過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第28話 「将軍」の誘惑と「金色の髑髏(どくろ)

 1568年、秋。

 

 織田信長は、足利義昭を第15代将軍に就任させた。

 

 京の都は「織田軍、上洛」のニュースに沸き立ち、治安を回復させた信長の名声はうなぎ登りだった。

 

 だが、その裏で、俺は死んでいた。

 

 京の宿所にて。

 

「……あいつら、また来てるのか」

 

「はい、隊長。公家の方々や、堺の商人たちが列をなして……」

 

 権蔵が、同情するような目で報告する。

 

 連日の「接待」攻勢だ。

 

 だが、彼らの目当ては、織田の威光ではない。

 

 「あの『男色』で天才(半兵衛)と猛将(長政)を従えた、稀代の『色男(モンスター)』を一目見たい」。

 

 そんな、見世物小屋の猿を見るような好奇心だった。

 

(俺は! ねね一筋だ!)

 

 俺が心の中で叫んでも、都の噂は止まらない。

 

 むしろ、「否定すればするほど、それは『プレイ』の一環と見なされる」という地獄のループに入っていた。

 

【二条城・将軍御所】

 

 そんなある日。

 

 信長が、将軍・義昭に対して「殿中御掟(でんちゅうおんおきて)」――いわゆる「五箇条の条書」を突きつけた。

 

 内容はシンプルだ。

 

「将軍は、信長の許可なく勝手に政治をするな」。

 

「……信長。余を『飾り物』にする気か」

 

 義昭は、白塗りの顔を引きつらせて抗議した。

 

 だが、信長は冷酷に言い放った。

 

「飾り物で結構。神輿(みこし)は軽いほうがいい」

 

 会談は、険悪な空気で終わった。

 

 信長が退室した後、俺――記録係として同席させられていた――も帰ろうとすると、

 

「――待て。藤吉郎」

 

 義昭が、扇子で俺を呼び止めた。

 

「余と、茶を飲んでいけ」

 

(嫌な予感がする……!)

 

【密室の茶会】

 

 義昭の茶室には、俺と将軍の二人きり。

 

 甘い香の匂いが充満している。

 

「……藤吉郎。信長は怖い男よな」

 

 義昭は、ねっとりとした視線を俺に向けた。

 

「だが、余は知っておるぞ。そなたが、あの浅井長政と『深い仲』にあることを」

 

(ゴフッ!)

 

 義昭は、俺の手に、自分の手を重ねてきた。

 

「そなたは、信長よりも『情熱』を知る男だ。……どうじゃ? 余の『側』に来ぬか?」

 

(勧誘(ヘッドハンティング)だ!)

 

(しかも、性的な意味と政治的な意味のダブルミーニングで!)

 

「余につけば、そなたを『大名』にしてやる。信長など、所詮は田舎侍。余が号令をかければ、天下の諸大名がこぞって信長を潰すぞ」

 

 俺の背筋が凍った。

 

(『信長包囲網』だ!)

 

(こいつ、もう裏で手を回してやがる!)

 

「……朝倉、武田、三好、本願寺。そして……」

 

 義昭は、俺の耳元で(ささや)いた。

 

「そなたの愛しい『浅井』も、余の味方ぞ」

 

(!!)

 

(長政!? 嘘だろ!?)

 

(あいつは俺と『魂の契り(恋人繋ぎ)』を交わしたはずだ!)

 

 だが、歴史は残酷だ。

 

 信長が急激に力をつけすぎた反動で、周辺諸国は危機感を募らせている。

 

 長政もまた、家臣や父(久政)からの突き上げを食らっているはずだ。

 

「選べ、藤吉郎」

 

 義昭の手が、俺の太ももを這い上がってくる。

 

「破滅する信長と心中するか。それとも、余と長政と共に、新しい『愛』を築くか」

 

(気持ち悪い! 怖い! そして政治的に詰んでる!)

 

 断れば、俺はここで「不敬罪」で消されるかもしれない。

 

 だが、乗れば、信長に殺される。

 

(どうする!?)

 

 俺が脂汗を流したその時、視界がウィンドウで埋め尽くされた。

 

【強制イベント:将軍の誘惑(包囲網)】

 

将軍・足利義昭の『愛(勧誘)』に、どう答えるか?

 

A: 「(土下座し)拙者の『知略88』が、信長こそ覇者と告げております!」

 

B: 「(義昭の手を握り返し)公方様……! 今夜は『朝まで』天下国家(とそれ以外)を語り合いましょう!」

 

C: 「ウキキ!(猿は、厚化粧より『焼き芋』が好き!)」

 

D: 「(涙を流し)無理です……! 拙者の心も体も、すでに『長政殿(ヤンデレ)』に捧げてしまったのです! 浮気は殺されます!」

 

E: 「(虚空を見つめ)……見えます。いずれ、若様(信長)が、長政殿の『頭蓋骨』で酒を飲む未来が……」

 

(ヒイイイイッ!!)

 

(E! Eが怖すぎる! 『金色の髑髏の杯』イベントの予言だ!)

 

 A(知略)は通じない。

 

 B(寝返り)は論外。

 

 C(焼き芋)は、この粘着質な男には逆効果だ。

 

(Dだ……! Dで逃げるしかねえ!)

 

(「長政への愛(という名の恐怖)」を盾にして、この場を切り抜ける!)

 

(Eの未来だけは、絶対に回避してやる!)

 

 俺は、震える指で【D】を選択した。

 

 俺の目が、勝手に(うる)む。

 

 俺は、太ももを這う義昭の手を、そっと、だが拒絶の意志を込めて押し退けた。

 

「……公方様。ありがたきお言葉」

 

 俺は、ハラハラと涙を流した。

 

 名演技だ。

 

「ですが……無理なのです」

 

「な、何故じゃ? 余は将軍ぞ?」

 

「拙者の心も! 体も!」

 

 俺は、胸を押さえて叫んだ。

 

「すでに、浅井長政殿に捧げてしまっているのです!!」

 

「……なっ!?」

 

「あの御方は……嫉妬深いのです」

 

 俺は、遠い目をした。

 

「もし、拙者が公方様と『通じた』と知れれば……あの御方は、公方様ごと、拙者を刺し殺しに来るでしょう。……それほどまでに、あの御方の『愛(殺意)』は重いのです!」

 

「…………」

 

 義昭は、ドン引きした。

 

「そ、そうか……。浅井の若造、そこまで……」

 

 義昭の中で、「浅井長政=危険なヤンデレ」という評価が定着した。

 

(あながち間違いじゃないのが怖い!)

 

「……分かった。痴話喧嘩に巻き込まれるのは御免だ。下がれ」

 

「は、ははっ!」

 

【宿所への帰り道】

 

 俺は、冷や汗まみれで宿所に戻った。

 

 なんとか切り抜けた。

 

 だが、義昭の言葉が、(とげ)のように刺さっている。

 

『浅井も、余の味方ぞ』

 

(長政……。お前、本当に裏切るのか?)

 

(俺との『契り』よりも、『朝倉』や『将軍』を取るのか?)

 

 その時。

 

 宿所の入り口に、一人の男が立っていた。

 

 竹中半兵衛だ。

 

「……遅かったですね、藤吉郎殿」

 

 半兵衛の顔には、いつもの余裕がない。

 

 珍しく、焦燥が浮かんでいた。

 

「半兵衛殿? どうした」

 

「……私の『忍』からの報告です」

 

 半兵衛は、声を潜めた。

 

「越前の『朝倉義景』が動きました。信長公の上洛を認めず、兵を挙げると」

 

「なっ……!」

 

「信長公は、即座に『朝倉討伐』を決定されました。明日にも出陣です」

 

(早い! 歴史が加速しすぎだ!)

 

『覇道』では、もう少し余裕があったはずだ!

 

 半兵衛は、俺の目を真っ直ぐに見た。

 

「……藤吉郎殿。貴殿の『愛しい方(長政)』は、どう動くと思いますか?」

 

 俺は、答えられなかった。

 

 俺の『覇道』知識(未来)は、「長政は裏切る」と告げている。

 

 だが、あの「恋人繋ぎ」の感触は、「裏切らない」と叫んでいる。

 

「……信じるさ」

 

 俺は、自分に言い聞かせるように言った。

 

「あいつは、俺の手を握り返した。……俺は、あいつを信じる」

 

 半兵衛は、ふっと自嘲気味に笑った。

 

「……そうですか。貴殿がそこまで言うなら、この半兵衛、貴殿の『愛』に賭けましょう」

 

 だが、その目は語っていた。

 

(もし、長政が裏切れば……貴殿たちは「袋の鼠」だ)

 

【1570年・金ヶ崎】

 

 そして、俺たちは越前・金ヶ崎へ進軍した。

 

 織田軍、三万。

 

 快進撃だった。

 

 朝倉軍など敵ではなかった。

 

「行ける! このまま朝倉の本拠・一乗谷(いちじょうだに)まで!」

 

 柴田勝家たちが気勢を上げる。

 

 だが、俺の背筋には、常に嫌な汗が流れていた。

 

(長政……来ないよな?)

 

(背後から、来たりしないよな?)

 

 その夜。

 

 俺の陣に、一通の密書が届いた。

 

 差出人は不明。

 

 中には、文字はなかった。

 

 ただ、「小豆(あずき)の袋」が入っていた。

 

 両端が紐で縛られた、袋の鼠を意味する、小豆袋。

 

(お市様……!)

 

 史実(ゲーム)通り、お市様からの「陣中見舞い(裏切りの警告)」だ!

 

 そして、その袋の中に、一枚の「紙切れ」が入っていた。

 

 そこには、見覚えのある、達筆な文字で、こう書かれていた。

 

『ごめん。俺の義理が、あんたへの情熱に勝った』

 

「…………」

 

 俺は、その紙を握りつぶした。

 

 長政が、裏切った。

 

 浅井軍が、俺たちの背後を塞いだ。

 

「……撤退だ」

 

 俺は、震える声で言った。

 

「全軍、撤退だ! 急げ!」

 

 ここからが、俺の人生(二度目)最大の地獄。

 

「金ヶ崎の退き口(のきぐち)」。

 

 俺が、自らの意思で「殿(しんがり)」を選び、死ぬ確率99%の泥沼に飛び込む、最悪の撤退戦が始まる。

 

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