ペルソナif...   作:ミズアメ

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 もしも……
 軽子坂高校が平崎市にあったら?

 もしも……
 真・女神転生if...のキャラクター達がペルソナ能力に目覚めたら?

 ……これは……
 そんな『if』の物語である……。


第一話 もしもの物語

 気が付けば、俺は知らない場所にいた。

 

 酷く手狭な空間。こじんまりとした、ホテルの一室。蒼を基調とした内装は闇に溶けるように曖昧で、神秘的な空気を演出している。

 部屋の中央には、蒼いテーブルクロスの掛けられた小さな円卓がある。

 円卓には奇妙な男が席に着いていた。

 洒脱な黒い背広を着た老紳士。

 こちらに対面する形で椅子に腰掛けた彼の背は、異常に曲がっている。また生え際の退行した髪は色素の抜けた白髪で、相当な高齢であるように見えた。

 彼の首短く胴体から直接頭が生えたみたいな格好で、丸みを帯びた輪郭の顔は、とても長い鼻と、丸く剥いた眼が酷く特徴的だった。

 

 男は血走った眼球をぎょろぎょろと転がしてこちらを見ている。

 

「―――ほう。これはまた、変わった定めをお持ちの方がいらしたようだ」

 

 しわがれた高い声で、老紳士はこちらに向けて歓迎の言葉を告げた。

 

「申し遅れましたな。(わたくし)の名は、イゴール。この部屋……夢と現実、精神と物質の狭間の場所。『ベルベットルーム』の主を致しております。以後、お見知りおきを」

 

 変わった風貌とは裏腹に、イゴールと名乗った老紳士は極めて慇懃に一礼した。

 

「ここは本来、何らかの形で『契約』を果たされた方のみが訪れる部屋。貴方には、近くそうした未来が待ち受けているのやも知れませんな。どれ……まずはお名前を伺っておくといたしましょうか。貴方のお名前は?」

 

 

 …………佐富(サトミ)(タダシ)

 

 

 答えると、イゴールは満足気に頷いた。

 

「ふむ、なるほど。では、貴方の未来を少し覗いてみると致しましょう……」

 

 何処から取り出したのか、イゴールは一組のカードデッキを机上に置いた。

 トランプかと思ったが、どうやら違うらしい。あれは……タロットカード、だろうか?

 

「占いは信用なさいますかな? 常に同じカードを操っている筈が、見える結果はその都度変わる。フフ、正に人生のようでございますな。―――さて、貴方の近い未来を示すのは……『運命』の正位置。どうやら貴方には、何か劇的な出会いが待ち受けているようだ。そしてその先は……『刑死者』の逆位置。『徒労』、そして『報われない苦悩』を意味するカード。……これは実に興味深い」

 

 ぎょろぎょろとした目を細め、イゴールは円卓に両肘を突いて指を組む。

 

「どうやら貴方の未来は波乱に満ちているようだ。近く、貴方は何らかの『契約』を果たされ、再びこちらへおいでになることでしょう。貴方は常に奇怪な運命と共にある。私の役目は、貴方が魔に魅入られ御身の道が閉ざされぬよう、手助けさせて頂くことでございます」

 

 起立し、再び深々と礼をするイゴール。

 彼は頭を上げると、何か思い出したように顔色を変えた。そして壁際を掌で指し示す。

 

 視線を指された方に向けると、闇に溶けた景色の中に人影が紛れていることに気が付いた。

 人影が一歩前に出る。

 すると、途端に不思議とその全体像がくっきりと見て取れた。

 

 フリルカチューシャが特徴的な、蒼と黒を基調とした色合いの給仕服風の出で立ちの女性だ。短く整えられた色素の薄いプラチナブロンドの髪に縁取られた顔立ちは、人間離れして見えるほど端整で美しい。

 氷のように冷たい光を宿した金色の瞳が、無感情に俺を見下ろしている。

 

「こちらはキャロライン。私と同じく、ここの住人です」

「……ご紹介に預かりました、キャロラインと申します。お客様の旅のお供を務めさせて頂きます。どうかよろしくお願いいたします」

「詳しくは追々に致しましょう。では、その時まで――ごきげんよう」

 

 * * *

 

 ……閉じていた瞼を開く。

 

 どうやら、夢を見ていたようだ。

 

 エンジンが発する微かな振動で揺れる車内。清潔なタクシーの内装と、窓の外を流れる景色が眼に映る。

 近代的な街並みが、忙しなく後ろへ流れて行く。

 ここはK県東部にある平崎市。県庁所在地で、県内で最も人口が多く栄えている街だという。ただしその辺りの知識は極最近、軽く聞き齧った程度のものなので、いまいち実感が薄い。

 

 今日――俺は家庭の事情で故郷を離れ、この街に引っ越して来た。

 

 荷物は既に新居に届いていて、荷運びも終えていると連絡があった。場所は平崎市矢来区にある矢来銀座という名前のアーケード街で、そこに建つテナントビルの葛葉探偵事務所に居候することになっている。

 そして矢来区にある高校――軽子坂高等学校に転入する手筈が整えられていた。

 

 程なくして、タクシーは目的地である矢来区に到着した。

 

 料金を支払い、手荷物を肩に掛けて車外に出る。

 天蓋で覆われた商店街を見やる。目の前にあるのは矢来銀座に十箇所ある内の、南西側の入り口だった。

 

 いざ新天地への第一歩を踏み出そうとしたところで――不意に、何処かから視線を感じた。

 

「……?」

 

 疑問に思い、辺りを見回す。すると視界の端に、なんだか奇妙なものが映った。

 遠くの電柱と電柱の間に伸びる電線。

 そこに、鳥が留まっている。

 それだけならば別に何もおかしくはない、有り触れた光景だろう。だけどその鳥は酷く珍しい青い色をしていた。それに俺は視力が悪くあまり自信を持っては言えないのだけれど――アレは(フクロウ)であるように思えた。

 梟はこちらを視ている……ような気がする。

 それにしても奇妙だ。街中で梟を見かける機会なんてそうはないし、その上青い梟なんて聞いたことがない。まだ発見されていない新種なのかも……と思って眼鏡のレンズ越しに観察していたのだが。青い梟は直ぐに何処かへと飛び去ってしまった。

 

 ……飛び去る後ろ姿に蛇の尻尾みたいなものが見えたような気がするが、流石に気のせいだろう。

 

 気を取り直して、俺はアーケード街に足を踏み入れた。

 

 入り口のすぐ右手側に、なんだかいかがわしい雰囲気のホテルがある。しかし今は廃業しているのかすっかりと寂れていて、看板も外されていた。

 

 アーケード街の北西側へ向かう。

 程なくして、目的地である葛葉探偵事務所の看板を掲げたテナントビルが見えた。

 

 事務所に入る前に、ふとタクシーで見た夢を思い出す。

 途中に占いの館があったからだろう。

 鼻の老紳士イゴールによれば、俺は『運命』と出会い、しかしそれは『徒労』に終わり『報われない苦労』を背負うことになるという。

 なんの捻りもなく考えるならば。俺は近い内に誰かと出会い好きになって、そして大失恋をかますことになる……ってことだろうか。

 

 ―――ほんと、幸先の悪い夢だ。

 

 夢でしかないとはいえ、暗澹(あんたん)とした気分になる。だけどいつまでも引っ張ってはいられない。俺は頭を振って思考を切り替えて、葛葉探偵事務所の扉を開けた。

 

 事務所の中へ踏み込んだ瞬間―――

 

『―――いらっしゃいニャ~♥ いらっしゃいニャ~♥ いらっしゃいニャ~♥』

 

「うわぁっ!? び、びっくりした……」

 

 真横から聞こえた奇妙な音声に反応し、半ば跳び上がる勢いで顔を向ける。すると、玄関の真横に設置された巨大な招き猫が視界に飛び込んだ。

 二度びっくり。

 全長は俺の身長よりも大きく、横幅は優に三倍以上もある。

 妙な猫撫で声と巨躯の相乗効果で、なんとも言い難い絶大な威圧感を発していた。

 

「―――いらっしゃいませ~!」

 

 呆気に取られて招き猫を凝視していると、横合いから声を掛けられた。

 どうやら招き猫の声を聞いて、奥から出て来たらしい。仕立ての良い焦げ茶色のパンツスーツに身を包んだ少女が、いつの間にか事務所の応接間に立っている。

 襟を立てた白のブラウスと黒のチョーカー、艶やかに輝く革靴など、などと。どこかのブランド品で固めていると思しい服装をしているので大人びた雰囲気に見えるが、ショートヘアにした明るい茶髪に縁取られた顔立ちは、端整ながらも子供っぽく見える。

 活発な印象の大きな瞳を瞬かせて、少女は改めて口を開いた。

 

「はじめまして! 私は葛葉探偵事務所でアルバイトをしてます、内田(ウチダ)たまきです! ご依頼の方ですか?」

「い、いえ……今日からここに厄介になる、佐富将です」

「あー! 君が将君ね! 所長の大助さんから聞いてるよ! コンゴトモヨロシク、ね?」

 

 朗らかな明るい表情で、たまきは手を差し出してくる。

 俺はその手を取り、固く握手を結んだ。

 

 にっこりと笑うたまき。その表情を間近で見て、胸が高鳴る。

 

 生まれて初めてのことに戸惑う。それでも、俺が彼女に今抱いている感情はとても明白で。それがどういうものなのか、しっかりと理解していた。

 

 ―――俺は、彼女に一目惚れしてしまったのだ。

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