過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第18話:「誤クリック」と「天才」の誤解

(どうする俺!?) 目の前の【強制選択肢】が、俺の決断を待っている。 B(シナリオ暴露)、C(焼き芋)、D(夜の契り)。 こいつらは全部、即死か、社会的な死だ! 

 

(Aだ! A(弟子入り)しかない!) 

 

俺は、意を決して、(いおり)の前で土下座しようと屈みかけた。 (Aだ! 押せ!) 精神の指が【A】に伸びる。 

 

だが、その瞬間。 桶狭間で人を刺した時の、生温かい血の感触がフラッシュバックし、指が、ツルッと滑った。

 

カチッ。

 

目の前のウィンドウが、忌まわしい音を立てて点滅した。 【D: 「(庵の戸を蹴破り)拙者と『夜の契り』を交わそうぞ! 半兵衛殿!」】 が、選択された。 

 

(あああああああああああああ!!!) (違う! 違う! キャンセルだ! UNDO! UNDOだクソシステム!!)

 

だが、転生者の世界(ハードモード)に、UNDOボタンはない。 

 

次の瞬間、俺の体が、勝手に動く。 土下座しようとしていた中途半端な姿勢から、まるでバネが仕込まれたように、俺の体が庵の戸に向かって射出された。 

 

ドンガラガッシャーーーーーン!!! 

 

俺は、自らの意思とは無関係に、貧相な庵の戸を、文字通り蹴破って室内に乱入していた。 

 

(あ、終わった…) (不法侵入だ…器物破損だ…) 

 

室内に、病人独特の薬草の匂いが充満している。 薄暗い部屋の奥、布団の上で、一人の青年が、信じられないものを見る目で、こちらを見つめていた。 肌は白磁のように白く、咳込むか細い体。 だが、その目だけが、俺の「知略88」などゴミだと言わんばかりの、底なしの「叡智」を宿していた。 

 

竹中半兵衛。本物だ。 

 

彼は、戸を蹴破って乱入してきた俺(=猿面の男)を、静かに見ている。 

 

(何か言え! 俺の口! 弁解しろ!) (「敵ではありませぬ!」とか、何か!) 

 

だが、俺の口(システム)は、強制されたセリフを吐き出すことしかできない。 俺は、戸を蹴破った、その乱暴な体勢のまま、 半兵衛に向かって、手を差し伸べ(これがまた変態的なポーズに見えた)、 

 

「半兵衛殿! 拙者と『夜の契り』を交わそうぞ!」 

 

と、朗々(ろうろう)と叫んでしまった。 

 

「…………」 「…………」 

 

静寂。

鳥のさえずりが、やけにうるさく聞こえる。 

 

半兵衛は、咳き込むことも、驚くことも忘れ、ただ、俺を「見て」いた。 俺の(精神年齢32歳の)心は、羞恥と絶望で、完全に死んだ。 

 

(もうだめだ…) (俺は、織田家の恥だ…) (天才をリクルートしに来て、初対面で『夜這い』を宣言する変態が、この世にいるか…) 

 

俺が、その場で切腹しようかと本気で悩み始めた、その時。 

 

「……ゲホッ、ゲホッ…!」 

 

半兵衛が、激しく咳き込み始めた。 (あ、ヤバい! 刺激が強すぎて、病状が悪化した!?) 

 

「は、半兵衛殿! だ、大丈夫か! 今のは、その、システムが!」 「……ゲホッ、……ククッ…」 

 

(え? いま、笑った?) 

 

半兵衛は、咳き込みながら、震える手で俺を指差した。 その目は、俺が今まで見たことのない、狂気的な「歓喜」に満ちていた。 

 

「……ククク、アハハハハハ!」 「(えええええ!?)」 

 

「面白い! 面白すぎるぞ! 貴様!」 半兵衛は、病弱な体とは思えない声で、笑い転げている。 「今まで来た使者は、皆、『金』か『土地』か、『信長の威光』を笠に着たつまらん連中ばかりだった!」 

 

半兵衛は、涙を拭いながら俺を見た。 「だが、貴様は違う!」 「(あ、はい…)」 

 

「庵の戸を蹴破り、初対面の私(男)に、いきなり『夜の契り(同衾)』を申し込むとは!」 半兵衛は、俺の手を取った。その手は、氷のように冷たかった。 

 

「いいだろう! その『契り』、受けて立とう!」 「……はい?」 

 

「貴様は、金でも土地でもなく、『私自身』が欲しいのだろう!?」 (違う! 誤解だ! ものすごい誤解だ!)

 

「そして、その『欲』を隠す知性も持たぬ、本物の『馬鹿(狂人)』だ!」 (馬鹿は合ってるけども!)

 

半兵衛の目が、ギラリと光った。 「織田信長は、こんな『馬鹿』を使いこなしているというのか…! 面白い! 浅井も朝倉も、どうでもよくなった!」 

 

半兵衛は、布団から立ち上がった。 「木下藤吉郎! お前の『狂気』に、この半兵衛、乗ってやる!」 

 

(どうする俺!?) (いや、どうなった俺!?) 

 

俺は、「手が滑った」せいで、この日本最強の天才に、「究極の変態」という、最悪の「誤解」をされたまま、彼を仲間に引き入れてしまった。 俺の「人の心が重い」リストに、今、とんでもない「重さ」が、追加されたのだった。

 

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