荒野が広がるこのイジツにおいて、車両という物は舗装された都市内の道路でしか機能しない。それもアレシマやイケスカと言った、裕福な都市に限られる。よって、この世界では空路が一番一般的かつ重要な交通機関となった。そのため、どの都市にも最低一カ所は飛行場と、それに併設された駐機場が設置されている。
そしてその一つ、ラハマの飛行場に、レイの姿はあった。
オウニ商会の女社長、マダム・ルゥルゥに自らを売り込んだ二日後。彼女は晴れて雇われの身となった。
「よし、上げてくれ」
レイの五式戦闘機が飛行船「羽衣丸」へと積み込まれる。彼女の乗機は先に積み込まれた一式戦闘機、通称「隼」と滑走路を挟んで対面する形で駐機した。
彼女は格納庫と滑走路が一体となったその空間を一望し、何処か落ち着かない様子で必要な操作を行った。
「おーい、レイー!」
諸々の段取りを済ませて乗機から降りたレイの元へ、キリエとその仲間たちがやって来る。
「どうも……あー」
レイはしばし視線を彷徨わせ、この場に一番似つかわしい言葉を探すべく脳内の引き出しを漁った。
「レイという。これからしばらく、こちらで雇われることになった。あー……よろしく」
彼女は話すことは得意な方だし、普段ならただの会話でここまで言葉を詰まらせることはない。しかし、今回に限っては気不味さを覚えざるを得なかった。
「コトブキ飛行隊隊長のレオナだ。こっちはザラ。副隊長を任せている」
「よろしく〜」
ライトブラウンの髪の毛を揺らし、ザラが首を傾ける。
次にレオナは、金髪の気品を感じさせる少女と、白髪の少女を手で示した。
「エンマに、ケイト」
「よろしくお願いしますわ」
「ん」
「キリエのことは……既に知っているだろうから飛ばすぞ」
「えーっ」
そんなリアクションをするキリエに苦笑しつつ、レイは最後のメンバーの方に目をやった。
「チカだ」
「よっろしく〜」
「あぁ、よろしく頼む」
レイは、彼女たちの事を既に知っていた。それは単に、コトブキ飛行隊が有名であるというだけではない。彼女たちの事を知ることが、レイの仕事の一つであったからだ。
だが、レイはそれを悟られぬように努めた。折角見つけた食い扶持を手放さないために。
「これ、レイの飛行機?」
チカがレイの五式戦闘機を指差すと、他のメンバーもそちらを見やった。
「五式戦か……珍しいな」
「そうでもないさ」
レオナの言葉に対して、レイは肩をすくませながら言う。
一方で、コトブキ飛行隊の面々は不思議がった。彼女たちが知る限り、五式戦闘機を運用している場所はたった一カ所しかなかった。
「……元は飛燕だ。エンジンを取り換えてやれば、大体コイツになる」
実際、液冷エンジン「ハ140」の製造が上手くいかなかったため、三式戦闘機二型の機体に空冷エンジン「ハ112-II」を搭載したというのが、「キ100」五式戦闘機誕生の経緯である。
「エンジンは……ハ112-Ⅱとは違うようだが」
「ハ45だ。おかげでカウリングも既存の物とは少し形が違う」
「ハ45って確か疾風のエンジンだよね!」
「通りで頭が大きいと思った!」
キリエとチカが騒ぐ側で、ケイトが静かに手を挙げる。
「胴体の側面と主翼にも見慣れない改造が確認できる」
「話すと長くなる……コイツは特別製でね」
「特別製?」
レイは曖昧に微笑み、答えようとはしなかった。ケイトは少し不満そうであったが、レオナがそれ以上追求させなかった。彼女は飛行機乗りには隠し事の一つや二つあると知っている。つらい過去から機体に施した独自の改造と、人それぞれに言いたくないことはある。眼前の女もその類の一物を抱えているのだろうと考えたのだ。
「今回は我々六機とレイの計七機編成になる。希望のポジションはあるか?」
「ふむ……なら、できるだけ高高度に陣取りたい」
実際、エンジンパワーが強化された本機はその上昇力と速力を生かした一撃離脱戦法が得意であるし、レイの気質としてもそちらの方が合っていた。
「分かった。上空は任せたぞ」
「ああ」
レイは姿勢を整え、頭の横に右手をかざして言った。
「微力を尽くそう」
私あり合わせのパーツで改造された機体とか好きなんですよメルケ・モラーヌとか(隙自語)