数日が過ぎ、大分この場所にも慣れてきた。まだまだ我が家とは言えないが……
いつもの如く朝食を済ませるといつもの様に遊星達は何処かへ出かけてしまった。なので俺は子供達の見守りという散歩に出かけていた。もちろん子供達から目を離している訳ではない。遠目にはしっかりと彼らがサッカーなり何なりをしている捉えている。彼らは毎日の様にああやって一日中走り回ってよくもまあ飽きないものだな……
「さて……座れる場所は……あ、丁度いいな。」
桜の木――先日カードを拾った木である。ここの木の下なら日陰なのでゆっくり出来る。俺は桜の木を背もたれに腰を落ち着けた。
「暑いなあ。」
額にじんわりと滲みだす汗を腕で拭う。この季節――春と言うのはやはり不安定だ。今日はどれくらいまで暑くなるのだろうか?
ここでは新聞も無いし、かろうじて映るテレビもシティという海を越えた町から電波を拾ってきているらしいから、此方の天気予報などは表示されない。不便である……
「夏になったらもっと暑くなるのか。たまらないなあ。」
そうぼやくと潮風が馬鹿にするように俺の頬を撥ねた。泡沫の涼感。もう少し吹いてくれてもいいのだが、風は桜の若葉を揺らして何処かへ行ってしまった。残念、とちらりとゆらりゆらりと揺れる枝を見て、また子供達に視線を戻した。
とはいえずっと見ているのも暇なもので、先日言われた事、サイキックの練習にについて少し考えてみる。あの時以来変にサイキックを発動させないためにデッキには手を触れず、子供達のデュエルの誘いもかわし続けていた。
「ああっ、サイキックの練習とは言ったものの……」
何をすればいいんだろうか?先日みたくドラム缶とかに攻撃するか?協力すると言ってくれた遊星達だけど、下手にデュエルしたら危ないしなあ。この力、どうしたら制御できるのか、それすらもよく解らないのだ。
先日やったことを改めて思い起こしてみる。……ああそういえば カードを実体化する時、モーメントの光が強まった気がするな。久しぶりにケースから取り出したデッキの上からカードを一枚引く。先日の出来事が最後にデッキと触れ合った機会だったので勿論引いたカードは――
「『ボルテック』……」
雷(いかずち)の戦士だ。昨日はお疲れ様だけど今日も頼むぞ。俺はカードを天にかざす。
「出てこいっ、『ボルテック』!」
……反応は無い。もう一度叫ぶのものの変わらず反応は無い。駄目だこりゃとカードをデッキへとしまった。――うむ、やはりモーメントを使わなければ大丈夫らしいな。これならとりあえず年少者達とのデュエルにも何とか応えてあげられそうだ。
それにしても彼ら――遊星達は何処を毎日毎日うろついているのだろう。昨日だって俺のサイキック云々を見た後何処かに行ってしまったし、今日も今日で何処か行ってしまったし、そういえば……初対面の時も……か……
まあ、マーサに育てられているからには非行に走る、ということは無いだろう……と思ったが、クロウの額の黄色のМ字って確か、そう、気になってマーサに聞いてみたら『マーカー』と云うモノらしく、犯罪したら附けられるらしいのだ。何でもマーサハウスの年少組にカードを与えるためにセキュリティ――サテライトの治安自治組織らしい――の押収したカード倉庫に忍び込んだのがばれて捕まったとか何とか……まあそんなことしていないと信じたいものだ。遊星やジャックもいることだし彼とて仲間を巻き込むことはしないだろう。
「まあ、帰ってきたら聞いてみるか。」
よいしょ、と腰を上げると大きく伸びをする。さて、部屋までディスクを取りに行こうとすると、丁度足元にサッカーボールが転がってきた。そのボールを足で受け止めると遠くから少年少女の声が盛大な足音と共に近づいてくる。
『よう!蹴ってよう!』
様々な声を集約するとそんな感じだ。「いくぞおっ!」と声を張り上げて、宙に放り投げたボールを力任せに蹴りあげる。ボールはそのまま彼らを飛び越えて大きく跳ねる。少し強く蹴り過ぎたかな?と思ったが、『ワァッ!』という声と共に遠くへと逃げていくボールを追いかける様を眺めつつ、杞憂だったようだと感じた。そしてそのまま歩を進めてマーサハウスの玄関を潜った。
自室に置いてあるディスクを手にしてまた玄関を出ると、右手では年少組がまだ血気盛んにボールを追いかけまわしている。まあ左側で練習すれば大丈夫だろう。ましてや今回はモンスターを動かすだけだ。そう、動かすだけだから。
再び桜の元へ戻ってくる。彼女はおいでおいでと迎え入れるように大きく若草を携えた枝を揺らす。どうもと一礼した後、彼女に背後を任せ俺はディスクを構える。昨日とは違うモンスターにしようかとデッキの上から五枚程度引く。
「――よしっ、来い、『ザ・ヒート』。」
その引いた札の内一枚をモンスターゾーンへと置く。キュイン!というモーメントの回転音と共に一人の戦士のソリッドビジョンが作られていく。炎の戦士にふさわしく、俺のメーンデッキの中では主力となりうるモンスターだ。まあ、今回はその力を見ることは出来ないが。
「よし、『バク転』出来るよな、ヒーローだし見せてくれ。」
流石の戦士も少し戸惑った様子であったものの、ハッ、と頷く。仕方があるまい。戦闘行為をせずに行動の確認をするにはこれぐらいしかないだろうに。そして彼はそのまま俺の目の前でバク転を披露する。戦士らしくキビキビとした動きに思わず感嘆の声を上げる。
「すごいな……」
その後も側転、空中一回転等様々な指令を出し、それを華麗にこなしていく彼の様子を見ているとなんだか己の心が震えてくる。――武者震い自分の腕試しがしたくなるのだ。
「なあ、『ザ・ヒート』、昔の俺ってお前と手合わせしていたか?」
俺の質問に少し間を置く。何か悩んでいる様であった――が、意を決したらしく彼はうむ、と頷いた。
「そうか……だから体は覚えているのか。そうだなあ――よし『ザ・ヒート』、俺と今から手合わせしないか?デュエリストなら体作りは大事だからね。それに……まあいいや。どう?」
デュエルは体力を使うモノだろう当然だ。ましてやこのサイキックを使うにも体力はいるのだ。きっと今の俺がこうして平気なのは昔の俺が体を鍛えていたからだろうし、今やめていたら体が鈍ってしまうだろう。
彼は再びの硬直――思考の後、スッっと臨戦態勢へと入る。戦闘前の静けさ……
「っ!!」
炎の戦士はあっという間に間合いを詰めて蹴りを放つのを、ガンッ、と鈍い音と共に何とかデュエルディスクで受け止める。
「見える!?くっ!」
蹴りが不発だったと見るやすぐさま距離を取って体勢を立て直し、改めて突っ込んでくる。そして今度は右ストレートを入れてくる彼の拳を屈む様にして何とかかわす。何度も何度も炎の様に攻め続ける彼に防戦一方で中々攻めるチャンスを与えてくれない。
「このままじゃあ消耗するだけだ、何とかしないと……グブッ!?」
只でさえかわすことに精いっぱいだったのに考え事をしたのが不味かった。彼の蹴りが腹部へと入り込み、その勢いで大きく跳ね飛ばされる。そしてそのまま地面を数回転した後、大の字で地面に寝転がり、青々しい空が視界に一面に広がる。
「痛いなあ、でも流石俺のモンスターってとこかな?――ああ、どうも。」
駆け寄ってきた炎の戦士の手を借りつつ立ち上がる。蹴られた腹をさすってみるものの痛みは最初だけだったらしく、今は特に何も感じない。
「どんな訓練したらこんな体になるんだろうね。」
己の体の頑丈さには自分でも苦笑いが零れる。それに、『それは俺のおかげだ』、と炎の戦士は胸を張って俺にアピールしてくるのでなおさらだ。
「お前が言うんだからそうなんだろうなあ。さてっ、もう一回お願い出来るかい?」
体に纏わりついた砂を払った後、俺は再び彼に稽古を申し込む。ああ、いいぞと彼は快く頷いてくれたのだが、いきなり彼は首の向きを変える。彼の向いた方向を見てみると、あの子供達が俺駆け寄ってくるのが見える。
「ああ、駄目っぽいな。また後程になりそうだ。ゴメンな自分から頼んでおいて。」
――彼は何も言わずに仕方がないと小さく首を縦に振る。了承と捉えておこう。
さて、駆け寄って来た子供達は戦士へ飛びついていく。「危ないよっ!」と声を掛けたものの、彼らの好奇心の前には、無力だった。
「わっ、ホントに触れる!」
「これ、中に人が入っているんだよ。ほらきっとここにマスクの……あれ、ない?」
「遊刃にーちゃん!これホントににーちゃんが出したヒーローだよね?」
「ああ、そうだよ。」
「スゴイスゴイ!他の兄ちゃんたちとはちがって、にーちゃんはまほうつかいだねっ!」
「ハハハ……魔法使いね。」
幸い事故は起こらなかったのでホッ胸を撫で下ろした。彼の表情をちらりと見ると、迷惑そうにしている様に見えたがそこはファンサービスとして頑張ってほしい。――にしても魔法使いね。創造する風貌は違うけれど、まあ似たようなモノか。あながちサイキックは魔法といっても差支えないだろう。
「あ、そうだ。遊刃にーちゃん。今ヒマならデュエルしてよ。」
一人の少年が俺の袖を引っ張る。なんといきなりな……まあ暇なのかな?彼との訓練はまた後にしようと伝えているし、彼らからは何度もラブコールを受けている訳であって、断る理由も見当たらない。
「ああいいよ、デュエルディスク無しでならね。」
「うん、お兄ちゃんたちみたいにデュエルディスク無いから大丈夫だよ。」
「ディスク持って無いのか?」
子供達は「うん。」と頷くそして、各自に色々と理由を喋り始めた。皆が一斉に喋ってしまっては話が混在し全く理由が解らないのでとりあえず落ち着かせ一人一人に聞いてみたところ、要約すると、「サテライトではゴミとして流れてくる大人用のデュエルディスクは改修されてこの地の人々は使っているが、子供用のデュエルディスクはそのパーツとして分解されてしまうため出回っていない。」ということらしい。
「ああ、解った。じゃあ何処でやるかい。マーサハウスでいい?――じゃ、行こうか?」
「ワッ」とぞろぞろと玄関へ吸いこまれていく。
「――さてと、お疲れ。後で肩揉んでやるよ。」
スッ、と姿を消した戦士は俺の手元へと戻る。そして彼の家へしばしの休息を。すぐに呼び戻されるだろうけど、コーヒーぐらいは飲めるだろう。
「そういえば彼、口無いや。どうやって飲むんだろ?そもそも飲まない?」
ドアを手を掛けた際ににふと思いついたもが、後で聞いてみるか?
ギシ……そのままドアを潜る。
食堂――ある程度観客も収容できるデュエル会場でもある。そこでは既に彼らが試合の準備を終えていた。
「さて……ああ、もう準備出来てるのか、速いなあ。」
「そりゃーみんな楽しみになんだもんね。」
彼らは「ねーっ」と声を揃える。そんなに俺とのデュエルを楽しみにしていたのか、それとも只只デュエルがしたいだけなのか。前者だったらいいなと苦笑いしながら席に着いた。
圧倒的な大衆監視、アウェーとも呼べる中、俺はデッキを取り出す。相手は?
彼らを見渡すと、一人の少年が俺の相席へと着いた。
「ようし、オイラは角井敏行。よろしく、遊刃さん。」
「角井君ね。よろしく、良いデュエルにしよう。」
誰かが置いてくれたらしいプレイマットへとデッキを置き、カードをシャッフルの後のカット。この手の操作はデュエルディスクが引き受けてくれるから、新鮮さ、そして心の安堵感を感じた。尚古とでもいうのか?可笑しな話でもあるのだが。
「先行は譲るよ。」
「ん?そうかい。じゃあありがたく先行はもらうよ。」
正直、先行でドローをするというのは体の中で軽い抵抗感があるといのもある。そんな得なことさせてもらってもいいのかと。だが、今の俺のデッキではそんな悠長なことは言ってられないのも事実だ。
「……さあ、楽しくな。」
ターン1
角井敏行 LP4000
門音遊刃 LP4000
「うん、ドロー。」
彼はカードを一枚引くと、手札が良かったのか、頬が緩んでいる。対して此方は……
「うーん、よし、オイラはモンスターをセットするよ。伏せカードは……一枚にしてターンエンド。」
「了解、俺のターンか。」
デッキから一枚カードを引く。
ターン2
角井 LP4000 手4
門音 LP4000 手6
「さて、どうしようか。」
彼のデッキとは初めて戦うから、コンセプトや戦略などは全く解らないので伏せてあるモンスターや魔法罠が一体どんなモノか解りもしないが、ここでは動くしかない。
「せっかくの休憩を邪魔して悪いけど――頼んだよ、俺は『E・HEROザ・ヒート』を攻撃表示で召喚、何かあるかい?」
「いいや、無いよ。」
「そうか、『ザ・ヒート』の攻撃力は自分の場のヒーローの数×200ポイントアップする。よって攻撃力は1800に、バトルに移行してそのままセットモンスターに攻撃。」
ニヤリと笑う角井の手によってセットされていたモンスターが明かされる。
「残念、オイラの伏せていたモンスターは『番兵ゴーレム』。守備力は同じだから破壊はされないよ。」
「ああ、そのようだね。」
反射ダメージが無いのが幸いか……それにしても、守備力1800か、次の俺のターンまで炎のヒーローが持っていてくれれば、何とか新たなヒーローを呼んで突破できるが……というより今のこの手札、もといデッキの中のカードではそれ位しか突破口が無さそうだ。
「さてと、メイン2に入るしか無さそうだ。俺はカードを2枚伏せる。これでターンエンド、さあ来い。」
「ようし覚悟してよ、オイラのターンだ、ドロー。」
ターン3
角井 LP4000 手5
門音 LP4000 手3
「さてと、オイラは番兵ゴーレムの効果発動!番兵ゴーレムは1ターンに1度裏側守備表示に出来る。」
「了解、どうぞ。」
すると、少年は表になっていた番兵ゴーレムを裏側にする。既に明らかになっているモンスターを裏側にしたとて、だからこそ何かしら仕掛けてくるのは解りきった事だ。とはいえ……
「じゃあ、そのままオイラは番兵ゴーレムを反転召喚。」
再び表になる番兵。だが今度は攻撃表示だ。
「番兵ゴーレムの効果発動するよ、コイツは反転召喚に成功したら相手モンスター一体を手札に戻すことが出来るんだ。だから兄ちゃんの戦士を手札に戻させてもらうよ。」
「へぇ、中々強いな。」
俺はフィールドに佇む『ザ・ヒート』を手札に戻す。
「もう反転効果は使ってしまったし大して攻撃力も高く無い。これで終わる訳は無いよなあ。」
少年は「モチロンさ。」笑みを浮かべる。此方のモンスターはガラ空き。一応二枚の伏せカードはあるが。
「オイラは『番兵ゴーレム』をリリースして、手札から『地帝グランマーグ』をアドバンス召喚!」
番兵が彼の手によって墓地へ送られて、新たな僕が召喚される。
「『グランマーグ』の効果発動!このモンスターがアドバンス召喚に成功したとき、相手のセットされているカードを破壊できるんだ。オイラは右側のセットカードを選択するよ。」
彼にとっての右側、つまり俺からみると左側のセットカードまだ使いたくなかったが……仕方がない。
「チェーン発動しようかな、『偽物のわな』発動。トラップカードが破壊されるときに身代わりができる。敏行君の選択したカードはほら、『ヒーローシグナル』。よって身代わりは適用される。」
「だけど、これで遊刃にーちゃんは地帝のダイレクトアタックを防ぐカードはない事が解ったよ、バトルフェイズに入ってそのままダイレクトアタック!」
「仕方ない、ライフで受けるよ。」
計算機で地帝の攻撃力、2400を4000から引く。あともう一体、モンスターを展開されていたら、負けていたかもしれない。危ないところだったと苦笑いを浮かべる。そう簡単に負けてしまっては、期待してくれている彼らにも申し訳ない。
門音 LP4000→1600
彼の地帝の攻撃にギャラリーは歓声を上げる。少年は「へへっ」と照れ笑いながら、手札を扇の様に開いたり閉じたりを繰り返している。
「オイラはこのままターンエンドするよ。」
俺のターンか、ここで一発いけるか?巻き返せるか?
「じゃあ、ドロー。」
ターン4
角井 LP4000 手3
門音 LP1600 手4
デッキの一番の頂点をめくる……引いたカードを見て、心の中でため息を漏らす。
まだか……ここは、凌ぐか?
「モンスターをセット、そして、もう一枚。」
「凌げるかなあ?ターンエンド。」
「ふーん、その伏せカードが気になるけど、まあ、オイラのターンだ。ドロー。」
ターン5
角井 LP4000 手4
門音 LP1600 手2
少年は「よし」と小さく呟くと手札からカード一枚を場に置いた。
「オイラは『巨大ネズミ』を召喚。そしてバトルフェイズに入るよ。どちらにしても『ヒーローシグナル』があるからね。」
「モンスターは残るよ。」
「うん、『グランマーグ』でその伏せモンスターを破壊!」
裏側のモンスターを表にする。結局、何も出来ずに破壊される炎の戦士は墓地に送られてしまった。しかしっ!
「トラップ発動!『ヒーローシグナル』!効果でデッキから『HERO』を特殊召喚する。俺はデッキから『エアーマン』を特殊召喚!そして効果発動、デッキから『ブレイズマン』を手札に加える!」
「うん、オイラはこのままバトルを終了するよ。カードを一枚伏せてターンエンド。」
さて……このドローかなあ。
「兄ちゃんがんばれ~。」
子供達の応援が聞こえる。ミャーコか?一瞬目の前の少年の顔が曇ったように見えた。
「さて、ドロー。」
ターン6
角井 LP4000 手札2
門音 LP1600 手札4
相手の伏せカードは二枚、1ターン目から伏せたカードと先程伏せたカード、少なくても一枚は妨害もしくは防御カードだろう。そして此方の手札は4枚、いや5枚か。
「俺は手札から『ブレイズマン』を召喚、効果で『融合』を手札に加える。」
「融合…ってことは……』
「ああ。」
やるよ、とニコリと微笑みかけながらデッキをシャッフルする。相手のフィールドは『地帝』と『ネズミ』、ここは『地帝』を倒すべきかな?デッキを定位置へ戻し、手札から緑のカードをフィールドへ出した。
「俺は『融合』を発動。フィールドの『エアーマン』と『ブレイズ』を素材に――」
エクストラデッキに手を掛けると、外野から「そういえば、遊刃兄ちゃんってさあ」と少女の声が聞こえた。その声の主を辿ると、赤髪の少女が何か物足りげな顔で俺を眺めているのだった。
「ミントか、何だい?」
ミント・ロケット、この孤児院の女の子の中では活発な部類に入り少年等と遊んでいる為か、自身の事をボクと呼んでいる、ちょっと変わった娘である。数日の観察を見て、ここの少年少女達は何故か一癖あるように見える。あのマーサに育てられているのにもかかわらずだ。その理由は解らないが遊星達も十分一癖二癖あると言えるだろうし、伝統なのかもしれない。
「そう、そうだよ!兄ちゃんは足りないよっ!」
「え?」
「折角強力モンスターを出すのに掛け声一つ無いなんてエンジンが燃焼不良のロケットだよ!」
そう言って彼女は此方へビシリと人差し指を立ててきた。俺は「は、はあ。」と良く解らず硬直するが、続けて彼女が口を開く。
「クロウ兄ちゃんだって、シンクロ召喚するときはカッコよく決めてくれるんだよ!」
シンクロ召喚の合間…?
「多分、ミントは口上の事を言っているんだよ。」
その意味が解ったらしい角井君が俺へ教えてくれた。
「口上?」
「エースモンスターって兄ちゃんにもあるだろ?クロウ兄ちゃん達は召喚するときに言うんだ。プロでもよく使われているんだよ。」
「影響?――ってことは角井君も?」
「どうかな?」
彼の返事を見る限りまだエースは出ていないのだろう。にしても口上ねえ、まあ皆使っているようだし、考えておこうか。
「そう、まあ口上ってのは考えておくよヒーローは口上が大事だもんな。」
「うん、ボク楽しみにしてるよ。」
あまり期待はしないで欲しいなあ。後でマーサに辞書借りなきゃいけなくなる。
「ハハハ…期待は程々にね、さて、プレイを続行するか。俺は『E・HEROノヴァ・マスター』を融合召喚。」
改めてエクストラデッキに触れ直す。この中で最も適任そうなのは彼である。攻撃力2600であり、相手を破壊すればドロー出来る能力を持つ。ドローは大事だ。
「バトルフェイズ、『ノヴァ』で『地帝』に攻撃!」
「くうっ、なんにも無いよ。」
角井 LP4000→3800
遊刃 手札3→4
雀の涙のダメージだ。此方のライフに比べれば圧倒に多い。何かの拍子にダメージを食らってもおかしくない。相手には『エース』がいる。そのためにも防御札を何とか敷き詰めて置きたい。
「俺は手札を一枚伏せてターンエンド。」
今引いたカードをそのまま伏せて、終わりを告げる。相手のエースは一体どんなモンスターなのだろうか。
「オイラのターン、ドロー。」
ターン7
角井 手札3 LP3800
門音 手札4 LP1600
『ノヴァ』の登場に少し焦りを見せた彼であったのだが、カードを引いたらその表情は光を見せた。
「オイラは墓地の『地帝』と『番兵』を除外するよ。」
「来るのか?」
「うん。」
少年は一枚の手札を持ち、口上を放つ。
「大地の怒りを身に浴びてその拳にて粉砕せよ、開眼の時!『地球巨人ガイア・プレート』!」
ディスクを通さないのでカードイラストでしかその姿を拝むことはできないが、さぞかし豪快な演出になっただろう。
「どう?オイラのエースは?バトル!行け!『ノヴァ・マスター』に攻撃!」
「中々強そうだね。攻撃力も此方を上回っている。」――が、申し訳ないがその力を利用させてもらうことにしよう。俺は伏せてあるカードに手を伸ばした。
「リバースカードオープン!『異次元トンネル―ミラーゲート―』。」
「トラップカード!?」
「効果は戦闘モンスターのコントロールを入れ替える、残念だけどその力貸してもらうよ。」
「くぅ……」
やってしまったと悔しそうにモンスターを交換する。そしてそのまま戦闘は続行する。
「ガイアプレートは戦闘時に相手の攻守を半減させるんだ。」
「へえ、実質5600未満のモンスターまで戦闘破壊可能かあ、エースに相応しいな。」
『ノヴァ』は攻撃力が半減し1300になり、2800の威力の拳が襲いかかった。
角井 LP3800→2300
「オイラはモンスターを一枚伏せて、ターンエンド……」
「エンドフェイズに『ガイアプレート』は角井君に戻る。」
彼に『ガイヤプレート』を手渡すと不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「ったく酷いや、折角のエースを奪うなんて。」
「ハハハ、ごめんよ。」
とはいえ、此方のフィールドはガラ空き、相手は5800打点と小粒。このターンに何とか――
「ドローッ。」
ターン8
角井 手札1 LP2300
門音 手札5 LP1600
「俺は手札から『融合回収』を発動、墓地から『ノヴァ』の素材になった『エアーマン』と『融合』を手札に加える。そして、『エアーマン』を召喚、効果によってデッキから『シャドーミスト』を手札に加えるそして手札から『融合』を発動、フィールドの『エアーマン』と手札の『シャドーミスト』を融合、『E・HERO Great TORNADO』を融合召喚。」
「また融合か~。」
「コイツもスペシャルだよ。効果発動、相手モンスターの攻撃力と守備力を半減させる。つまりだ、『ガイアプレート』の攻撃力は2800、つまりはコイツと同じになる。そして彼の効果にチェーンして『シャドーミスト』の効果を発動、デッキから『HERO』一体を手札に加える。俺が手札に加えるのは『ボルテック』。」
「だけどっ――」
「まだ終わって無いよ。手札から魔法カード『ヒーロー・マスク』を発動、デッキから『HERO』を墓地に送ることで俺のモンスターの名前を変更できる。俺はデッキから『オーシャン』を墓地に送って『竜巻』の名前を変更。」
「カード名変更…彼をそのモンスターを素材にまた融合?」
一気に倒すと言わんばかりの勢いに少年は厭きれたと顔を渋らせる。もう少し、我慢して欲しいと申し訳なく笑いながら心の中で呟いた
「半分正解って処かなあ?手札から『ミラクル・フュージョン』を発動。」
「みらくる?」
「ああ、このカードは墓地のモンスターを除外して融合召喚出来るっていう効果、中々強いだろ?」
「なんだかインチキだなあ。」
「ハハハ、俺は墓地の『オーシャン』と『ザ・ヒート』を融合、『E・HEROアブソルート・ZERO』を融合召喚。」
水属性の戦士、攻撃力は2500、少し低いが目の前の敵を凍らせ尽くすその効果は凶悪無慈悲の一言に尽きる。
「バトル!『ZERO』で『ガイアプレート』に攻撃。」
「えっ、自爆?」
遊刃 LP1600→1450
「『アブソルート』はフィールドから離れると真の力を見せてくれる。効果発動、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。」
「ええっ!?ちょっとカード見せてよっ!!」
少年は俺の墓地の水の戦士を手にとってじっくりと眺める。そして「ホントだ…」と声を漏らしたのだった。そして俺にカードを還すと仕方なしに『ガイアプレート』と『ネズミ』、裏側のモンスターを墓地に送った。
「続き、『竜巻』でダイレクトアタック。」
「まだっ!リバースカード、『化石岩の解放』!除外された岩石族一体、『地帝』を守備表示で特殊召喚!」
「壁か。」
「ホントは追撃で使いたかったけど……」
『竜巻』は『地帝』を破壊する。惜しいなあ。
「俺はターンエンド。」
「オイラの…ターン!」
ターン9
角井 LP2300 手2
門音 LP1450 手3
「……ああっ、だめだあ。」
少年はモンスターを一枚、手札を枚伏せてターンエンドした。いいカードが引けなかったのだろうか。まあ、この状況を巻き返すのは難しいだろう。
ターン10
角井 LP2300 手0
門音 LP1450 手4
「俺は『ボルテック』を召喚、バトル、伏せモンスターを『竜巻』で攻撃。」
伏せモンスター『ロストガーディアン』はあえなく破壊される。
「そして『ボルテック』でダイレクトアタック。」
「何も無いよ。」
角井 LP2300→1300
「効果、ボルテックは戦闘ダメージを与えたら除外された『HERO』一体を特殊召喚出来る。俺は『オーシャン』を特殊召喚、そして『オーシャン』でダイレクトアタック。」
「ふぅーヤケクソだぁ、リバースカード『岩投げアタック』、『伝説の柔道家』を墓地に送って相手に500ダメージ。」
門音 LP1450→950
彼の最後の悪あがきも終わり、そのままデュエルの『オーシャン』のダイレクトアタックが成功する。
角井 LP1300→0
「あ~負けちゃった。でも次はオイラが勝つよ。」
「ああ、またやろうね。」
辛勝であったが勝ったことは素直に喜んでいいのではなかろうか?何とか年長者の意地を見せることもできたし……ホッと愁眉を開いた。
気がついたら六月の半ばですよ。デュエルパートはかなり時間かかりますね、そして内容も薄いという……他の投稿者さんに学ぶ事はたくさんあります。次回も「あ、この人生きていたんだ」という気持ちでお待ちしていてください <(_ _)>