イジツ。荒野が延々と続き、太陽が煌々と輝く世界。
その赤茶色の大地には、時々、大小様々な都市がオアシスのように点在している。
ラハマは、あまり裕福とは言えないながらも、そのオアシスの一つとして存在していた。
その町中にある宿の一室に、とある女が居た。
女の名はレイ。放浪の飛行機乗りだ。
長い黒髪と同色の瞳、見る人によれば美しいと取られる程度の相貌を持っているが、欠伸によりそれを歪ませている。
「やれやれ。私も大概可哀想にな」
そう口にして床に乱雑に放ってある鞄から、これまた雑に畳まれたシャツとズボンを取り出してモゾモゾと身に着けると、彼女は部屋を後にした。
彼女が自分を可哀想と言うのも、あながち世迷言ではなかった。何故なら彼女はつい先日職を追われたのだから。それも、退職金の代わりに鉛の弾を以て。だが、彼女の顔に悲壮の色はなく、寧ろ暖色を帯びているようにさえ見えた。
「おはようさん。昨夜は良く眠れたか?」
一階に降りた彼女に、宿屋の店主が声をかけた。
「ああ、快眠だったよ」
「そりゃ良かった」
もう少し世間話に付き合ってもよかったが、今日は早く済ませたい用事があった。軽く会釈すると、彼女は宿を後にした。
◯
オウニ商会という運送屋がある。飛行船により都市間の運輸を担っており、現状「自由博愛連合」の被害に遭った都市の生命線とも呼べる存在だ。
レイはその門扉の前に立ち、無言でそれを見上げる。彼女の胸中には、気不味さに加えて少しの緊張があった。
そんな黒髪の女に声をかける者がいた。
「何してんの?」
そちらに目を向けると、赤を基調とした服に身を包んだ少女が訝しげな顔をして立っていた。
一方、レイは内心辟易していた。自らに声をかけてきた少女が何者であるか知っていたからだ。と言ってもそれは彼女が一方的に知っているのであって、顔見知りというわけではない。現に、レイとその少女、キリエは初対面である。
「あぁ……オウニ商会のマダム・ルゥルゥに用があって」
「マダムに……じゃあアンタ、お客?」
「ああ」
その答えを聞くと、キリエはオウニ商会の扉を開け放ち、レイに向き直った。
「ようこそ、オウニ商会へ!」
その様子は商会の職員というよりは、喫茶店のウェイトレスのそれだった。そもそも、彼女は決して商会職員などではなく、用心棒だ。当然レイもそのことは知っていたが、敢えて指摘はしなかった。
◯
キリエの先導によって、レイは社長室の前まで案内されて来た。扉の向こうから漂う匂いが、彼女の鼻を刺激する。
──煙草?
「マダムー。お客でーす」
キリエがノックをし、そんな言葉を扉の向こうへかけるのを見て、レイは内心で眉を顰めずにはいられなかった。本来、普通の社員がこのような物言いで社長に話しかければただでは済まないだろう。
「通してちょうだい」
しかし帰ってきた声に不快そうな色は微塵もなかった。
「はーい。ほら、入って入って」
キリエはそう言って扉を開け、レイの背中を押す。そんなキリエに困惑を覚えつつ、彼女は社長室へと踏み入った。
レイはその目に金髪の女性を捉えた。脚を組み、煙管から紫煙を立たせるその女性こそ、オウニ商会の代表。マダム・ルゥルゥと呼ばれる者だった。
「貴女がお客さん?」
「えぇ、まぁ……事前の連絡もなく申し訳ありません」
「ご要件は何かしら?」
ルゥルゥは脚を組み替えて煙管を傾ける。
オウニ商会の代表は商談に関しては無駄話をしない。レイもそれを理解し、当初思い描いていた世間話や無駄話を全て脳内から削除した。そして、率直に要件を伝えることにした。
「私を、雇っていただきたいのです」
思い付いたら考えずに書いちゃう悪い癖を直したい。