超あべこべ!   作:nalnalnalnal

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テストが終わったのでぼちぼち投稿していきます。

今回は影が薄かったあの人の立ち位置が少し分かると思います。


純粋無垢の牙城、崩れる

 

 

 

 

「……で?」

「だ、だから一緒にライバーやろ〜……っていうことで……ね?」

「ごめんだけど割と本気で無理」

「なんでぇ〜っ!?」

「なんで顔バレしてるライバーに付き合わなきゃならないんだ」

 

 ヤチヨのツクヨミライブを終えて現実世界へと帰還した俺は翌日の学校──終業式終わりにかぐやからライバーを一緒にやらないかと必死の説得を受けていた。

 恐らくは彩葉が一緒にやってくれないと見込んだ為俺から籠絡して彩葉もついでに引き摺り込もうという狡猾な作戦を立てているのだろうが……悪いけど無駄だ。

 

 前にも言ったけど男性がライバーをやる際は配信活動等の前に分厚い説明書っぽいものを熟読せねばならない。別にそれ自体はいいけどそれ以上に女性から狙われる可能性が爆発的に上がるのが問題なんだよ。

 

 ブラックオニキスの馬鹿共が未だに襲われていないから大丈夫だろと考える人もいるかもしれないが、既にかぐやが勝手に配信して勝手に顔バレしてるのが大問題で俺がやらない最大の理由にもなってるんだよ。

 

 丁度さっきかぐやが意気揚々とノートPCの画面見せて来たと思ったら──

 

 

***

 

 

『かぐやっほ〜! 月からやって来たかぐやだよ〜!』

 

『今日はやること思いつかないからこれで終わり! じゃあね〜!』

 

『……──ん? これで切れてるのか?』

 

 

***

 

 

 『【初配信!】月から地球にこんばんは! かぐやだよ!』という何ともまぁ探せば普通にありそうなタイトルをつけてかぐやが喋っていたのだが……幼稚園児以下程度の画力で描いた立ち絵に終わってる背景、そして後ろで流れるとてもBGMとは言い難い不協和音──

 

 ──かと思えば最後にかぐやの顔が思いっきし映り込んでいるし、俺の部屋でやりやがったというのも同時に分かった。

 

 うん、とてつもなくバカなことしてるね!

 

 これで俺の部屋特定されたらどうするんだよ本当に……ともかく、危険意識のないかぐやのライバー計画に付き合う気は毛頭ない。

 大体ブラックオニキスもなんなんだ……かぐやがライバーに興味を持ったのもあの馬鹿共が多少なりとも影響はしている筈だ。ライブ後に色んなライバーについて聞かれたからね。馬鹿共もそうだが、綾紬や諌山とかも。

 

 彼女達はライバーと言うよりかはインフルエンサーなのだが……諌山の方にはたまに彼氏が引き摺り出されているのを見かける。グルメ系インフルエンサーとして活動しているが、睡眠欲以外の欲求が莫大──特に聖なる方が大き過ぎるとよく彼氏が愚痴をもらしている。

 

 綾紬は美容系らしいが……彼女とは一年の頃によく話した記憶がある。二年になってからは彩葉と諌山が同じクラスになった為話す機会はめっきりと減ったが、あの三人の中では一番の常識人と言える。

 

 それはそれとして……あの馬鹿共だよな。幼少期の記憶を振り返ればちゃんとあべこべ価値観は適用されていると判断できるんだけどな……彼らはライバーをやる中で襲われる可能性があることは当然既知の筈。それでもライバーをする一番の理由があるとすれば──ただそういう人間として生まれたからなのだろう。

 

 俺が真逆の価値観を持っているように彼らも誰かに見られたい、自分の好きなことをしてみたいという思いが女性に対しての忌避感を上回った──ただ、それだけなのだろう。

 

 まぁ、だからと言って多少の尊敬はしつつも賞賛する気はないけどね。

 

 俺は襲われたくないし、彩葉で手一杯。その理由だけでライバーをする気はないとどうにかしてかぐやに分かってもらえないだろうか。

 

「ねぇ、なんでダメなの〜?」

「……危ないから」

「へ? ツクヨミなんだから安全じゃないの?」

「かぐや顔が割れてるでしょ。外で知らない人に襲われる可能性があるんだよそういうのって」

「えぇ!? かぐや襲われんの!? ナイフとか!?」

「いやまぁその可能性も無きにしも非ずって感じだけど……」

 

 流石に刺されたなんて事件は猥褻行為よりも聞くことは少ないが……事実として存在はするからね。

 月の住人が戦闘能力が高いのから全く分からないが、かぐやは華奢な少女……危険意識がないとなれば余計に狙われる可能性もある。

 

 後は特に──俺が配信に出たら男性経験のない女性からの逆恨みに遭う可能性がある。

 大袈裟だと思うかもしれないが男性経験の有無というのはこの世界において重要な指標となり得る。

 

 男子生徒と恋仲になった女子生徒が次の日から蔑まれ暴言を吐かれ無視され……など、この世の中では尊重すべき尊い関係性を潰すいじめもあれば、逆にこれは稀な事例だが、男性と関係を持ったことのない女子が主に男性との顔が広い女子に仲間外れにされるものもある。

 

 SNSでそういう動画が出回っているのが事実……本当に面倒な価値観だと思わせられる。

 

 それで言うとかぐやがライバーをすること自体俺にとっては余り好ましくないものだが……そこまで潰してしまっては彼女にツクヨミを案内した意味もなくなってしまう。ライバーをさせるつもりの行脚ではなかったが……

 

「だ、だいじょーぶ! かぐや強いから!」

「それで済む問題じゃないの」

「で、でもかぐやはトワと彩葉とやりたい!」

「なんでそこまで……」

「だってハッピーエンドに二人を連れて行くのがかぐやの夢だから!」

「……」

 

 そう言い張るかぐやの姿はとても大きく、雄大に映っていた。

 

 夢──何だか懐かしい響きだ。

 

 別にこれは俺が大きな夢を持っていた訳でもないんだ。昔っから突出した才能がある訳でもなく、彩葉達と会うまではよく一人寂しく遊んでいたものだ……ああ、別に親は全然優しい人だったよ。きっと俺に夢があれば精一杯応援してくれるような人達で、今となっても時折恋しくなる。

 

 なら、なんで懐かしく感じるのかって?

 

 昔──俺に夢を語ってくれた人がいたんだ。

 

 その人の夢が今の俺に繋がっていると言っても過言ではない。

 

 彩葉から貞操を守ろうとしている理由の一つがそれだ──彩葉には、自分の未来を自分で切り開いてほしいから。

 

 これだけは彩葉にもかぐやにも、言えない。

 

 少し感傷的になってしまったが、俺はライバーをする気はない。かぐやの夢も潰したくはないが、その過程で俺のせいでかぐやに迷惑が被れば自分を許せない気がする。

 

 こんな価値観の中で久しぶりに出会った純粋な子なんだから。

 

「とにかく、俺はやらないからね」

「えっ、あちょっと待ってよ!」

 

 

***

 

 

「──っていうことがあってさ〜……ど〜にかなんないかなぁ?」

「よくそこで私達に相談しようと思ったね」

「小日向から緊急の連絡来たと思ったからびっくりしたよ」

「え? だって芦花と真実ライバーなんでしょ?」

「まぁそうなんだけどね〜……」

「男の子と女の子だと価値観が違うから私達じゃあんまり力になれないかもね〜……私の彼氏と比べたら小日向って達観してるから余計に難しいよ」

「……あれ? そう言えばどーやって小日向のスマホ使ったの?」

「へ? なんかポチポチしたらできた!」

「まじかぁ〜……」

「かぐやちゃんが凄いのか小日向が無防備なのか……」

 

 トワにライバー計画を断られた直後。かぐやはトワのスマホを使って彩葉の友人である綾紬芦花(あやつむぎろか)諌山真実(いさやままみ)に連絡を取って急遽集合してもらい、どうにかしてトワをライバー計画に引き入れないかと相談していた。

 

 ライバーをするにあたって、かぐやはトワからブラックオニキス以外のライバーの情報を仕入れていたが結局何をしていいのかが分からず不協和音ライバーに陥ってしまっていた。

 そこで、以前トワから聞いていた芦花──ツクヨミ内では『ROKA』として活動している美容系インフルエンサーと真実──『まみまみ』として活動するグルメ系インフルエンサーに協力を仰ごうとした次第なのだ。

 

 しかし彼女達とトワの価値観と言えば通常の男女に加えてトワの真逆の価値観という途轍もない乖離がある状態であり、どう助言したらいいのか迷っていた。

 

「トワってそんな変なの?」

「言い方言い方〜……まぁ、変わってるって言うか……すごい優しいって言うか……ね……」

「超人じみた彩葉よりもある意味で校内じゃ有名なんだよ〜。男女問わず分け隔てのない態度で接するもんだから特に女子の間じゃ評価はうなぎのぼりなんだよね」

「ほへぇ〜……」

 

 ──そう。小日向トワという男にあべこべ価値観は適用されていない──のに加えて、トワは彩葉に気を取られすぎて彩葉以外からの好感度を大して気にしていなかった節がある。本人は節度を持って接しているつもりだが、彩葉という存在があまりにも強大が故に多方面が疎かになっているのだ。

 

 その為トワ本人のガードが逆に緩くなってしまい、さも当然かのような行動全てが女子にとっては高評価になってしまうのだ。当の本人の元来の性格も影響しており、不埒なこと以外は頼めば大抵は二つ返事で了承してしまう。

 

「男子からも普通に好かれてるからね〜。彩葉以外には物怖じしないからほんとなんでもできるって感じ」

「私の彼氏も色んな意味でヤバい奴って言ってたな〜」

「なにそれ、最強じゃん!」

「そ、マジで最強なんだよね〜」

 

 かぐやはお気に入りであるトワが賞賛されているのを聞くと思わず目を輝かせる。

 

「じゃあなんでライバーはできないの?」

「「あ、あー……」」

 

 なんでもできると聞いたかぐやからの純粋な質問に二人は言葉を詰まらせる。

 かぐやはまだ不埒なことを知っていない純潔な存在……それは二人も今までの言動で把握している。

 

 しかし目の前の少女はトワをライバー計画に引き入れようと息巻いており、その計画の妨げとなり得る原因を必死に探している──そして二人はその答えを知っている。

 

 その場凌ぎにしかならないのを重々承知の上で二人は何とかはぐらかそうと話題を変える。

 

「い、彩葉はどうなの? ほら、彩葉も何でもできるじゃん? ピアノとか勉強とかさ」

「んー……先にトワがしてくれたら彩葉もしてくれそうだから!」

「ん〜確かに!」

「彩葉何だかんだチョロいし……優しいし可愛いからね……」

「でしょ!? だから先にトワを仲間にするの!」

「「う〜ん……」」

 

 二人から見たかぐやは純粋無垢で年下の妹のようで、出会って間もないが力になりたいとは考えている。

 

 しかしこの答えをかぐやに告げていいものなのか──友人が好意を寄せている相手、そして友人にももしかしたら迷惑がかかるかも。という可能性が脳裏を過って踏みとどまっていた。

 

「ねぇ、なんでトワはライバーしたくないのかな……? かぐや、トワと彩葉も一緒にライバーやりたいのに……」

「「……」」

 

 普段の朗らかな雰囲気とは打って変わって卑屈な表情を浮かべるかぐやに思わず心が痛む二人──恐らくはこのまま成長して行けば自然と答えには辿り着くだろうが、かぐやは今答えを知りたがっている。

 

 ツクヨミ内で多くのファンを持つ二人にとって、妹のような存在が後輩になるのは大歓迎であり、そこにトワと彩葉が加わればきっと爆発的な影響をツクヨミに及ぼすだろうという気持ちが強い。

 

 そして──芦花にとっては心の中で思うところもあり、その気持ちとかぐやを助けたいと言う気持ちが拮抗していた。

 

(いや、酷いな私……流石にダメでしょ。これは……)

 

 再びかぐやに目を向ければ更に暗くなった表情が視界に映る──そのタイミングで、芦花は自分の思いにひとまず区切りを付けた。

 後のことは後考えればいい──と、自分の思いを押し殺してまで目の前の少女を助けることを芦花は選んだ。

 

 そして、そんな芦花の顔を見た真実も同じ選択をする。彼女も同じく踏みとどまっていたが、芦花の腹の中を彼女は密かに察していたから。

 

「……ねぇ、かぐやちゃん」

「……?」

「今から言うこと、絶対忘れちゃダメだからね」

「小日向も絶対そこで嫌がってるからさ、ね?」

「……? うん……」

 

 

***

 

 

「ただいま〜……」

「おー、ずいぶん遅かったね。彩葉バイトだけど、先ご飯食べる?」

「あ、う、うん……」

 

 何だかいつもよりしおらしいかぐやが部屋へと帰宅する。俺のスマホ使って何故か綾紬と諌山に会っていたそうだが、何をしてたんだ。まぁ普通に遊んでたんだろうが……妙な胸騒ぎがする。

 

 やけに物静かと言うか……どうしたんだ?

  

 あ、まさかさっき喧嘩したと思ってるんじゃ……だからこんな絶妙な距離感を保っているのか。

 しくじったな……少し強く言いすぎてしまったか。思えば理由も言わずに抑え込むような真似をするのは高圧的だしかぐやにとっては少し怖かったのかもしれない。

 

 謝らないとな……

 

「あのさ、かぐや──「トワ!!」お、おおう……?」

 

 不味いな。これはかなり怒っている感じだ……いや、でも俺も反省すべき点だらけだよな。

 月から来て分からないことだらけの中で初めての喧嘩となれば、俺がかぐやを受け止めて謝らないと大人気なさすぎるよな。

 

 ひとまずかぐやの怒りを受け止めないと──

 

「ごめんっ!」

「──ん?」

 

 ──そう思ったら何故かかぐやは大声で俺に謝罪した。

 

 待て、何で俺は今謝られているんだ。普通なら俺が謝るのが筋じゃ──

 

「かぐや、トワのことなんにも分かってなかった! トワの気持ち考えてなかった!」

 

「かぐや、ちょっと落ち着いて──」

 

「でも、トワに絶対迷惑かけないから! かぐやが守るから!」

 

「……!」

 

「だから、かぐやと一緒にライバーやって欲しい!」

 

「……かぐや」

 

 成程──あの二人に会いに行っていたのは何かライバーに関する助言を貰いに行っていたのか。その助言の内容はまだ分からないけど……守るってことは、プライバシーとかその辺りだろう。

 

 一発目の配信でプライバシーゴリッゴリに全世界に公開していたからね。諫山はともかく綾紬からの助言があるなら至極真っ当な意見だろうし、信頼するに値する。

 

 そうか──かぐやもかぐやなりに頑張っていたんだな。まぁじゃないと多分彩葉も手伝ってくれないしな……彩葉ならBGMとか裏方事業は得意そうだし、俺もその方向でやってみるか。

 

 一番懸念している貞操の危機だが──そうだな。まぁ顔が割れさえしなけりゃ大丈夫か。あの二人が流石に一発目の配信は削除させているだろうし……彩葉には俺からも頼んでみるか。

 最悪彩葉かかぐやと外出すればガードは硬いし……彩葉が内側から襲ってくる可能性も捨て切れないが、そこは俺の今までの豊富な経験を活かして避けていくとするか。

 

『──だから、拒絶しないで、全部受け入れてね』

 

 うん……流石に俺も大人気なかった。あの二人には明日にでもありがとうと伝えに行こう。初めに拒絶するなんて以ての外だった。まずは受け止めることからだよな。

 ここまで本気で取り組もうとしていたんだ──普段から貞操の危機なんて寄り添って生きて来ているんだから、今更変わらないか。

 

 ヤチヨの言葉が今になって響いてくる──まるで未来を見透かしているような発言。流石としか言いようがない。

 

 ──あの行動は未だに理解できないが……あの時のヤチヨは少し怖かった。

 

「──分かった。ちゃんとプライバシー守ってやるなら、OK」

「──ほ、ほんと!? ほんとだよね!?」

「ほんとだよ。ほんと」

「やったーーっ! じゃあ次は彩葉彩葉!」

「気が早いなー」

 

 あの三馬鹿と同じ土俵に立つのは癪だが、あんな堂々と貞操を奪って下さいと言うような奴らとは違う。俺は安全に、堅実にライバー計画に付き合うんだ。

 

 ……目、付けられなきゃいいけど……ワンチャン声でバレる可能性もあるが……その時はその時だ。面と向かって馬鹿と罵ってやろう。ついでに勝手に上京したことにも問いただしてやろう。

 

 そんなブラックオニキスの奴らに対しての謎の闘志を燃やしていた俺に──斜め上からの爆弾発言が衝突してくる。

 

「トワ! かぐやが絶対トワの貞操は守るから!」

 

「──……は?????」

 

 は?????






早くも崩れましたね! 
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