心配されたい人間の話   作:曇らせるなら晴らすことも忘れないでくれ

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悪・即・斬

 

 

「お前の基準じゃあ、許してもらえねえかもな? 俺たちは源流組だ」

 

 武器はないか。

 

 拳を突き出す。プチプチと私についていた器具のコードが取れる音がした。結構不意をついたつもりだったけど、余裕そうに防がれた。

 

「流石に、仮面の処刑人ってだけあんな。予想してても危ないところだったぜ」

「あ……いや! その前に早くそれを付け直してください!」

「え? うおおっ! やべぇ!」

 

 今のこの状況は彼らにとって何かしらの不都合があるみたいだ。ちょうどいいね。

 

「あ、暴れんな! 今は本当に暴れんなって!」

「君の言葉は聞く必要ないだろ?」

 

 ただ、本当に全部防がれてしまうな。せめて何か武器がないとな、このままじゃ埒があかない。彼らの目的はなんなのかな? 私に付いてたあの器具をまた付けることかな? 一旦武器を調達しに行ってもいいかな。暴力団の組織内のどこかにはあるでしょ。

 

「うおっ?! ふ、布団?!」

 

 サングラスの男性に私に掛かっていた布団を投げつける。数秒くらいは何も見えないだろう。メガネの女性は戦闘能力はなさそう? じゃあサクッとシメてから外に出ようかな。

 

 そう思って足を踏み出したところで、全身の力が抜けた。バランスを崩して地面に倒れ込む。

 

「は……? なにこれ」

 

 体を動かそうとしても、電源が切れたみたいにまったく動かせない。困ったな。

 

「ちょ、ちょっと本当にマズイですって!」

 

 周りがよく見えない。音も段々と聞こえなくなっている。触覚は既になくなった。自分でもわかるくらいに体が冷えていく。この感覚、なんだか死ぬときととても似ているな。

 

 あー、でもこれなんだか、取り返しのつかない……かん…じ

 

 

 

 

「……なるほど。それが私の命を繋いでいるんだ?」 

 

 私の体にさっきと同じ器具のコードがついている。さっきより、今の方が付け方が雑だ。そして今度は、緩く体が紐で縛られているみたいだ。正直引きちぎろうと思えば引きちぎれる。

 

「あのですね? あなたバカなんですか? バカなんですよね? バカなことはわかりましたからね?」

 

 さっきのメガネの女性がまさに怒髪天と言わんばかりと勢いで私に迫ってくる。

 

 彼女がここまで怒る理由はなんだ? 私に対して怒っているのだから、私の行動に怒っているんだろうな。殺そうとしたことか? でも、彼女はそれに気づいてたかも怪しいし、気づいていたのなら、こうやって私のことを生かそうとすることはないはずだ。ああそうだ、聞いておかないと。

 

「私のことをさ、なんで生かしているのかな?」

「…なんでって、人を見殺しにするわけにはいかないじゃないですか?」

 

 メガネの女性は、当たり前の常識を語るようにそう言った。なぜそんなことを聞かれるのかと不思議そうな顔で私のことを見ている。

 

 本当にそう思っているのか。ふむ。この人は源流組の人間じゃないかもしれないな。それならまだ理解できる。きっと私のことを生かそうとしているのはこの人だけの意思じゃない。あのサングラスにも聞いてみようか。

 

 椅子に座って、何やら考えている様子のサングラスの男性をじっと見つめる。彼はすぐに私の視線に気づいた。

 

「ん? なんだ? お叱りの時間はもう終わったのか?」

「いや、多分まだ始まってもないよ。それより私のことを生かす理由を聞きたくてさ。君らに私を生かすメリットなんてあるのかな?」

 

 悪が損得を抜きにして行動することなんてないだろう。悪は利益だけで人を殺せるようなやつらだ。悪というものはそうじゃなければ、それは悪じゃない。源流組は暴力団だ。それなら、悪だ。

 

「………そうだな。ま、今のところは大したメリットなんてないかもな?」

 

 本当に大したことないように、彼はそう言った。

 

 ……まずいね。思考停止はよくない。考えなくては。なぜ大したメリットもなしに彼らは私のことを助けるんだ? 本当のところは悪じゃないからなのか? いや、この状況だけではそれを判断しきれない。

 

 彼らが底抜けに優しいから、私のことを助けたのか? 優しさと、情というものはまた別だ。彼らにとって、私よりも彼らの仲間の方が大切だろう。

 

 ああそうだ。彼らは"恩"というものを大事にしていたっけな? 誰かの恩が絡んでいるのかもしれない。ム……名前を忘れちゃったな。とにかく、あの彼も恩の方を重要視して死にに行った。恩というものは彼らに損得勘定をさせない効果があるのか。

 

 気づいたら、メガネの女性が満面の笑みでさらに私に近づいてきていた。

 

 ……近いな。さっきよりも随分と近い。そんなに近くなくても、私は話を聞くよ。

 

「そろそろ、怒ってもいいですか〜? 私、命を無駄にするタイプの人が嫌いなんですよ〜? ちゃんと説明しなかった私が悪いんですかね〜、動かさないでって言ったのに、何にも聞いてくれませんでしたね〜?」

「……だったら、君は私のことを一生好きにはなれないと思うよ」

「えぇ、えぇ。あなたの性格はなんとなくわかってきたような気がします。だからこそ、あえてこう言わせてもらいます。私はあなたのことが好きになれるよう努力しますよ」

「一生って言ったでしょ?」

「たしかに、私は命を無駄にするタイプの人間は嫌いです。でも、私の好みはそれだけじゃないんですよ。一つ価値観が合わなかったからといって諦めたりはしません」

 

 ……この人は、今まで私が会ったことのない人だな。理解しようとするには、時間がまだ足りない。今私がわかることは、彼女は悪とはまた少し違いそうなことだけだ。

 

「ふう。私のことを怒りたいんじゃなかったっけ?」

「はい、怒りたいですよ? でも、あなたの場合は怒らない方がよさそうだとわかりました。その方が、私の話を聞いてくれそうです」

 

 彼女は深呼吸をした。

 

「まず、あなたの体につけられているその器具はあなたの生命維持装置みたいなものです。それをつけていないと、端的に言うとあなたは死にます。そして、その仮面です」

 

 言われるまで、気が付かなかった。何も違和感がなかったのだが、私は仮面をつけていたのか。

 

「その仮面もつけてないといけません。なぜか、あなたの一部として認識されているので、壊されたりしてもダメです。もしかすると、その仮面はもうつけていても違和感がないかもしれませんね」

「じゃあ、もしかして君たちは私の顔をまだ見れてないのかな?」

「はい、そうですね」

「それならよかった」

 

 今の私が白でどんな扱いなのかは知らないけど、顔がバレないに越したことはない。今の私の着ている服も白の制服とかじゃなくて、病院で見るような服だ。少なくとも今この格好で私と白の部長が同一人物と気づく人はいないだろう。

 

 しかし、この仮面をつけ続けなければならないのはまだしも、こんな大きな器具をつけなければ生きることができないなんて、随分面倒だ。逃げる時にも邪魔そうだし。分身を出そうとしても何故だか出すことができないし。何もできることがないね。

 

 強制的な長期休みみたいなものかな? いつかは治るだろうし、それまでじっくりと彼らの様子を観察しておこうか。

 

「……名前を覚えれないとは聞いたが、一応自己紹介してもいいか? 名前は覚えれなくても、俺たちがどういう立場の人間なのかくらいは覚えれるはずだろ? それで呼んでくれればいい」

「じゃあ彼女のことはなんて呼ぶつもりですか? 仮面の処刑人は嫌だそうですよ?」

「お前それを俺に任せるのか? 俺がそんな簡単にいい案が思いつくと思うなよ…」

 

 サングラスの男性がショボくれているのを尻目に、メガネの女性がまた私に近づいてきた。もしかすると彼女の距離感は怒りの度合いによるのかも?

 

「私は、個人経営のお医者さんです。免許もありますよ? でも大体は普通の患者さんじゃなくて、ちょっと諸事情のある人を治療することが多いですね。あ、あと名前も一応教えときますね。立花桜です、よろしくお願いします」

「諸事情ね、まあ毎回俺が連れてくるやつばっかりだもんなあ。ほとんど専門みたいなもんだろ? あぁ、俺は神崎、この組の副組長だ」

 

 立花桜と、神崎か。

 

「うん。覚えれたら、覚えておこうかな」

 

 

 

◆◆

 

 

 

「おい、立花。あれのことどう思った?」

「あれって言い方はやめてください。私の患者さんですからね?」

「あ、ああいや、悪い」

「はい、悪いです。それで、仮面の処刑人さんのことですね。一言で言うなら異常です。私が今まで会ってきたどんな人とも違う人です。彼女は自分の感情が全てなのに、自分のことはそこまで大切にしていないような気がします。やっぱり検査結果は間違っていなかったみたいです」

「はぁー……そうだよなあ。あれはそうじゃないとおかしいくらいだよなあ」

「……怒りますよ?」

「ん? あっ、悪い」

「それに、彼女は極端に正義と悪という価値観にこだわっているみたいです。彼女のいるところにあからさまな人は行かせない方がいいでしょうね」

「そうだな。うん。それだったらうちの大半のやつは行かせられないな」

 

 

 

 

 




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