過労死ゲーマー、藤吉郎になる。 ~知識チートはあるが、人の心が重すぎる~   作:ブンチョウ

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第8話:能動的介入(とシステムの裏切り)

稲生の戦いは、終わった。 結果は、史実(ゲーム)通り、信長の圧勝だった。 弟・信勝は城に逃げ帰り、柴田勝家の(裏切りを許された)活躍もあって、林秀貞は捕縛された。

 

俺は、本陣の隅で胃液を吐き続けた後、生ける屍のように清洲城に戻ってきた。 タケシの「首」が、まぶたに焼き付いて離れない。 『覇道』の勝利BGMなど、もちろん流れてはいない。ただ、城には負傷した兵のうめき声と、死体を焼く匂いが充満していた。

 

(何が「天下統一」だ…) (何が「成り上がり」だ…)

 

俺は、人を殺す「リアル」の重さに、完全に心を折られていた。 過労死した前世の方が、よほどマシだった。

 

その日の夕方。 城の大広間で、「戦後処理」が始まった。 信長は、血糊がわずかに残った鎧を脱ぎもせず、玉座に座っている。 その前に、裏切り者たちが引き据えられていた。

 

筆頭は、林秀貞。 そして、彼にそそのかされて弟(信勝)側に付いた、足軽や下級武士たち数十名。 彼らは皆、縄で縛られ、死を覚悟した顔で震えていた。

 

(ああ……)

 

まただ。 あの「辛そうな顔」。 タケシと同じ、恐怖に歪んだ顔だ。

 

俺は、信長の草履取として、部屋の隅に控えていた。 (見たくない、見たくない、見たくない…)

 

信長が、冷たく言い放った。 「林秀貞。申し開きは」 「……ござりませぬ。若様の、お好きなように」 林秀貞は、観念したように目を閉じた。

 

「そうか。では、斬れ」 信長の命令は、ゲームのクリック並みに軽かった。 「こやつらに与える慈悲はない。全員、首を()ねよ」

 

「お待ちください!」

 

声が、出た。 俺は、自分でも気づかないうちに、大広間の真ん中に飛び出していた。

 

(あ……)

 

信長も、柴田勝家も、捕らえられた者たちも、全員が俺を見た。 信長の目が、ゆっくりと細められる。 「……なんだ、猿」

 

(ヤバい! ヤバい! ヤバい!) (俺、何をやってる!?) (信長の裁定に、馬鹿担当の俺が口を挟んだ!?)

 

信長は、まだ何も言っていない。 なのに、俺は勝手に動いてしまった。 いままでは信長の「入力」があって、初めて「選択肢」が出た。 だが、今は?

 

(システム! 選択肢を出せよ!) (今すぐ「B: ウキキ!(処刑の舞)」でも「C: 焼き芋」でも何でもいい! 出してくれ!) (そうじゃないと、俺は「素」のまま、この魔王の怒りを買う!)

 

俺が必死に「システム」の介入を願った、その時。 俺の目の前に、半透明のウィンドウが浮かんだ。

 

…だが、その内容は、いつもとまったく違っていた。

 

【緊急イベント:裏切り者への裁定】 主人公の『能動的介入』を検知。 以下の選択肢から行動を選びなさい。

 

A: 「(彼らを指差し)若様のお慈悲を無下にした愚か者ども! 拙者が今すぐ、この手で!」(忠誠度UP / 捕虜全員 処刑)

B: 「(土下座し)彼らは騙されたのです! どうか、命だけは! この藤吉郎の命に代えても!」(忠誠度DOWN / 捕虜の命運(不明)? / 主人公 死亡リスク)

C: 「ウキキ…?(意味もなく、その場で混乱したように踊り始める)」(状況リセット / 捕虜全員 処刑)

 

「あああああああああ!!!」

 

俺は心の中で絶叫した。 (なんだこれは! いつもと違う!)

 

いつもなら、Cを選べば「馬鹿だなあ」で済んでいた。 だが、今回のCは違う! 【状況リセット / 捕虜全員 処刑】!? 俺が馬鹿のフリをしたら、この数十名は、俺の目の前で殺される!

 

(ダメだ!) タケシの顔が、フラッシュバックする。 もう、目の前で人が死ぬのは嫌だ!

 

(じゃあ、Aか!?) 【忠誠度UP】。ゲーム的には「正解」だ。 だが、その結果は【捕虜全員 処刑】。 俺が、この人たちの「処刑ボタン」を押すことになる。

 

(冗談じゃない!) (俺は、それを止めたくて飛び出したんだ!)

 

(残るは……B) 【忠誠度DOWN】 【死亡リスク】

 

(こ、殺される……俺が!) 信長の機嫌を損ね、命に代えて助命を乞う。 この魔王が、それを許すはずがない。

 

だが、俺の目の前には、震えている数十人の「タケシ」がいる。 俺の背後には、彼らの命(AかB)を握る、地獄の選択肢がある。

 

(ああ、そうかよ…)

 

俺は、過労死した前世を思い出す。 あの時、俺は助けを求められず、アラートも上げられず、ただデスクで死んだ。 あの時、「助けて」と言えていれば。

 

俺は、震える足で、覚悟を決めた。

 

(もう、C(馬鹿のフリ)で逃げるのは、終わりだ)

 

俺は、意識の指で、 【B】を選択した。

 

体が、勝手に動く。 俺は、信長の玉座の前まで這い進むと、床に額がめり込むほどの勢いで土下座した。

 

「若様! お待ちください!」 俺の「素」の声だった。 「この者たちは! 林秀貞に騙されただけの、ただの愚か者どもにございます!」

 

「……ほう」 信長の、温度のない声。

 

「彼らには、タケシ…いえ、家族がおります! 帰りを待つ者がおります! どうか、どうか命だけは!」 俺は、床に頭をこすりつけ続けた。

 

「若様! もし、彼らの命をお取りになるというのなら!」 俺は顔を上げた。 涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

 

「この木下藤吉郎の命を、代わりにお取りください! 彼らの命の代わりに!」

 

「…………」

 

大広間が、凍りついた。 柴田勝家が「猿め、貴様、何を…!」と息を呑む。 捕らえられた兵士たちも、俺の突飛な行動に目を丸くしている。

 

信長が、ゆっくりと立ち上がった。 俺の目の前に、影が落ちる。

 

「……面白い」

 

信長は、俺の頭を、足で踏みつけた。

 

「ぎっ…!」 「貴様は、俺の一番の『馬鹿』だ。馬鹿の命なぞ、兵士数十人の価値には到底及ばん」

 

(だめか…!)

 

「だが」 信長は、俺を踏みつけたまま、冷酷に笑った。

 

「貴様の命は、今、俺がもらった。貴様は俺の『所有物』だ。俺の所有物が、勝手に『死ぬ』などと口にするな。不愉快だ」

 

信長は、俺の頭から足をどけると、玉座に戻った。

 

「柴田」 「はっ」 「そこの馬鹿の言う通りだ。捕虜(そいつら)を殺しても、俺の腹は膨れん」 「では…?」

 

「林秀貞は、斬れ。だが、残りの雑兵は、全員、馬鹿(こいつ)にくれてやる」 「は……はひっ!?」 俺が、顔を上げた。

 

「猿。貴様が命を懸けたそいつらだ。貴様が責任をもって『使え』。明日から、貴様は草履取ではない」 信長は、ニヤリと笑った。

 

「『足軽頭(あしがるがしら)』だ。その数十名を率いて、俺のために働け。……もし、こいつらが次にしくじれば」

 

信長は、俺の心臓を指差した。

 

「その時は、こいつらと、貴様の命(所有物)を、まとめて俺が壊す」

 

俺は、呆然としていた。 (足軽頭…? 俺が?)

 

助かった。 俺も、捕虜たちも。

 

だが、俺は「素」の感情で行動した結果、ゲームのシステム(B)に誘導され、数十人の「リアルな命」の責任を、いきなり背負わされてしまった。 もう「馬鹿」ではいられない。 俺の『戦国の覇道』は、俺が初めて「人の心」を選んだ瞬間、本当の「地獄」にモードチェンジした。

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