スター・ウォーズ:悪意の継承 作:皇帝大好き
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遠い昔 はるかかなたの銀河系で…
無音である宇宙に、巨大な建造物が浮かんでいる。月に見間違える程巨大な球体は、実のところ人工的に作られたものだった。それも悍ましい目的のために造られた人工物。
名は『デス・スター』。
名前の通り、星をも破壊する究極破壊兵器。その上、破壊力だけが売りではないのがこの兵器の恐ろしいところだった。兵器であるだけではなく、これは強大な兵力を持つ宇宙要塞でもあるのだ。通常航行のためのイオン亜光速エンジンと、ハイパー・スペースジャンプに必要なハイパー・ドライブとを兼ね備えた巨大宇宙戦艦。乗組員は100万人以上。表面には多量のイオン砲が立ち並び、並みの宇宙艦隊など究極兵器を使うまでもなく粉砕することが出来る。
……その恐るべき宇宙要塞の一室で、その力を試すデモンストレーションが行われようとしていた。
「……ターキン総督。やはり貴方でしたか。道理でこの要塞に嫌なにおいがすると思いました」
「レイア姫。相変わらず美しいですな。ですがそれ故に残念で仕方がない。貴女の処刑に署名しなければならないことが残念でなりません」
要塞内の一室。要塞から広大な宇宙空間が一望出来る巨大な窓が存在する部屋。巨大な窓の外には、美しい緑と青の自然豊かな惑星が間近に見える。その中で、二人の人物が対峙していた。
一人はレイア・オーガナ。銀河を統べていた元老院議員の一員であり、今目の前の惑星から選出された姫の中の姫。実質的には元老院の力はあって無いようなものだが、本来であれば広大な銀河を代表する一人として、誰からも丁寧に応対されるべき人間であるはずだった。だが、今は手錠で拘束され、周囲の装甲服を纏った兵士からもどこかぞんざいに扱われている。表情こそ気丈に振舞っているが、今まで受けた扱いは凄惨を極めたのだろう。隠しきれぬ疲労の色が浮き出ていた。
対するもう一人は灰色の軍服を纏った壮年の男。名はウィルハフ・ターキン。銀河を支配する帝国におけるナンバー2であり、グランド・モフという表向きには皇帝に次ぐ地位を得た男だ。銀河は広大であり、如何に皇帝が強大な権力を持っていようとも、銀河の中心から離れれば離れる程影響力は薄らいでゆく。その影響が薄まる辺境を支配するよう命じられた男こそ、このグランド・モフだった。この痩せこけた神経質な男の権力は、この恐るべき要塞を有していることが証明している。皇帝以外、誰が惑星すら破壊する兵器を有する男を止められるだろうか。そう誰もが思うことだろう。それこそ皇帝と……彼の影たる彼女以外は、誰もがそう思うことになるだろう。この兵器の真の力が証明される、このデモンストレーションの後に。
「……私が処刑されたところで、何も変わることはないわ、ターキン総督。締め付けが強くなればなる程、人は反発するものなのよ。力で抑え込んでも、必ず誰かが帝国を倒すために立ち上がることになる。貴方はそれを理解していないのだわ」
「いいえ、レイア姫。分かっていないのは貴女の方だ。反乱ごっこもこれまでだ。この兵器の力を知れば、誰も帝国に反乱など起こさない。何故ならば姫……貴女もこの要塞の力をご存じのはずだ。貴女はこの要塞の設計図を盗んだのだからな。そう、この要塞は惑星をも破壊することが出来る。この力を前に全てが無力だ。反乱など起こしようがない」
「……本当にそんなことが、」
「出来るとも。逮捕された貴女をここに呼んだのも他でもない。この力を是非とも貴女にお見せしたくてね。元老院議員にして、反乱軍の頭目である貴女に。そして貴女に喜んでもらえるよう、私は最初の犠牲を選んだのです。……貴女の故郷であるオルデラーンを」
毅然とした表情が一瞬で変わることになる。美しい表情は歪み、窓の外に何故自身の故郷の惑星が映っているか、姫はようやく理解した。
反乱軍。この銀河を力で支配する帝国に反抗する組織、『同盟軍』のリーダーの一人として彼女は捕まった。表向きには元老院の一員とはいえ、自分をここまで強硬的に拘束する以上、もはや裏の顔が露見していないと楽観的な予想は抱いていない。拷問の合間も、何度も同盟軍の本拠地について聞かれたくらいだ。何一つ同盟軍の情報を漏らしてなどいないが、まさかようやく自分達が情報を掴んだこの兵器の最初の犠牲が、ただ自分の故郷であるという理由だけで選ばれるとは。帝国が如何に残虐な集団とはいえ、そこまでするとは全く予想もしていなかった。顔色を変える姫に、ターキンは畳みかけるように尋問する。
「そ、そんな。オルデラーンは平和な星よ! それを、」
「ならば反乱軍の本拠地を言え! 聡明な姫ならば分かるはずだ! 私が何故この星を選んだか! 言わねばオルデラーンがどうなるか。分かっていますな、姫? これははったりではない。この兵器の実力は本物だ。……これは最後のチャンスだ。貴女が選ぶのだ」
当然そうターキンが言っても、レイア姫が同盟軍の情報を話すはずがない。ここで真実を話せば、標的は自分の仲間が隠れ潜む星になるだけ。そしてまだ同盟軍は小さなものでしかない。星ごと皆殺しにされれば、本当に反乱の火は消えてしまう。誰もこの横暴な帝国に反抗などしない。そうなればいよいよ帝国は誰の目もはばかることなく、更に残虐な行為を帝国中の民衆に行うことだろう。仲間のためにも、そして何より銀河中の民衆のためにも、自分が本当のことを言うことは出来ない。しかし同時にオルデラーンを見殺しにすることも出来ない。本当はオルデラーンの正当な姫でない自分を、今までずっと溢れんばかりの愛情で育ててくれた人々だ。愛すべき民衆、そして両親があの星にいる。殺されていいはずがない。
だからこそ、レイア姫はまず時間稼ぎをすることにしたのだった。
「……ダントゥーイン。惑星ダントゥーインよ。同盟軍はあそこにいる」
「ふむ。ダントゥーインか。確かにあり得なくはない。辺境の惑星な上、帝国の支配も及んではいない。あり得る話ではある。見たかね、ベイダー。やはり拷問は時間の無駄であっただろぅ? 姫の性格から考えれば、この手段が一番というわけだ」
白い装甲服の兵士が並ぶ中で、一人大柄な漆黒の装甲服を纏う巨漢にターキンが満足そうに話しかける。そんな光景を横目に見ながら、レイア姫は俯きながら考える。
これで時間稼ぎが出来た。無論今話したことは偽の情報だ。ダントゥーインは確かに過去同盟軍が本拠地にしていた惑星だ。しかし今は別の惑星に移動している。今は無人の惑星だ。あの惑星であれば誰かが犠牲になることはない。少なくとも多少の時間稼ぎにはなるはず。その合間に同盟軍がこの要塞を攻略してくれるはず。そう祈りを込めて考えていた。
しかし、
「では、姫との話はここまでだな。そろそろ試すとしようか。この要塞の真の力を。……あの方を、これ以上お待たせするわけにもいかない。照準をオルデラーンに!」
ターキンはレイア姫の予想に反し、そのまま何の罪もない惑星を破壊するよう指示したのだ。
「な、何を言っているのです! わ、私は本当のことを話したわ! なのに、」
「ダントゥーインは遠すぎる。デモンストレーションにも不適だ。勿論いずれダントゥーインも血祭りに上げてやるとも。だが、まずはオルデラーンだ。反乱を支持していることに変わりはないのだ。ならば遅いか早いかの違いだ。……何よりあの方は、この星をこそご所望だろう。諦めることだな」
彼女は目の前の男が如何に冷酷であるか見誤っていた。もはや彼女の叫びを聞くものは誰もいない。総督の無慈悲な指示のもと、機械的に作業員達は行動する。そしてあまりに簡素な動作のもと、要塞から緑色の光線が惑星に放たれる。悍ましい緑の光を。
結果はあっけないものだった。光が惑星に到達した瞬間、星があまりにも簡単に消し飛ぶ。その惑星にいた無数の人々と共に。そこで人々が何を考え、どのような暮らしをしていたか。何一つ関係なく、全てが全て等しく宇宙の塵となったのだ。
現実離れした光景に、レイアはただ呆然とするしかなかった。目の前で親しかった人々が、それこそ何の前触れもなく消え去ったと信じることが出来ない。この要塞の力を理論的に知っていても、実感として知ることなど出来ようはずが無いのだ。
あまりの事態に呆然とするレイア姫を横目に、ターキン総督は満足そうに頷くのみだった。
「……報告通りの威力だ。これならば、あの方もお喜びになることだろう。ベイダー。私は報告に行く。君は姫を牢に連行するのだ。まだまだ彼女には聞かねばならぬことが多いだろうからな」
デモンストレーションの後、ターキンが直ぐに向かったのは、同じくオルデラーンが一望できる一室だった。先程までこの要塞の支配者然とした様子は彼にはない。それもそうだろう。彼が今から会うのは、本当の意味で帝国のナンバー2……あるいは皇帝すら逆らうことが出来ぬ人物なのだから。
「ルイナ卿。ターキンです」
「……入って」
部屋の中から響くのは幼い少女としか聞こえない声。恐るべき要塞に相応しくない声ではあるが、その声音自体に何の感情も乗っていない。無感情の声音だけは、この無機質な空間に相応しい物であった。
許可に従いターキンは部屋に踏み入る。宇宙空間に臨む窓があるのみの部屋。数刻前までは窓の向こうには一つの惑星が見えていたが、今はその惑星はこの銀河のどこにも存在しない。見えるのは惑星の名残である欠片が僅かに見えるだけの宇宙空間。テーブルも椅子もなく無機質な部屋の中には二人の人物がいた。一人は純白な軍服を身にまとった、真っ青な肌色をしたミュータント。姿形こそ人間種と同じものだが、深紅の瞳からも人間種でないことは一目瞭然だ。男はただ静かにこちらを見つめるのみ。彼と私が会話する機会はあまりなかったが、極めて優秀な人物であることは知っている。それこそ非人間種が冷遇される帝国軍においてさえ、ミュータントでありながら大提督という地位を実力で勝ち取る程の男だ。近々就航する帝国初のエグゼクター級スター・ドレッドノート率いる艦隊も任されるという。政治分野においてはターキンが圧倒的に優勢だが、軍事面においてはターキンに次ぐ信任を得つつある。だが、そんな彼も今この場においては添え物に過ぎない。
もう一人の人物こそターキンが頭をたれ……そして内心恐怖を感じている人物。
「……ターキン。素晴らしい光景だった。ここから見させてもらった。皇帝陛下も喜ぶはず。……私も嬉しい。彼の喜びは私の喜びだから」
ターキンに労いの言葉をかける人物は、声音同様、姿形だけであれば一見幼い少女にしか見えない人物だった。
ティーンエイジャーにも届いていないであろう、非常に小柄で華奢な少女。彼女の小さな体には大きすぎる重厚な黒のローブから覗く肌は、透き通るような……あるいは病的なまでの蒼白さ。こちらを向く少女の顔立ちはあまりに整い過ぎており、まるで陶器を思わせる質感の肌と合わさり、一見すると芸術的な人形にすら見える。これだけであれば、あまりに完璧な左右対称……整いすぎているが故に逆に少々不気味ではあるが、ターキンが恐れる要素などどこにもないただの少女であっただろう。だが、彼女の傍にいれば、嫌でも感じる。この少女は普通ではない。皇帝もそうだが……いや、皇帝以上に我々人間とは圧倒的に違う、高次元の存在。彼女の傍にいるだけで、ターキンは心の底から恐怖を感じざるを得なかったのだ。
彼女の周りは、常に冷たかった。実際に彼女の隣にいるミュータントの吐息が白く染まっている。ベイダー曰く、彼女の周囲にはフォースが存在しない……「何もない空白」を感じるとのことだが、それが何か関係しているのだろうか。フォースを感じ取れぬターキンには、それが何を意味するか理解出来ない。が、彼女が常軌を逸した存在であることは理解できた。
そしてフォースだけではなく、要塞の重力発生装置も彼女を縛り付けることは出来ないのだろう。地上と変わらぬ重力が存在するはずの空間で、ただ一人床から浮遊している。まるで空中で膝を抱えたような姿勢から、彼女は感情を感じさせない無表情でターキンを見つめている。真黒のロングヘアが重力に逆らって揺らめいており、まるで彼女だけ宇宙空間にいる様な光景だった。
少女の姿をした何か……名をダース・ルイナ卿と言った。
彼女は、幼い声色のまま続けた。
「美しい光景。でも美しさだけではない。効率的。苦悶も、逃げ惑う時間もない。……ただ結果だけがそこに残る。非力な貴方達であろうとも、惑星を破壊する力。君達は自分達すら滅ぼし得る力を手に入れた。この事実が、どれ程の人間達に恐怖を与えるか……とても興味深い。この要塞は本当に素晴らしい」
ターキンは深く頭をたれ続けながら応える。
「光栄です、ルイナ卿。陛下と貴殿のご期待に沿えることができ、何よりでございます」
「……顔を上げて、ターキン。君は本当に素晴らしい偉業を成し遂げた。いつまでも頭を下げている必要はない」
顔を上げると、無表情であった彼女が僅かに微笑んでいるのが見えた。それは本来なら幼子に似つかわしい無垢な笑顔だったが、ターキンはその笑みを見ても背筋に冷たいものが走るのだった。少女の仮面の下に、何か得体の知らないモノが潜んでいる。かつて元老院議長であった頃の皇帝の近くに侍っていた時は、上手く周囲にこの不気味さは隠していたのだろう。当時も彼女と会っていたターキンも違和感を覚えこそすれ、恐怖までは感じていなかった。だが、共和国から帝国に変わり、もはや彼女はその中に潜む悍ましさを隠す必要性が無くなった。常にゴーストの様に浮遊し、漏れ出る冷気を隠そうともしない。そして何より、その黒く染まった眼球に浮かぶ黄金の瞳。共和国時代での彼女とは明らかに違う点。元々瞳孔が開き切り不気味ではあったが、ここまで異質ではなかった。彼女は微笑んでいるように見え、その瞳はターキンを視界にこそとらえているが、決して彼を見ているわけではない。言葉とは裏腹に彼女はターキンに価値など感じていない。それがターキンにははっきりと感じられた。……あるいは、もはや共和国時代とは違い、私を操る必要性すら感じていないのだろうか。彼女が真に価値を認めているのは……反乱軍の英雄と持て囃されている男を除けば、この世に皇帝ただ一人なのだから。
「残る問題はあの御姫様だけ。彼女は恐怖に屈しない。でも決して方法がないわけではない。君は最初から分かっていた。この素晴らしい兵器が、最初からこの宙域を目指していたのが何よりの証拠」
「ご慧眼恐れ入ります。彼女は反乱軍の象徴。彼女は皇帝の忠実たる僕である私から見ても、信念を突き通す傑物。若輩であれども、拷問に屈しない。英雄を演出するには、あれほど都合のよい人物はいないでしょう。しかし同時に……我々にとって全くの無益な存在でもない。彼女こそ、帝国に逆らう者がどうなるか、その答えを全銀河に示すためにも最適な象徴でもある。だからこそ、彼女の故郷が最適だったのです。最初に破壊される惑星がどこであるか」
「……やはり君は優秀だね、ターキン」
ルイナ卿は音もなくターキンに近づく。その動きはやはり人間離れして静かで、影すら揺れなかった。
「あの御姫様にはまだ利用価値が残っている。使い方は後でゆっくり考えるとして、とりあえず私を司令室へ案内して。皇帝陛下と交信する。別に会話だけならば通信の必要はないけれど、私は彼の喜ぶ顔が見たい。陛下は……今回の“成功”を、実に楽しみにしておられる」
「はっ。すぐにご案内いたします、ルイナ卿」
「……全ては陛下の御心のままに。あぁ、これからが本当に楽しみ。帝国万歳」
少女――ルイナ卿は微笑んだ。可憐な花のように。
だがその花弁の下にあるのは、銀河すら食らい尽くす闇だった。