あ、先生視点から始まります。
補習授業部の合宿場所に到着後、ハナコの提案でまず掃除をすることになった。
勉強をするにもまず環境を清潔にしないと集中はしにくいものだし、理に適っている。
そういうわけで掃除を開始して2時間ほど経ち、ある程度区切りがついた頃、シッテムの箱に通知が来た。
<先生、今は大丈夫だろうか。>
セイアからの連絡だった。
<"うん。どうしたの?">
<向かって欲しい場所がある。今から座標を送ろう。>
セイアから送られてきた座標を確認すると、そこは意外な場所だった。
<"ここって……遊園地?">
<ああ。『ボーダーランド遊園地』。トリニティとゲヘナの境界線上にあることで有名な場所だ。>
<"今から向かって欲しいってことは、ここに何かあるの?">
<……予知夢で、例の男がそこにいるのが見えた。サクラコも一緒にいるようだったが、一瞬しか見えなかったし、どうも何か起きてないか不安でね。そこで、君に様子を見てきてもらいたい。頼めるだろうか。>
セイアからあの男についての情報を得てからまだ1日も経っていないが、早速動きがあったようだ。
<"分かった。何か分かったらまた連絡するよ。">
<ありがとう。補習授業部の皆には上手く言い訳をしておいてくれ……と言いたいところだが、もしかしたらハナコは勘付いてしまうかもしれないな。彼女はとても賢いから。>
第1次のテストでは驚異の2点を叩き出していたハナコだが、その割には前日までのアズサ達の全ての質問に対し完璧な回答を出していた。
何か事情があるのではないかと思っていたが、どうやらその予感は的中していたらしい。
<"……やっぱり、ハナコには何か事情が?">
<ハナコは…………いや、それを私の口から伝えるのは控えるとしよう。それは彼女の望むことではないだろうからね。まあ、いずれ君もこの流れの中で知る時が来るだろう。>
<"……そっか。">
<ハナコにもし君の行動について問い詰められたら、私の名前を出してくれ。そうすれば、彼女もきっと納得してくれるはずだ。>
<"分かった。それじゃあ行ってくるね。">
<ああ。くれぐれも気を付けてくれ、先生。>
補習授業部の皆には少し用事が出来たとだけ伝えて、移動を開始した。
ハナコにも伝えたが、特に怪しまれているような様子はなかった。
────
「ぷはー!生き返りますねー!」
カフェに入った一同は、各々好きな飲み物を頼み、一休みしていた。
レイサは既に頼んだジュースを半分以上飲み干している。
「大声で叫ぶと思った以上に喉が渇くものですね。いつも以上に美味しく感じるような気がします。」
「そうですね。それにようやく平衡感覚も少し戻ってきました。」
「そういえば、ショーか始まるのはいつからだったか覚えてるか?」
「午後1時からだったと思います!あと2時間半くらいですね!」
「そうか。ならそれまでにあと1個か2個くらいは乗れそうだな。」
「結構タイトな時間ではありますし、そろそろ出ましょうか。次はどこに行きますか?」
「私はどこでもいいですよ!……ジェットコースター以外なら……。」
「外の地図を見ながら決めましょう。ここから近いかどうかも大切ですし。」
飲み物を飲み干し、カフェの外に出る一同。
そのまま近くにある、園内のアトラクションの場所と現在地が書いてある地図の前に集まった。
「うーん、ここからだとメリーゴーランドとフリーフォールが近いみたいです。どちらから行きましょうか。」
「私はどちらでもいいですが……レイサさんはどうですか?」
「ここは一旦メリーゴーランドみたいな軽いものを……いやでも遊園地に絶叫マシンは欠かせませんし……。」
レイサが頭を捻らせていたとき、誰かが声をかけてきた。
「そこの皆さん、少しよろしいでしょうか?」
4人が振り返った先にいたのは、この遊園地のスタッフと思われる者だった。
「はい、何でしょうか?」
「皆様は『魔法少女ヘヴィキャリバー』について詳しく知っておりますでしょうか?」
「『まほリバ』ですか!?もちろんです!!アニメも映画も全部履修済みです!!」
レイサがいつも以上にハイテンションで答える。
「おお。それでしたら話が早い。実は、皆様にお願いしたいことがありまして……。」
「『まほリバ』で私が知らないことはありません!!なんでもどうぞ!!」
しかし、頼まれた内容は予想外のものだった。
「……皆様に、昼からのショーのキャストの代役をお願いしたいのです。」
「……え?」
これを聞いた4人の反応は様々であった。
スズミとサクラコは困惑の表情を浮かべ。リアンはいつもと変わらぬ表情を。そしてレイサはより一層目を輝かせていた。
「あの、お言葉ですが、私達にそういった経験は──」
「お任せください!!!」
「レイサさん!?」
スズミが抗議の声をあげるより早く、レイサが大声で了承した。
「自警団として、困っている方を見逃すわけにはいきません!それにこのままではショーを楽しみにしている子供達に愛と勇気を届けられないじゃないですか!」
「し、しかし……スズミさんの仰るとおり、私達にはこうした経験が全く……。」
「心配無用です!私が皆さんを完璧にサポートしてみせますから!!」
3人が魔法少女としてショーに出ることの是非について、リアンは指令の判断を仰いだが、特に問題ないとのことだった。
「まあ、こういう経験もいいんじゃないか?ショーのキャストなんて、やりたいと思ってもそう簡単にできるものじゃないだろ?」
「リアンさんまで……。」
ここで、サクラコが意を決したように言った。
「……魔法少女というのは、子供達に大人気のキャラなのですよね。もしかすると、これは私にとってある種の転機なのかもしれません。誤解を解き、皆さんにとって親しみやすい人となるための。……であれば、喜んで引き受けましょう。どのような結果になったとしても、きっとこの経験は将来の私の糧となるはずですから。」
「サクラコさん……。……分かりました。私も、逃げてばかりはいられません。この機会に、堂々と人前に立てるようになってみせます。」
「皆様引き受けてくださるようですね。ありがとうございます。それでは、まず衣装の調整から行いますので、私についてきてください。」
「俺もついていっていいか?一応この子達の付き添いなものでね。」
「ええ、構いませんよ。」
言われるがままについていく途中、サクラコがスタッフに問いかけた。
「そういえば、私達は代役だと仰っていましたが、元のキャストの方々はどうなったのですか?」
「それが……来る途中で列車事故に巻き込まれたらしく……その際に足を怪我してしまったようで、しばらくは治療に専念するとのことです。」
「列車事故……ああ、なるほど……。それは災難でしたね……。」
話を聞いていたスズミはもう具体的に何が起きたのかある程度察したらしく、それ以上何も言わなかった。
その後キャストの控え室に通され、衣装の採寸から行われた。
幸い、3人ともサイズが合っていたようだ。
スズミはテルミットホワイトの衣装、レイサはテルミットピンクの衣装、そしてサクラコはエラの衣装を着ていた。
尚、エラの衣装ということは例の凄まじい角度を誇る衣装を着ているということである。
「フィードランプよりチャンバーへ……6条右回りの魔法よ!揺るぎなき力をっ!ボルトフォワード!テルミットピンク!くぅ~!このセリフをこの衣装を着て言える日が来るなんて、人生何があるか分からないものですね!」
「こ、これを着て……今から大勢の人の前に立つんですか……。」
「……えっと、これは恐らくエラの衣装ですよね?レイサさんの話では、エラは悪の幹部だと言われていたのですが……これでは、皆さんに親しみやすさを与えるどころか、むしろ恐怖を与えてしまうのではないでしょうか……。」
「心配することはない。その姿のお前も、変わらず美しいからな。観客達もきっとお前の美しさに釘付けになることだろう。」
「そ、そうですか?そこまで言われると少し照れるのですが……。」
「さあさあスズミさ……じゃなくて、テルミットホワイトも!決め台詞を言ってみてください!」
「っ……うぅ……。まじかる、りりかる……てるみっとほわいと!」
「そうですそうです!その調子です!!」
(恥ずかしい……。)
「スズミもよく似合っていると思うぞ。もっと自信を持ってもいいんじゃないか?」
「うぅ……。」
「ところで、1人足りないと思いませんか?」
「……え?ですが主要メンバーはこれで全員のはず……。」
「いえいえ、いるじゃないですか!ホワイトが魔法少女になるきっかけとなったキャラが!」
「……あ!もしかしてスタナグちゃんのことですか?」
先ほどレイサの話を真面目に聞いていたサクラコには正解が分かったようだ。
「正解です!ちゃんと覚えていてくださったんですね!」
「ふふっ。レイサさんが丁寧に説明してくださったおかげですよ。」
(ああ、そういえば話の中にそんなのが出てきていたような気がするな……。)
あまり話を聞いていなかったリアンは、どこか遠い目をしながら3人を見ていた。
「しかし、それではスタナグちゃんはいつ登場するのでしょうか?」
「今この場にいないというだけで、後でスタナグちゃん役の方が来るかもしれませんよ。」
「うーん……それもそうですね!あ、そういえばお二人ともホワイトとエラの台詞って分かりますか?」
「いえ……分かりません。」
「お恥ずかしながら私も……。」
「ふっふっふっ……そんなこともあろうかと……こんな物を持ってきたのですよ!」
レイサは懐からペンのようなものを取り出した。
「……それは?」
「
そしてレイサはその辺にあった紙に物凄い速度で台詞を書き始めた。
「す、すごいですね……。本当に魔法みたいな速度で台本が書き上がっています。」
「レイサさん、好きな物を人に伝える時にはかなり早口になりますからね……まさか文字を書くのも速くなるとは思いませんでしたが。」
ものの数分で2人分の台本が書き上がり、2人に渡された。
「はいどうぞ!こんな感じのセリフを言って、あとは自然にポーズを取っていれば大丈夫だと思います!」
「ありがとうございます。では早速練習を始めましょうか。」
こうして各々が自分の役の練習を始めた。
練習を始めた直後はセリフを覚えるだけで精一杯だったが、時間が経つにつれ目に見えて改善してきていた。
「うーん……悪役を演じるのって思ったより難しいですね……。普段はこうした態度を意図的に取ることはありませんので……。」
「俺を見るんだ、サクラコ。悪役っぽくドスの効いた声を出すべき時は……。」
リアンはサクラコの練習に付き合っていた。
「ここで2人合わせた決め台詞です!ホワイト!準備はいいですか?」
「わ、分かりました!」
「せーので合わせますよ……!せーの……。」
「「マジカル・テラマキナ!!」」
「よーし!いい感じだと思います!本番もこの調子でやればきっと大丈夫です!」
スズミもまたレイサの指導を受け、声に少しずつ自信が宿ってきていた。
そしてショーが始まるまで残り10分ほどになった時、新たに控え室に入ってくる者がいた。
「それにしても、まさかこんなところでこんな好条件のバイトがあるなんてね。ただ着ぐるみ着て突っ立ってるだけでお金貰えるんでしょ?なんで誰もやらないのか不思議なくらいだわ……何よ、なんでお前らそんな顔してんのよ。」
何故か控え室に入った時点で既にスタナグちゃんの着ぐるみを着ている赤髪の生徒と、一緒についてきているヘルメット団と思われる生徒だった。
「い、いやだって隊長……このバイト──」
ついてきていた生徒が何か言いかけたが、その声はすぐにレイサによってかき消された。
「おお!もしかしてあなたがスタナグちゃん役の方ですか!?初めまして!トリニティに蔓延る悪を討つ正義のマジカル自警団!宇沢……いや!テルミットピンクです!!」
「う、うん?よろしく……?」
レイサの勢いに押されてたじろいでいる生徒に対し、スズミが警戒している様子で声をかけた。
「後ろの方々は……ヘルメット団ですか?どうしてここに……。」
その声に対し、赤髪の生徒もまた敵意を含んだ口調で返した。
「……なんか問題ある?うちらはただこのショーのキャストのバイトとして来ただけなんだけど。」
「ヘルメット団ってだけで悪と断定してんじゃないの?……そりゃ、ちょくちょく悪いことはしてるけどさぁ……。」
「私達だって仕事がないから仕方なくやってるだけで、まともな仕事があるならそっちの方がいいに決まってんじゃん。」
後ろの団員達も次々と抗議の声をあげる。
険悪な雰囲気になりかけた時、サクラコが割って入った。
「スズミさん、気持ちは分かりますが……ここはこの方々のことを信じてもいいのではないでしょうか。実際にこうして着ぐるみを着ているわけですし……。」
「そこのあんたは少しは話が分かるみたいね。安心したわ。」
「……そうですね。先入観を持って接してしまいました。申し訳ありません。」
「分かればいいのよ、分かれば。」
「よろしければ名前を伺ってもよろしいですか?これからしばらくの間ご一緒することになるでしょうから。」
「うちは河駒風ラブよ。ジャブシャブヘルメット団のリーダーをやってるわ。」
「歌住サクラコと申します。よろしくお願いしますね、ラブさん。」
「ん?サクラコって……あのサクラコ?」
「隊長、知ってるんですか?」
「いや、知ってるも何も……うちの記憶が正しければ、サクラコってシスターフッドのトップだったと思うんだけど。」
「「「「!?」」」」
近くで聞いていた自警団の2人と、ヘルメット団の団員達が驚きを隠せないような表情を浮かべた。
「……はい。そのサクラコで合っていますよ。」
「「「えぇーーーー!!??」」」
レイサと団員達の叫び声が控え室に響き渡る。
「シ、シスターフッドのお偉い方だったのですか!?そうとは知らず、これまで色々と失礼なことを……。」
「いえ、私は全く気にしていませんし、むしろ楽しかったですよ。フランクに接してくれる方はこれまであまりいませんでしたから……。ですから、レイサさんさえよろしければ──これからも、友達として接してくださると、私も嬉しいです。」
「そ、そう仰るのであれば……これからもよろしくお願いします……!」
「ふふっ。こちらこそ、レイサさん。」
「……その。私とも、友達になっていただけるでしょうか?」
「もちろんです。友達になるのに、立場は関係ないということをつい最近知りましたから。」
「ありがとうございます、サクラコさん。」
「なんか聞いてた噂と違って結構接しやすそうな人ね……それはそれとして、なんでシスターフッドのトップともあろう人がこんなところにいるわけ?」
「ああ、それは──」
「俺が遊園地に誘ったんだ。今日は休みだったようだからね。」
遠目から見ていたリアンがラブの前に出てきた。
「うおでっか……。見た感じ大人みたいだけど、シャーレの先生とかいう人でもなさそうだし……あんた誰?」
ラブは2メートル近くあるリアンの身長に圧倒されているようだ。
「俺はリアン。お前の言うとおりシャーレの先生ではないが、少々ワケあって、今はシスターフッドのもとに居候させてもらっている。」
「へぇ……というか、それってつまりいい大人が生徒に養ってもらってるってことじゃないの?」
「ラ、ラブさん……それは──」
「そう見ることも出来るだろうな。まあ、解釈はお前に任せることにしようか。」
「何それ……。」
まるでヒモのような扱いをされていたが、特に反論することもなく会話をぶった切った。
「ラブさん、一つ言い忘れていましたが……。」
沈黙が訪れる前にサクラコがラブに話しかけた。
「ん?なに?」
そして視線を向けたラブに対し、出来る限り笑顔を浮かべて言った。
「──ちゃんと加減はしますから、安心してくださいね。」
「……え?」
その言葉を聞いたラブの顔が真っ青に染まっていく。
「ち、ちょっと。急に何の話?私これから何をされるの?」
「た、隊長……さっきは言いそびれちゃったんですけど、このバイト──」
「間もなくショーが始まりますので、前半に出演するキャストの皆様は指定の場所に向かってください。」
「あっ!もう行かないとですね!テルミットホワイト、スタナグちゃん!行きますよ!」
「はい!」
「ちょっ、引っ張る前にまず説明を──」
団員が何か言いかけたが、スタッフの声に遮られ、またしてもラブの耳に届くことはなかった。
そして控え室にはリアンとサクラコと団員達だけが残された。
「……えーっと、サクラコさん……?隊長、多分スタナグちゃんがどういう扱いをされているキャラなのかよく分からないまま行っちゃったと思うので……ボコボコにするつもりでも、本当に加減してくださいよ?」
「元よりそのつもりです。私も出来る限り子供達に怖がられたくありませんし……。」
「ありがとうございます……じゃあ、私達は観客席に戻るんで……。」
団員達はとぼとぼと控え室を出て行った。
「俺も観客席に行くとするか。お前は後半からの登場だろ?その間にしっかり調整をしておくんだぞ。」
「はい。それでは、また後ほどお会いしましょう。」
リアンも観客席に向かったのを見送り、サクラコは後半に向けた調整を開始した。
一方その頃、同じくこの遊園地に来ていた先生は路頭に迷っていた。
"(いざ引き受けたのはいいものの……この広大な敷地の中でどうやって1人の人を探せばいいんだ……?)"
そう。この遊園地は広すぎるのだ。ショーを行うキャストが複数のグループに分かれて別々の場所で活動しなければならないほどに。
そしてそんな先生の目に、ある看板が目に入った。
"(魔法少女ヘヴィキャリバー・ボーダーランドスペシャル……?)"
看板をしばらく見ていた先生の足が、吸い寄せられるように観客席の方に向かっていく。
"(これはサボりじゃない……これはサボりじゃない……。)"
気付けば先生は観客席の中に入っていた。
"……!?"
そこで目にしたのは、ある意味では想定通りの、そしてある意味では想定外の人物だった。
「また会ったな、先生。だから言っただろう?近いうちにもう一度会うことになるって。」
当初は図書館のローラン再現でリアンを魔法中年にするつもりでしたが、私の実力ではどう足掻いてもシナリオが崩壊することに気付いたため泣く泣く一から書き直しました。
それと活動報告に今後の予定を書いているので、興味のある方はご覧ください。