ナツキスバルはレムから過去を聞いた。鬼の里に生まれたこと。ラムが天賦の才を持っていたこと。魔女教に襲われ、里が滅びたこと。スバルは彼女を完全に許したわけではないが、憎んでいるわけでもない。そして、事件が終わったあとにロズワール邸に一つの通達がされる。それは、王選の始めを告げるものだった。エミリアは王都に行くことになるが、スバルも着いていきたいと願い、ロズワールやレムに後押しされ、皆で行くことになる。
「初めまして賢人会の皆々様!俺の名前はナツキスバル。ロズワール邸の下男にして、こちらにおわす王候補、エミリア様の一の騎士!」
この言葉に対して。この場も、空気も、自身の立場も弁えられない、文字通り無知蒙昧な少年に対して。スバルは王国騎士全員の前でユリウス・ユークリウスにプライド、矜持、身体をバキバキにへし折られた、あの戦いに感銘を受けた男が居た。
後日、スバルはヴィルヘルムの鍛錬が終わったあと、一人でうなだれていた。
(なんでだよ、エミリア。なんで。君なら俺を分かってくれると思っていたのに。俺を救ってくれた、あの君なら。俺がしてきたことは、全部君の為なのに。)
「言ってくれなきゃ分からないよ。スバル。」
(俺だってそうしたいさ。全部話したいさ。君が俺にしてくれたこと。君の言葉や仕草。)
「なんで・・・分かってくれないんだよぉ・・・」
「そうだよなぁ!」
スバルの目の前に現れてそう言った男は、笑顔だった。紫のボロボロの服を身に纏い、グラサンをかけた怪しい中年だった。
「あんた誰だ・・・」
スバルはその男をにらみつけたが、男は相変わらず笑っていた。まるで、自分はお前の最大の理解者だ、という見え透いた嘘を吐いている顔だ。
「俺の名はジーク。お前の理解者だ。」
(ホントに言いやがったよコイツ・・・)
「話してみろ~?お前の心の内を。お前の深層心理を。」
怪しい男だったが、今のスバルには、自分の話を真っ向から聞いてくれる相手というのはとても魅力的なものだった。
「俺は女の子を救いたかったんだ。死にそうな・・・想いをしたよ。頑張ったんだよ。でも、やらかしちまった。あの子の願いを全て無駄にしちまった。それで・・・取り返しのつかないことをしちまった。あの子は、俺と離れたがったいた。もう・・・いい。俺は・・・もういいんだ。あの子が俺と離れたがってるなら、俺はもういい。」
「そうかそうかそうか~。やっぱりお前を見つけた俺の目に、狂いはなかったな~。」
「俺はどこで間違えた?一体どこで・・・彼女を傷つけてしまったんだ?なんでなんでなんでなんだよ!」
「その悪夢・・・叶えてみたくな~いか?」
「あ?何言って
るんだ・・・よ?」
スバルはロズワール邸の入り口で目を醒ました、何故だかは分からないが。
「ひ!ひぃあ!なんだ!なんだよコレ!」
スバルの両手には血液がべっとりと付いていた。辺りには人間の腕、脚、頭、臓器が散乱していた。これは本当に自分がやったのか、信じられない、信じたくない。だが目の前ににあるのは真実だけだ。スバルはおぼつかない足取りで屋敷の中へ入っていった。
「あ、ああぁぁ!駄目だ駄目だ駄目だ!」
そこに在った生首は、見知った物だった。屋敷の中は地獄絵図だった。その暗闇の中に、ジークは居た。
「うわあああぁぁぁ!!」
「起~き~た~か?スバルって言うんだな~?ナツキスバル。うんうん。」
「お前か・・・?お前だろ・・・?そうだ!お前が皆を殺したのか!そうだと言えぇ!」
「落ち着けよぉ~、ス~バ~ちゃん。正確には・・・」
頼む。そうだと言ってくれ。それで全てを、理解したくはないが、納得は出来る。頼むからお前が殺したと、皆をあんなに残虐に、悪辣に、殺したのは俺ではなくお前だと!
「俺・た・ち・で!だろ?」
「は?はああぁぁ?!違う!違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!俺がそんなこと!そんなことを!?」
男は足を思い切り振りかぶって笑いながらスバルの顔を蹴り上げた。屋敷の回廊には、スバルの絶叫と体が軋む音、そして男の、まるで初めての玩具を買い与えられた幼児のような笑い声がこだました。
「やったんだよ!俺と!お前で!殴って、蹴って、斬って、裂いて、割って、嬲って、ちぎって、殺した!そして、そんな奴らの悲鳴を嗤った!逃げようとした奴の背を切り裂いて、嘲った!子供を庇う女の顔を踏みつけ、それを見て悦んだ!ふ・た・り・で!」
嘘だ。このいかれた男の嘘だ。そもそも、なんで俺がそんなことをする必要が・・・
「お前の夢は、皆を救って、愛されることだろ~?そして悪夢は、それを失うこ・と!」
この男の言っていたことを思い出した。俺の悪夢を叶えると言った。だから、奴は俺の、皆を失うという悪夢を叶えた。
「なんで?そんなことをしたんだ?」
「あ?そんなの・・・面白そうだったからだよ。そ・し・て!お前へのもう一つのプ・レ・ゼ・ン・ト・だ!」
さも当たり前かのようにそう言い放った男が、指パッチンをした瞬間、スバルの身体に激痛が疾る。
「あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁ!!」
スバルの肌がだんだん白く染まり、筋肉は膨張し、口からは牙が伸び、頭から角が生えた。
「これでちゃんと見ろ~。それがお前の悪夢だ~。」
ジークは鏡を取り出し、スバルの目の前にかざした。
「こんなの・・・悪夢だ・・・!」
鏡に映るのは、ただの醜い化け物だった。
「それがお前の悪夢だ!」
スバルは気付いたらジークに殴りかかっていた。目の前の全ての元凶に、一矢報いてやりたかったからだ。だが、ジークの明晰夢の力の前には無力だった。
「いいぜ!悪夢を楽しもうぜ!」
ジークは妙な形の刀を取り出し、カプセムをはめ込んだ。やはり、この男は笑みを崩さない。
『パニッシュ!』
「変~身!」
『ドォーン・ドォーン・ドォーン!ナイトメア・ライダー!パニッシュ!』
「はははは!あははははは!」
「フゥ―!ハアアアァァァ!」
痛い。苦しい。だけど、負けられない。この男に、必ず、罰を与えないと気が済まない。
「つまんないな~。お前の悪夢は、もう十分だ。」
『パニッシュ・シュート!』
「バイバイだぜ~。ス~バちゃん?」
『ジ・エンド!』
「あ~あ・・・せっかく仲良くなれると思ったのにな~。次は誰で遊ぼうかな~?」
「聞いてんのか?兄ちゃん?ボケーッとして。」
スバルは露店の店主の声で我に返る。
「スバル君?!どうしたんですか?」
「・・・いや、なんでもねぇ。」
アイツだけは殺す。俺に、俺たちにしたことを、何倍にもして返してやる。お前に悪夢を見せるその日まで・・・
待ってろ・・・ジーク