過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~ 作:ブンチョウ
原因は、信長――魔王が俺に押し付けた、二人の
「――以上が、城下町の
城の作戦室。
明智光秀――合理・冷徹が、完璧すぎる「仕様書」とでも呼ぶべき経済政策の束を、俺の机にドン、と置いた。
その顔は、
『貴殿に、この合理が理解できるか?』
と、雄弁に語っていた。
(うわ、完璧すぎ……! 前世のゲーム会社なら、そのまま実装できるレベルだ……!)
「……ククク。光秀殿、カタいな」
その完璧な仕様書を、竹中半兵衛が病弱な手で横からひょいと取り上げた。
「ゲホッ……! 素晴らしい『凡』な策だ。だが、藤吉郎殿は、このような常識はお望みではあるまい」
「……何?」
光秀の整った眉が、ピクリと動く。
半兵衛は俺に向き直り、熱っぽい視線を送ってきた。
「藤吉郎殿! それよりも、美濃の
(やめろ! その単語を光秀の前で出すな!)
キィン、と。
光秀――合理と、半兵衛――狂気の間で、見えない火花が散る。
「……木下殿。貴殿は、そのような非合理的な噂を、信じると?」
「……藤吉郎殿。貴殿は、このような退屈な策を、実行すると?」
(俺に振るなあああああ!!!)
俺は、二人の天才に挟まれた凡人として、ただ胃を押さえることしかできなかった。
(どっちを選んでも、どっちかの心の重さ――
(これが……これが信長のやり方か……!)
俺の「人の心が重い」リストは、
嫉妬――柴田。
誤解――半兵衛。
軽蔑――光秀。
で、完全に飽和状態だった。
【プライベート(地獄)】
そして、俺の地獄は城の外にもあった。
岐阜城に呼び寄せた、妻のねねだ。
「……藤吉郎さん。お疲れ様です」
ねねが俺の部屋に食事を運んできてくれた。
だが、その顔は祝言を挙げた時の笑顔ではなく、曇っていた。
「な、なんだ、ねね。元気ないじゃないか」
「……」
ねねは俺の隣に座ると、ポツリと呟いた。
「……あの、光秀様という方。とても、お仕事ができる方なのですね」
「あ、ああ。合理的すぎて、俺の胃が死にそうだが……」
「……あの、半兵衛様という方。とても、お綺麗で、情熱的な方なのですね」
(ギクッ!)
「そ、そうか? あいつは病弱で……」
「……」
ねねは俺の膝に、そっと自分の手を重ねた。
その手が、違う意味で小刻みに震えている。
「……藤吉郎さん」
「は、はい!」
「あの、お二人は、藤吉郎さんの与力……なんですよね?」
「そうだぞ! 俺の右腕と左腕だ!」
(どっちも暴走してるが!)
「……」
ねねの目に、涙が浮かんでいた。
「……柴田様たちが、噂してました」
「え?」
「『あの猿は、今度は男色か』『病弱な美男子を城に囲い、堅物のエリートまで
(柴田あああああ! どこまで俺の評判を
「ねね! 違う! あれは誤解だ! 俺は、お前一筋だ!」
俺が必死に弁解すると、ねねは涙目で俺を見つめ返した。
「……じゃあ、なんで半兵衛様は、あんなに熱い目で、藤吉郎さんのことを見るんですか!」
(それは俺が、D――夜の契りを誤クリックしたからです!!)
(言えるかああああ!)
俺は、妻の疑念と、部下の重圧と、同僚の憎悪に、完全にサンドイッチにされていた。
【そして、次の「地獄(タスク)」】
俺が、この四面楚歌の人間関係に本気で胃を痛めていた、その時。
魔王――信長が、岐阜城にやってきた。
「猿! 半兵衛! 光秀! 貴様ら使える道具のおかげで、
(あんたのせいで、俺の胃はボロボロだよ!)
信長は上機嫌で地図を広げた。
「次だ。俺は天下を獲る。そのためには、
(いよいよ
「だが、京へ行くには、南の
信長は、俺を指差した。
「猿! 貴様の
「はっ……」
「貴様が行け。貴様の情熱と奇策で、あの若き当主――長政を口説き落としてこい」
(また口説くかよおおおお!)
柴田勝家の目が、さらに汚物を見る目になった!
「若様!」
俺が悲鳴を上げる前に、ウィンドウが開いた。
【強制イベント:上洛への布石(浅井同盟)】
『浅井長政との交渉役として、どう動くか?』
A:「光秀を指差し」彼のようなエリート――合理こそ、交渉役に! 拙者では変態の噂が……!
B:「半兵衛の肩を抱き」この美男子――天才との契りを、浅井殿にもお見せします!
C:ウキキ! 猿は、京で芋を食う!
D:「地図を指し」若様の妹君、お市様を浅井に嫁がせるというのは、いかがでしょう!
E:「地図を指し」
(覇道知識が来た!)
(そうだ! Dだ! お市様だ!)
(この地獄の人間関係――男色誤解から逃れるには、この政略結婚――Dを進言するのが、一番の正解――チートだ!)
俺は今度こそ指が滑らないように、全力でDを選択しようとした。
その時。
俺の袖を、隣にいた半兵衛がクイクイと引いた。
(ん?)
半兵衛は、俺にしか聞こえない声で、こう
「……藤吉郎殿。ここは、貴殿の狂気を見せる時ではありませぬか? それとも、常識に逃げますかな?」
(こいつ! 俺の選択を、試してやがる!)
(どうする俺!?)
(覇道知識――Dで安全に歴史をなぞるか!?)
(それとも、この天才――半兵衛の誤解――期待に応えて、B――地獄を選ぶか!?)