過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第23話:「地獄のチーム」と「次の(地獄の)交渉」

 美濃(みの)を平定し、稲葉山城(いなばやまじょう)――改め、岐阜城の城主となった俺の毎日は、胃痛との戦いだった。

 

 原因は、信長――魔王が俺に押し付けた、二人の与力(よりき)だ。

 

「――以上が、城下町の検地(けんち)楽市(らくいち)の草案です、城主殿」

 

 城の作戦室。

 

 明智光秀――合理・冷徹が、完璧すぎる「仕様書」とでも呼ぶべき経済政策の束を、俺の机にドン、と置いた。

 

 その顔は、

 

『貴殿に、この合理が理解できるか?』

 

 と、雄弁に語っていた。

 

(うわ、完璧すぎ……! 前世のゲーム会社なら、そのまま実装できるレベルだ……!)

 

「……ククク。光秀殿、カタいな」

 

 その完璧な仕様書を、竹中半兵衛が病弱な手で横からひょいと取り上げた。

 

「ゲホッ……! 素晴らしい『凡』な策だ。だが、藤吉郎殿は、このような常識はお望みではあるまい」

 

「……何?」

 

 光秀の整った眉が、ピクリと動く。

 

 半兵衛は俺に向き直り、熱っぽい視線を送ってきた。

 

「藤吉郎殿! それよりも、美濃の土岐(とき)の埋蔵金伝説を追う方が、よほど情熱的では!? 我ら二人の契りをもってすれば、黄金の一つや二つ……!」

 

(やめろ! その単語を光秀の前で出すな!)

 

 キィン、と。

 

 光秀――合理と、半兵衛――狂気の間で、見えない火花が散る。

 

「……木下殿。貴殿は、そのような非合理的な噂を、信じると?」

 

「……藤吉郎殿。貴殿は、このような退屈な策を、実行すると?」

 

(俺に振るなあああああ!!!)

 

 俺は、二人の天才に挟まれた凡人として、ただ胃を押さえることしかできなかった。

 

(どっちを選んでも、どっちかの心の重さ――怨嗟(えんさ)を買う!)

 

(これが……これが信長のやり方か……!)

 

 俺の「人の心が重い」リストは、

 

 嫉妬――柴田。

 

 誤解――半兵衛。

 

 軽蔑――光秀。

 

 で、完全に飽和状態だった。

 

【プライベート(地獄)】

 

 そして、俺の地獄は城の外にもあった。

 

 岐阜城に呼び寄せた、妻のねねだ。

 

「……藤吉郎さん。お疲れ様です」

 

 ねねが俺の部屋に食事を運んできてくれた。

 

 だが、その顔は祝言を挙げた時の笑顔ではなく、曇っていた。

 

「な、なんだ、ねね。元気ないじゃないか」

 

「……」

 

 ねねは俺の隣に座ると、ポツリと呟いた。

 

「……あの、光秀様という方。とても、お仕事ができる方なのですね」

 

「あ、ああ。合理的すぎて、俺の胃が死にそうだが……」

 

「……あの、半兵衛様という方。とても、お綺麗で、情熱的な方なのですね」

 

(ギクッ!)

 

「そ、そうか? あいつは病弱で……」

 

「……」

 

 ねねは俺の膝に、そっと自分の手を重ねた。

 

 その手が、違う意味で小刻みに震えている。

 

「……藤吉郎さん」

 

「は、はい!」

 

「あの、お二人は、藤吉郎さんの与力……なんですよね?」

 

「そうだぞ! 俺の右腕と左腕だ!」

 

(どっちも暴走してるが!)

 

「……」

 

 ねねの目に、涙が浮かんでいた。

 

「……柴田様たちが、噂してました」

 

「え?」

 

「『あの猿は、今度は男色か』『病弱な美男子を城に囲い、堅物のエリートまで手籠(てご)めにしようとしている』『節操がないにもほどがある』……って……!」

 

(柴田あああああ! どこまで俺の評判を(おとし)めれば気が済むんだあああ!)

 

「ねね! 違う! あれは誤解だ! 俺は、お前一筋だ!」

 

 俺が必死に弁解すると、ねねは涙目で俺を見つめ返した。

 

「……じゃあ、なんで半兵衛様は、あんなに熱い目で、藤吉郎さんのことを見るんですか!」

 

(それは俺が、D――夜の契りを誤クリックしたからです!!)

 

(言えるかああああ!)

 

 俺は、妻の疑念と、部下の重圧と、同僚の憎悪に、完全にサンドイッチにされていた。

 

【そして、次の「地獄(タスク)」】

 

 俺が、この四面楚歌の人間関係に本気で胃を痛めていた、その時。

 

 魔王――信長が、岐阜城にやってきた。

 

「猿! 半兵衛! 光秀! 貴様ら使える道具のおかげで、尾張(おわり)・美濃は完全に俺のものだ!」

 

(あんたのせいで、俺の胃はボロボロだよ!)

 

 信長は上機嫌で地図を広げた。

 

「次だ。俺は天下を獲る。そのためには、(みやこ)に上る」

 

(いよいよ上洛(じょうらく)か!)

 

「だが、京へ行くには、南の六角(ろっかく)と、北の浅井(あざい)が邪魔だ」

 

 信長は、俺を指差した。

 

「猿! 貴様の墨俣(すのまた)――ハリボテの噂は、浅井長政(あざいながまさ)も聞き及んでいる!」

 

「はっ……」

 

「貴様が行け。貴様の情熱と奇策で、あの若き当主――長政を口説き落としてこい」

 

(また口説くかよおおおお!)

 

 柴田勝家の目が、さらに汚物を見る目になった!

 

「若様!」

 

 俺が悲鳴を上げる前に、ウィンドウが開いた。

 

【強制イベント:上洛への布石(浅井同盟)】

 

『浅井長政との交渉役として、どう動くか?』

 

A:「光秀を指差し」彼のようなエリート――合理こそ、交渉役に! 拙者では変態の噂が……!

 

B:「半兵衛の肩を抱き」この美男子――天才との契りを、浅井殿にもお見せします!

 

C:ウキキ! 猿は、京で芋を食う!

 

D:「地図を指し」若様の妹君、お市様を浅井に嫁がせるというのは、いかがでしょう!

 

E:「地図を指し」朝倉(あさくら)を先に潰さねば、浅井は動きませぬ!

 

(覇道知識が来た!)

 

(そうだ! Dだ! お市様だ!)

 

(この地獄の人間関係――男色誤解から逃れるには、この政略結婚――Dを進言するのが、一番の正解――チートだ!)

 

 俺は今度こそ指が滑らないように、全力でDを選択しようとした。

 

 その時。

 

 俺の袖を、隣にいた半兵衛がクイクイと引いた。

 

(ん?)

 

 半兵衛は、俺にしか聞こえない声で、こう(ささや)いた。

 

「……藤吉郎殿。ここは、貴殿の狂気を見せる時ではありませぬか? それとも、常識に逃げますかな?」

 

(こいつ! 俺の選択を、試してやがる!)

 

(どうする俺!?)

 

(覇道知識――Dで安全に歴史をなぞるか!?)

 

(それとも、この天才――半兵衛の誤解――期待に応えて、B――地獄を選ぶか!?)

 

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