなくてこんなポッと出の子を選ぶなんて言わないよね?」

「何の話をしてるの一人で」

 

 最近はいつにも増して暴走機関車じみているなこの人。こんな姿を家族に見られたらどうすんのって話なんだけども、最早全員返り討ちにしそうな雰囲気まである。

 

 とは言えどもこの子がいる限り襲われることはないだろう……この子自身の正体がいかんせん気がかりだが。

 だが目を輝かせながらオムライスを頬張る姿を見ると自然と俺も頬が緩んでしまう……何度も言うが純粋なのだよ。この世界においてはそれが最重要事項なのだ。

 

 初対面で身体を揉んだのも急速成長した故の好奇心と言ってもいいだろう。その成長理由が甚だ疑問だが……そろそろ本人に問いただしてみるか。

 

「そろそろ聞くんだけどさ、自分がどこから来たとか分かったりする?」

「ん〜……? んっ!」

「……?」

 

 俺の問いかけに女の子はさも当然かのようにあそこから来ましたよ、と夜空の星達へと指を突き刺す。何だこのハンドサインは。

 

「え、天空から来たの?」

「んなアホな……どこ指差してんだこれ……んん?」

 

 もう一度女の子が指差す方向へゆっくり丁寧に視線を向けていくとそこには──丁度雲の中から現れた美しい満月が星空の中に鎮座していた。

 

 ……どういうことだ。これは築地とか月島から来ましたよと言う高度な暗号なのか。秋葉原(アキバ)とか三軒茶屋(サンチャ)とか略称で呼ぶ地名もある為納得出来ないことはないが歳の割にそんな無駄なことをする意味がない。

 

 いや、しかし……思い返してみればあの電柱の扉の取手は竹を模していたし、そんでもってこの化け物じみ成長速度に加えて既に言語能力を有している。

 

 到底普通の赤ん坊ならば有り得ない事象であるし、こんな価値観が反転した世界の中の出来事だと考えるのならば──宇宙人という線も無くはないか。

 

 ──よし、一先ずこの子は月から来た宇宙人だと結論付けよう。

 

「月から来たんだ?」

「かなぁ〜……」

「あんたのその適応能力は何なのよ……で、何で月からわざわざ到来なさった訳?」

「月のこととか覚えてるの? 赤ん坊になってたけど」

「う〜〜〜ん……な〜んかね? あんまり覚えてないんだけど〜、とにかく毎日めっっちゃつまんなくて〜、楽しいところに逃げよって感じだった気がする〜」

 

 中々に要領を得にくい発言だな。月からの来訪者となれば相当な高度な知能を持っていると思ったが、割とそうでもないようだ。単に成熟したばかりだからという理由もありそうだが。

 

 最早月から来たという事実に驚いていない自分に驚く。地球もある意味で愉快な場所だと捉えるのならば捉えられるが男性にとっては常日頃から身震いする場所だからな。さっきの発言からしてもどうやら月にすら男はいないようだ。

 何でそんなところにまで反映されてんだあべこべ価値観は。この子が本当に彩葉みたいにならないか心配で仕方がないよ。

 

 しかし、月というものはそんなにもつまらないものなのか。地球では月見という一大イベントがあると言うのに……逃げると言う単語もイマイチ要領を得ない。言い方は悪いが刑務所的な場所だったのか? 一定の作業を繰り返すみたいな……

 

 だけど……アレだな……

 

「かぐや姫みたいだねこの子」

「確かに……」

 

 さながらかぐや姫と言っていい状況だよな。まぁかぐや姫というのはお察しの通り日本昔話でも有名な話だ。この世界でも桃太郎や浦島太郎なる物語は存在する……()()ね一応。ほんっっとに一応だからね!

 

「んー? なにそれ?」

「ああ、『竹取物語』っていうお話の登場人物のことだよ。簡単に言えば……そうだな……(おきな)っていう爺さんが竹から出てきた女の子を拾って、その子が色んな人に結婚しよ〜って言われるんだけど、その子は月からやってきた子で最後は感動的な別れをする……って感じ?」

「ほ〜ん……」

「んで君も竹……みたいな電柱から出てきた月からの来訪者って訳」

 

 スマホで物語を挿絵共々スライドさせながら話していると、意外と昔話というものは記憶に残っているものだと認識させられる。小学生以来読んだ覚えがないのにいざ口に出すと案外順序も含めて覚えてるんだって。

 

「じゃあトワはこの爺さんってこと?」

「そうだね。数十年後には多分こんなになってるよ」

「へぇ〜……男の人もちゃんと年取るんだ」

「当たり前でしょ」

 

 数十年後かぁ……想像がつかないな。

 

「え、っていうか月に帰っちゃうの? 爺さんとはどうなるの??」

「う〜ん……爺さんたちも返さないぞって戦おうとするけど空しく敗北。姫も記憶を消されて月に帰っちゃうんだよね」

「……え、終わり?」

「まぁ、これで終わりなんだよね」

「え〜〜〜!? なにそれ意味不明なんだけど! ぜんっぜん感動的じゃないって! 超バッドエンドじゃん!」

 

 まぁ、捉えようによってはそうはなるか。俺も割とバッドエンド寄りだが……地球での記憶も忘れ、翁や帝は深い愛情を向ける相手がいなくなって半ば自暴自棄になって不死の薬も捨て去るのだから。

 

 ……まぁ、そうなんだけど、色々と別の竹取物語を見てしまった経験があるせいか素直な解釈がしずらい。

 と言うのもこの世界でも()()昔話たちが存在するのは事実だが……それ以上に所謂同人誌がめっちゃ出回ってるんだよね。日本昔話の。

 

 かぐや姫で言えば月の使者を姫が蹴散らして帝と半ば強引に結婚するだとか……姫の性格も有り得ない程変わってるし、桃太郎なんか鬼を女性にして桃太郎を襲うなんてものもあるんだよね。大半が女体化とか無理やり襲う感じのアダルティなものが多い。

 

 妙な好奇心でそれらを見てしまったせいで頭の中でチラつくから風情のある解釈が出来なくなってしまったのだ。マジで後悔してる。時間を無駄に浪費したと断言できる。

 ってか何だよ昔話の同人誌って。遥かの昔の物語なんだからもっとお淑やかに読もうよ。昔の人の偉大なる知恵を台無しにしないでもらいたいものだね。

 折角この世界でもまともな物語を書いてくれる人がいるんだって分かったんだからさぁ。

 

「え〜やだやだバッドエンドやだ〜! ハッピーエンドが良い〜!」

「と言われてもねぇ……どうする?」

「そこで私に振らないでよ……もう完成してるんだから、こればっかりは受け入れるしかないよ。一々一喜一憂している暇なんて、ない」

「……? まぁ、ね。決まったことが変えられないって言ってる物語ではないんだけどね。絶対」

「……」

 

 決定したことを自らの手で変える方法なんて幾らでもある……が、流石のこの子にあんな破廉恥な同人誌を薦める訳にもいかないしな。貞操ブレイカー第2号を自分の手で増やすなんて以ての外であるし既に彩葉で手一杯だ。

 

 バッドエンドやだやだと駄々を捏ねまくる女の子だったが、俺たちの言葉を聞いた途端に俺たちの顔を交互に見やり、黙り込んで固まってしまう。

 何か余計なことを吹き込んでしまったのだろうか。彩葉も特段おかしなことは言っていないし……俺の方を向きながら言ったのは謎だが。

 

 突然の沈黙にそう思い始めた時、女の子が動く。

 

「──よし、分かった!」

「自分でハッピーエンドにする!」

「おお……おお?」

「そんでもって、トワも彩葉も連れてくの!」

「おお〜……」

 

 自分でハッピーエンドに変えさせるということなのか、はたまた別の物語を形成するのか──彼女の真意は定かではないが、不意に感嘆の声を漏らしてしまう程笑顔が眩しかった。

 言っている意味は全くもって理解は出来ないが、何か大きな目標を見つけたような顔だ。

 

 ……同人誌書くとか言い出さないよな?

 

 とは言えども、この子はどうやら俺たちに着いてくる気満々のようだ。

 

 ──そして、恐らく決定事項であろう事実を察した俺に、再度電流が(ほとばし)る。

 彩葉の意識を赤ん坊に向けさせる作戦は失墜したが、今度はそれよりも成功率の高い作戦が俺の脳内で形成されていく。

 

 そう──俺の貞操を絶対に守ると同時にこの子の満足感も満たす作戦が。

 

 だがこの子を利用する訳じゃない──あくまでただ普通の友達として仲良くしてもらうだけだ。それならば俺に罪悪感も何も湧かないし、この子にとっても話し相手が出来て一石二鳥。彩葉の生活を邪魔しない範疇で抑え、段々と意識を蝕んでいくのだ。俺の貞操なんてどうでも良くなる程にな……

 

 幸いなことに彩葉もこの子と関わることを嫌がっている訳じゃ……ない……と信じたい。

 だが同じ女子ならば分かち合える絆が芽生える筈だ。そうに違いない。

 

 実際問題綾紬に諌山という二台巨頭と学校内で意気投合しているのだから、その辺りは大丈夫だと考えて良いだろう。

 これは余談だが、諌山には彼氏がいる。その彼もよく俺たちの聖域にやって来る同志であり仲間だ。

 

 聖域では何度もとても食事中にするようなものではない経験談が語られているが、男子からは本気で憐憫な視線を向けられている。彼自身も愚痴の吐け口が聖域しかないと言っている為、いや、それ以前に男子は同じ志を持つ仲間である為誰一人としておふざけ半分に話を聞かない。

 

 色々とこってりと搾り取られているそうだが……彼には悪いが少し反面教師にさせてもらって俺の貞操死守作戦の糧にさせてもらっている。 

 たまに凄い顔して聖域に来るからなあの人……マジでナニをさせられているのか想像もしたくない。

 どうやって諌山に捕まってしまったのか経緯は省くが……恐らく学校内で俺と一二を争う苦労人だ。

 

 今度何か豪華なものでも奢ってやろうか。本気で可哀想だから。

 

 ──おっと、話が逸れてしまった。

 

 しかし……まさかこんな唐突に最高の機会がやって来るとは思わなかった……月からの来訪者だろうがこの際関係ない。俺も程よい関係をこの子と保ち続けることが出来れば、遂には悲願の毎日聖域でご飯を食べることが叶うのだ。

 

(この機会は逃さない……この子も満足させる。どちらも遂行してやるさ)

 

 彩葉が何を考えているかは分からないが、俺は必ずやり遂げてみせるぞ!

 

「……」

 

(ま、不味い……このままじゃ……このままじゃ──)

 

(トワとの半同棲生活が侵食されてしまう!!)

 

(そ、それだけは避けないと……絶対、ゼッタイニ私のトワには手を出させない……!!)

 

 

「……おん?」

 

 

 

 

 

 

 

 





 この世界の紅葉母さんは原作とは少し変わっていて、彩葉の考えも多少は変わっています。大半はトワくんの影響ですが。

 
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