蜘ノ糸ノ青   作:おねむなボンちゃん

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初投稿です。ハーメルンどころか創作自体初めてなので見苦しい文章かもしれませんが、よろしくお願いします。


プロローグ

 

 

「俺には苦痛しかありません。それ以外の…。」

 

「はぁ…疲れるな…。」

 

都市のどこかの下水道。

 

人差し指の神託代行者、リアンはリンバス・カンパニーに敗れた後、指令を破ったことで追ってきた代行者を始末したが、その疲労からか、壁にもたれかかっていた。

 

そして

 

「は…はは…ははははは!」

 

リアンに対する指令の主…ヘルメスにより、彼と(ヨシヒデ)との思い出の象徴でもあるフォプーンによる自害を命じられた。

 

「娘、どうやらお前は…。」

 

「お湯をかけて融かしてくれるのを…。」

 

「忘れたみたいだ。」

 

幼かった娘との会話を思い出しながら、一切の躊躇なくフォプーンを頭へ突き刺し、その身体が氷のように冷たくなっていく。

 

こうして、リアンの人生は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時間が経ったのだろうか、リアンは再び目を覚ました。

 

瞬間、明るい光が彼の目に差し込み、思わず目を腕で覆った。

 

辺りを見回すとそこは病室のような場所であり、先ほどの眩しい光は窓から差し込んできた夕陽によるものだったようだ。

 

(ここはどこだ…?何故俺はまだ生きて…)

 

恐る恐る自分の頭に触れたが、どういうわけか傷一つついていなかった。

 

外していたはずの仮面もいつの間にかまたついていた。

 

また、阿頼耶識で斬られた傷の辺りに赤黒く染まった包帯が巻かれており、元々着ていた服は綺麗に折りたたまれて腹の上辺りに置かれていた。

 

現在の状況に困惑しつつも、リアンは流れるような動作で服の胸ポケットから端末機を取り出し、指令を確認した。

 

リアンを急かすようにピープ音の間隔を早めていた先ほどとは打って変わって、端末機は沈黙を保っていた。

 

(…珍しいな。この画面に何も映っていないこともあるのか。)

 

そこまで考えて、ある1つの可能性に辿り着く。

 

(俺の役目は終わった……ということか?)

 

もちろん、今は来ていないだけでそのうち再び指令が来るかもしれない。

 

もしかしたら指令から解放されるかもしれない、そんな淡い期待を抱き始めていると、ガラガラという音とともに部屋の扉が開いた。

 

「良かった…。目を覚まされたのですね。」

 

「傷がかなり深かったので私たちも不安でしたが…無事に意識を取り戻して何よりです。」

 

諸々の医療器具のようなものが入った箱を持っているピンク色の髪をした少女が部屋の中に入り、リアンに近付く。

 

少女の年齢は高校生くらいに見えた。

 

「救護騎士団の鷲見セリナです。突然サクラコ様がかなり慌てた様子で通報なさってきたので、何事かと思って来てみたら重傷を負ったあなたがいたのですが…何かあったのですか?」

 

救護騎士団という聞いたことのない組織名に困惑する。都市にそんな慈善事業じみたことをする組織が存在するものなのだろうか?

 

「…あなた達が、俺を助けたのか?」

 

「はい。怪我をされた方や病気の方を救護するのが私たち救護騎士団の役目ですからね。」

 

一瞬何か裏でもあるのかと疑ったが、鷲見セリナと名乗る少女の目は純粋な善意に満ちているように見える。

 

なんだか警戒する方が失礼な気がしてきたため、警戒を解く。

 

「……そうか。うん、こういう時はまずありがとうと言うべきだろうな。ただ、見たところ人差し指でも無さそうだが、どうやって俺を見つけたんだ?」

 

「?どうやって、と言われましても…トリニティ郊外の道路の脇で倒れていたところをサクラコ様が発見した、としか…。それと、『人差し指』とは何の事でしょうか?文字通り人体の人差し指を表しているわけではなさそうですし…。」

 

「…トリニティ?それに道路の脇だと?」

 

聞いたことのない組織名に続いて、今度は聞いたことのない地名が出てきた。それに自分はたしかに下水道にいたはずだが、何故か道路の脇に倒れていたようだ。

 

さらに人差し指を知らないときた。都市で裏路地に住んでいる者なら、小指以外の五本指を知らない者などまずいないし、巣の住民でも知らない者の方が少ないだろう。

 

「一応確認なんだが、『頭』という組織のことは知っているか?」

 

「『頭』…いえ、聞いたことがありません。」

 

都市に住んでで頭について知らないなんてことは絶対にありえない。もしそんな人がいたら、それは人差し指の保護下にいながら指令の存在を知らないのと同レベルだ。

 

ということはここは都市ではない可能性が高い。いや、そもそも世界すら異なる可能性がある。

 

「それなら『外郭』については知ってるか?」

 

「うーん…そちらも聞いたことがありませんね。話の流れからして、どこか特定の場所を指しているように思われますが…。」

 

やはりそうだ。ここは自分の元々いた世界ではない。それなら端末機が動かないことや、自分が下水道と全く関係のない場所で倒れていたことにもある程度説明がつく。

 

ただ、どうしてそんなことになった?ヘルメスの指令に従って自害して結果的にここに辿り着いたということは、これはヘルメスの意志である可能性が高いのだが、わざわざ指令の届かない異世界に飛ばした理由が分からない。そんなことを考えていると

 

「あの、どうかなさいましたか?」

 

「ん?ああ、すまない。少し考え事をしていてな。突拍子もない話かもしれないが、俺はどうやらこことは別の世界から来たのかもしれない、と思ってな。」

 

「別の世界、と言いますとキヴォトスの外でしょうか?そういえば、たしかにあなたにはヘイローがありませんね。おっしゃる通りあなたは別の世界からいらっしゃったのかもしれません。」

 

「ヘイロー?」

 

「私たちの頭の上にある輪のようなものです。キヴォトスで生まれた方々は皆それぞれのヘイローを持っているんですよ。」

 

そう言われてセリナの頭の上を見ると、たしかに光る輪のようなものが浮いている。

 

「ふむ…ヘイローというのはこの世界の住民が生まれつき持っているものなのか?」

 

「はい。このヘイローのおかげで、私たちは外の人なら致命傷になるような銃撃などの攻撃を受けても軽傷で済むんです。キヴォトスはそこら中で頻繁に銃撃戦が起こるような場所ですからね。」

 

(そこら中で銃撃戦…?もしかしてこの世界、結構危険なのか?)

 

「キヴォトスに俺のような部外者が来るのは珍しいことなのか?銃撃戦が頻繁に起こるような場所に部外者が頻繁に来ていたら、そこら中で死人が出そうなものだが。」

 

「うーん…たしかに外から人がいらっしゃることはあまりないですね。あ、でも最近噂の『シャーレの先生』という方はキヴォトスの外からいらしたみたいですよ。あなたと関係があるかは分かりませんが…。」

 

「シャーレの先生?」

 

「キヴォトス全体を統治する連邦生徒会…そこの長たる連邦生徒会長が失踪する直前に呼び寄せた方だそうです。なんでも、困っている生徒を見捨てない方だとか…。すみません、私も詳しいことはよく知らなくて…。」

 

セリナは申し訳なさそうな顔をしてリアンを見つめる。

 

「…あ、そうでした。元々あなたの傷を治療しに来たんでしたね。すみません…本来の目的を忘れて長々と話してしまって。」

 

「いや、構わないよ。おかげでこの世界のことについてある程度分かってきたからね。」

 

「そう言っていただけると幸いです。では、1度包帯を剥がしますので、少し我慢してくださいね。」

 

そう言うと、セリナはリアンの包帯を剥がし、傷口周りに色々と処置をし始めた。

 

阿頼耶識が近くになく、ある程度時間も経っていたのか、既に痛みはかなり緩和されていた。

 

傷ができた原因について深く追及しなかったのは彼女なりの配慮だろうか。

 

「それにしても、傷の治りが想像以上に早いですね…。ツルギさんほどではないにしても、これくらいの深さの傷なら最低でも数ヶ月経たないと治らないのが普通なのですが。」

 

「俺はここに来てからどれくらい経っているんだ?ついさっき意識を取り戻したばかりだから、時間感覚が分からなくてな。」

 

「大体1週間くらいですね。ここにいらっしゃったときは本当にいつ命を落としてもおかしくないほど出血も酷くて…見ているこちらとしても気が気でありませんでした。」

 

そんなことを言いながら処置を終えたのか、セリナが新しい包帯を切り取ってリアンに巻きつける。

 

「はい。お疲れ様でした。完治するまではここに入院していただくという形になりますが、この分だともしかしたらあと数日もすれば退院できるかもしれませんね。」

 

「そうか。ありがたいことだな。」

 

「そういえば、あなたが意識を取り戻したことをサクラコ様に伝えないとですね。サクラコ様、あなたのことをとても心配していらっしゃって、あなたが無事かどうか直接会って確かめたいとおっしゃって聞かないので…。今からサクラコ様とお会いしても大丈夫でしょうか?無理でしたら私の方から説得しておきますので。」

 

サクラコ様、というとさっき話に出てきた自分を見つけたという者のことだろうか。

 

「問題ないよ。俺もちょうどこの世界の人間関係に慣れておきたいところだったからね。」

 

「分かりました。それと今更ですが、あなたのお名前を教えていただけますか?私たちもこの機会にあなたともっと交流を深めたいですし。」

 

「俺の名前、か…。リアン、とでも呼んでくれ。尤も、本名ではないんだけどね。」

 

「どうして偽名を……いえ、他の方のプライベートな事情に踏み込むのは失礼なことですね。すみませんでした。リアンさん、ですね。」

 

「そんなに気に病むことはないさ。別に大した事情でもないからね。」

 

「お気遣いありがとうございます。では、サクラコ様を呼んできますので、少々お待ちください。」

 

そう言うとセリナは部屋から出て行った。

 

…部屋を出て廊下を曲がる時、セリナの姿が不自然な消え方をしたのが見えたような気もするが、多分気のせいだろう。

 

しばらくして、セリナが銀色の髪をした少女と共に戻ってきた。

 

この少女もまた、セリナとそれほど年齢が変わらないように見える。

 

「それでは、私はそろそろ席を外させていただきますね。サクラコ様もリアンさんとお二人で話される時間が欲しいでしょうし…。」

 

「ありがとうございます。セリナさん。」

 

セリナが席を外し、部屋の中にはリアンとサクラコだけが残る。

 

「初めまして。リアン様。トリニティ総合学園、シスターフッド所属の歌住サクラコと申します。まずは…こうしてお会いできたこと、心より嬉しく存じます。」

 

「ああ。初めまして。俺もあなたに会えて嬉しく思っているよ。」

 

形式的な挨拶を交わす。気のせいかもしれないが、かつての妻とどことなく似たような雰囲気がサクラコから感じ取れた。

 

「さて、私がここに来たのは、あなたの無事を直接この目で確かめたかったというのも勿論ありますが…実はそれ以前に、なんとなくあなたと会わなければならないような気がしたのです。直感…と言いますか。何か、運命のようなものを感じたのです。」

 

運命。その言葉にリアンの眉が僅かに動く。

 

「こんな感覚は今まで味わった事がないですし、変だと思われるでしょうが…あなたをあの場所で初めて見かけて、こうして直接お話するまでの一連の流れが、全て最初から仕組まれていたかのような…そんな気がするのです。」

 

サクラコの話を聞いたリアンは、半ば無意識に端末機を確認した。

 

ピープ音が鳴った記憶はない。しかしそこにははっきりとこう書かれていた。

 

【運命と親交を深めること。期限は無期限。】

 

「はっ…。」

 

リアンの口角が上がる。結末だと思っていたものは、結局新たな始まりに過ぎなかった。

 

「どうにも……あなたの感覚は間違っていないように思えるな。」

 

「その機械は一体…。」

 

「これか?これはな……。…これから先の運命を教えてくれる、魔法のピピ様さ。」

 

「運命を教えてくれる…そんなものが…。」

 

半分は正しい。しかし半分は間違っている説明だ。この運命は、このピピ様そのものが作り出したものなのだから。

 

「このピピ様によると…どうやら俺はあなたと友達になる運命だそうだ。信じるか信じないかはあなた次第だけど。」

 

「友達、ですか…。」

 

「…信じます。きっとこの出会いにも、何か意味があるのでしょうから。」

 

「そうか。それじゃあ───よろしく。サクラコ。」

 

リアンが右手を差し出すと、サクラコはその手を両手でそっと握った。

 

「…はい。これからよろしくお願いします。リアンさん。」

 

握手を交わし、2人が手を放す。

 

「じゃあ、まず何から話そうか?」

 

「うーん…私も友達はあまり多くないので、こういう時に何を話せば良いのかよく分かりませんが…まずは互いの好きなことから話し始めるのが良いのではないでしょうか。」

 

「ふむ。俺の好きなことか。まあ、絵本を読むことか?」

 

「絵本、ですか?なんだか、その……少し意外ですね。」

 

「娘からもよく変だって言われたよ。でもよく考えてみろ。絵本は…誰が読んでも内容を理解できるものだけれど…その作者が伝えようとしているメッセージは、とても奥の深いものだったりするんだ。文字だけじゃ永遠に分からないようなことであっても、絵本なら表現することができる。それも、誰もが理解できるようにね。文字だけの本よりも、よほど得られるものは多いんじゃないかな?」

 

「なるほど。一理あるかもしれません。宗教の布教も、分かりやすいように偶像を用いて行われることはしばしばありますからね。」

 

「ああ。それに…文字だけだと、そこに解釈の余地が生まれてしまうんだ。単純な言葉1つ取ってみても、それによって思い浮かぶものが人々の間で完全に一致することは決してない。そうして、その解釈のズレがもつれ合って…致命的な結果を生むこともよくある。でも、絵本は絵に描かれていることが全てだ。そこに解釈の余地はない。だから俺は絵本が好きなんだ。」

 

「…何をおっしゃりたいのか、なんとなく分かる気がします。ですが、解釈の余地があるからこそより輝くものもあるのではないでしょうか。例えば…物語の結末、ですとか。あえてはっきりと描写せず、様々な解釈ができるからこそ生まれる面白みもあると思います。」

 

「……結末、か。……ああ、そうだな。結末はとっておく方がいいからな。」

 

リアンは一瞬遠くを見つめた後、再びサクラコに向き直る。

 

「なんだか会話というよりは議論に近くなってしまったな。サクラコ、お前はどんなことが好きなんだ?」

 

「そうですね、私は…。」

 

 

 

 

たわいもない話をしばらく続けていると、セリナが戻ってきた。

 

「サクラコ様、そろそろ時間です。」

 

「もう1時間経ったのですか?時が流れるのは早いものですね。名残惜しいですが、そろそろお別れの時間のようです。またお会いしましょう、リアンさん。」

 

「ああ。俺も久しぶりに楽しい時間を過ごせたよ。ありがとう、サクラコ。」

 

サクラコはセリナと共に部屋を出て行った。

 

再び1人になったリアンは、誰に向けるでもなく呟く。

 

「…俺が再び生を連ねることをお望みですか。」




とりあえず一旦リアン中心で書いて、後から他の蜘蛛の巣メンバーを中心にした話を別個で書いていく予定です。
失踪せずに続けることがひとまずの目標ですが、現在浪人中なので投稿ペースがかなり遅いかもしれません。数ヵ月空いたらリアルで忙殺されているか失踪したと捉えてください。
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