テンポ感と文字数に関しては見逃してください……5000字超えると満足しちゃうんです。
「おっ、意外と安いのもあるのか……」
月からの来訪者──名前あったっけ。まぁそこは追々決めていくとするとして、あの子が急速成長した翌日。俺は彩葉を言葉巧みに欺いてホームセンターへと足を運んでいた。
幾ら彼女がいるとは言え、彩葉がそろそろ本気で貞操をぶっ壊しに来そうなのでその作戦に必要なアイテムを購入しに来た次第なのだよ。
今までは窓から逃げ落ちる作戦や
一回窓から落ちんのミスって痛い目を見たけどね。
だからこそ安全に、そしてより確実に作戦を遂行する為には要所要所で有用なアイテムが必要不可欠なのだ。
簡単な例を挙げるとするならばロープ。災害時にも使える万能アイテムだ。颯爽と窓から飛び降りるその姿はさながらインポッシブルなミッショ〜ンの名主演……だけどこれは却下。
窓から逃げる作戦って彩葉以外にも危険性があるからね。網戸にすれば虫は入っては来ないだろうけど空き巣が来る可能性も無きにしも非ず……あとロープ使ったら部屋に侵入されて彩葉に物色されそうだから。
そう考えると意外と使えそうなものは限られて来る……考え無しに思い立ったら吉日だと言って飛び出してきたのは間違いだったかな。
梯子なんて学生には高いし置く場所もないし……アパートだから勝手に木材を使って増設なんて以ての外だし。
あれ? 使えるものなくね?
自分の発想力の乏しさに思わずため息が出てしまう。仕方がない……生活雑貨とか買って帰るか今日は。わざわざ彩葉を出し抜いて来たのだから無駄足だったとはなりたくないからな。
「──ねーねー。外のたい焼き食べた〜い」
「買い物終わったら買ってあげるからちょい待って〜……」
「って言うか彩葉は? 一緒じゃないの?」
「そりゃ欺いてきたからね〜……」
「うわっ、トワ見かけによらず悪人だ!」
「はははよせやい……──ん?」
「……おん?」
……んん??
「……えなにしてんの」
ビビったわ〜……余りにも自然な会話に溶け込むものだからつい流されそうになったが何をしてるんだこの子はこんなところで。
確か朝は何故か彩葉の部屋から抜け出して俺の部屋に来ていてそこで遊ぶと言っていた筈なのだが……合わなかったのだろうか。
「飽きたし暇だから来た〜!」
「何で俺のところに……」
「だってトワの方が安心するし!」
「どういう理屈??」
一応赤ん坊時代は俺と彩葉の二人三脚体制で育てていた筈だし……あっでもファーストコンタクトが中々に悪かったからな。その影響が作用しているのか。
俺に懐いているのはいいが彩葉を極度に怖がられても俺の計画が破綻するしこの子にとっても将来が心配だ。このご時世だと男に引っ付いて我儘を言うタイプの女性は顰蹙を買いやすいからな……月から来たのだから、地球の世界観を把握していないのは仕方がないが。
「でもここに来ても別に楽しいものはないよ?」
「えー? 話すだけでも楽しいじゃん!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
純粋無垢……なんて甘美な響きだろうか。月に男がいなくともどうやらこの子にまで貞操を奪わんとする価値観は反映されていないようだ。
だからこそ適度な距離感を保ち、適切な教育を推進していかねばならない。世の教育に励む人々の気持ちが痛感できる……
とは言え、さっき言った通り男性としか付き合いのない女性ってのは言い方は悪いが尻軽だと評価されがちだ。
この子は違うがタイプ的にはがっつく感じだからね……彩葉への耐性もつけてもらいたいものだが。
そんなことを考えたいたら、すっっごい爆弾発言がこの子から飛び出す。
「あ、そういえば……これってどうやって使うの?」
「ん……? ああ、スマコンじゃん。俺の持って来たの?」
彼女が差し出したのはコンタクトレンズ型PCデバイス・通称スマコン。仮想空間ツクヨミにログインする際に使用する必須アイテムだ。装着して目を閉じることで、仮想空間でもまるで現実世界にいるかのよう没入感を得られるデバイス……まだ味覚や触覚はないからフルダイブ型でない。持ち出して来たのかな。
「んや、トワのノートPCで買えた!」
「へぇ〜……ん? ん? ん? ん? お?」
そしてそれと同時に爆弾発言が飛び出す──それはとても流すように発言してはいけないような発言が……
俺はこの子の発言にまさかと焦燥感を覚えて自分の銀行の残高を確認しに爆速でスマホにインストールされているウォレットアプリへと突入する。
銀行の残高には自分の力で貯めた分のお金が入金されていた筈──だったのだが、いざ突入してみればそこには昨日まで存在していた筈の俺の貯金残高が雀の涙程の端金へと変貌している光景があった。
う〜ん確かに昨日まではまともに生活はできる分の貯金残高があった筈なんだけどな〜。もう1000円代すら下回って最早銀行に入れる意味がないのではと思い知らされてしまう。
中々にショッキングな光景に思わずスマホを操作する手を止めてしまう……別に死ぬ気で貯めたって訳でもないけれど、流石に多少なりとも思い入れはある──なんて考えていたら、中々言葉を発さない俺にようやく事態を把握したのか焦り出す女の子。
「あ、あれ……?」
「……」
「あ、あら……?」
と言うかノートPCの操作方法なんてよく理解できたな。月の高度な技術の賜物と言っていいのだろうか。しかも速達で頼んだなこれ……最近は当日に届くこともあるし、中々に買い物スキルがお有りのようでなにより……
……それで、どうするかなこれ。
一応生活費も兼ねてる為こんなにぶっ飛んだ額を使われたらたまったものではないが、この子も好奇心とか単なる期待も込めて購入したのだろう。スマコンなんて今の時代なら持ってるのが半ば常識になりつつあるものだからね。
今日だってツクヨミでヤチヨのライブがあるし、彩葉に絶対一緒に行くぞと脅されているし……その時にこの子だけ仲間外れにするって言うのも中々に酷な話だよな。
ツクヨミ内で彩葉との親睦も深めてもらえば、俺の計画も程よく進行する。それにツクヨミがあれば退屈することは殆ど無いだろう。
そう考えると……まぁそこまで落胆するような話でもないか。要らない漫画とか雑貨が溜まりに溜まりまくってるし、それを売り払えば多少は金になるだろう。
と、言う訳で──別にいいってことにしよう!
「今日の夜に使い方教えるよ。ヤチヨのライブもあるし」
「あ、あれ? お、怒らないの……?」
「別にいいよ。もうすぐ夏休みだしシフト入れまくれば取り返せるし、暇なんでしょ?」
「………! うん!」
「そうだな……よっし。たい焼き食べに行こうか」
「えっ行く行く!」
しかしこの子は食に対する思い入れがやけに深いな。月には余程美味しいグルメが存在していなかったのだろうか……地球では月を見ながら団子を食べるという文化があるのに一方の月では何もないなんて、全く皮肉な話だ。
そして彼女を満足させる為に俺は外のたい焼き屋へと向かった──
***
──のだが。
「どったの彩葉?」
「今トワの匂いがした気が……」
「彩葉ったらワンちゃんみたいだね〜。まぁ私もちゃんとマーキングしてるから匂いで分かるけど。彩葉もそうしたら?」
「なんでおんねん……」
「彩葉すっげぇ顔してるけど……?」
たい焼き屋に到着した瞬間に俺の対彩葉センサーが危険を察知した為急いで物陰に隠れると、怖すぎる発言と共に彩葉と二大巨頭こと綾紬に諌山が降臨なさった。後諌山は黙ってほしい今すぐに。
何故ここに奴等がいるんだ。今日は確か新しいカフェのスイーツを食しに行くと聞いていた筈だが……クソッ! 場所を知らなかったのが痛恨のミスだったか!
やべーこっち来そう……今日は外せない用事があるから無理って断ったのだから、たかだか買い物で断ったのって滅茶苦茶ブチ切れられるに違いない。
綾紬と諌山に関しては知らんけど……見つかったら面倒臭いことになるのは間違いない。
さてどうするべきか──あ。
「……んえ?」
何度目か分からない俺に電流走る。最早その場凌ぎなのは重々承知しているが、その場凌ぎで幾度も窮地を切り抜けてきたのだ。
俺には必要不可欠で寄り添って生きていく存在。それがその場凌ぎなのさ。
「
「……? ……えなんでなんで!? あの彩葉どちゃくそ怖いんだけど!?」
「行ってきたらどちゃくそ美味いスイーツ食べられるよ。そりゃぁもう昨日のオムライスなんか比にならない程の「行って来ま〜す!」よし」
まぁ、何となく状況や作戦は理解できたと思うが……とにかく話が早くて助かるよ全く。
彩葉は壁があるかもしれないが他2人はそうでもないだろう。持ち前のコミュニケーション能力の高さを駆使して何とか俺に矛先が向かないようにしてもらいたいものだね。
さて、あの子も突撃しに行ったことだし──帰るか。
***
「で、何か言うことは?」
「すみませんでした」
俺の匂いを覚えてるならあの子から漂う匂いで俺の存在に気付くことが可能だということを失念していた。めっちゃバレた。
あの子はあの子でいつの間にか自分のことを『かぐや』って呼んでるし……見た感じだと一応彩葉を除いて他2名とは打ち解けたようだ。
かぐやに関しては口笛吹いて誤魔化してるし……純粋とか関係なく腹立ってきたなここまでくると。
「しかもスマコンも勝手に買われてさ……何でこう簡単に許しちゃうの?」
「ま、まぁそこは仕方がなかったというか……かぐやを責めないであげてよ」
「別に責めるつもりはないよ。あんたが嘘ついたことは責めまくるつもりだけど」
「う、埋め合わせするから……いつか」
「どんな? 二人っきりで温泉旅行にでも連れて行ってくれるの?」
「そんな時間ないでしょうに……」
「は? そんなの作るに決まってるじゃん」
温泉旅行とか無理難題にも程があるぞ。どう考えても混浴でナニかをするつもりなんだろうが……そういや諌山の彼氏が風呂場で襲われたことがあったとか言ってたっけ……おせっせエピソードの引き出し多すぎて怖いんだよね諌山って。でも彼氏も彼氏で諌山のことがちゃんと好きだからな……聖なる欲に関しては文句だらけだけど。
まさかとは思うが諌山からそういうハッスルする為の口実とかやり方とか教わってないよな? やめてくれよ本気で。
普段何話してるのか知らないから余計に心配だよ。
「まぁいいよ。この埋め合わせはしてもらうからね。もちろん私が身も心も満足できるものでね?」
「……かぐや」
「な、なに?」
「当分ご飯オムライスだけね」
「えっ? うーん? 別にいいような……」
「3食とも」
「のわぁ〜っ!? ごめんごめんもうしないからぁ〜!! ね? ね!? このとーり!」
「冗談だよ」
「じ、じゃあ他のご飯も作ってくれる?」
「少しは手伝ってほしいかな」
「手伝う手伝う!」
「じゃあOK」
「やっほ〜い! トワったらさ・い・こ・う!」
うーんやっぱり何だかんだ言って俺も気を許してしまうのがかぐやって感じだな。
「トワ、マーキングって言葉知ってる? これ以上あんた達のイチャイチャを見せるつもりなら言葉の意味を嫌っていう程わからせてあげるけど」
今度諌山の彼氏に意味聞いてみるか。絶対知ってるし。
***
「ヤチヨってツクヨミにもいんの? ロボットって言ってたよね?」
「活動場所が主にツクヨミって感じかな。配信もそこでできるから」
「うぇ〜っなんかおもろっ! んで、これはどーつけんの?」
「コンタクトだから気をつけてよ? 途中で目閉じないでよ」
3人で食卓を囲んだ後はいざ巨大仮想空間への突入の時間だ。今日はヤチヨのライブがあるからね。何だかんだで俺も毎回楽しんでる訳なんだけれど……彩葉に腕に抱きつかれてるのはもう恒例行事だから何も言わないよ。
「おぉ〜……なんか変な感じ!」
「んじゃ、初めてだから手を繋いどかないとね」
「トワ、真ん中行って」
「はいはい……ほら、かぐやも」
「うん!」
二人以上ならば初見のツクヨミの際には何かしらの制御装置みたいなものが推奨されている。仰々しい言い方をしたが要は慣れるまで安全にプレイする為に必要なことって訳。
今みたいに手を繋ぐとか、広い部屋でプレイするとか、防音室にするとか……やりようは幾らでもある。
まぁ、そこまで危惧する必要はないんだけどね。
「……何かトワの手って安心する!」
「そう?」
「あ、そこは共感できる。昔っからそうだったし」
「俺を挟んで恥ずかしい会話をしないでよ。もうすぐライブも始まるし、行こう」
「そだね〜」
「──じゃあ、行くよ」
……そう言えば、毎回ヤチヨのライブに行って疑問に思うことがあるんだけど。
毎回ライブ中ヤチヨと不自然なくらい目が合うんだよね。
ただ単に自意識過剰なのか考えすぎなのか……まぁでも、そりゃ全方位見渡してるんだから目が合うことくらい、あるか。
余計なことを考え過ぎたら楽しめるものも楽しめない。
気にはなるけど……行くか。
まだかぐやは純粋ですよ。
試験期間に入るので次話は2、3週間後くらいになります。次回はツクヨミに行きます