蜘ノ糸ノ青   作:おねむなボンちゃん

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前回後書きで処刑された私が言った通り、時系列が前後しています。具体的には5話のリアン視点と先生視点の中間に入るものとして認識していただければ大丈夫です。


ゲマトリアとの会議

 

リアンの腕につけている端末が鳴った。

 

指令のピープ音とはまた異なるその電子音が聞こえたということは、ベアトリーチェが言っていた定例会議とやらに呼ばれたということだろう。

 

サクラコと別れ、端末の小さい画面に示された道案内に従う。

 

歩いていくうちに段々周りの人影はまばらになっていき、気付けば誰もいない、冷え冷えとした細い路地に入っていた。

 

端末の案内は路地のさらに奥の方を指している。

 

案内に従ってさらに進んでいると、1本道の路地の途中で突然指し示す方角が切り替わった。

 

その方に目をやると、地下へと続く階段のようなものがあった。

 

階段の途中には明かりが全くついておらず、底が見えないほど深くまで続いているようだった。

 

リアンは階段へと足を踏み入れ、その下へ降りていった。

 

コツ、コツという足音がこだまするのを聞きながら、永遠に続くようにすら思われる階段を進んでいく。

 

そしてついに、その永遠に終わりを告げるかのごとく、微かな明かりを放つ階段の底が目に入った。

 

その先にはこれまでの老朽化した階段の様子とは相反する、近未来的な様相の扉があった。

 

扉の横にはカードリーダーのようなものがついており、近付くとどこからか自動音声が聞こえてきた。

 

《ようこそ。この先に進むには、然るべき資格を提示してください。》

 

音声に従い、腕の端末機をカードリーダーにかざした。

 

《……確認しました。どうぞ、お入りください。》

 

扉の分厚さに反し、ほとんど音も立てずに扉が開いた。

 

その先はまるでN社の映写室のように赤い光で照らされた廊下が続いており、その奥に開けた空間があるのが分かった。

 

奥の空間ではベアトリーチェに加え、リアンによく似たスーツを着ており、ヒビが入ったような顔から白い光が漏れ出ている者、同じくヒビが入ったような木製の双頭を持つ者、そしてそもそも頭部が無く、肖像画のようなものを持っている者が待っていた。

 

「全員揃ったようですね。それでは会議を始めましょう。」

 

どうやらスーツの男が進行役のようだ。

 

「リアン、あなたのことはベアトリーチェから聞いております。我々ゲマトリアへの協力、感謝申し上げます。せっかくですし、今回は私達の自己紹介から始めましょうか。私のことは黒服とでも呼んでください。」

 

「私のことはマエストロと呼びたまえ。芸術への敬意も込めて、な。」

 

「私はゴルコンダです。そして──」

 

「そういうこった!」

 

「──失礼しました。こちらがデカルコマニーです。」

 

「私については以前もお会いしましたし、わざわざ名乗る必要はありませんね?」

 

ゴルコンダに関してはもはや一体どこから声を出しているのか分からないが、それぞれが自己紹介を終えた。

 

「さて、今回お集まりいただいたのは他でもありません。リアン、あなたから聞き出したい情報が山ほどあるのです。」

 

「……ふむ。」

 

「まず、あなたがこの世界に現れる直前、ほんの一瞬次元の裂け目が出来ました。あなたはそこから現れたのですが、この次元の裂け目に心当たりはありますか?」

 

「……ないな。そもそも俺は前の世界で死んだはずだから。」

 

「死んだ……?どういう意味だ?」

 

「文字通りの意味だ。そういうわけだし、俺自身も何故この世界に来たのかは全く分からない。別になんてこともない、ありふれた死に方だったから。」

 

「成程。ではその前の世界とやらがどのような場所だったか教えていただけますか?」

 

「都市は……キヴォトスと違って、人の温情というものがまるで存在しない場所だ。昨日まで普通に話をしていた隣人が、翌日には道端に転がっているなんてことも珍しくない。都市ほど人の命の価値が軽い場所もないだろうな。」

 

「……まさに反理想郷(ディストピア)と呼ぶに相応しい世界のようてすね。些か興味はありますが……こちらから干渉する方法が不明な以上、物語の題材には出来ないでしょう。」

 

「まるで貴下の統治下にあるアリウスのようではないか?マダム。」

 

「それは私に対する侮辱と捉えて宜しいでしょうか?私が意味も無く生徒に憎悪を抱かせ、搾取しているとでも?」

 

「まあまあ……落ち着いてください、2人とも。」

 

場の雰囲気が凍りつきかけたが、ゴルコンダが仲裁に入った。

 

「如何なる手段であれ、事実としてマダムはアリウスを自身の領土にするという偉業を成し遂げています。それで良いではありませんか?元々私達は各々のやり方に口を出すような間柄ではないでしょう。」

 

「……それはそうだな。非礼を詫びよう、マダム。」

 

「ふん……。今回は見逃して差し上げます。感謝しなさい。」

 

2人が互いに引き下がると、再び黒服が口を開いた。

 

「……お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。本題に戻りましょう。次にお聞きしたいのは、あなたが所有する製品についてです。まずこれらはあなたが発明したのですか?」

 

「まさか。ただ都市で一般的に販売されているものを買っただけだ。そもそも、俺がそういった発明とかに興味があるように見えるのか?」

 

「人は見かけによらないとは言いますからね。一応確認してみただけです。それにしても、そちらの世界では随分と技術が進歩しているようで。」

 

「人命よりも技術の進歩を優先しているからな。そうなるのも必然だろう。」

 

今度は胸ポケットの方の端末機が鳴り、指令が届いた。

 

【粘つく蜘蛛の糸で、総てを貫く神聖を完成させろ。期限は1ヶ月。】

 

「……その端末機は何ですか?」

 

端末機を凝視して指令の解釈を試みていたリアンに、黒服が訝しげな視線を向けた。

 

「……ああ、何でもない。それはそうと、あなた達の質問にここまで答えてやったんだし、今度はこちらから質問してもいいか?」

 

「ええ、なんなりと。」

 

「『神秘』というのはどんな性質を持つ力なんだ?あなた達と関わる以上、遅かれ早かれ『神秘』というものに接する必要があるだろうし、知っておいて損はないだろう。」

 

「ふむ。『神秘』についての解釈は千差万別ではありますが……私の見解では、『神秘』は実体の無い概念に形を与え、その形状を維持させるものであると考えています。ゴルコンダの言葉を借りるのであれば、この学園都市というテクスチャを被った世界において、生徒という概念に実体を与えているのが『神秘』です。そして学校生活において、生徒の死というものは本来そう簡単に起きるものではありません。この世界の生徒は皆異常なほどの耐久性と身体能力を備えていることで知られていますが、その要因の1つには、この生徒の死という現象の重みが関わっているのではないかと。強力な『神秘』を持つ生徒は、銃を初めとする様々な兵器が存在するこの世界において、高い耐久性と身体能力を持つことで死から守られているのではないかと考えています。」

 

「概念を実体化させる力か……。それが事実なら、この上なく便利な力であることは間違いなさそうだな。」

 

「ええ。ですが、私達は未だ『神秘』というものについてはっきりと理解できておりません。先ほど申し上げたものもあくまで1つの見解でしかなく、他にも無数の解釈が存在するでしょう。」

 

「あなたの考え通りなら、例えば感情みたいな概念も実体化できることになるのか?」

 

「理論上は可能でしょう。その方法までは分かりませんが……。」

 

再びピープ音が鳴り、指令が届く。

 

【この場で自身の持つ全ての特異点を提供し、指令の達成に繫げること。】

 

「……どうやら俺も『神秘』についてもっと深く知らなければならないらしいな。今俺が持っている特異点は全て使ってもらって構わないから、『神秘』についての研究を進めて、何か進展があれば伝えてくれ。」

 

「技術の提供はありがたいのですが、何か急ぎの目的があるのですか?」

 

「ああ。少し『神秘』を利用して作りたい物があってな。」

 

リアンは手袋からHPアンプル、現状保存包装、妖精を取り出し、テーブルの上にぶちまけていった。

 

「これが今持っている全てだ。根源を理解して上手く利用出来れば、何かしらの形で『神秘』の研究に役立つはずだ。貴重品だから扱いにだけは気を付けてくれ。それじゃ、俺はこの辺で失礼させてもらうとしよう。あまり遅くなるとまた怒られてしまうからな。」

 

「待て、まだ話は──」

 

マエストロが呼び止めようとしたが、その頃には既にリアンの姿は消えていた。

 

「……行ってしまいましたね。」

 

「そうですね……。ですが、以前彼の持ってきた時間金庫のことを考えると、これらの物品もかなり高次元の技術が使われている可能性が高いです。それこそ、『神秘』のように概念そのものを操作出来るような。『神秘』と違って実体があるため、こちらの方が解析が簡単でしょうし、彼の言っていたように『神秘』の解明に大いに役立つかもしれません。」

 

「『神秘』の研究と並行してこれらの研究も行う必要がありそうだな。」

 

「それと、次はあの端末機についてもしっかり聞いておくべきでしょう。黒服が聞いたときははぐらかされてしまいましたが、会議中しばしば凝視しておりましたので。」

 

今後の予定について黒服達が話し合っている中、ベアトリーチェだけは口を閉ざしていた。

 

(これらの力を完全に取り扱うことができれば……私は時間を含むあらゆる概念をも支配する神の如き存在となれるでしょう。そうなればこの世界に大人だけの楽園を築き上げるなど容易いこと……。ええ、なんとしても我が物にしてみせますとも。)

 

その顔は奇妙な愉悦に満たされていた。

 

 

 

 

ゲマトリアの会議場から出た時、まだ陽は高く昇っていた。

 

(帰る途中で約束通りパフェを買ってやらないとな。どこの店だったか……。)

 

地図に該当する物を何も持ってきていなかったことを少し後悔していると、助け船を出すかのごとく指令が送られてきた。

 

「……こっちにあるのか?」

 

再び、指令によって指し示された方角へと向かう。

 

しばらく進むと人通りが増えてきて、繁華街のような場所に出た。

 

(ああ、もしかしてあの店か?)

 

目的の店を探すのにはそう苦労しなかった。

 

遠くからでもはっきりと見えるほどの長蛇の列が、ある店を起点に出来ていたのだ。

 

(相当な人気だな。ハムハムパンパンでもここまでの列は見たことがないんだが。)

 

目的の商品が売り切れていないかという一抹の不安を抱え、列に並んだ。

 

40分ほど経った頃、ようやく店の中まで列が進み、ほどなくしてリアンの番が回ってきた。

 

「いらっしゃいませ。お持ち帰りですか?」

 

「ああ。フルーツパフェを1つ頼む。」

 

「フルーツパフェを1つですね。かしこまりました。お持ち帰り用の手提げ袋も含めて、お会計が2400円になります。」

 

幸いにも売り切れてはいなかったようだ。

 

やはり有名店だからか中々に高いが、会計を済ませた。

 

「ありがとうございます。それでは、受け取り口の前でお待ちください。」

 

生徒の案内に従い、受け取り口の前でしばらく待っていると、色とりどりのフルーツで飾られているボトルカップ入りのパフェが丁寧に紙袋に入れられ、リアンに渡された。

 

「お待たせいたしました。フルーツパフェでございます。ストローとシュガーはあちらの台から自由にお取りください。時間が経つと溶けてしまいますので、お早めにお召し上がりください。」

 

「ありがとう。また来るよ。」

 

店を出た直後、寄り道せずにシスターフッドの本部へ戻ろうと思っていると、指令が届いた。

 

【今最も親しい者を明日遊園地に連れて行くこと。】

 

サクラコ達は学校があるのではないかと思ったが、すぐに今日が金曜日であることに気付いた。

 

トリニティは土曜日も休みであるため、特に用事が無ければ問題なく達成できる指令だろう。

 

陽が少し傾きかけている中シスターフッドの本部に戻ると、昼間と同じ部屋にサクラコがいた。

 

「ただいま。頼まれていたパフェを買ってきたぞ。」

 

「おかえりなさいませ。パフェも買ってきてくださったのですね。ありがとうございます。では早速いただきますね。」

 

汚れないように机の上にあった書類をどかし、パフェを食べ始めるサクラコ。

 

付属の先割れスプーン(フォプーン)で側面のクリームを少しすくい、口に入れた。

 

「……このしつこすぎない絶妙な甘さ……。そして驚くほど滑らかな口溶け……。クリーム1口だけで、絶品と評判になる理由が分かるような気がしますね。見た目も食べるのが勿体ないほどに美しいですし……。」

 

「お気に召したようなら何よりだ。それと、明日暇か?サクラコ。」

 

「明日ですか?特に用事はありませんが……。」

 

「なら遊園地に行こう。もちろん、俺の奢りで。」

 

「遊園地……ですか?」

 

「不服そうだな。どうかしたのか?」

 

「いえ。そうではなく……意外だなと思いまして。今までリアンさんから何かを誘ってきたことはなかったじゃないですか。あと私、これまで遊園地というものに行ったことがなくて……。」

 

「それならこれがお前にとって初めての遊園地になるわけだ。出来る限り良いものにしないとな。記憶は大事だから。」

 

「……そうですね。遊園地、楽しみにしておきます。」

 

「そうと決まれば今日は早めに寝ないとな。しっかり寝て体力を回復させないと十分に楽しめないじゃんか?」

 

「ふふっ。もしかしたら、楽しみすぎて眠れないかもしれませんね。」

 

「それは困るな。遠足を無事に終えても、翌日に体調を崩すことになりそうだ。」

 

「冗談ですよ。それにもし眠れなくても、ずっと目を閉じていればいずれ眠れるものですし。」

 

「それもそうだな。それじゃあ、また明日の朝に会おう。」

 

その日の夜、サクラコは期待とともに床に就いた。

 

その中には未知なる遊園地に対するものだけでなく、この機会にもっとリアンのことについて知れるかもしれないという期待も含まれていた。





神秘についての設定は完全に独自設定です。

公式の情報と矛盾しまくっているかもしれませんが、この作品ではそういうものとして考えてください。

それとUA1万ありがとうございます!

まだまだ覚束ない足取りではありますが、今後もこの作品を見守っていただけると幸いです。
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