過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~ 作:ブンチョウ
(どうする俺!?) 目の前の【強制選択肢】が、俺の決断を待っている。 B(シナリオ暴露)、C(焼き芋)、D(夜の契り)。 こいつらは全部、即死か、社会的な死だ!
(Aだ! A(弟子入り)しかない!)
俺は、意を決して、
だが、その瞬間。 桶狭間で人を刺した時の、生温かい血の感触がフラッシュバックし、指が、ツルッと滑った。
カチッ。
目の前のウィンドウが、忌まわしい音を立てて点滅した。 【D: 「(庵の戸を蹴破り)拙者と『夜の契り』を交わそうぞ! 半兵衛殿!」】 が、選択された。
(あああああああああああああ!!!) (違う! 違う! キャンセルだ! UNDO! UNDOだクソシステム!!)
だが、転生者の世界(ハードモード)に、UNDOボタンはない。
次の瞬間、俺の体が、勝手に動く。 土下座しようとしていた中途半端な姿勢から、まるでバネが仕込まれたように、俺の体が庵の戸に向かって射出された。
ドンガラガッシャーーーーーン!!!
俺は、自らの意思とは無関係に、貧相な庵の戸を、文字通り蹴破って室内に乱入していた。
(あ、終わった…) (不法侵入だ…器物破損だ…)
室内に、病人独特の薬草の匂いが充満している。 薄暗い部屋の奥、布団の上で、一人の青年が、信じられないものを見る目で、こちらを見つめていた。 肌は白磁のように白く、咳込むか細い体。 だが、その目だけが、俺の「知略88」などゴミだと言わんばかりの、底なしの「叡智」を宿していた。
竹中半兵衛。本物だ。
彼は、戸を蹴破って乱入してきた俺(=猿面の男)を、静かに見ている。
(何か言え! 俺の口! 弁解しろ!) (「敵ではありませぬ!」とか、何か!)
だが、俺の口(システム)は、強制されたセリフを吐き出すことしかできない。 俺は、戸を蹴破った、その乱暴な体勢のまま、 半兵衛に向かって、手を差し伸べ(これがまた変態的なポーズに見えた)、
「半兵衛殿! 拙者と『夜の契り』を交わそうぞ!」
と、
「…………」 「…………」
静寂。
鳥のさえずりが、やけにうるさく聞こえる。
半兵衛は、咳き込むことも、驚くことも忘れ、ただ、俺を「見て」いた。 俺の(精神年齢32歳の)心は、羞恥と絶望で、完全に死んだ。
(もうだめだ…) (俺は、織田家の恥だ…) (天才をリクルートしに来て、初対面で『夜這い』を宣言する変態が、この世にいるか…)
俺が、その場で切腹しようかと本気で悩み始めた、その時。
「……ゲホッ、ゲホッ…!」
半兵衛が、激しく咳き込み始めた。 (あ、ヤバい! 刺激が強すぎて、病状が悪化した!?)
「は、半兵衛殿! だ、大丈夫か! 今のは、その、システムが!」 「……ゲホッ、……ククッ…」
(え? いま、笑った?)
半兵衛は、咳き込みながら、震える手で俺を指差した。 その目は、俺が今まで見たことのない、狂気的な「歓喜」に満ちていた。
「……ククク、アハハハハハ!」 「(えええええ!?)」
「面白い! 面白すぎるぞ! 貴様!」 半兵衛は、病弱な体とは思えない声で、笑い転げている。 「今まで来た使者は、皆、『金』か『土地』か、『信長の威光』を笠に着たつまらん連中ばかりだった!」
半兵衛は、涙を拭いながら俺を見た。 「だが、貴様は違う!」 「(あ、はい…)」
「庵の戸を蹴破り、初対面の私(男)に、いきなり『夜の契り(同衾)』を申し込むとは!」 半兵衛は、俺の手を取った。その手は、氷のように冷たかった。
「いいだろう! その『契り』、受けて立とう!」 「……はい?」
「貴様は、金でも土地でもなく、『私自身』が欲しいのだろう!?」 (違う! 誤解だ! ものすごい誤解だ!)
「そして、その『欲』を隠す知性も持たぬ、本物の『馬鹿(狂人)』だ!」 (馬鹿は合ってるけども!)
半兵衛の目が、ギラリと光った。 「織田信長は、こんな『馬鹿』を使いこなしているというのか…! 面白い! 浅井も朝倉も、どうでもよくなった!」
半兵衛は、布団から立ち上がった。 「木下藤吉郎! お前の『狂気』に、この半兵衛、乗ってやる!」
(どうする俺!?) (いや、どうなった俺!?)
俺は、「手が滑った」せいで、この日本最強の天才に、「究極の変態」という、最悪の「誤解」をされたまま、彼を仲間に引き入れてしまった。 俺の「人の心が重い」リストに、今、とんでもない「重さ」が、追加されたのだった。