過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第19話:「天才(美男子)」と「変態(という名の噂)」

俺は、「手が滑った」せいで、この日本最強の天才、竹中半兵衛を、「誤解」されたまま、仲間に引き入れてしまった。

 

そして、俺は、墨俣の自城に戻ってきてから、もう一つの「リアル」の重さに直面していた。

 

(これは、『覇道』の知識にも、史実にも、書いてなかったことだ)

 

竹中半兵衛は、確かに「天才」だった。だが、それと同時に、

 

……とんでもない『美男子』だった。

 

病弱さが、その青白い肌と繊細な顔立ちを、ある種「倒錯的」に引き立てている。 俺が知る「半兵衛」は、ゲームのCG(渋い軍師)か、肖像画(普通のオッサン)だった。 だが、この『リアル』の半兵衛は、そこらの姫君が裸足で逃げ出すほどの、線の細い「美青年」だった。 これが、最悪の「コンボ」を生んでいた。

 

「……藤吉郎さん」

 

俺が頭を抱えていると、妻のねねが、お盆を持って入ってきた。その顔が、硬い。

 

「な、なんだ、ねね」

 

「……例の、半兵衛様のことなのですが」

 

「ああ、あいつの『知略』は本物だ。美濃攻めも、これで一気に……」

 

「『お夜の契り』の件です」

 

「ぶっ!?」

 

俺は、飲もうとした茶を噴き出しそうになった。

 

「な、なんで、お前がそのことを!?」

 

「半兵衛様が、権蔵さんたちに、冗談めかしておっしゃっていました」

 

「『私は、木下殿に、あの庵で口説かれましてな。あの情熱には、病弱な身では抗えませなんだ』……と」

 

(あの天才、面白がって吹聴(ふいちょう)してやがるなああああ!!!)

 

「……藤吉郎さん」

 

ねねは、俺の膝に、そっと自分の手を重ねた。 その手が、小刻みに震えている。

 

「……半兵衛様、とても、お綺麗な方、ですよね」

 

「え?」

 

「私などと違って、知恵もあって、お家柄も良くて……」

 

「ね、ねね!? お前、何を……!」

 

「信勝様の暗殺の日も、桶狭間の前も、藤吉郎さん、なんだか『変』でした!」

 

ねねの目に、涙が浮かんでいた。

 

「……冗談、なのですよね?」

 

「……」

 

「藤吉郎さんが、半兵衛様を『口説いた』っていうのは、あの『元気』の時みたいに、何か深い、意味不明な『冗談』……なのですよね!?」

 

(終わった……)

 

俺は、妻に、本気で「男色」ではないかと、疑われ始めている。 俺は、この世界で一番愛している人間の「心」すら、あの「誤クリック《D》」一つのせいで、重く、傷つけてしまっている。

 

「違う! ねね! 断じて違う! あれは、その、なんだ!」

 

俺が必死に弁明していると、

 

「隊長! ご出陣です! 若様がお呼びです!」

 

権蔵が、最悪のタイミングで呼びに来た。

 

【清洲城・美濃攻略評定】

 

俺が半兵衛を連れて信長の前に出ると、広間は、桶狭間の時以上の衝撃に包まれた。

 

「ば、馬鹿な! あの猿が、竹中半兵衛を連れてきただと!?」

 

柴田勝家の目には、先日の屈辱を蒸し返されたような、剥き出しの敵意が浮かんでいた。

 

信長は、玉座から、値踏みするように半兵衛を見た。

 

「竹中半兵衛。なぜ、この猿に付いた?」

 

(やめろ! 言うな! 言わないでくれ!)

 

俺は、半兵衛の口から「夜の契り」か「口説かれた」という単語が飛び出すのを、死の宣告を待つ罪人のように震えて待った。

 

半兵衛は、咳き込みながら、優雅に(そして、俺に流し目を送りながら)頭を下げた。

 

「はっ。柴田様や佐久間様は、私に『金』と『土地』を提示されました。ですが……」

 

「この木下殿は、私に『情熱』を提示されましたゆえ」

 

「情熱!?」

 

(「情熱」!? 「夜の契り」のことか!? うわあああ、婉曲表現! やめてくれえええ!!)

 

俺は、その場で卒倒しかけた。

 

「クハハハハハ!」

 

信長が、ご満悦で膝を叩く。

 

「『情熱』か! さすがは俺の猿だ! 金でも土地でもなく、『情熱』で天才を釣ったか!」

 

(違います! 滑ったんです! 指が!)

 

だが、俺の心の叫びは、柴田勝家には別の意味で届いていた。 柴田勝家は、俺と、病弱な美青年と、「情熱」という単語を交互に見て、顔を青から赤へと変色させた。

 

(あ、あの猿……! 若様に取り入っただけでなく、今度は『男色』で、あの天才までたぶらかしおった!)

 

柴田の中に残っていた屈辱は、明確な「侮蔑」と「憎悪」に変わった。

 

信長は、そんな重臣たちの「心の重さ」など知ったことかという顔で、立ち上がった。

 

「猿! 半兵衛!」

 

「はっ」

 

「半兵衛の『知略』と、貴様の『ハリボテ』と『情熱』があれば、美濃は落ちたも同然!」

 

信長は、地図の「稲葉山城」を、拳で叩いた。

 

「全軍に通達! 美濃攻略を、一気に加速させる! 稲葉山城を、落とすぞ!」

 

(ああ、始まった……!)

 

俺の「誤クリック《D》」が、「天才」と「歴史」と「俺のプライベート(地獄)」を、同時に加速させてしまった。

 

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