過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第32話:「黄金の髑髏(どくろ)」と「最後の契り」

 1573年。

 

 俺、羽柴秀吉は、北近江・小谷城の城門前にいた。

 

 背後には、俺の配下となった竹中半兵衛と、俺の「寄騎(よりき)」として付けられた明智光秀がいる。

 

「……長政殿」

 

 見上げる山城は、炎に包まれていた。

 

 信長の「朝倉・浅井殲滅(せんめつ)戦」は、苛烈を極めた。

 

 盟友・朝倉義景は、大野の六坊賢松寺(ろくぼうけんしょうじ)にて自刃。

 

 そして今、孤立無援となった浅井長政の居城・小谷城も、落城の時を迎えようとしていた。

 

「猿。行け」

 

 本陣の信長から、無慈悲な命令が下る。

 

「長政の首を獲れ。……だが、その前に『市』と、その娘たちを救い出せ。傷一つ付けることは許さん」

 

(また、俺に……!)

 

 かつて「情熱」を語り合い、手を繋いだ相手を、この手で殺せと言うのか。

 

「……行きましょう、秀吉殿」

 

 半兵衛が、静かに促す。

 

「貴殿が始めた『物語』です。貴殿の手で、幕を引かねば」

 

 【小谷城・本丸】

 

 城内は地獄絵図だった。

 

 俺は、権蔵たちを率いて、燃え盛る廊下を駆け抜けた。

 

「お市様! お市様!」

 

 奥御殿で、俺たちは彼女を見つけた。

 

 お市様と、三人の幼い娘たち。

 

 茶々、初、江。

 

 彼女たちは、死を覚悟して座していた。

 

「……猿か」

 

 お市様は、俺を睨みつけた。

 

 その目は、兄・信長と同じ「魔王」の光を宿していた。

 

「夫を殺しにきたか。……ここを通るなら、私を斬ってから行け」

 

「滅相もございませぬ!」

 

 俺は土下座した。

 

「若様のご命令です! どうか、お逃げください!」

 

 お市様は、動こうとしなかった。

 

 だが、その時。

 

 奥の(ふすま)が開き、一人の男が現れた。

 

「……行け、市」

 

 浅井長政だった。

 

 かつての爽やかな美青年は、度重なる敗戦と心労で痩せこけ、鬼のような形相になっていた。

 

 だが、その目は澄んでいた。

 

「長政様……!」

 

「俺は、ここで死ぬ。だが、お前たちは生きろ。……浅井の血を残せ」

 

 長政は、市と娘たちを無理やり俺の方へ押しやった。

 

 そして、俺を見た。

 

「……待っていたぞ、藤吉郎。いや、秀吉」

 

 俺たちは、燃える部屋の中で対峙した。

 

 お市様たちが去り、残ったのは俺と、長政と、半兵衛と光秀だけ。

 

 長政が、槍を捨てた。

 

 そして、腰の刀を抜き、切っ先を俺に向けた。

 

「姉川で言われた言葉……忘れたことはない。『つきまとい魔は死んでくれ』とな」

 

 長政が、自嘲気味に笑う。

 

「あれから考えた。俺のこの『情熱』は、貴様にとっては『迷惑』だったのかと」

 

「……」

 

「だが、やはり止められんのだ。俺の魂は、あの日の『契り』に縛られている」

 

 長政は、刀を構えたまま、俺に歩み寄ってくる。

 

 殺気はない。

 

 あるのは、もっと重く、粘着質な「執着」だ。

 

「秀吉。俺を殺せ。……俺の命を、貴様の『覇道』の(かて)にしろ。そうすれば、俺は永遠に貴様の一部になれる」

 

(ひっ……!)

 

(怖い! こいつ、死んでまで俺に憑りつく気か!)

 

「さあ、選べ、秀吉!」

 

 長政が叫んだ瞬間、俺の視界がウィンドウで埋め尽くされた。

 

【強制イベント:長政の最期】

 

 ヤンデレ化した『元・恋人』への、手向けの言葉を選べ。

 

 A:「涙ながらに」すまぬ! 来世では、本当の友になろう!

 

 B:「抱きしめて」愛している! お前を殺して、俺も死ぬ!

 

 C:ウキキ! 死体は野ざらしにして、カラスの餌だ!

 

 D:「冷酷に」……安心しろ。貴様の「頭蓋骨(あたま)」は、俺が綺麗に磨いて、一生大事にしてやる。

 

(うわあああああ!!)

 

(D! Dがエグすぎる! 『金色の髑髏』フラグだ!)

 

(だが、Aの「友」やBの「心中」は、今の長政には「まだ未練がある」と思わせるだけだ! Cは論外!)

 

(こいつを満足させて、成仏させるには……Dの『永遠の所有(狂気)』を見せるしかねえ!)

 

 俺は、吐き気をこらえてDを選択した。

 

 体が、勝手に動く。

 

 俺は、長政の目を、至近距離で見据えた。

 

 そして、魔王の配下・修羅にふさわしい、残忍な笑みを浮かべた。

 

「……安心しろ、長政」

 

 俺の手が、長政の頬に触れる。

 

「ただ殺しはせん。……貴様のその美しい『頭蓋骨(あたま)』」

 

 俺は、耳元で(ささや)いた。

 

「俺が綺麗に磨いて、金箔を塗り……一生、俺の『杯』として、大事にしてやる」

 

「…………!!」

 

 長政の体が震えた。

 

 恐怖ではない。

 

 恍惚とした、喜びに。

 

「……そうか。骨になっても、俺を……手元に……」

 

 長政は、満足げに微笑んだ。

 

 そして、自ら俺の刀に、その身を押し付けた。

 

「――愛しているぞ、秀吉」

 

 ズブッ。

 

 肉を裂く音。

 

 浅井長政は、俺の腕の中で、その生涯を閉じた。

 

 俺の刀は、かつての友の血で、どす黒く染まっていた。

 

 後ろで、光秀が「……吐き気がする」と口元を押さえ、半兵衛が「美しい……これぞ『情熱』の極致」と溜息をついているのが分かった。

 

 【1574年 正月・岐阜城】

 

 年が明けた。

 

 浅井・朝倉を滅ぼした信長は、岐阜城にて盛大な「新年会」を開いた。

 

 諸大名、家臣一同が集う、祝いの席。

 

「皆の者! 余興だ!」

 

 信長が、三つの「木箱」を運ばせた。

 

「朝倉義景、浅井久政、そして……浅井長政の『なれの果て』だ」

 

 箱が開けられる。

 

 中から出てきたのは、キンキンに金箔を貼られた、三つの「髑髏(どくろ)」だった。

 

 眼窩(がんか)が、虚ろに俺たちを見つめている。

 

「ヒッ……!」

 

 家臣たちが悲鳴を上げる。

 

 悪趣味すぎる。

 

 死者への冒涜(ぼうとく)だ。

 

 だが、信長は、その中の一つ――浅井長政の髑髏を手に取り、なみなみと酒を注いだ。

 

「猿。前へ出ろ」

 

「……はっ」

 

「貴様が殺し、貴様が『大事にする』と誓った男だ。……飲め」

 

 信長は、金色の髑髏杯を、俺に突き出した。

 

 俺は、震える手でそれを受け取った。

 

 軽い。

 

 人の頭とは、こんなにも軽いものなのか。

 

 だが、俺にとっては、地球そのものより重かった。

 

(長政……)

 

 俺は、髑髏の(ふち)に口をつけた。

 

 冷たい金の感触。

 

 酒の味はしなかった。

 

 鉄と、血と、そして妄執(もうしゅう)の味がした気がした。

 

 俺が一気に飲み干すと、信長は「でかした!」と笑い、半兵衛は静かに拍手をし、光秀は目を逸らした。

 

 その時。

 

 宴席の末席。

 

 お市様の隣に座っていた幼い少女――長政の長女・茶々と、目が合った。

 

 まだ七歳ほどの少女。

 

 だが、その目は、父親・長政譲りの、あの「純粋すぎて狂気を(はら)んだ」目をしていた。

 

 彼女は、父親の頭蓋骨で酒を飲む俺を、じっと見つめていた。

 

 憎しみではない。

 

 まるで、「将来の獲物」をロックオンするかのような、無邪気な好奇心で。

 

(……ヒッ)

 

 俺は、髑髏を取り落としそうになった。

 

 『覇道』知識が告げる。

 

 この少女こそが、将来、俺の側室となり、豊臣家を滅亡へと導く「淀殿(よどどの)」だと。

 

 俺の「人の心が重い」リストから、長政(ヤンデレ)が消えた。

 

 だが、代わりに、その怨念と血を受け継いだ、さらに厄介な「ラスボス(茶々)」が追加された。

 

 黄金の髑髏が、カタリ、と笑った気がした。

 

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