心配されるのって気持ちよくね?   作:曇らせるなら晴らすことも忘れないでくれ

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一応痛いんだよね

 

 

 

「いやあ、昨日は随分とお世話になったよ」

 

「まさか、建物を貫通した銃弾が私のことも貫くなんてね」

 

 軽く息を吐く。まだ痛みの感覚が残っている。

 

「ああやって死んだのは初めてじゃない? ああ、痛かったなあ。いつになってもさ、撃たれると痛いし、死ぬのは怖いんだ」

 

「勘違いしてほしくないのはさ、復讐をしたいわけじゃないんだ。君はまだ私のことしか撃ってない」

 

 一歩、前に踏み出す。

 

「それより重要なのは。君が依頼をされない限り、こういうことをしない人だっていうこと」

 

「誰が依頼したの?」

 

「教えてくれよ」

 

「私はそういう依頼をする人を消す役目があるんだ」

 

 側から見ると、この状況はどうもイジメか、あるいはそれ以上に酷い現場にしか見えないな。何人もよってたかって、一人を囲んでいる。まあ囲んでいるのは全員同一人物なんだけどさ。

 

 無数の私に囲まれている男性は、観念したような表情を浮かべながらタバコを吸っている。正直タバコは好きじゃないからやめてほしいんだけどね。仮面の下の私の顔は歪んでるんだぞ。

 

「……こりゃ、本当に死ぬかもしれんなあ」

「なんでさ。復讐はしないって言ったでしょ?」

 

 復讐が目的になっちゃったらそれはもう正義じゃないしね。それに復讐のための自暴自棄ってのも何か違う。復讐が目的になってるからかな? そうじゃなくて社会に貢献するために身を削るってのが素晴らしいんだよ。

 

 ……ああ、これは話がズレすぎちゃったかな?

 

 彼はタバコの煙を一度大きく吐き出してからこう言った。

 

「俺は、あの組に恩があるんだよ……あの組はまだ存在し続けないといけないんだよな」

 

 また"恩"だ。そんなに重要なのか? 私にはまったくわからないな。あの組ってのもどうせ源流組のことだろうし。

 

「恩を受けるんだったら、そんなアングラな所じゃなくて、政府にすればよかったのに」

「ははは……お前は政府の関係者だったりするのか? そんなやつにはわかんねえかもしれねえな…人情ってやつがよ」

 

 彼は私のことを睨みつける。鋭い目つきだ。少しおしゃべりが過ぎたかな。それとも、今日も飽きずに行われてる戦闘訓練の方に集中し過ぎちゃってたかな。これだけ分身を出してると、上手く頭が働かなくなっちゃうな。これ以上、彼から情報は得られなさそうだね。

 

 今日はスティレットだ。取り出して構えると、彼が警戒する。

 

「嘘が得意なのも、随分と政府らしいじゃねえか」

「復讐じゃないよ。推定有罪みたいなものかな? 君は私のことを撃った以上、他の人を撃つ危険がある」

「詭弁か…!」

 

 踏み込んで、突き刺す。

 

 想定していた感触とは少し違う。金属と金属の噛み合う感触。頭を刺すつもりだったけど、その前に彼がスティレットに銃口を突きつけていた。

 

「銃弾でも喰らってやがれ!」

 

 私に分身がいることを忘れてるのかな。これで死ぬんだったら相当マヌケだぜ?

 

 ……は? 分身が動かせな

 

 その瞬間、目の前で火花が散って、ぐちゃ、という音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 無傷の分身が、泥のようになって溶けていく。能力の産物だからか、そこには何も残らない。ただ一つ残っているのは、頭から血を流した人の死体だけ。

 

 昨日はこうはならなかった。あのときは、ちょうど今見た分身のように、形を残さずにそのまま溶けて、消えた。しかし今回は死体が残っている。

 

「……俺が言うべき言葉じゃあねえが、気分が悪いな」

 

 同じ人間を二度殺す感覚を味わいたくはなかったよ。いくら、同僚を何人も殺しているような人間だとしてもな。

 

 仮面の下は、覗かない方がいいんだろうな。見られたくないから隠してるんだろう。

 

「はぁー……今日は、やけにタバコが不味いな」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 それは突然の出来事だった。

 

 能力を封じることのできる白のメンバーの一人と、部長が武器の取り扱い指導をしていたときのことだった。

 

 突然、部長が泥のように崩れ落ちたのだ。形も何も残らなかった。

 

 何も残らなかったということは能力であったということだ。しかし、肝心な部長の能力のことを誰も知らない。これまで部長の座についてから、誰もその行動を見たことがなかったからだ。

 

 事態が周囲の人間に広まってからは色んな言葉が聞こえてきた。

 

 ただ、誰一人として部長を心配するようなことを言っている人間はいなかった。何もしない部長のことが気に食わなかったのかもしれない。聞こえてくるのは「ざまあみろ」などの罵詈雑言ばかりだった。

 

 短い間とはいえ、部長のすぐ側に居続けたからだろう。俺はその言葉を聞かないようにと耳を塞いだ。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「あ、起きました? 起きましたよね? 起きてるのわかってますからね?」

 

 目を覚ました途端にうるさい。誰の声だ? 聞いたこともない。というかどういう状況だ? 私は本体を殺されたはずじゃ?

 

「起きるの三段活用か? 好きだよなあそういうの」

 

 また違う声だ。今度は男。私は今どうやらベッドに寝ているみたいだけど…

 

「あー! 動かさないでください! 色々重要な器具とか繋がってるんですよ! あと目を開けてくださいって!」

 

 ……そんなことを言われたので大人しく目を開ける。

 

 本当に見たことない場所だ。白でこんな場所は見たことない。

 

 消毒液の匂いはするけど、部屋の中はところどころ修繕されてて、私の体全体に繋げられている、見るからに高そうな機械が異質感を放っている。その近くでパソコンみたいなものを弄っているメガネをかけた女性と、椅子に足を組んで座っている男性がいる。

 

 男性はかなり厳つい格好をしていて、無造作にかき上げられた金髪に、全身の至る所に鎖が巻き付けられていて、室内なのにサングラスもつけている。

 

 というか違和感が……私の分身一人もいなくない?

 

「仲良くするには、まずは、自己紹介からだよな?」

 

 椅子から立ち上がりながら男が立った。そうだ、自己紹介されるなら言っておいた方がいいかも。

 

「俺は」

「名前は言わなくてもいいよ、いやむしろ言わないで。どうしてかわからないけど、名前は覚えられないんだ」

 

 困惑してるみたいだ。鳩が豆鉄砲を食ったような顔ってのはまさにこんな感じなんだろうね。転生してからどうも私は名前を覚えることができなくなっちゃってたから、しょうがない。というか今回もまた転生かもしれないんだけど。

 

 ああ、でもそれだったら嫌だなぁ。

 

「か、仮面の処刑人にそんなことがあるなんてな……」

「うーん……名前を覚えられない人ですか」

 

 二人とも困ったような表情をする。仮面の処刑人ね。とりあえずはまた転生したわけじゃないってわかってよかったけど、そのダサい呼び名で呼ぶのはやめてほしいな。

 

「あと、その変な呼び名で呼ぶのもやめてほしいな。ダサいでしょ?」

「……じゃ、じゃあ自分の名前は?」

「名前が覚えられないってのは何も他人に限った話じゃないよ」

 

 さっきまでの苦笑いみたいな表情から、一気に表情が青ざめていく。なんだか面白いな。

 

「そ、それじゃあこれまで日常生活とか…どうしてたんだ?」

「どうしてたって言ってもね。困ったことはなかったよ。名前で呼ばれることはなかったし」

「好奇心は猫を殺すとは言いますが……ではどう呼ばれていたのですか?」

「二人称だよね。お前とか? あとは君たちがさっき言ったみたいな名称とかかな」

 

 ふう。そろそろこの空気感も飽きてきたな。これの何がそんなに重要なのかわからないな。私は自己紹介よりも、いったい今私の身に何が起きているのか教えて欲しいんだよね。

 

「ま、それはそのくらいにしておいてさ。ここはどこなの? 殺されたはずの私はなんで生きてるの? 最後に重要、君たちは悪?」

 

 彼らは私の言葉を聞くと、しばらく押し黙って、渋い顔をした。

 

 ……まったく、なんでそんな顔をするのかな? ただ気になったことを聞いてみただけなのに。

 

 

 




あんまり見直してないから誤字脱字がありそうです
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