蜘ノ糸ノ青   作:おねむなボンちゃん

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なんと3話使っても終わらないという全く想定していなかった事態になったので前編中編後編という区切りから番号での区切りに変更させていただきます。混乱を招いてしまい申し訳ありません。

前編書き始めた当時は合計10000字くらいで終わると思ってたのに、どうして30000字近くいきそうになっているんでしょうか。何なら今回の話だけで10000字いってますし……。


ボーダーランドの大変な1日(3)

 

"な、なんであなたがここに……!?"

 

 探していた対象を思わぬ所で発見し、先生は腰を抜かしそうになっていた。

 

「俺がここにいちゃいけないのか?大人が遊園地で遊んではいけないなんて決まりはないだろう。」

 

"いや、そういうことじゃなくて……。"

 

「……ああ、もしかして──あなたが遊園地で油を売っていたということを、()()()()()()に言ってほしくないのか?それなら安心してくれ。わざわざ報告したりするような真似はしないつもりだ。」

 

"(……この人……どこまで知っているんだ……?)"

 

 恐らく補習授業部のことを指しているであろう言葉に対し、先生の警戒心はさらに高まる。

 

 実際には先生が補習授業部の顧問となっていることは既にシスターフッドにも伝わっているため、リアンが知っていても何らおかしなことは無いのだが、そんなことは先生には知る由もなかった。

 

【先生の隣の席に座ること。場所は不問。】

 

「それよりも、ここに来たってことは、あなたもショーを観に来たんだろう?せっかくだし、一緒に観ていかないか?」

 

"……何か企んでる?"

 

「随分と疑り深いな。そんな風に全く信用されないとなると俺も傷つくんだが。それともあなたは一つ一つの行動全てに理由を求めるような人間なのか?」

 

"……。"

 

 傷つくと言いながらも、リアンの表情は一切変わっていなかった。

 

「『どうして』ほど無意味な言葉はない。第一、理由を知ったところで変わる結果なんてないからな。まあ、それでも──このショーのキャストには、あなたがこれから深く関わることになる生徒がいるというだけでも、このショーを観ていく理由としては十分なんじゃないか?」

 

"……それは、誰のことを言ってるの?"

 

「さあ。俺に聞くよりかは……実際に見た方がいいだろう。あなたのよく知る生徒も出ていることだし。」

 

"……分かった。でも、一つだけ聞かせてほしい。……あなたは、生徒達のことをどう思っているんだ?"

 

 先生の質問に対し、少し考え込む素振りを見せる。

 

「……ふむ。個人的な意見を述べるのであれば……『純粋』、そういった言葉が、彼女達を表すのに最も適している気がするな。あの子達の目を見てると、まるで蚕蛾の幼虫のように思えてくる。いつか蝶のように自由に空を飛べるようになると、心の底から信じている、その姿が。……先生、一つ忠告しておこう。生徒にあまり肩入れしすぎない方がいい。大切なもので満たされているほど……より深く抉られることになるから。」

 

"……そう。でも、私は生徒を失うような事態にはさせないし、きっと生徒達はあなたが思っているよりも強いと思うよ。困難に直面したとしても、それを乗り越えていけるだけの力を持っている。生徒達の手に負えないものは、大人が対処すればいい。だから、あの子達の可能性を簡単に否定しないでくれ。"

 

「……。」

 

 その言葉に対し、しばらくは何も返さなかった。

 

 やがて、一言。

 

「そうだといいな。」

 

 そして視線を先生から逸らし、観客席の方へ向けた。

 

「さあ、あなたの質問には答えたことだし、そろそろ移動するとしよう。場所はあなたが決めてくれ。あなたにとっても、出来る限り観やすい位置の方がいいだろう?」

 

 自分で決めるのが面倒だからという理由で場所取りを先生に委ねたが、実際先生にとってもその方が好都合ではあった。コスプレ生徒を間近で見たいという欲望を叶えられるからだ。

 

 また、少なくともリアンに生徒を傷つける意思は今のところなさそうだと判断したようだ。

 

"うーん……あの辺……?"

 

 問題は、前の方の席がほとんど空いていなかったということだが。

 

 渋々といった様子で空いている中で一番前の方の席を指差したが、それは前から数えて8列目辺りの席だった。

 

 先生の指差した座席に移動し、並んで腰掛ける。

 

 それから数分経ち、ブザー音とともにステージの奥からキャストが現れた。

 

「ボルトフォワード!テルミットピンク!」

 

「ボルトキャッチ!テルミットホワイト!」

 

「「「「「わあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

 ステージにレイサとスズミ……もとい、テルミットピンクとテルミットホワイトが現れた瞬間、観客席から大歓声があがる。

 

 2人はまだ観客席にいる先生達に気付いていないようだ。

 

「『魔法少女ヘヴィキャリバー』についてはよく知らないが……思った以上の人気だな。そう思わないか?」

 

"そうだね。それにあの2人はもしかして、スズミとレイサ?レイサはともかく、スズミがこういうのに興味を持ってたのは意外かも。"

 

「少し違うな。元々あの子達はキャストになる予定じゃなかった。」

 

"え、そうなの?"

 

「ああ。元々出演予定だったキャストが列車事故で来られなくなって、その代役として選ばれたんだ。それにスズミは最初気が進まない様子だったんだが……あの子が拒絶する前に、レイサが承諾してしまったからな。結局スズミもやらざるを得なくなったというわけだ。」

 

"へぇ……というか、随分詳しいね。"

 

「俺もその場にいたからな。朝にあの2人に出会って、そのまま一緒に行動していた。」

 

 ここまでの会話で、先生はこれから深く関わることになる生徒というのが誰なのかを察した。

 

"サクラコはいつ出てくるの?"

 

「それを言ったら面白みがないだろう。楽しみは取っておく方がいいと思うな。」

 

"……それもそうだね。"

 

「わぁ、スタナグちゃんもいる!」

 

 子供の声が聞こえ、ステージの方に目を向ける。

 

 すると、着ぐるみを着たラブの姿が目に入った。

 

「え、えーっと……?こんにちは……?」

 

 ラブは予想外の熱狂に対し、どう反応すればいいか分からないようだった。

 

 視線を泳がせていたラブだったが、やがて遠くにいたリアン達の姿を発見したようで、訝しげな視線を向けてきた。

 

「ん……?」

 

「スタナグちゃん、何か見つけたのですか?もしやエラの配下が隠れていたのですか!?」

 

その様子を見たレイサが声を掛けた。

 

「いや、あそこ……あの仮面つけたおっさんの隣にいるの、噂に聞くシャーレの先生とかいうやつじゃない……?」

 

「……へ?」

 

「あの、失礼ですが、見間違えではないのでしょうか……?先生がこんなところにいるはずが……。」

 

 ラブの指差す方向にスズミ達も目を向けた。

 

「「……。」」

 

 そして2人ともしばらくその方向を見つめているうちに、先生と目が合った。

 

「……先生!?どうしてこんなところに……!?」

 

「先生ー!!!見てますかー!!!!」

 

「ちょ、レイサさん……!ショーの真っ最中ですよ……!」

 

「あっ、そうでした!こほん、えーそれでは気を取り直して……皆さん、大変です!この遊園地の中に、エラとその仲間達が隠れているみたいです!!」

 

 思い出したかのように演技を再開するレイサ達をよそに、リアンは先生に話しかける。

 

「あなたの人気も魔法少女に負けていないんじゃないか?いっそ一緒に出てみたらどうだ。」

 

"あはは……遠慮しておくよ……。"

 

 その後、前半のショーは何事もなく終了した。

 

 話の流れとしては、遊園地内に潜入しているエラが来園客から笑顔を奪おうとしているので、それをヘヴィキャリバーズが阻止しなければならないといった感じだった。

 

 休憩時間に突入し、観客達が一人二人と席を立ち始めた時、先生達はステージの方へ向かった。

 

 ちょうどスズミ達も一度控え室に戻ろうとしている時だった。

 

"やあ、皆。その衣装、すごく似合ってるね。でも、まさかここのショーに出てるとは思わなかったよ。"

 

「それはこちらの台詞ですし、まさかよりによって先生にこの姿を見られるなんて……どうして先生もこちらに?」

 

"うーん……今日は休みだし、暇だったから?"

 

 流石に本人の目の前で正直に理由を言うわけにはいかないため、適当に受け流した。

 

「ま、理由なんて何でもいいでしょ。ていうかおっさん、あんたシャーレの先生と知り合いだったの?」

 

「ああ。前に少しだけ会ったことがある。」

 

"知り合いと呼べるかは微妙なところだけど……まあ、一応お互い知ってはいるかな。"

 

「先生!さっきの私の活躍、ちゃんと見てましたか?後半は迫力満点のアクションも披露しますから、瞬き厳禁ですよー!」

 

「後半はたしかイマーシブショーだったか?途中から園内を移動しながら行われるという話だったが。」

 

「そうです!園内に潜んでるエラ達を見つけ出して、華麗に成敗するんです!子供達の笑顔を守るのが、私達ヘヴィキャリバーズの役目ですから!」

 

"気合十分だね。期待して待ってるよ、レイサ。"

 

「はい!任せてください!」

 

「もう一度後半に向けて調整する必要があるので、そろそろ失礼します。お二人も休憩時間が終わるまでには観客席に戻ってくださいね。」

 

 会話を終え、3人は控え室へ戻っていった。

 

 先生達が観客席に戻る途中、シッテムの箱に通知が来た。

 

 セイアからの連絡だ。

 

 リアンに見られていないことを確認し、メッセージを見る。

 

<先生、あれから何か変わりはないだろうか?>

 

<"今、あの人のすぐ近くにいる。『魔法少女ヘヴィキャリバー』のショーを観てるんだけど、そのキャストの生徒達と一緒に行動してたみたい。">

 

<ま、魔法少女……?いや、それより今ヤツと一緒にいるだと?それで本当に何も起きていないのか……?>

 

<"うーん……少し会話もしたけど、少なくとも今は特に生徒のことを傷つけようだとか、そういったことをしようとしてるようには思えなかったな。表面上そう見えてるだけかもしれないけど……。">

 

<……それならば、あの夢は一体何を暗示していたのか……。……今考えても仕方のないことか。とりあえず、引き続き監視を頼むよ。>

 

<"うん、分かった。">

 

 セイアとのやり取りを終え、再び歩き始める。

 

 リアンは既に元の席に戻っており、やり取りをしている間も先生の方に目をやることはなかった。

 

 まだ本来の目的に気付かれていないであろうことに安心しつつ、観客席へと戻っていった。

 

 その後休憩時間が終わり、ショーは後半へと突入する。

 

 再びスズミ達がステージの上に姿を現した。

 

「ホワイト!新たな情報が入りました!」

 

「な、何ですか?」

 

「エラはどうやら、この遊園地の中に強力な兵器を持ち込んでいるみたいです!このまま放っておけば、遊園地はめちゃくちゃに破壊されてしまうかもしれません!一刻も早く、エラを見つけて懲らしめてやらないと!」

 

「しかし……この広い遊園地の中でエラを見つけるのは中々難しいと思います。何か方法はないのでしょうか……。」

 

「ふっふっふっ……忘れたのですか?私達にはたくさんの仲間がいるということを!」

 

(……改めて思うけど、これうち要るのかしら?)

 

 レイサは観客席の方に顔を向け、大声で叫んだ。

 

「みんなー!!この遊園地内のどこかに、エラが隠れています!!今からこの観客席を離れて、エラを見つけたら私達に伝えてくださーい!!」

 

「「「「「はーい!!!」」」」」

 

 レイサの言葉を聞いた観客達は、皆一斉に席を立ち、遊園地内のあちらこちらに散らばり始めた。

 

「魔法少女の真骨頂は魔法ではなく、大勢の人を動かす求心力、といったところか。なるほどな。」

 

"そうなのかな……?まあでも、言葉1つでこれだけの人を一気に動かせるって考えると、たしかに凄い力だね。"

 

【メタル・ウェポン・スピード・クロコダイルを魔法で破壊すること。】

 

(……なんだこれは?)

 

 ピープ音が人の移動したり喋ったりする音でほとんどかき消されていたが、辛うじて音に気付いたリアンが指令を確認する。

 

「俺達も移動しよう。こういうのはその場の流れに合わせておくのがいいものさ。」

 

"そうだね。それに私もちょっとワクワクしてるし。"

 

 謎の単語の羅列に困惑したが、ひとまずは他の観客に倣って席を離れることにした。

 

 その頃、スズミ達はステージの上で話をしていた。

 

「ふぅ……エラ、もといサクラコさんが出てくるのは大体15分後のはずですから、それまで少し休めますね!」

 

「たしかこの後の流れは……向こう側のステージに現れたエラを、観客の皆さんが私達に伝えて、その後私達がエラのもとに向かうんですよね。」

 

「そうそう。それで、うちらがエラの兵器──あー……何だっけ……メタル何たら……をぶっ壊せばいいんだっけ?」

 

「その通りです!まあ、兵器と言っても、流石に子供向けのショーなので、本当に攻撃してくることは無いと思いますけどね!」

 

「本当に攻撃してきたら、子供達にも危険が及びますからね……。」

 

「てか、そういえば、あのエラ役のシスター、さっきうちを見てめちゃくちゃ怖い顔しながら『加減はしますから安心してください』みたいなこと言ってきたんだけど、あれどういう意味?」

 

「あっ、それは……。……やっぱ言わないでおきます!そっちの方が面白そうなので!」

 

「はぁ!?余計に怖くなるようなこと言わないでよ!」

 

 そんな話をしているうちに15分が経過し、少し離れたステージ上にサクラコ……もとい、エラが姿を見せた。

 

(イメージトレーニングもバッチリです。練習した通りに……!)

 

「オーホッホッホ!遊園地に来ている諸君、ごきげんよう。そして、残念だったわね。今からこの遊園地を、この私、エラの手によって跡形もなく消し飛ばしてやるわ!雑魚達はそこで己の不運と無力さを嘆きながら、指を咥えて見ているがいい!オーホッホッホッホ!!」

 

 高笑いの後、辺りに響き渡るような低い声を凶悪な笑みを浮かべながら発するサクラコ。

 

「ひぃっ……エラだ!」

 

「ヘヴィキャリバーズに伝えないと!」

 

「テルミットホワイト!ピンク!助けてー!!」

 

 子供達はサクラコの声を聞くやいなや、恐怖に慄いてスズミ達のもとへ駆け出す。

 

(少し心苦しいですが……ごめんなさい。役柄上、致し方ないことなのです……。)

 

 逃げ惑う子供を見て、サクラコは罪悪感に苛まれていた。

 

 その後、子供達によってエラの場所を伝えられたヘヴィキャリバーズが、ステージを降りて移動を開始した。

 

"エラが見つかったみたいだね。もう大体エラ役の子が誰なのか分かったような気もするけど……。"

 

「それが合ってるかどうかは見てからのお楽しみだな。行こう。」

 

 先生達もまた、ヘヴィキャリバーズの後を追っていった。

 

 そして、ヘヴィキャリバーズとエラが向かい合う。

 

"(やっぱりサクラコはエラの役だったんだ。それにしても、随分と様になってるな……本人に言ったら傷つきそうだけど。)"

 

「そこまでです!エラ!私達がいる以上、あなたに好き勝手はさせません!」

 

「あなたの手口は分かっています。この場で何かしようとしたとしても無駄です。大人しく投降してください。」

 

「やはり来たわね。テルミットホワイト、テルミットピンク、そして……憎たらしいスタナグ。全員でやってくるとは、実に愚かね。この場でまとめて始末してやるわ!」

 

「私達は以前、あなたに勝っています!もう一度戦ったところで、結果は変わりません!」

 

「オーホッホッホ!たかが1度の勝利如きで、随分と天狗になっているようね。でも、この私の新たな力を目にしても、その鼻は高いままでいられるかしら?さあ、出でよ!我が新たな力、メタル・ウェポン・スピード・クロコダイル!」

 

 その言葉とともに、サクラコの後ろから水色のワニのようなものが現れた。

 

「あ、あれは……!?」

 

「ワニ……?」

 

「ただのワニじゃありません!どうやら、色々な武装をつけられた機械のワニのようです!」

 

 子供達も多種多様な反応を見せる。

 

「テルミットホワイト、ピンク、勝てるかな……。」

 

「大丈夫だよ!今までだって色んな危機があったけど、全部乗り越えてきてるもん!」

 

"なんだか物騒な見た目だけど……子供向けのショーだし、流石に本物ではないよね……?"

 

「……いや、あれは──」

 

「さあ、奴らを根絶やしにしてやりなさい!」

 

 ……。

 

 しかし、ワニはいくら経ってもその場から動かなかった。

 

「「「「"……?"」」」」

 

「……あの、ワニさん……?」

 

 想定外の事態に対し、サクラコは演技を忘れて素で困惑しながらワニの正面へと回った。

 

 そしてワニの顔へと手を近付けた、その時だった。

 

 ガブッ!!

 

「うっ……!?」

 

「……!」

 

 それまで微動だにしなかったワニが、突然動き出したかと思うと、サクラコの腕に牙を突き立てていた。

 

 その光景を見たリアンは、僅かに目を見開いた。

 

「サクラコさん!落ち着いて、ワニの口を開いてください!」

 

「そ、そうは言っても……ワニの力が強すぎて、びくともしません……!」

 

「くっ……何か方法は……。」

 

「とりあえず攻撃してみるのは!?少なくとも、ワニの意識はうちらに向くかもしれないでしょ!」

 

「しかし、それだとサクラコさんまで……!」

 

 サクラコの視線が、周囲にひしめく観客達の中で一際目立っていたリアンへ向けられた気がした、その時。

 

 バキンッ!!

 

 端末機を一瞬確認した後、リアンの姿がその場から消えたかと思うと、次の瞬間には何かが砕けるような音とともにワニの上顎が吹き飛んでいた。

 

「リ、リアンさん!?」

 

「ここを離れるぞ、サクラコ。」

 

 上顎がなくなったワニは、たまらずサクラコの腕から口を離し、その隙にリアンはサクラコの手を引いてその場から離れた。

 

 噛まれたサクラコの腕には赤い血の軌跡が無造作に広がっていた。

 

 ワニはサクラコから離れると、唸り声のようなものをあげ、スズミ達に向けて火を吹き始めた。

 

「あっつ!?ちょっと、こいつ火炎放射器がついてるじゃないの!あんたさっきうちらに攻撃してくることはないとか言ってなかったっけ!?」

 

「そ、そんなこと私に言われましても……!実物を見たわけではないし、知らなかったんですぅ……!」

 

「話は後です!今は観客の皆さんの安全を確保しないと……!」

 

 その後、異常事態を確認したスタッフがその場に駆けつけた。

 

「緊急事態です!観客の皆様はすぐにワニから離れて避難してください!」

 

「え、演出じゃないの!?」

 

「ワニがこっち見てる!?やばいって!早く逃げないと!」

 

「きゃあああぁぁぁぁ!!」

 

 観客達は大混乱に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「C区画にて緊急事態発生!応援を要請します!ショーで使用予定だったメカワニが暴走し、キャストや観客を襲撃しています!」

 

"私達も1度離れよう。サクラコ達の後を追って!"

 

「わ、分かりました!」

 

 スズミ達も同じ方向へ逃げ出した。

 

 既にリアンの姿は見えなくなっていたが、向かった方向からキャストの控え室にいる可能性が高いと踏んだ。

 

 そして控え室に入ると、そこにはサクラコに応急処置をしているリアンと、その近くでオロオロしているスタッフがいた。

 

「折れてはいないようだけど……明日救護騎士団の子達にしっかり診てもらいなさい。傷跡が残るといけないからな。」

 

「はい……ありがとうございます。」

 

「申し訳ありません……我々もまさかメカワニに攻撃機能が備わっていたとは想定しておらず……。」

 

「あまりにも誠意のない言い訳だな。事前に1度動作を確認しておくだけでも未然に防げた事故のはずだが。」

 

「仰る通りです……。」

 

"サクラコ、怪我は大丈夫?"

 

「はい……って、先生!?いつからいらっしゃったのですか……!?」

 

"うーん……あのワニが出てきた辺りから?"

 

「全然気付きませんでした……すみません。」

 

「それより、あのワニどうすんのよ。あのままだと本当に遊園地をぶっ壊しそうな勢いなんだけど。」

 

「現在警備の者に対応させておりますが……ワニの抵抗が激しく、苦戦を強いられているようです。何より、装甲が分厚く、生半可な攻撃は全て弾かれてしまうとのことでして……。」

 

「え……?その割にはさっきリアンさんに一瞬で顎を切り飛ばされてた気がするんですけど……。」

 

「私も見ました。どんな武器を使っていたかまでは見えませんでしたが……まるで豆腐のように切り裂かれていたのを覚えています。」

 

「……おっさん、何か仕組んでる?仮に顎の部分の装甲が比較的弱かったとしてもありえないでしょ。あの金属の塊を一瞬で切るとか……。」

 

 レイサ達の言葉を皮切りに、その場にいた全員の視線がリアンに集中する。

 

「……仕組んではいない。装甲が薄そうな部分を狙ったのは合っているけどね。」

 

「……ということは……。」

 

「本当に……小細工なしで……。」

 

「あれを切ったってこと……!?」

 

 綺麗に3人の言葉が繫がったところで、先生が口を挟んだ。

 

"待って。それほどの力があるならあの場でメカワニを制圧出来たはず。どうしてそうしなかったんだ?"

 

「俺があの場でワニを壊したら、ショーが台無しになってしまうだろう。お前達があのワニを倒すのが本来の流れなんじゃないのか?」

 

 リアンの頭には先ほどの指令のことが浮かんでいた。

 

 魔法でメカワニを破壊するということは、魔法少女の格好をしているスズミ達の攻撃か、それに準ずるものでなければならなかった。

 

 故に、あの場でリアンがメカワニを完全に壊すわけにはいかなかった。

 

「……今優先すべきなのは、ショーの成功ではなく観客の皆さんの身の安全ではないでしょうか。あのワニを放置していれば、取り返しのつかない被害が出る可能性もあります。」

 

「別に俺が全くあれの制圧に協力しないというわけじゃないさ。ただ……その方法は少し工夫した方が良いんじゃないかと思ってな。どうせなら、魔法少女らしく格好良く決めた方がいいじゃんか?」

 

「……何か考えがあるのですね。」

 

 しばらく黙っていたサクラコが口を開く。

 

「教えてください。私に出来ることであれば何でもしましょう。」

 

「ああ。その方法は──」

 

 リアンが指令の意に沿いつつ、ワニを速やかに鎮圧する作戦を説明した。

 

「……失礼を承知で言いますが……正気ですか?」

 

「たしかに格好良いですけど……あまりにも現実味が無いような……。」

 

"危険すぎると思うよ。もし他の人が巻き込まれたりしたら……。"

 

「その心配はない。そうならないようになっているからな。」

 

「どっから湧いてくるのよその自信は!?」

 

「……分かりました。やってみます。」

 

「……サクラコさん。ワニを制圧するのに、この方法である必要はありません。どうして、そこまで拘るのですか。」

 

「……ただ、そうした方が良いような気がするのです。直感とでも言いましょうか。それに、これは極めて個人的な話なのですが──主人公側と一緒に戦った敵キャラは人気が出やすいと、インターネットに書いてありましたので。」

 

"(それは状況にもよるんじゃないかな……。)"

 

 サクラコの言葉を聞いたスズミ達は、しばし考え込む素振りを見せた。

 

「……そこまで仰るのでしたら、これ以上説得しても意味が無さそうですね。1度試してみましょうか。」

 

「一応、私達は少し離れた場所にいれば大丈夫そうですしね。」

 

「はぁ……まあ、おっさんもあんだけ自信満々だし、お手並み拝見といこうじゃないの。でも、外したら承知しないからね!」

 

"……生徒達が決めたことなら、私はこれ以上口は出さない。でも、観客の人達が絶対に巻き込まれないようにすること。いいね?"

 

「ああ、問題ない。」

 

「それじゃあ、いい感じのセリフを作らないとですね!まずスズミさんから、ちょっと手を出してください!」

 

「……?こう、ですか……?」

 

「はい!そのままじっとしておいてくださいねー……。」

 

 レイサは再び懐からペンを取り出した。

 

「マジカル・カンニングです!今からお二人の手のひらにセリフを書いてあげます!」

 

「……くっ、ふふっ……くすぐったいです!あははっ!!」

 

"(スズミってあんな笑い方するんだ。)"

 

 手のひらに文字を書かれている間、スズミはずっと笑いを堪えていた。

 

(手のひらに触れただけであんなにくすぐったがるなんて……もしやあのペンには何かそういった作用があるのでしょうか……?だとすると、私もあのようなことに……?)

 

 その一部始終を見ていたサクラコは、謎の勘違いを引き起こしていた。

 

 やがてセリフを書き終えたのか、レイサがペンをスズミの手から離した。

 

「よーし!準備オッケーです!」

 

「はぁ、はぁ……。私、くすぐりには弱くて……。」

 

「次はサクラコさんの番です!というわけで手を出してください!」

 

「は、はい。……その、お手柔らかにお願いしますね?」

 

「……?」

 

 発言の意味を掴めないまま、レイサはサクラコの手のひらに文字を書き始める。

 

(……あ、あれ?くすぐったくない……?)

 

 書き始めは身構えていたサクラコだったが、いつの間にかその顔は困惑の色に染まっていた。

 

「これでオッケーです!あとはリアンさんがタイミングを合わせれば大丈夫だと思います!」

 

「ありがとうございます、レイサさん。」

 

「準備が出来たようだな。それじゃあ、またしばらく後に会おう。」

 

 リアンは控え室を出ると、遠くの方の高台へと移動を始めた。

 

"まだ少し不安だけど……私達も動こうか。"

 

「心配しないでください、先生。リアンさんなら、きっと上手くやってくれます。」

 

 サクラコのフォローを最後に、スズミ達もメカワニがいた場所への移動を開始した。




行頭空けという作法があるということをつい最近知ったので、今回から導入してみました。気が向いたら今までの話にも入れてるかもしれません。


書式はどっちの方が良いですか?

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