蜘ノ糸ノ青   作:おねむなボンちゃん

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なんと今まで途中のストーリーはおろか結末すら碌に考えずに進めていた模様。流石に無計画すぎるだろこの人。
そんなわけで結末考えたり自分で適当に広げまくったストーリーの辻褄合わせ考えてたら投稿期間が空いてしまいました。申し訳ありません。左手1つ詰めるのでお許しください。


螺旋の始まり

トリニティを訪れ、メールで指定されていた建物へ向かうと、何人かの生徒が出迎えてくれた。

 

「お待ちしておりました。先生。どうぞこちらへ。」

 

案内された通りに進むと、他の生徒よりも一際装飾の多い服を着た子が2人、テーブルを囲んでいた。

 

「へー、これが噂の先生かー。あんまり私たちと変わらない感じなんだね?なるほどー、ふーん……うん、私は結構良いと思う!!ナギちゃん的にはどう?」

 

「……ミカさん、初対面でそういった話はあまり礼儀がなっていませんよ。愛が溢れるのは結構ですが、時と場所は選びましょうね。」

 

「うぅ、それはまあ確かに……。先生、ごめんね?まあとりあえず、これからよろしくってことで!」

 

"こちらこそ、よろしく。"

 

トリニティのシステムと歴史についてナギサから簡単な説明を受けた後、本題に入る。

 

要約すると、近々「エデン条約」というものが結ばれるこの忙しい時期に成績不振者が複数名発生し、その対処のため緊急で設立された「補習授業部」の顧問になって欲しいとのことだ。

 

「いかがでしょう、先生?助けが必要な生徒達に、手を差し伸べていただけませんか?」

 

先生という立場上、困っている生徒を助けるのは当然のことだ。

 

"私にできることであれば、喜んで。"

 

「やった!ありがとー先生!」

 

「……。ふふっ、きっと断らないでしょうとは思っていましたが……。ありがとうございます。では、こちらを。」

 

ナギサから補習授業部の名簿を受け取る。

 

……見覚えのある生徒の名前がある気がしたが、一旦置いておくことにした。

 

早速名簿に書かれた生徒に会いに行くため席を立とうとすると、ナギサから呼び止められた。

 

「……お待ちください。まだ伝えるべきことが残っています。」

 

「えっ!?これ以上何かあったっけ……?」

 

ナギサが一際真剣な顔になる。

 

「……先生、今からお話することは、決して口外しないでください。……もう一人のティーパーティー、百合園セイアさんに関することです。」

 

「……ナギちゃん。それ、今言うべきことなの?」

 

「はい。少々事情が変わりましたので。……先日、セイアさんからあなたへの伝言を頂いたのです。」

 

「……え。セイアちゃんが……?なんで……。それにセイアちゃんはもう……。」

 

ミカが明らかに動揺したような様子を見せる。先ほどまでのテンションの高さが嘘のようだ。

 

「……これについては、後でゆっくりお話しましょう、ミカさん。今は先生への伝言を伝えることが先決です。」

 

「……うん。わかった。」

 

沈んだような様子の2人を見るに、過去にセイアと何かあったのだろうか。

 

「それで先生への伝言ですが……『白い仮面をつけた男に気を付けてくれ』とのことです。どういうことかはまだこちらも把握しておりませんが……。」

 

"……!"

 

白い仮面の男。私はその人物に心当たりがある。先日突然シャーレに押しかけてきたあの男。

 

そして男が去り際に残した、近いうちに再び会うことになるという言葉。

 

どういった形で再会することになるかは分からないが、それが良い出会い方であることはないような気がした。

 

"……分かった。ありがとう、ナギサ。"

 

「私はただセイアさんに言われたことを伝えただけですから、お礼を言われるようなことではありませんよ。それでは、今日はこの辺でお開きといたしましょうか。本日はお越しいただき、ありがとうございました。」

 

ナギサがこちらに頭を下げ、未だ顔に暗い影を落としているミカを連れて席を立つ。

 

彼女たちのことも気になるが、とりあえず今は補習授業部という目先の仕事に集中することにしよう。

 

 

────

 

 

「……リアンさん、何をしておられるんですか?」

 

サクラコがリアンの部屋の前を通りかかった時、部屋の中で数十冊はありそうな絵本を整理しているリアンの姿が目に入った。

 

「絵本の整理だ。ついさっき買ってきたところだしね。」

 

「いえ、それは分かるのですが……一体どこからそんな大量の絵本を……?」

 

「ブラックマーケットの本屋で売られていたものを買ってきたんだ。店員からは怪訝な顔をされたけど。」

 

もちろん、リアンが大量の絵本を買った原因は指令である。

 

「その、大丈夫だったのですか?ブラックマーケットのような治安の悪い場所に行っても……。」

 

「ああ。裏路地よりも遙かにマシな場所だと思うよ。」

 

「……そうですか。」

 

サクラコはどこか哀しげな顔をしながらリアンを見つめた。

 

ピープ音が鳴る。今度はサクラコにもはっきり聞こえたようだ。

 

リアンはベッドの上に腰掛け、端末機を確認する。

 

【現在お前の半径1m以内の範囲にいる者と共に、娘との会話を再現すること。ただし、呼称は問わない。】

 

「……。」

 

「またピピ様が何か仰っているのですか?」

 

「……サクラコ。絵本に興味はあるか?」

 

「唐突ですね……。ですが興味はあります。見たことのない絵本も多くあるようですし。」

 

「そうか。ならこっちにおいで。読み聞かせをしてあげよう。」

 

「はい!?あ、いえ、その……この歳で読み聞かせというのは、些か恥ずかしいと言いますか……。」

 

「恥ずかしがることはない。娘はお前達くらいの年になってもずっと絵本の読み聞かせが好きだったぞ?」

 

「うーん……。……そうですね。別にこれくらいは構いませんよね。それでは、お隣に失礼します。」

 

サクラコが隣に座ると、リアンは近くにあった適当な絵本を取った。表紙には蝶と蛾が描かれていた。

 

「それじゃ、始めようか。

 

昔々、あるところに蝶と蛾の暮らす国がありました。蝶の羽は蛾にはない美しさを持っており、蛾の羽は蝶にはない丈夫さを持っていました。蝶と蛾は互いのことがあまり好きではありませんでした──」

 

朗読がしばらく続き、中盤辺りで声が止まる。

 

「──サクラコ、お前はここまでの話についてどう思う?」

 

読後に子供へ感想を聞くかのように、サクラコに問いかける。

 

「……考えさせられるお話ですね。どうして蝶の羽は穴だらけになっていたんでしょうか?」

 

「まず、どうして蛾の羽が傷ついていたのかは覚えているか?」

 

「蝶が蛾に対して鋭い軽蔑の視線を向けたから、でしょうか。」

 

「そうだ。そして誰かを軽蔑することは何に繫がると思う?」

 

サクラコはしばらく黙って考え込んでいたが、やがてリアンの方に向き直った。

 

「うーん……。すみません、分かりません。」

 

「誰かを軽蔑するということは……自分自身を軽蔑することに繫がる。自分以外の誰かに向けていたつもりだった鋭い軽蔑の視線は、気付かないうちに自分自身をも貫く螺旋のようなものだったんだ。そして蝶の羽は、蛾の羽のような丈夫さを持ち合わせていない脆い羽だった。だからその鋭さに耐えられず、穴が空いたんだ。」

 

「螺旋……無限に循環を続ける、ということですか。」

 

「ああ。そして螺旋は循環し続けるというだけでなく、別の性質も持っている。」

 

リアンはゼノンの亀螺旋を取り出した。

 

「この螺旋は、1度刺されば少し動くだけでもどんどん食い込んでいくんだ。正しい方法をとらないと抜くことができず、無理に引き抜こうとすればするほど、螺旋は深く突き刺さる。けど、決して終端に到達することはない。終わりに近付くほど、螺旋はだんだん遅くなって……結局終端に辿り着けないんだ。そして、これに似た物が何か知ってるか?

──疑い、そして氷おにだ。」

 

「氷おにというと、子供達がよくやるあの遊びですか?」

 

「そうだ。氷おにでは氷になった人はお湯、と言われないと動けない。無理に氷を砕こうとすれば、全身が砕けることになる。螺旋を抜く時と同じように、きちんと正しい方法をとらないといけないんだ。

……これを俺に教えてくれた娘は、忘れてしまったみたいだけどな。」

 

「前にも仰っていましたが、娘さんがおられるのですよね。どのような方なのでしょうか。」

 

「娘は……ヨシヒデは、本当に優しくて、しかも賢い子だった。あの子の独創的な視点は誰にも真似できるものではないと断言できるほどに。だから俺達も皆、それぞれのやり方であの子を愛した。だけど結局、あの子にとって俺達との繋がりは断ち切るべき悪縁だったみたいだ。」

 

「……複雑な事情があるのですね。その娘さんとの間には。」

 

「……ああ。」

 

絵本に栞を挟み込み、絵本を閉じた。

 

「今日はここまでにしよう。結末はまた今度にとっておこうか。」

 

「もう切られるのですか?まだ3分の1ほどしか読んでいませんが……。」

 

名残惜しそうに言うサクラコに対し、リアンは右手の小指を差し出す。

 

「サクラコ。お前がこの時間を恋しいと思うなら……いつか必ず、結末まで読んであげよう。約束だ。」

 

差し出された小指に対し、サクラコが右手の小指をそっと絡める。

 

「……はい。約束ですよ。」

 

その瞬間、互いの手の人差し指から、赤い糸が微かに伸びたように見え、サクラコの目の前に、赤いパーカーを着た子供(ヨシヒデ)と仮面をつけていないリアンが話している、見知らぬ光景が浮かび上がった。

 

『…と言いました。すると、猿が…。』

 

『……。でもお父さん、私もう13歳だよ。』

 

『娘。お前、今5歳じゃなかったのか?』

 

『……。』

 

『冗談だよ。あまり面白くなかったみたいだな。』

 

『もちろん、うちの娘が13歳になって7ヶ月も過ぎたってことくらい分かっているさ。』

 

『うん、絵本を読む年はとっくに過ぎたって…。』

 

『絵本を読む年齢は、決まっているのか?』

 

『ここにも書いてあるでしょ。3歳から8歳までって。』

 

『それは推奨に過ぎないんだ、娘。お父さんはいつだって絵本ばかり読んでる。』

 

『…それ、変だよ。大人なら文字だけの本を読むんじゃなかったの?』

 

『それは、文字だけの本が読めるって自慢したい大人達が作り出した偏見さ。文字だけじゃ、永遠に分からないだろう。この猿の目がどんな形をしていて、どんな色で、笑い出すときはどんな表情をするのか。だから、読んでいる間ずっと不安になるんだ。俺が想像したその姿が、作者の定めていた実像とどれだけ違うのか。そして娘、お前も…。絵本を読むの、好きだろう。』

 

『…嫌いじゃないよ。だから次のページ、早くめくってよ。猿はどうなったの?』

 

『……。ここから先は、次に読もう。結末は、取っておく方がいいだろ。』

 

『毎日そう言うだけで、最後まで読んだことないじゃん。猿と蛙が競争して、どうなったか知りたいんだって。』

 

『だから娘、約束しただろ。』

 

『……。嘘をついたら…。』

 

『そう、針1000本飲ます。』

 

(今のは……。)

 

リアンはサクラコの様子に気付いていないようだった。そのまま指を放した直後に鳴り響いたピープ音に反応していた。

 

【古聖堂に向かい、カタコンベを通り抜けること。】

 

「サクラコ、古聖堂がどこにあるか知ってるか?」

 

「はい?古聖堂ならここから東にしばらく進んだところにありますが……。」

 

「分かった、ありがとう。」

 

「……?」

 

困惑している間に、リアンは立ち去り、古聖堂に向かった。

 

(今見えたのは、先ほど仰っていたヨシヒデさんと、リアンさんの過去の光景でしょうか……?仲睦まじい親子の光景に見えたのに、どうしてリアンさんはあのように仰ったのでしょう……?)

 

腑に落ちない気持ちを抱えつつ、サクラコも立ち上がり、部屋を離れた。

 

 

────

 

 

「──それで、例の一瞬現れた時空の裂け目についての調査は進んでいるのか?」

 

「まだはっきりしたことは分かっておりませんが、あの裂け目から生徒ではない何者かが現れたことは確かなようです。ですが、例の『シャーレの先生』とは無関係である可能性が高いかと。」

 

「そうですか。しかし、私たちや先生と同じくこの世界の外部から来た『大人』だとすれば……先生のように、この物語に何かしらの影響を及ぼす可能性があるのでは?」

 

「否定はできませんね。あの者が現れた時空の裂け目についても何かしらの情報を得られる可能性がある以上、1度接触してみる価値はあるでしょう。どうやらちょうどそちらに向かっているようですので、接触を試みてください、マダム。」

 

「……いいでしょう。もし私たちの仲間に引き入れることができれば、私の計画の完遂の大きな手助けとなるやもしれませんから。」

 

「しかし、あの者が我々に敵対的だった場合はどうするつもりだ?生徒ではないとはいえ、もし我々が攻撃などされれば無事でいられる保障はないが。」

 

「私がアリウス自治区を支配下に入れていることをお忘れで?当然、生徒達に向かわせますとも。」

 

「クックックッ……吉報を待っていますよ、マダム。」




言い忘れていましたが、評価・感想・誤字報告をしていただけると私が喜ぶかもしれません。
文体の改善点とかについても今後の参考にしますので、どんどん書き込んでいただいて大丈夫です。
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