リアンエミュと指令エミュ難しいから他の蜘蛛の巣メンバーの方に逃げたい気持ちが湧いてきています。
リアンが目を覚ましてから2日経ち、胴体の傷は痕こそ残っているもののほとんど塞がっていた。
結局この2日間、端末機から新しい指令が来ることはなかった。
「退院おめでとうございます。リアンさん。次に会う時は、病室の中以外の場所であることを祈っておきます。」
「ああ。短い間だったけど、色々と助けられたな。ありがとう、セリナ。」
セリナに見送られ、病室を出る。
「こんにちは、リアンさん。」
そのまま救護騎士団の建物を出ようとすると、入口のところにサクラコが立っていた。
「ん、お前も来ていたのか。」
「はい。今日退院なさると聞いておりましたので。少し話したいことがありまして。」
「話したいこと?」
「あなたはキヴォトスの外からいらしたのですよね。ここでの今後の滞在場所は既に決めておられるのですか?」
「言われてみれば考えていなかったな。最悪野宿でも問題はないが…。」
「それでしたら、私たちの管轄する聖堂の一室を使うのはどうでしょうか?学生寮には恐らく入れないでしょうし…。少々狭いかもしれませんが、生活していただく上で支障はないと思います。もちろん、お代などは結構です。」
「いいのか?流石にそこまでされると少し申し訳なくなってくるんだが…。」
「構いませんよ。それに友達というのは、困っている時にお互い助け合うものでしょう?」
サクラコの透き通った目がリアンを見つめる。
ふと、自分がかつて言った言葉を思い返す。
家族はお互い助け合うものだ、そう娘に伝えた記憶がある。
…いや、娘だけじゃない。他の人にも言ったような気がする。
しかし、誰に言ったのか思い出せない。
特に思い入れのなかった者か、そうでなければ阿頼耶識で斬られた者だったのだろう。
なら思い出そうとする必要はない。思い出すこと自体不可能なのだから。そう思いつつ返事をする。
「お前は優しいんだな。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうことにするよ。」
「分かりました。それでは今から案内しますので、私についてきてください。」
サクラコに案内され、リアンはシスターフッド管轄の大聖堂へと向かった。
休日にでもなっているのか、昼間の学校だというのに人通りが少なく閑散としている。
その道中、久しぶりにピープ音が鳴り、端末機を確認する。
【生徒を殺さないこと。期限はこの世界にいる間。】
サクラコはピープ音に気付いていないのか、特に振り返ることもなく歩き続ける。
(随分と平和的な指令が来たな。こういう指令がずっと続いてくれればいいんだけど。)
指令を確認した後、端末機を胸ポケットにしまうとともに、先ほどから気になっていたことをサクラコに問いかける。
「さっきから動物の頭を持つ者や機械のような者とよくすれ違っている気がするが…この世界では普通のことなのか?」
「うーん…あなたの世界ではどうだったのか分かりませんが…少なくともキヴォトスではごく普通の方々ですよ。」
「そうなのか。俺の元いた世界だとああいう人達は見つかった瞬間殺されていたからな。なんだか新鮮な気分だ。」
「殺され…!?あなたの元いた世界は一体どんな世界だったのですか…?」
「…一言で表すなら、誰かの悪意がまた別の誰かの悪意を喚起し、それを繰り返して巨大な流れを形作っている、そんな場所さ。」
「そんな…どうしてそのようなことが…。」
「生き延びるため。誰かの悪意から身を守るためには、自分も悪意を持って相手を蹴落とすしかないんだ。これは正当防衛だ、仕方がなかった、そんな安っぽい言い訳を並べながら、次第にその責任から目を背けるようになる。俺も結局、そうした大多数のうちの一人でしかない。」
「そう、なのですね…。…リアンさんが、このキヴォトスで少しでも安寧を得られることを、心から願っております。」
「うん。ありがとう、サクラコ。」
ひとしきり会話を終えると、目的地に近付いてきた。
「ほう…これは…想像以上だな。」
想定していたよりもかなり豪華な聖堂に案内され、思わず感嘆の声が漏れる。
もちろん都市にもこれ以上の規模の建物はいくらでもあるが、そういう場所はほぼ例外なく巣の金持ちが所有しており、自分のような部外者を住まわせる場所ではない。
「トリニティの象徴とも言われていますからね。ですが中は見た目ほど広くありませんよ。こういった建物は概して実用性よりも芸術性が重視されるものですから。」
そう言うサクラコと共に中に入り、ざっと数百人は入りそうな規模の礼拝堂を通って裏にある部屋へと案内される。
「こちらです。普段あまり使わない部屋なので手入れが行き届いていないかもしれませんが…。」
部屋の中はたしかにそこまで広くはなかったが、ベッドやテーブル、椅子、棚、冷蔵庫、テレビといった生活に必要そうなものは大体揃っていた。
「十分さ。むしろ好待遇すぎて怖くなってくるくらいだ。」
「ふふっ、それなら良かったです。では私は用事がありますので、これにて失礼いたします。また何か聞きたいことがありましたら、いつでもご連絡ください。」
サクラコは微笑みながら出て行った。
(さて、これからどうしようか?)
今まであらゆる選択を指令に委ねてきたせいか、こういう空いた時間に何をすればいいのかわからない。
そんなリアンの気持ちを汲んだかのごとく、ピープ音が鳴った。
【この世界で最も自由で、最も不自由な者に会うこと。】
(…はぁ。こういう言葉遊びみたいな指令は嫌なんだが。まあ、これはまだ比較的分かりやすい部類だな。)
文を細かく分解し、1つ1つの単語が何を指し示しているのかを考える。
(自由とは何物にも縛られていないこと。そして人を縛るものとして考えられるのは法や感情、人間関係なんかがあるな。)
(自由かつ不自由…ということは、これらのうちどれかからは解き放たれているが、その一方でどれかには縛られている…ということか?)
(法に縛られていて感情には縛られていない…いや、これだと該当者が多すぎる。逆ならどうだ?)
こう考えた時、思い当たる節が1つあった。
「…シャーレの先生?」
そう、セリナの話を信じるのなら、シャーレの先生はキヴォトス全体を統治していたという連邦生徒会長が直々に呼び寄せた存在であり、何らかの超法規的権限が与えられていてもおかしくない。
そして困っている生徒を見捨てない…つまり、生徒という足枷に縛られた不自由な存在ともとれる。
(確かめてみる価値はありそうだな。)
────
真っ昼間のシャーレの執務室の中。
私は対策委員会の支援要請でアビドスに向かっていてシャーレから席を外していたが、どうやらその間にも容赦なく仕事は溜まり続けていたらしく、その消化に追われていた。
日曜日にも関わらず延々と働かされているという事実と終わる気配のない仕事を呪いながらも、一区切りついてコーヒーを淹れようとした時、突然インターホンが鳴った。
今日は当番の生徒も呼んでいないが、誰か困り事でもあって訪ねてきたのだろうか。
そう思ってドアを開けると、そこには黒いスーツを着て白い仮面をつけた長身の男が立っていた。
黒服を彷彿とさせるような姿の男に対し、私の警戒心は高まる。
「どうやらあなたのことで合っていたみたいだな、シャーレの先生。」
"…あなたは、誰だ?"
「そう警戒するな。今日は顔を見に来ただけだから。」
私の問いには答えず、男は胸元から端末機のようなものを取り出す。
「それじゃあ、俺の用事は済んだみたいだからこれで失礼させてもらうよ。」
"待って、せめて名前だけでも…。"
いきなり押しかけてきてすぐ帰るという意味のわからない行動をする男を引き留めようとすると、男は振り返ることなく喋った。
「今ここで尋ねても意味はない。どうせ俺とあなたは近いうちに再び会うことになるようだから。」
意味深な言葉を残し、男はシャーレから去っていった。
その直後、開きっぱなしにしていたデスクトップからメールの着信音が響く。
("支援のお願い…差出人…トリニティ総合学園ティーパーティ…桐藤ナギサ…")
妙に引っかかる男の言葉と共に、私はトリニティへと足を運ぶことにした。
パヴァーヌ第1章がエデン条約より前だということを忘れていた間抜けは私です。
…原作の時系列を無視するなんて、一体私の意中はどんなものだったのですか。
私の意中を問うだなんて、そんな不純な考えは根っこから間違っている。私は今夜中に全員粛清し、ヴァレンチーナからは愛を取り上げるように。
まあ多分パヴァーヌ1章をエデン条約後に持ってきてもあんま影響ないと思うので許してください…。