シャーレの先生は化け物である   作:人肉の味を知りたいようで知りたくない

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ブルアカで生徒達が苦しんでいるよりかは先生が曇っているのが好きなのでこの話を書きました。後悔は三十ミリくらいしてます。

完全な息抜きとして、軽い気持ちで書き始めた作品で、趣味で書いている感じなので難しいことは考えずのほほんとお読みください


シャーレの先生は普通じゃない

 

 

 

連邦捜査総局シャーレの先生は、一風変わっ大人のの男である。

 

 

キヴォトスの生徒たちの間で噂される彼の評価は、一言で表すなら頼りになるが、時々心配になる大人だった。

 

 

 

と言うのも、彼は優しすぎる。 

 

 

 

学園同士の小競り合いや、ヘルメット団の襲撃に遭遇しても、弾丸が飛び交う戦場の真ん中に手ぶらでオロオロと割って入り、「みんな、ここは一度落ち着いて…ね?」と本気で心配そうな顔をしながら争いを止める。

 

 

ヘイローを持たない脆弱な身でありながら、争いを何よりも好まないその姿は、時に聖者のようであり、時に危なっかしいお人好し……そして時には、誰よりも頼りになり、誰よりも信頼できる、そんな大人である。

 

 

───しかし、そんな彼には、生徒たちの間で密かに囁かれるもう一つの奇妙な噂があった。

 

 

 

 

それは、彼が『度が超えているほどの少食』である、ということだ。

 

 

 

シャーレに用がありやってくる生徒達は、先生がまともに食事を摂っている姿を見たことがほとんど無い。

 

 

 

生徒達からの贈り物というのであれば、喜んでもらいその場で食べるのだがそれ以外は全く口にしない。

 

 

一日に口にするものといえば、自ら淹れるブラックコーヒーくらいなのだ。

 

 

 

生徒たちはそれを聞いて、『お仕事が忙しすぎて食欲が出ないのかな』『ちゃんと食べて健康でいてほしいな』と、口々に心配し合っていた。

 

 

ヘイローのない、か弱い人間。それなのに、自分の身体を顧みずに生徒のために尽くす、どこか危うい大人。

 

 

それが、彼女たちの知る『シャーレの先生』だった。

 

 

 

 

 

「あの、先生。今日は相談に乗ってくれてありがとうございました!よ、良ければこれ、食べてください!」

 

 

 

 

夕暮れ時のシャーレ。

 

 

先生に学業について相談をして来たとある学園の生徒の女の子が、赤くなった顔を隠すように、小さな紙袋を先生に差し出した。

 

中を覗くと、不格好ながらも丁寧に焼かれた、手作りのクッキーが入っている。

 

そんなクッキーを前に先生の顔は――ほんの少し曇っていた、しかし生徒にそんな顔を見せられないと先生は笑顔を作りみせる。

 

 

「わあ、ありがとう! 私のために作ってくれたのかい?」

 

「はい! 美味しく焼けた自信はあるので……その」

 

「ゆっくり味わって食べるよ。……それでは早速!」

 

 

 

先生はいつもの温厚な笑みを浮かべ、袋からクッキーを一枚取り出すと、迷いなく口へと運んだ。

 

サク、と小気味いい音が室内に響く。

 

 

 

「うん、すっごく美味しいよ。元気が湧いてきた気がする…!本当にありがとう、大切に食べるね」

 

「よ…良かったぁ…! じゃあ私、そろそろ帰ります! お仕事、無理しないでくださいね!」

 

「心配してくれてありがとう。また何かあったらシャーレにおいで、いつでも君の助けになるからね」

 

「は、はい!それじゃあ先生、さようなら!」

 

「はい、さようなら。気をつけて帰るんだよー」

 

 

 

元気いっぱいに手を振り、笑顔で部屋を去っていく生徒。

 

 

 

パタン、と執室の重い扉が閉まり、完全な静寂が戻る。周りに人の気配がないことを確認したあと、先生は少し息を吐く……その次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

「───ゥヴ…!─ッ、ガハ、っ……ぅ、ぐ……ッ!!」

 

 

 

 

 

先生は口元を押さえながら苦しみ始め、足もおぼつかない状態になってしまう。

 

内臓が自らを雑巾のように絞り上げ、ひっくり返るような激しい痙攣を起こした。今飲み込んだ『異物』を、一刻も早く体外へ排出しようと、狂ったように逆流が始まる。

 

 

 

「カハッ、げほっ……! ぅ、あ……っ」

 

 

せり上がってくる未消化の塊と、鼻腔を突き抜ける強烈な胃酸の酸っぱい悪臭。

 

先生は両手で口元を塞ぎ、溢れ出そうとするそれを必死に堰き止めた。指の隙間から、ドロドロとした唾液が容赦なく溢れて床に滴り落ちる。

 

 

 

「ダメ……だ………!!」

 

 

 

ここで吐くわけにはいかない。

 

 

床を汚したくないのではない。自分が去った後に生徒が戻ってきたとき、もしこれを見られたら、彼女の純粋な好意も、踏みにじられたクッキーも、すべてが最悪の形で台無しになってしまう。

 

 

(飲み込め。戻すな。私は、あの子の先生だ…!!飲み込め…飲み込め…!!飲み込めぇっ!!!)

 

 

口内に逆流してきた最悪の不快感を、奥歯が砕けんばかりに噛み締め、力づくで喉の奥へと押し戻す。

 

 

「ごくり」と、音が響いた。

 

 

強引な嚥下(えんげ)の衝撃で気管が閉まり、激しくむせ返る。肺の空気が強制的に絞り出され、涙で視界が完全に滲んだ。

 

額や首筋からは、油のような大量の冷や汗が吹き出し、床にポタポタと染みを作っていく。

 

 

「ハァ―ハァ……はぁっ……カード……カードを…!」

 

 

ガタガタと痙攣するように震える右手で、ポケットの中の「大人のカード」を鷲掴みにした。そしてそのカードを持ってから数分後…落ち着いて来たのか、息が整い、吐き気も無くなっていく。

 

その後ホットコーヒーを入れ、何度も、何度も飲み込んだあと、頭をスッキリさせるため洗面台の方へと向かう。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

水で顔を洗ったあと、洗面台の鏡の方へと目をやる。

 

 

 

 

前髪の隙間から覗く彼の片目は、一瞬だけ異様で不気味な漆黒と真紅に染まり───すぐに、いつもの優しい人間の色へと戻っていった。

 

 

 

誰もが慕う、ヘイローを持たない優しい大人。

 

生徒たちのために、奇跡を灯すシャーレの指揮官。

 

 

 

 

「……アレの本当の味、知りたいな」

 

 

 

その正体は、キヴォトスには存在していない種族

 

 

 

 

―――――喰種(グール)である。

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