「どうなさるおつもりですか。お客様。」
「今から村へ向かう。エミリアを危険に合わせるわけにはいかない。お前は屋敷を守っててくれ。莫がいない以上、俺一人で行くしかない。」
「はぁー、分かりました。」
「何話してるの、スバル?」
スバルが声の方に振り向くと、心配そうな顔をしているエミリアがいた。
「大丈夫だよエミリアたん。ただ、村の子供たちが危ないんだ。誰かが助けてやらないと。」
「分かったわ・・・」
そう呟くと、エミリアはスバルの胸に手を当て、優しく言葉を唱えた。
「あなたに、精霊の加護があらんことを。」
「今のは?」
「今のはね、大事な人が、門出とか、用事がある時にかける言葉なの。」
「オッケー、その気持ちだけで何でもできる気がするよ。」
「ふふ、相変わらずスバルは面白いわね。うん、いってらっしゃい。」
スバルは急いで村へ着くと、農民らしき男が慌てて助けを求めてきた。
「お~い!こっちだ!こっちに子供たちが入ってったきり、戻ってこないんだ!」
「分かりました。じゃあ、いっちょ行きますか!」
森の中から木々の破片が飛び交い、地響きが鳴る場所で、莫とレムの攻防は未だに続いていた。
(あの重力を操る力。原理は何なんだ。これさえ無ければ今すぐにでも頭を潰してやるのに!)
(やはり、この世界の住人は身体能力がおかしいぞ。どうしてグラビティをまともに喰らって飛び回っていられる?このままじゃ埒が明かない・・・仕方がないか。)
『ブレイカムゼッツァ―!サイズモード!』
(どこから出てきた?!)
ブレイカムエッジがレムの鎖を巻き取り、一時的に動きを止めた。が、レムの持つもう一端がゼッツの顔をギリギリで掠める。武器を失ったレムは両手に水魔法を纏い、ゼッツに跳びかかる。ゼッツは咄嗟に手を前に突き出し、レムの身体を空中でズラす。攻撃の軌道が変えてられたレムは森の奥へと吹き飛んでしまった。
「魔女教!魔女教!魔女!魔女!」
「正気に戻れレム!くそ!攻撃を捌ききれない!」
莫は一瞬レムを気にかけたその一瞬を、彼女は見逃さない。レムの手刀がゼッツの脇腹を突き、その勢いのままゼッツを弾き飛ばす。
「クッ!このままじゃジリ貧だ!すまない!レム!」
『ボルテージ1!グラビティ!パニッシュ!』
「魔女教!魔女・・・!アァッ・・・!」
レムの身体がとてつもない速度で夜の森の闇の彼方に消えていく。
「まずいな・・・やりすぎた。」
森が向こう側まで見えるほどの大穴を見据えながら、莫はぼやいた。
「待て!待てだってば!アァお手!えぇこれもダメ?!飼い主の教育が行き届いてないんじゃあないの?!」
大量のウルガルムに追われながらスバルは走り、叫ぶ。
(子供たちは何処なんだ?てかどうやってこの窮地を脱する?)
「バウバウバウ!」
「おっとっとぉお落ち着いてね君達。ほら、とってこ~い・・・」
スバルが棒を投げると、一匹のウルガルムの額にコツン、と当たった。
「バヴバヴババヴヴグルルル!!!」
(やばい!何かないか何かないか何かないか・・・お、これあんじゃん!)
「ぎゃああああ」
十数頭のウルガルムはスバルの体の部位を一つ一つ細切れに食いちぎられ・・・
『プロジェクション!』
てはいなかった。
「ぎゃああああ助けてー。食われちまうよー。」
(ふぅ、これで子供探しに専念できるかな・・・って居た?!)
スバルは開けた場所に眠りこけている子供を見つけた。明らかに罠だ。そう分かっていたとしても、ナツキスバルは止まれる男ではない。子供を抱え上げた瞬間、待ってましたと言わんばかりに大量のウルガルムが現れた。
(そりゃあそうだよな。クソ・・・覚悟決めるか・・・)
「来いクソ犬ども!この子を食らいたくば、俺の屍を超えて行け!」
(・・・あれ?ここで俺がこいつらに噛まれながらも勇猛果敢に立ち向かっていく流れでは・・・?)
スバルが目を開けると、山道を挟んだ左右にぽっかりと大きな穴が開き、ウルガルムの物であろう血が散乱していた。そして、スバルの目の前の地面にレムがめり込んでいた。
「あぁスバル。無事だったか。」
「なんだその紫色は?!まぁ、ひと先ずは俺の一世一代の大啖呵を遮ってくれて、後、俺とレムを・・・一応無事に助けてくれてありがとう」
めり込みレムを横見に、スバルは莫に感謝を述べる。
「あぁ、子供も見たところ無傷の様で良かったよ。村の人たちと話はついてる。さぁ、早く魔石のある場所へ・・・」
「う・・・うぐ・・・はっ!レムは・・・何を・・・?」
「あっ!起きたかレム!その様子じゃ、覚えてないようだな・・・」
「待てスバル。まずは俺からのつの質問に答えてもらおうか。」
「黙れ・・・魔女教・・・ガハッ!」
「一つ目。俺やスバルを襲った理由は、俺たちがその魔女教とやらに関与していると疑ったからか?」
「そうだと・・・言っている・・・!」
「二つ目。もし、俺たちと一緒に、村へ戻る手伝いをしてくれるか?」
「・・・?!何を!」
「俺だけではスバルと子供の二人は守りきれない。君の力が必要なんだ。」
レムは少し心が動いていた。自身を完膚なきまでに打ちのめした、憎むべき魔女教の相手たちが、自分に助けを乞うている状況に理解が追い付かなかったからだ。レムだってこの子を助けたい。だが、如何せん確信が持てない。
「頼むレム!お前の力が必要だ!この子を救いたい俺たちを、助けてくれ!レム!」
「・・・私が助けるのは・・・あなたたちじゃない・・・その子です。私が・・・あなた方の口車に乗るのは、今回だけです・・・」
「良し、その言葉を待っていた。」
『リカバリー!』
「え?!傷が、完全に治ってる?つくづく思いますが、あなたは一体・・・?」
「ただのエージェントさ。さぁ、行こう。スバル、作戦は?」
「俺はこの子を守る。で、俺を二人は俺を守ってくれ。」
「分かりました。では行きましょう。」
「それより、早くここを抜けないと・・・ハッ!伏せて!」
バン!
肩を押さえてうずくまるスバルは気付いた。この世界にない、あってはならない、あの武器を。
「銃声・・・?」
「レム!スバルを連れて逃げてくれ!」
「でも、あなたは?」
「早くしろ!手遅れになる前に!」
レムに肩を貸してもらいながら、スバルはかすかに彼らの会話を聞いた。
「お前がここにいるとはな。 コードナンバー3。」
「・・・それをお前が知る必要はない。」