過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~ 作:ブンチョウ
1568年、秋。
織田信長は、足利義昭を第15代将軍に就任させた。
京の都は「織田軍、上洛」のニュースに沸き立ち、治安を回復させた信長の名声はうなぎ登りだった。
だが、その裏で、俺は死んでいた。
京の宿所にて。
「……あいつら、また来てるのか」
「はい、隊長。公家の方々や、堺の商人たちが列をなして……」
権蔵が、同情するような目で報告する。
連日の「接待」攻勢だ。
だが、彼らの目当ては、織田の威光ではない。
「あの『男色』で天才(半兵衛)と猛将(長政)を従えた、稀代の『色男(モンスター)』を一目見たい」。
そんな、見世物小屋の猿を見るような好奇心だった。
(俺は! ねね一筋だ!)
俺が心の中で叫んでも、都の噂は止まらない。
むしろ、「否定すればするほど、それは『プレイ』の一環と見なされる」という地獄のループに入っていた。
【二条城・将軍御所】
そんなある日。
信長が、将軍・義昭に対して「
内容はシンプルだ。
「将軍は、信長の許可なく勝手に政治をするな」。
「……信長。余を『飾り物』にする気か」
義昭は、白塗りの顔を引きつらせて抗議した。
だが、信長は冷酷に言い放った。
「飾り物で結構。
会談は、険悪な空気で終わった。
信長が退室した後、俺――記録係として同席させられていた――も帰ろうとすると、
「――待て。藤吉郎」
義昭が、扇子で俺を呼び止めた。
「余と、茶を飲んでいけ」
(嫌な予感がする……!)
【密室の茶会】
義昭の茶室には、俺と将軍の二人きり。
甘い香の匂いが充満している。
「……藤吉郎。信長は怖い男よな」
義昭は、ねっとりとした視線を俺に向けた。
「だが、余は知っておるぞ。そなたが、あの浅井長政と『深い仲』にあることを」
(ゴフッ!)
義昭は、俺の手に、自分の手を重ねてきた。
「そなたは、信長よりも『情熱』を知る男だ。……どうじゃ? 余の『側』に来ぬか?」
(勧誘(ヘッドハンティング)だ!)
(しかも、性的な意味と政治的な意味のダブルミーニングで!)
「余につけば、そなたを『大名』にしてやる。信長など、所詮は田舎侍。余が号令をかければ、天下の諸大名がこぞって信長を潰すぞ」
俺の背筋が凍った。
(『信長包囲網』だ!)
(こいつ、もう裏で手を回してやがる!)
「……朝倉、武田、三好、本願寺。そして……」
義昭は、俺の耳元で
「そなたの愛しい『浅井』も、余の味方ぞ」
(!!)
(長政!? 嘘だろ!?)
(あいつは俺と『魂の契り(恋人繋ぎ)』を交わしたはずだ!)
だが、歴史は残酷だ。
信長が急激に力をつけすぎた反動で、周辺諸国は危機感を募らせている。
長政もまた、家臣や父(久政)からの突き上げを食らっているはずだ。
「選べ、藤吉郎」
義昭の手が、俺の太ももを這い上がってくる。
「破滅する信長と心中するか。それとも、余と長政と共に、新しい『愛』を築くか」
(気持ち悪い! 怖い! そして政治的に詰んでる!)
断れば、俺はここで「不敬罪」で消されるかもしれない。
だが、乗れば、信長に殺される。
(どうする!?)
俺が脂汗を流したその時、視界がウィンドウで埋め尽くされた。
【強制イベント:将軍の誘惑(包囲網)】
将軍・足利義昭の『愛(勧誘)』に、どう答えるか?
A: 「(土下座し)拙者の『知略88』が、信長こそ覇者と告げております!」
B: 「(義昭の手を握り返し)公方様……! 今夜は『朝まで』天下国家(とそれ以外)を語り合いましょう!」
C: 「ウキキ!(猿は、厚化粧より『焼き芋』が好き!)」
D: 「(涙を流し)無理です……! 拙者の心も体も、すでに『長政殿(ヤンデレ)』に捧げてしまったのです! 浮気は殺されます!」
E: 「(虚空を見つめ)……見えます。いずれ、若様(信長)が、長政殿の『頭蓋骨』で酒を飲む未来が……」
(ヒイイイイッ!!)
(E! Eが怖すぎる! 『金色の髑髏の杯』イベントの予言だ!)
A(知略)は通じない。
B(寝返り)は論外。
C(焼き芋)は、この粘着質な男には逆効果だ。
(Dだ……! Dで逃げるしかねえ!)
(「長政への愛(という名の恐怖)」を盾にして、この場を切り抜ける!)
(Eの未来だけは、絶対に回避してやる!)
俺は、震える指で【D】を選択した。
俺の目が、勝手に
俺は、太ももを這う義昭の手を、そっと、だが拒絶の意志を込めて押し退けた。
「……公方様。ありがたきお言葉」
俺は、ハラハラと涙を流した。
名演技だ。
「ですが……無理なのです」
「な、何故じゃ? 余は将軍ぞ?」
「拙者の心も! 体も!」
俺は、胸を押さえて叫んだ。
「すでに、浅井長政殿に捧げてしまっているのです!!」
「……なっ!?」
「あの御方は……嫉妬深いのです」
俺は、遠い目をした。
「もし、拙者が公方様と『通じた』と知れれば……あの御方は、公方様ごと、拙者を刺し殺しに来るでしょう。……それほどまでに、あの御方の『愛(殺意)』は重いのです!」
「…………」
義昭は、ドン引きした。
「そ、そうか……。浅井の若造、そこまで……」
義昭の中で、「浅井長政=危険なヤンデレ」という評価が定着した。
(あながち間違いじゃないのが怖い!)
「……分かった。痴話喧嘩に巻き込まれるのは御免だ。下がれ」
「は、ははっ!」
【宿所への帰り道】
俺は、冷や汗まみれで宿所に戻った。
なんとか切り抜けた。
だが、義昭の言葉が、
『浅井も、余の味方ぞ』
(長政……。お前、本当に裏切るのか?)
(俺との『契り』よりも、『朝倉』や『将軍』を取るのか?)
その時。
宿所の入り口に、一人の男が立っていた。
竹中半兵衛だ。
「……遅かったですね、藤吉郎殿」
半兵衛の顔には、いつもの余裕がない。
珍しく、焦燥が浮かんでいた。
「半兵衛殿? どうした」
「……私の『忍』からの報告です」
半兵衛は、声を潜めた。
「越前の『朝倉義景』が動きました。信長公の上洛を認めず、兵を挙げると」
「なっ……!」
「信長公は、即座に『朝倉討伐』を決定されました。明日にも出陣です」
(早い! 歴史が加速しすぎだ!)
『覇道』では、もう少し余裕があったはずだ!
半兵衛は、俺の目を真っ直ぐに見た。
「……藤吉郎殿。貴殿の『愛しい方(長政)』は、どう動くと思いますか?」
俺は、答えられなかった。
俺の『覇道』知識(未来)は、「長政は裏切る」と告げている。
だが、あの「恋人繋ぎ」の感触は、「裏切らない」と叫んでいる。
「……信じるさ」
俺は、自分に言い聞かせるように言った。
「あいつは、俺の手を握り返した。……俺は、あいつを信じる」
半兵衛は、ふっと自嘲気味に笑った。
「……そうですか。貴殿がそこまで言うなら、この半兵衛、貴殿の『愛』に賭けましょう」
だが、その目は語っていた。
(もし、長政が裏切れば……貴殿たちは「袋の鼠」だ)
【1570年・金ヶ崎】
そして、俺たちは越前・金ヶ崎へ進軍した。
織田軍、三万。
快進撃だった。
朝倉軍など敵ではなかった。
「行ける! このまま朝倉の本拠・
柴田勝家たちが気勢を上げる。
だが、俺の背筋には、常に嫌な汗が流れていた。
(長政……来ないよな?)
(背後から、来たりしないよな?)
その夜。
俺の陣に、一通の密書が届いた。
差出人は不明。
中には、文字はなかった。
ただ、「
両端が紐で縛られた、袋の鼠を意味する、小豆袋。
(お市様……!)
史実(ゲーム)通り、お市様からの「陣中見舞い(裏切りの警告)」だ!
そして、その袋の中に、一枚の「紙切れ」が入っていた。
そこには、見覚えのある、達筆な文字で、こう書かれていた。
『ごめん。俺の義理が、あんたへの情熱に勝った』
「…………」
俺は、その紙を握りつぶした。
長政が、裏切った。
浅井軍が、俺たちの背後を塞いだ。
「……撤退だ」
俺は、震える声で言った。
「全軍、撤退だ! 急げ!」
ここからが、俺の人生(二度目)最大の地獄。
「金ヶ崎の
俺が、自らの意思で「殿(しんがり)」を選び、死ぬ確率99%の泥沼に飛び込む、最悪の撤退戦が始まる。