過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~ 作:ブンチョウ
俺は、「手が滑った」せいで、この日本最強の天才、竹中半兵衛を、「誤解」されたまま、仲間に引き入れてしまった。
そして、俺は、墨俣の自城に戻ってきてから、もう一つの「リアル」の重さに直面していた。
(これは、『覇道』の知識にも、史実にも、書いてなかったことだ)
竹中半兵衛は、確かに「天才」だった。だが、それと同時に、
……とんでもない『美男子』だった。
病弱さが、その青白い肌と繊細な顔立ちを、ある種「倒錯的」に引き立てている。 俺が知る「半兵衛」は、ゲームのCG(渋い軍師)か、肖像画(普通のオッサン)だった。 だが、この『リアル』の半兵衛は、そこらの姫君が裸足で逃げ出すほどの、線の細い「美青年」だった。 これが、最悪の「コンボ」を生んでいた。
「……藤吉郎さん」
俺が頭を抱えていると、妻のねねが、お盆を持って入ってきた。その顔が、硬い。
「な、なんだ、ねね」
「……例の、半兵衛様のことなのですが」
「ああ、あいつの『知略』は本物だ。美濃攻めも、これで一気に……」
「『お夜の契り』の件です」
「ぶっ!?」
俺は、飲もうとした茶を噴き出しそうになった。
「な、なんで、お前がそのことを!?」
「半兵衛様が、権蔵さんたちに、冗談めかしておっしゃっていました」
「『私は、木下殿に、あの庵で口説かれましてな。あの情熱には、病弱な身では抗えませなんだ』……と」
(あの天才、面白がって
「……藤吉郎さん」
ねねは、俺の膝に、そっと自分の手を重ねた。 その手が、小刻みに震えている。
「……半兵衛様、とても、お綺麗な方、ですよね」
「え?」
「私などと違って、知恵もあって、お家柄も良くて……」
「ね、ねね!? お前、何を……!」
「信勝様の暗殺の日も、桶狭間の前も、藤吉郎さん、なんだか『変』でした!」
ねねの目に、涙が浮かんでいた。
「……冗談、なのですよね?」
「……」
「藤吉郎さんが、半兵衛様を『口説いた』っていうのは、あの『元気』の時みたいに、何か深い、意味不明な『冗談』……なのですよね!?」
(終わった……)
俺は、妻に、本気で「男色」ではないかと、疑われ始めている。 俺は、この世界で一番愛している人間の「心」すら、あの「誤クリック《D》」一つのせいで、重く、傷つけてしまっている。
「違う! ねね! 断じて違う! あれは、その、なんだ!」
俺が必死に弁明していると、
「隊長! ご出陣です! 若様がお呼びです!」
権蔵が、最悪のタイミングで呼びに来た。
【清洲城・美濃攻略評定】
俺が半兵衛を連れて信長の前に出ると、広間は、桶狭間の時以上の衝撃に包まれた。
「ば、馬鹿な! あの猿が、竹中半兵衛を連れてきただと!?」
柴田勝家の目には、先日の屈辱を蒸し返されたような、剥き出しの敵意が浮かんでいた。
信長は、玉座から、値踏みするように半兵衛を見た。
「竹中半兵衛。なぜ、この猿に付いた?」
(やめろ! 言うな! 言わないでくれ!)
俺は、半兵衛の口から「夜の契り」か「口説かれた」という単語が飛び出すのを、死の宣告を待つ罪人のように震えて待った。
半兵衛は、咳き込みながら、優雅に(そして、俺に流し目を送りながら)頭を下げた。
「はっ。柴田様や佐久間様は、私に『金』と『土地』を提示されました。ですが……」
「この木下殿は、私に『情熱』を提示されましたゆえ」
「情熱!?」
(「情熱」!? 「夜の契り」のことか!? うわあああ、婉曲表現! やめてくれえええ!!)
俺は、その場で卒倒しかけた。
「クハハハハハ!」
信長が、ご満悦で膝を叩く。
「『情熱』か! さすがは俺の猿だ! 金でも土地でもなく、『情熱』で天才を釣ったか!」
(違います! 滑ったんです! 指が!)
だが、俺の心の叫びは、柴田勝家には別の意味で届いていた。 柴田勝家は、俺と、病弱な美青年と、「情熱」という単語を交互に見て、顔を青から赤へと変色させた。
(あ、あの猿……! 若様に取り入っただけでなく、今度は『男色』で、あの天才までたぶらかしおった!)
柴田の中に残っていた屈辱は、明確な「侮蔑」と「憎悪」に変わった。
信長は、そんな重臣たちの「心の重さ」など知ったことかという顔で、立ち上がった。
「猿! 半兵衛!」
「はっ」
「半兵衛の『知略』と、貴様の『ハリボテ』と『情熱』があれば、美濃は落ちたも同然!」
信長は、地図の「稲葉山城」を、拳で叩いた。
「全軍に通達! 美濃攻略を、一気に加速させる! 稲葉山城を、落とすぞ!」
(ああ、始まった……!)
俺の「誤クリック《D》」が、「天才」と「歴史」と「俺のプライベート(地獄)」を、同時に加速させてしまった。