性根の曲がった男の子が色んな女の子達と仲良くなって最終的にみんな一緒になってハッピーな物語 作:わーい
始まりは寝ている時、きっかけは分からない。
いつも睡眠時に使用しているはずの、枕やシーツの感触に違和感を感じて、俺は目を覚ました。
面倒ながらも、ゆっくりと目を開ける。
「…………ん?」
目の前には、沢山の木々がずらっと並んでいる。
どうやらここは
…………ん?
「なんで?」
目をごしごしと擦ってみるが、景色は変わらない。
頬を抓っても結果は同じ。
幻覚でも夢でもないとなれば、俺は本当に森の中で目を覚ましたらしい。
状況をようやく飲み込んだ俺は、あまりの荒唐無稽さに頭を思い切り殴られたような衝撃を受けた。
「はあ……?」
意味わっかんねえ!
ふざけんじゃねーよ異世界何ちゃらってやつかよ!? じゃあこれやりやがったやつ出てこいよコンチクショウ!!
同意も何も得ずに森の中飛ばすとか、神様じゃなくて悪魔じゃねーか! いや悪魔の方がもうちょっと親切だわ!
はらわたが煮えくりかえるほどの怒りで俺は地団駄を踏んだが、足に触れる地面の感触に悲しくなってしまって、思わず座り込んだ。
「いや、ダルイってぇ……」
さっきまであんなに張り上げていたはずの声も、しょぼしょぼと情けない声量まで落ちてしまう。
そもそも、別に俺死んでねぇしやり残したことだって…………。
と、そこまで考えて、気づいた。
「………………
やり残したこと、あったような? 無かったような……。
そもそも俺昨日何してたっけ? あれ、なーんも覚えてねえや、なんで?
「記憶消去して無理やり異世界転生? なんだよそれ邪神かよ……」
意味の無い思考が頭の中をぐるぐると掻き乱し、支配していく。
いやでも俺がただの記憶喪失の狂人って可能性も……?
そもそも、俺は生きた生物ではなくて、ただのプログラムって線はないか?
「わっかんねえ……頭痛い……くそ……」
なんで起きて早々自分の存在を疑わなくちゃならんのだ……!
俺は俺だ! それは俺自身がこうやって思考していることが証明に他ならない、多分!
我思う、故に我有りとか、どっかの偉い人が言ってたような気がするし。
「うん! この知識こそが、俺が俺である証拠だな! QED、証明完了だ!」
無理やりそう自分に言い聞かせて、俺は立ち上がる。
前世は意外と切り替えが早かったような気がするし、これでいいのだ!
「犯人見つけたら、ボッコボコにしてやる……!」
待ってろよ推定邪神……! 絶対にとっ捕まえて磔にして火炙りにしてやる!
そんなことをノリで考えながら、俺は一歩を踏み出した。
さて、一歩目を踏み出したとは言っても、ここは森の中。
一旦人のいるところまで行かなければ、サバイバル経験のない俺がこの森で生きていくのは至難の業だ。
「つってもなー、そんなのどうやって見つければいいんだよー……」
前述した通り俺にはサバイバル経験がない、正確には記憶が。
森の中で遭難した時の対処法なんて思いつかないし、思いついたとしても精々『
「腹減った……」
ぐぅ〜と哀叫する自分のお腹を、優しく撫でて慰める。
何も飲まず食わずでずっと歩いているもんだから、とうとう空腹感が襲ってきた。喉も乾いてきたし。
「うぅ……」
何度文句を言ってもしょうがない。
俺に食料調達なんてできないし、水とか今の段階では入手しようもない。
「お願いします、なんかいいこと起こってください……」
今はただ、祈りながら歩くのみ。
さっき散々言った神様相手にお願いするのも気が引けたので、誰に対して祈ってるわけではないが。
そうして数十分くらい歩いていると、さっきまで通ってた場所とは違う、少しだけ木々のない開けた場所に出た。
そこには洞窟っぽい穴が一つと、直立して地面に突き刺さっているなにか。
そのなにかは、よく見たら、看板のように見える。
「!!」
人工物!
それに気づくや否や、俺は猛ダッシュで駆け寄り、その推定看板っぽいものに近寄る。
「か、看板……! 人工物じゃん……!」
ひとまず助かったことに、俺はほっと安堵の息をつく。
看板には矢印マークと、家っぽい絵の集合体……村かな? が描かれていて、猿でも分かるような親切設計になっていた。ウッキー。
「こっちに行けば村がありますよ〜ってことね……オーケーオーケー」
納得した俺は、少し気になって洞窟の方に目をやる。
これを描いた人はこの洞窟に住んでたりするのかな?
「いや、ないか……? でもちょっと気になるしな……」
洞窟の中は真っ暗だが、目を凝らして見てみると、中は見えなくもない。
「ごめんくださーい」
洞窟に向かって挨拶をしてみる。
当然反応はない。
「……お邪魔しまーっす」
ちょっと中に入ってみる。
大丈夫、ただの好奇心だ、すぐに戻る。
「……ッスー」
本当に誰もいないっぽい? まあそりゃあそうか……?
更に奥に行ってみる。
「あ、一応人は住んでんのか。まじか……」
1番奥まで進んでみると、真ん中には寝床っぽい毛皮が敷かれていた。
ついでに石でできた机とかも焚き火の跡とかもあるし、ランタンっぽい何かも壁にかけられていて、ここで人が暮らしているのは確かなようだった。
「まだあったかいな……」
どっかに散歩にでも行ったか? いや、外に出るとしても狩りとかそんなところか……?
「変な奴もいたもんだなー」
ここまで文明を使えてるくせに洞窟に住んでいるという、その変な人物が気になったが、別にそこまで気にすることもないかと、後になって冷静になって考えた。
まあ知的好奇心も満たせたし、さっさと村に行きますかー………………!?!?!??!
俺の視界の端に、とあるものが映る。
それは、赤くて瑞々しい色。
丸々としたフォルム。
「りんご、だ」
よく見るとりんご以外に他にもたくさんあった。
バナナやオレンジみたいな様々な果物とか。
燻製肉っぽいのだって、沢山、色んな種類のものが。
「…………ッスー」
周りを見渡す。
誰もいない。
つまり、監視はないってわけか。
「…………ほーん」
しばらくして、目の前にあった食べ物たちは、
食材消失マジックとでも言うべきだろうか。
俺? いやいや、食ってないよ? ちょっと腹は膨れてるかもしれないけど。
だいたい、あんな量全部食べれるわけないじゃないですかやだー。
ポケットには何も入れてませんってばー。
「……よし、行くか」
欲求を満たして満足した俺は、笑顔で足早にその場を去ろうとした。
が、ゴミを他人の家に放置するのは失礼だなと思ったので、捨てておこうと一旦戻る。
「ん?」
さっきまで大量の食材に気を取られたせいで気づかなかったが、ゴミを回収している最中に、その隣の壁に何か描かれているのを見つけた。
りんごを盗む泥棒? の絵、矢印マーク、髑髏マーク。
「おー……」
なるほど、つまりこれは……。
『
これは猿でも分かるな!
『餓死する前にこの食べ物全部食べちゃっていいですよ』の絵を描いておくなんて、ここの家主はなんという人格者なのだろうか。聖人を名乗るべきであろう。
「ありがたや、ありがたや……」
にしてもちょっと描き方が悪いな、これ。
馬鹿な奴が見たら、『食い物盗ったらぶっ殺す』と意味を勘違いしてしまうだろう。
親切心で、そこらへんの石でちょちょいっと矢印マークの向きを修正しておく。
「よし、いいことしたなーっ!」
洞窟の前にゴミを置いて、俺は看板に示された方向に足を動かした。
その顔にはもう、絶望はない。
親愛なる隣人のおかげで、俺の希望と欲求は守られたのだ。
意外とあっさりと、村には到着した。
本当に何もなかった。
獣道みたいになってたから別に迷わなかったし、異世界定番の魔物とかも現れなかった。
まるで何かに守られているようで、気味が悪かったので足早に進んでいたら、いつのまにか着いていたという感じだ。
「おや? 旅人さんかい? ようこそローズ村へ!」
門前払いされるとかもなく、門番っぽい甲冑を着た男は、そう言って調べもせずに快く俺を通してくれた。
門番としての自覚あるの? 君。
まあそんなこんなで、村到着。
そして、まず最初にやるべきことといえばー?
「金を稼がないとな〜」
お金を稼がないと、宿にも泊まれないだろう。
飯も食えないし、人間的に生活なんて金がなければ土台無理な話だ。
幸いなぜか言葉は分かるので、仕事を斡旋してくれそうなそれっぽい場所を、耳を頼りに探すことにした。
意外にも見つかるのは早く、2件くらい建物を回って、3回目でその場所を発見した。
人の出入りの激しめな、大きな建物。
他の建物と明らかに違うのは、特徴的な『鳥のシンボル』が建物の見やすいところに貼り付けられていること。
恐る恐るドアを開けると、予想通り中には人がかなりいた。
建物の中は掲示板っぽいものにたくさん何かの木の板が貼られていたり、男たちがテーブル席で酒を飲んでいたりと、酒場の役割もある定番のギルド的な内装をしていた。
「こわ……」
全員とは言わないが、中にいる人の大多数が強面の男なので、思わず姿勢が低くなる。
唯一の救いが受付嬢さんが可愛いことくらいだ。
ピンク色の髪にパッチリと開いた目が実にキュートだ。
「ワンチャン、いやないか」
何せこちらは身元不明の不審者、万に一つだってありはしないんですなこれが。
……自分で考えてて悲しくなってきた。
とりあえず立ってるままってのも変だし、誰も受付にいない隙にこっそり受付嬢さんに話しかけてみるか……。
目立つのは悪手だろうと考えた俺は、何気なく受付嬢さんに近づき、手招きする。
受付嬢さんは笑顔のまま首を傾げ、俺の方に顔を寄せてきたので、そこでこっそりと話しかける。
「あのー、すみません……」
「はい!! なんでしょうか!!」
「こえでか」
俺の抑えめの声量に、MAXフルパワーボイスで応えてきやがったこの女。
驚いて思わず素の声量でツッコんでしまった。
背後から男たちの笑い声が聞こえる。
こ、このアマッ!! こいつのせいで注目されちまったじゃねーか!
「ああ!! すみません!! 昔からの悪癖なもので、こればっかりはどうしようもないのです!!」
「んっだその癖は! 歩く騒音トラブルかテメーッ!」
訳の分からない理由に乗せられ、思わずまたツッコミを入れてしまった。
ていうかよくよく聞いたら外から聞こえてた声全部コイツじゃねーか! どうりでなんかデジャヴ感あったわ!
……ふぅ、ふぅ、落ち着け、この程度で乱されてどうする。
一旦呼吸を落ち着かせて、冷静になろう。
よく考えてから伝えたいことを話しましょうって、どっかの誰かに言われた気がする。
「お金を稼げそうと思って来たんすけど……」
「冒険者の方ですね!! 依頼の受注ですか? 報酬ですか?」
「あー、まだ登録してないっすねー……」
「新人さんですか!!
ようこそ冒険者ギルドへ!!」
「だからでかいって……」
イカれた声量のピンク髪女は、一際大きく声を張り上げる。
デカい声が更にデカくなって、耳がキーンとする。
これもう超音波兵器だろ……。
後ろのオッサン連中はさっきからずっとひっきりなしに笑ってるし、マジでなんなんだここは……。
「あーはいはい、登録したいです登録。なんで早く手続きしてください」
「分かりました!! では最初に年齢から!!」
「あ、分かんないっす」
「……ではお名前を!!」
「あ、自分のこと全般分かんないっす」
「なんと!!??」
「うるっさ……」
嘘だろ、まだこの上があるのかよ……。
その後も受付嬢は何度も確認してくるが、本当のことなので俺は「分からない」としか答えようがなかった。
後ろのオッサン連中も訝しむような目で見てくるので、ちょっと空気が張り詰めてきた。まずい。
「ま、まあ、冒険者の方にもそういう身の上を話すと不都合のある人もいらっしゃいますし、リリィは気にしません! えぇ、まっったく気にしませんとも!!」
「ど、どうも?」
なんか盛大に勘違いされてるような気がする……。
別に俺犯罪者とかじゃないんですけど……?
一応弁明しておくか……?
「……別に後ろめたいこととか何もないっすよ?」
「いえ、いえ、隠さなくても大丈夫! エリート受付嬢の私には言わなくても伝わります!!」
「いや、隠すもなにも、俺記憶喪失っぽいんで隠すことすらな「記憶喪失ですって!?」だぁっ! うるっせぇ!」
今日何度目かの耳キーン、耳が痛いし、こいつの場合いつ叫ぶのか予測できないから対処のしようがない。
まじで何とかならんのかこの女は、このままじゃ俺の耳が持たねえ……。
……ん? てかこいつ今、俺の言ったことゲロってなかったか?
咄嗟に俺は、首だけ後ろに向けてオッサン連中を見やる。
「まじか、兄ちゃん記憶喪失だったのかよ……」
「どおりで様子が変なわけだ……」
「悪人なんじゃねえかと疑っちまって悪かった!」
気づけば俺を疑う視線が、一気に俺を憐れむ視線へと変わっていた。
生暖かい視線が逆に気持ち悪い。
向けていた首を、ゆっくりと受付嬢の方に戻す。
「……あっ」
今更気づいたらしく、受付嬢は目を泳がせて口元を手で押さえたが、もう遅かった。
「…………」
「あ、あはは」
先ほどとは変わって珍しくミドルボリュームな受付嬢に、俺は笑顔で詰め寄る。
「み、皆さんの誤解が解けてよかったですね! エヘヘへへ……!」
「…………」
俺は無言で両手でグーを作って、それをこの女の両側のこめかみに押し当て、一気にグリグリする。
「よかったですねじゃねーぞッ! このアマァッ!」
「ギャアアアアアッ!! ごめんなさい! 悪気は無かったんですぅ!!」
受付嬢はあまりの痛みに、汚い声で悲鳴をあげて、すぐさま謝ってくる。
それを横目に、さっきまでの鬱憤を込めて、思い切り、ただし力は入れすぎないようにグリグリする。
ちゃんと周りの奴らの目も窺ってやっているので、そこは大丈夫。
安心しろ、怪我はしない。ただ滅茶苦茶に痛いだけだから。
「悪気は無かったで済んだら、ポリスメンはいらねーよなああああ!?」
「いだだだだっ!! ぽ、ポリス……? 何ですかそれはああああ!!」
後ろのオッサン連中の反応を鑑みるに、こいつはこれが初犯ではないようなので、きっちりとお灸を据えておかねばなるまい。
これはあくまで反省を促すグリグリなのだ。
「は、反省しました!! リリィは反省したので!! 止めてくださいぃ!!」
そう言われて、少し力を緩める。
ふむ、ようやく反省したか。
まあ確かに、こいつに悪気はなかったのかもしれない。
大声で俺の情報をゲロっただけで、ここまで痛めつける必要も、なかったのかもしれない。
だから許してやってもいいのかも……。
「ああ、反省したなら……なんて言うと思ったかバカが!!」
さっきと同じ出力でグリグリしていくぅ!
「いだあああああい!! なんでえ!!」
「これ以上デカい声出せなくなるくらい、たあくさん鳴かせてやるぜえ!!」
「うぎゃあああああああ!!」
ああ、今、滅茶苦茶いい気分だ!
ジタバタもがくしかないこの女の姿は、実に愉快で痛快だ!
「み、皆さん! 助けてください!! 婦女暴行ですよこれ!! 衛兵さん呼んできてください!!」
「むっ」
なるほど、とうとう助けを求め出したか、反省の色が見えんなこの女。
うーむ……ここらが潮時か?
そう思ってチラッと後ろを見てみるが、オッサン連中の反応は意外なものであった。
「いや、リリィ嬢ちゃんにゃいい薬か……」
「確かにな」
「よくよく考えたらいつもと同じ光景だったわ」
なんか受け入れてる……?
不思議だが、そういうものなのか? ここの連中にとっては。
まあ、こっちとしても好都合だからいいけど。
「味方いないっぽいな?」
「そ、そんなあ……!!」
俺がそう問いかけてやると、受付嬢は絶望の表情を見せる。
どうやら助けてもらえると思っていたらしい。滑稽だな。
さあて、お楽しみタイムだ、と両手に力を込めようとしたその時。
──ああああああああああっ!!!
反射的に、俺は両手で耳を塞いだ。
建物内はしんと静まり返り、俺も含めほとんどの奴が耳を塞いでいる。
この女以外は。
「……はっ?」
別にこのリリィってやつが叫ぶのが予想外だったわけじゃない。
身構えていれば大丈夫だろうとか、ただ声がデカいだけだろうとか思ってた。
俺は見誤っていた。
こいつのキャパが、あまりにも人外じみていたということを、知らなかった。
「兄ちゃん! 伏せろぉっ!」
「へ?」
なんでと思った瞬間。
俺の視界は暗転した。
痛っ
最初に気づいたのは、その感覚だった。
それから、誰かに揺らされてる感覚。
目を開けると、視界は真っ赤で。
綺麗だったギルドの中もボロッボロで。
見覚えのあるオッサンが、目の前に立っていて。
必死に俺に何か言ってるような気がするが、何も聞こえない。
受付嬢が心配そうにこちらに近づくが、オッサンに何か言われて反対側の部屋の隅まで移動してったのが見える。
一瞬見えた悲しそうな顔に、俺はなぜか罪悪感で胸が一杯になった。
なんでだ……?
考えてみると、すぐに答えは出る。
俺のせいだからだ。
彼女をよく知りもしないくせに、折檻なんぞするから。
でも、やってた時は、スゲー気分良かったんだよなあ
あー、だめだ、頭が回らねえ。
何が起きたんだっけ? ていうか誰がこれをやったんだ……?
眠っ……。
「ごめんちょっと、俺寝るから……」
言えたかは分からないけど、オッサンにそう言って、俺は瞼を閉じた。
おやすみ。
勢いで書いてるので批評待ってます!