遊戯王5D,s 未来へ・・・   作:決闘者イカ焼き

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満足と、憂鬱と、
目覚め


 漆黒の世界の折々に赤くぼんやりとした光が交る。俺は今寝ているのだろう。だからこそ闇と光が交わるのだ。ただ…

 

「まてぇーー」

「へへーん。捕まえてみろ~」

「きゃはは……」

 

 子供たちの騒ぐ声がきこえる。俺はゆっくりと目を開ける。

「うっ」

 窓から差し込む光が突き刺さり、思わずまた目を閉じた。左手で日差しを避けつつ目を慣らすために辺りを見回した。木でできた壁に年季の入った窓。その奥には騒ぎの主たちであろう小さな子どもたちが遊んでいる。そして自分の眠っていたベッド。ベッドは大分古いらしく、俺の動きに合わせてギシギシと音を立てるが、シーツだけは太陽光に反射して新品のように真っ白に輝いている。そして窓の反対側にはテーブル。その上にはいくつか物が置かれている。どうやら病院ではなさそうだ。俺はゆっくりとベッドから這い出る。そしてテーブルの前で立ち止まった。テーブルのk・cのロゴが入った赤い帽子と黄金のデュエルディスクが目に留まった。俺が帽子に手を触れようとした時、ガチャリと音がして思わず帽子から手を引いた。

 

「おや、やっと起きたのかい。」

 

 ドアの前に立つ体格の良い黒人女性。歳は若くはないだろう。せいぜいおばさんといったところだ。

 

「あなたは?」

 

「私はマーサ。ここの孤児院の院長をしているよ。あんたの名前は?」

 

 その女性、マーサはにっこりと笑う。悪意のない、善なる笑顔だと肌でと感じられる。怪しい者ではなさそうだ。

 

「俺の名前は………」

 

 言葉が続かない。そこから先の情報がタブララサのように何もないように感じられる。一生懸命思い出そうとするが、何もない空間に拾える情報はない。沈黙の時間がながれる。俺はマーサに頭を下げる。

 

「ごめんなさい。思い出せません。」

 

「思い出せないって、記憶がかい?」

 

 俺は小さく頷いた。彼女は少し動揺を見せたが、マーサはそのまま壁に掛けてある赤いジャケットを手にする。

 

「これは、あんたが着ていたジャケットだよ。もしかしたらあんたの持ち物にあんたの名前ぐらいは書いてあるかもね。あんたは机の上のディエルディスクとデッキを調べておくれ。どちらもあんたのものだからさ。」

 

 そう言うとマーサは赤いジャケットの裏を調べ始める。俺はディエルディスクを手に取る。金の装飾が施されているディエルディスクだ。ところどころに生傷らしいものはあるが名前らしいものは特に見つからなかった。

 

「ディエルディスクには名前はないです。」

 

「そうかい、こっちも名前は見当たらないよ。」

 

 そう言うとマーサはジャケットをハンガーに掛け直した。そして俺は黒のデッキケースに手を伸ばす。ケースにはやはり名前が書いていない。俺はケースの蓋を開けてデッキを取り出した。そしてデッキのカードを一枚一枚机の上に並べ始める。マーサはその並べたカードに目を通す。

 

「E・HERO………かい?」

 

「そうみたいです。」

 

 何か困惑の混じるマーサの問いに短く答える。そう、デッキの内容は間違いなく「HERO」だった。戦士族中心のカテゴリらしいが属性はバラバラ。しかも全体的にステータスも低い。ただ、エクストラデッキにはなかなか優秀なモンスターがそろっている。要するに「融合」をしろというのだろう。

 

「マーサは『デュエルモンスターズ』のこと、詳しいんですか?」

 

 素直に出てきた『デュエルモンスターズ』という単語に懐かしみを覚える。マーサは気づいたのか気づかなかったのかそのまま俺の問いに答える。

 

「まあね。ウチの子供たちに丁度あんたぐらいのコのデュエル馬鹿が3人いてね…私自身

も無縁じゃないしなるべく新しい情報は仕入れるようにしているんだよ。」

 

「そうなんですか。」

 

「アンタを助けたのもその中の一人だよ。アンタが起きたらデュエルしたいとも言っていたねぇ。同世代の仲間が増えそうで嬉しかったのだろうねえ。」

 

 マーサはニコニコと笑顔を見せる。一体どんな人物なのだろうか。助けてくれた礼も言わなければならない。

 

「その、彼はどこにいるんです?」

 

「うん?遊星は今他の二人と一緒に出かけているよ。まあ、夕方には帰ってくるさ。」

 

「そうです…か……」

 

 遊星…………ユウセイ… ………ユウセ ……… …ユ……  ……イ…

 

 !? 

 頭の中で反復されるその言葉。禁止用語に触れたような不快感。頭が痛い…。

 

「うっ……」

 

 目の前が光りだす……いや、闇がうごめいて……

光と闇が激しく混じりあう。闇と光が激しく溶け合う。融和する。

 

「…ちょっと、大丈夫かい!?」

 

 マーサの呼ぶ声に現に引き戻される。俺は壁に背をつけてへたり込んでいた。そして額にはジワリと滲んだ潮気。額の汗をぬぐうと心配そうに見つめるマーサの手を借り立ち上がる。助かった。何に対してかはわからない。とにかく何かが守られた気がする。

 

「いや…大丈夫…ありがとうマーサ。」

 

 大丈夫。大丈夫。痛みは無くなった。さっきは何だったのだろうかと思うぐらいに大丈夫。

 

「…ふう。また倒れられちゃたまらないからね。」

 

 ため息をこぼすマーサに申し訳ない気持ちがこみ上げる。理由はない。強いて言うのならば事なかれ精神というモノなのかもしれない。マーサは「そうかい」、とそう呟いて俺を椅子に座らせる。そしてマーサは俺に向かい合うように座った。

 

「落ち着いたかい。」

 

「はい。ありがとうございます。よければ、質問続けていいですか?」

 

 平気だ、と一度深呼吸をしてみせる。実際に、さっきの幻覚とでも言ってもいい歪みは夢ののように儚く記憶から薄れてきていた。

 

「いいけど…無理はしないでおくれよ。アンタまだ体が本調子じゃなさそうだし。」

 

「はい…と、言っても先ほどの俺のHEROを見たとき、何故そんなに驚いていたのか聞きたかっただけですけどね。」

 

 先ほどのマーサの戸惑いが気になったのだ。そして、彼女の知っているHEROとは何なのかというのも知りたいというのもあった。

 

「あぁ………始めて見る【E・HERO】モンスターが多くてね。確かこのカテゴリは通常モンスター主体だったはずだからねぇ。あと、その融合モンスター達も初めて見る物ばかりだし。それにその無地のカードも気になっちゃってねぇ。」

 

「なるほど…」と小さくうなずく。確かに今広げている【E・HERO】達には通常モンスターは含まれおらず、全て効果モンスターだ。なぜそのようなカードがこんなところにあるのだろう。そしてこの空白のカードだ。灰色のフレームにイラストは黒一色に染まっている。そして何も書かれていないテキスト。流石にこのカードは違和感を感じる。何か、まがまがしい何か、黒い何か、堕ちた何か、捨てられた何か……とにかく何か負の感情を連想させられる。俺はたまらずカードを裏返した。

 

「どうだい、何かわかったかい?」

 

「残念ながら、何も。」

 

 俺はカードをケースへとしまう。何も思い出せなかったのでこのカードたちの役目は今回は終わりだ。

 

「と、いうことはアンタ泊まる家もないわけだろ?」

 

「そうなりますね。」

 

 当たり前だ。しかしマーサは俺の返事を聞いてにやにやとこちらを眺める。少々気味悪さを感じるが黙々とカードをしまい続ける。

 

 カードをしまい終えると、待っていたとばかりにマーサは口を開いた。

 

「もしよかったらココに住むかい?」

 

 いきなりの提案だった。見知らぬ俺に家を提供する。

 

「…いいんですか?」

 

「もちろんさ。アンタ、まだ体が本調子じゃなさそうだし、ほっぽり出すなんて出来やしないよ。ただ、ここで暮らす分にはしっかり働いてもらうけどね。」

 

 マーサはウインクをしてみせた。そのまなざしは…温かかった。

 

「あ…ありがとうございます。」

 

 俺は深々とマーサに頭を下げる。かくして、俺はこの孤児院で暮らすこととなった。

 

 

 




 初投稿……緊張しますね。これからよろしくお願いします。
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