過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~ 作:ブンチョウ
(こ、こいつが……! 明智光秀……!)
俺は石垣の上で冷徹に笑う男を、呆然と見上げていた。
『覇道』知識――未来の「ラスボス」が、なぜ今、ここにいる!?
選択肢E。
(『明智』殿なら、この城を『金』で落としましょうな……)
それが、現実になっていた。
「――遅いぞ、木下殿」
光秀は、泥だらけの俺たちを値踏みするように見下ろした。
「貴殿らが崖で猿のように遊んでおられる間に、私は『金』で、この城の『内』を落とさせていただいた」
(こいつ、半兵衛の策の『両面』を知ってたのか!)
「さあ、最後の『仕事』だ」
光秀は俺たちに背を向け、狼煙台《のろしだい》の薪へ松明《たいまつ》を近づけた。
「この狼煙が、我らの『勝利』の合図とな――」
「待て! 明智殿!」
俺は叫んだ。
「何だ?」
光秀が、面倒くさそうに振り返る。
「……見張りが、いる」
俺の『覇道』知識――このマップの敵配置が、脳内で警報を鳴らしていた。
(この狼煙台には、隠しパラメータで『精鋭見張り兵:5』が設定されてる!)
「はっ。狼煙台だ。見張りくらい、いるだろう」
光秀は鼻で笑った。
「だが、そこの闇に五人ほど隠れているのは、いささか厄介だ。……木下殿」
光秀は、俺たちを顎《あご》でしゃくった。
「貴殿らの『役目』だろう? 貴殿らは、この狼煙台を『奪取』しに来た『捨て駒』だ。……違うか?」
(こいつ……!)
半兵衛の「冷徹な合理性」とは違う。
この男、光秀の「合理性」には、他人を見下すという「心の重さ」が含まれている。
「……権蔵!」
「はっ!」
「図面通り、『蜘蛛』の道具――鉤縄《かぎなわ》を使え! 闇の中の『五匹』を、城壁の外へ引きずり出せ!」
俺は、光秀の「合理性」に乗ってやることにした。
「ヒュッ!」
「ヒュッ!」
権蔵たちが、暗闇へ向かって鉤縄を投げる。
「ぐあっ!?」
「何だ、この縄は!?」
闇の中から、見張りの兵士たちが文字通り釣り上げられ、石垣の外――崖下へと転がり落ちていく。
権蔵たちの「実装力(技術)」が、戦闘でも役立った。
(よし! これで全員か!)
俺が安堵しかけた、その時だった。
「――甘いな」
光秀の冷たい声。
風を切る音。
そして、俺のすぐ隣で響く「ぐはっ!」という苦悶の声。
「権蔵!?」
権蔵が胸に矢を受け、倒れていた。
「くそ……! まだ、もう一人……! 『弓兵』が、いたのか……!」
(『覇道』知識と違う! パラメータ――五人が、変更されてる!)
光秀が、舌打ちした。
「だから言った。『甘い』と」
石垣の影から、最後の六人目――弓兵が姿を現した。
次の矢を番《つが》え、俺に狙いを定める。
(死ぬ!)
その瞬間。
俺の目の前に、ウィンドウが開いた。
【強制イベント:隠し兵(歴史加速バグ)】
『覇道』知識(5人)と異なる『6人目』の敵が出現!
A:「光秀を盾にし、『知略88』の俺が死ぬわけにはいかない!」
B:「権蔵を庇い、『猿(俺)』の『本能』が、仲間(権蔵)を守れと叫んでいる!」
C:「ウキキ! 芋侍、ここに死す!」
D:「光秀の肩を抱き、今こそ『契り』の力を見せる時!」
「Dは論外!!」
(A――光秀を盾も、C――死ぬも論外!)
(Bだ! Bしかない!)
俺は、桶狭間で権蔵を助けた時のように、意識で【B】を選択した。
体が、勝手に動く。
俺は弓兵と、倒れた権蔵の間へ、文字通り割り込んだ。
「隊長!? 馬鹿野郎!」
権蔵が叫ぶ。
だが、矢は放たれなかった。
俺が割り込むよりも、一瞬早く。
光秀が懐から火縄銃を取り出し、闇の中の弓兵へ向けて撃っていた。
ズドン!!!
轟音。
火薬の匂い。
弓兵が、声もなく崩れ落ちた。
「…………」
俺は権蔵を庇う体勢のまま、呆然と光秀を見ていた。
光秀は、まだ煙を吹く銃口を冷ややかに見下ろしながら言った。
「……合理的ではないな、木下殿」
「え……」
「貴殿――隊長が死ねば、その部下は機能不全になる。部下一人の命と、この計略全体。どちらが『重い』?」
俺は、何も言い返せなかった。
この「合理性」の前では、俺はただの感情的な馬鹿だ。
光秀は銃を懐へしまった。
「貴殿の『非合理』のおかげで、俺の『弾』が一発、無駄になった。……この『借り』は、覚えておくぞ」
光秀は今度こそ、狼煙台に火を放った。
夜空へ、赤い煙が上がる。
それと同時に、城下の本陣から信長率いる本隊の鬨《とき》の声が響いた。
「うおおおおっ!」
さらに城内では、美濃三人衆の裏切りに気づいた者たちの悲鳴が、響き渡る。
稲葉山城は、落ちた。
美濃攻略は、俺の『覇道』知識と、光秀の『合理性』と、半兵衛の『策』によって。
史実――1567年よりも、遥かに早く完了した。
【戦後処理・清洲城】
「見事だ! 猿! 半兵衛! そして、光秀!」
信長は俺たち新参者――成り上がり三人を、柴田ら譜代の家臣たちの前に立たせた。
そして、最大級の賛辞を送る。
「柴田! 貴様ら『旧《ふる》い世代』の負けだ!」
「ぐ……っ!」
柴田たちの「嫉妬」と「憎悪」の心の重さが、俺の背中に突き刺さる。
「猿には、美濃の岐阜城――稲葉山城を与える!」
「はっ!?」
「そして、半兵衛と光秀は、その猿の『与力』とする!」
「「は!?」」
俺と光秀の声が重なった。
(こ、こいつ……!)
信長は、俺――奇行・非合理。
半兵衛――天才・誤解。
光秀――合理・冷徹。
水と油どころではない地獄を、わざと一つのチームにしやがった。
(胃が……痛む)
俺の「心が重い」リストに、今、最悪のメンバーが固定された。