スター・ウォーズ:悪意の継承 作:皇帝大好き
首都惑星コルサントは、一種の酩酊状態にあった。
それは、前最高議長ソリス・ダラスが遺した、自堕落な統治の残影に他ならない。コアの世界であるコルラグ出身の人間であるダラスは、救いがたいほどの女好きであり、スポーツ、オペラ、合法賭博、そして手の込んだ高級料理のすべてに目がなかった。彼が最高議長に当選して以降、共和国の予算に占める酒や嗜好品の割合は一気に跳ね上がり、その結果として、中央政界には底なしの汚職が蔓延することとなった。
前任者であるヴェイラ・パーシヴァスの時代、コルサントの惨状はここまで酷い状態ではなかった。
だが今や、汚染されたのは元老院だけにとどまらない。最高議長に倣うかのように、元老院で働く何万もの官僚や独裁企業の幹部、カルテルのロビイストたちが、コルサントのみならず、コアの他惑星や内縁領域(インナー・リム)においても、かつて類を見ないほどの享楽的で自堕落な生活を始めていたのだ。
これらエリートたちの底なしの欲望を満たすべく、銀河のあらゆる場所から多様な種族がコルサントへと集まり、外縁領域(アウター・リム)との貿易を独占的に担うトレード・フェデレーション(通商連合)が、目新しい商品や異国文化を次々と持ち込んできた。コルサントの住人たちの多くは、目の前の華やかな浪費に心を奪われ、文明の端々で巻き起こっている犯罪や紛争に対して、見て見ぬ振りを続けていた。
地表付近の下層世界には、少しでも上の階層へ這い上がろうと足掻き、手段を選ばない人々が溢れかえっている。一方で、雲を突く摩天楼は日に日に巨大化し、最上層のエリートたちは足元で這いずる人々を冷酷に見下ろしていた。
天を突くコルサントの摩天楼そのものが、この歪んだ惑星の縮図であった。
その摩天楼の最上層に位置する、元老院記念ホールの空中庭園。
そこでは、銀河共和国の権力の頂点に君臨する者たちが集う、絢爛豪華な政界レセプションが催されていた。クリスタルのシャンデリアが放つ眩い光が、高価なナブー・シルクやコレリアン・ベルベットの衣装に身を包んだ議員たちの笑顔を照らし出す。グラスの触れ合う繊細な音、流行りの楽団が奏でる優雅な旋律、そして政治的利権の取引を孕んだ囁き声。そこは、銀河の辺境で巻き起こる悲鳴や血の臭いとは完全に隔離された、偽善と虚飾の楽園だった。
「おや、これはパルパティーン議員。最近ここにお出でにならなかったので、少し心配していましたよ」
恰幅のいいベイル・オーガナ議員をはじめとする多数の有力議員たちが、温厚な微笑みを湛えて歩を進めるシーヴ・パルパティーンの元へと集まってきた。
パルパティーンの「表の顔」は完璧だった。一部の隙もない服装を纏い、ナブーの政治家の伝統に則って赤みがかった髪を上品に伸ばしている。彼に出会った者の多くは、彼のことを「理路整然としており、趣味がよく、カリスマ性に満ち、静かだが強い意志を感じさせる政治家」と評した。穏やかな性格で聞き上手、政治的手腕に長けているだけでなく、驚くほどの情報通。派手さはないにもかかわらず、誰もが思わず注目してしまう――それがパルパティーンという男の常であった。ここ最近は多忙を理由にこうした夜会への参加を控えていた彼だったが、久方ぶりの大物政治家の登場に、大勢の者が自然と彼の下へと群がった。
だが今夜、集まった議員たちの視線は、彼の傍らに寄り添う小さな人影へと釘付けになっていた。
パルパティーンの隣には、重力を僅かに忘れたかのような軽い足取りで歩く、一人の可憐な少女がいた。
その身に纏うのは、華美な装飾を一切排除した、漆黒に近いダークスレートの質素なドレス。それがかえって、彼女の大理石のように透き通る蒼白の肌と、夜の深淵を切り取ったかのような黒髪を鮮烈に際立たせていた。
ダース・ルイナ。かつてモーティスの檻で世界の終焉を渇望していた化身は今、パルパティーンの「養女」として、初めて銀河の表舞台へとその足を踏み入れていた。
「パルパティーン議員、その隣にいらっしゃる美しいお嬢さんは……?」
もしこれが他の議員であれば、周囲は「愛人でも連れてきたのか」と思っただろう。少女の年齢は少々若すぎるが、退廃しきったコルサントにおいては、どのような変態的趣味もあり得る話だった。実際、この会場内にも愛人を同伴している議員は数多くいた。だが、あの禁欲的で清廉なパルパティーンがそのような破廉恥な真似をするとは信じがたい。だからこそ、皆が一様に困惑の表情を浮かべ、パルパティーンと少女を交互に見つめていた。
一人の議員からの問いかけに対し、パルパティーンは優しく、しかしどこか痛ましげに目を伏せると、ルイナの細い肩にそっと手を置いた。
「まずは皆様に、ご心配をおかけしてしまったことをお詫び申し上げます。ですが、より良い政治とは何かを考えた際、私は銀河の現状を今一度、この目で見て回る必要があると考えたのです。そして……私は彼女に出会いました。皆様にご紹介させてください。我が養女、ルイナです」
しとやかにお辞儀をするルイナを横目に、パルパティーンは静かに言葉を続ける。
「彼女は……拡張領域における無慈悲な辺境紛争によって、故郷の星と、家族のすべてを失いました。あれはドーヴァラでのことです。皆様もご存知の通り、あの惑星は希少なオーロディウムの産地です。それゆえに争いが絶えず、宇宙海賊のみならず、惑星内の様々な勢力が果てしない泥沼の戦争を続けている。私はそんな惑星で彼女を見つけました。たまたま私が視察で訪れた際、灰燼と化した街の片隅で、凍え、震えていたこの子を見出したのです。……この子は最初、何もかもを諦めた目をしていました。自分に救いなど訪れない、ただここで死を待つしかないのだと。政治家である私は、そんな彼女の姿をどうしても放っておくことが出来ませんでした。荒廃した街には彼女を育てる親類もおらず、環境も残されていない。本来であれば、どこかの公的施設に送られることになるのでしょうが、私の良心がそれを許さなかった。だからこそ、これもフォースの導きと思い、我がナブーの籍に入れ、娘として引き取ることにしたのです。皆様はこれを、ただの偽善だと思われるかもしれません。銀河にはこのような悲劇が溢れており、その中の一人を養子にしたところで、大局的な意味など何もないと。私もその通りだと思います。ですが、あの時の私の良心は、フォースは、私に『こうしろ』と強く訴えかけていたのです」
パルパティーンの熱のこもった言葉に、周囲の議員たちは一斉に同情の声を漏らし、彼の慈悲深さを口々に称賛し始めた。ドーヴァラがどの宙域にある惑星なのかを正確に覚えている熱心な議員など、この場にはほとんどいない。オーロディウム製の豪華な装飾品を身に着けている者は多数いたが、その産地でどのような悲劇が起こっているかなど、平時には気にも留めない連中ばかりだ。堕落した議員たちは、内心ではパルパティーンの行動を「偽善」と鼻で笑いつつも、表面上は素晴らしい美談を聞いたと言わんばかりに、一斉に拍手を送り始めた。
「なんと素晴らしい……」
「流流石はパルパティーン議員、貴方の高潔な倫理観にはいつも恐れ入る」
「このような可憐な少女からすべてを奪うとは、辺境の略奪者どもは許し難いな」
議員たちの偽善に満ちた賞賛の言葉が降り注ぐ中、ルイナがゆっくりと顔を上げた。
その瞬間、それまで響いていた拍手がピタリと鳴り止む。誰もが息をのんでいた。
なぜなら、先ほどまでの無表情とは打って変わり、彼女の漆黒の瞳には大粒の涙がじんわりと浮かび、今にも零れ落ちそうに潤んでいたからだ。その儚くも胸を打つ美しい姿に、エリートたちは強い衝撃を受け、食い入るように少女を見つめた。
彼女は怯えるようにパルパティーンのローブの袖を細い指先でぎゅっと掴み、か細く、震える声で話し始めた。
「……パルパティーン議員。いえ、お父様は、私の命の恩人です。あの日、空が真っ赤に燃えて、何もかもが壊れていく中で……私を見つけて、その温かい手を差し伸べてくださったのは、この方だけでした。お父様がいなければ、私は今頃あの冷たい泥の中で死んでいました。私は、お父様を心から慕っています。この命がある限り、お父様のために生きていきたいのです……」
その言葉は、完璧な「嘘」であり、同時に狂おしいほどの「真実」であった。
彼女を暗黒の檻から救い出し、その破壊衝動を丸ごと肯定して手を差し伸べたのは、目の前にいるシスの暗黒卿に他ならない。彼女がシディアスを心から慕い、そのために生きたいと願う感情に、一切の偽りはなかった。ただ、その強烈な執着と暗黒面の絆を、彼女は「戦争孤児の健気な親愛」という極上のオブラートに包み、愚かな凡俗どもへと提示してみせたのだ。
周囲の議員たちは、ルイナの痛々しくも健気な言葉にすっかり胸を打たれ、涙ぐみながらパルパティーンへの評価をさらに確固たるものにしていった。
(素晴らしい……見事だ、私のルイナ)
パルパティーンは、慈愛に満ちた父親の表情を完璧に維持したまま、内面では狂気的なまでの愉悦に打ち震えていた。
正直なところ、シディアスはルイナがこれほどの演技を披露できるとは思っていなかった。彼女にとって人間の世界などただの玩具であり、そこに住む住人は虫ケラに等しい。虫の一匹一匹がどう反応するかに、彼女が頓着するとは到底思えなかったのだ。何より、彼女には銀河の一般的な知識がない。モーティスという世俗から隔絶された場所に引きこもっていたのだから当然だが、付け刃の知識ではボロが出る場面もあるだろうと、シディアスは半ば諦めていた。
彼女が無表情のままであれば、それはそれで「戦争のショックで感情を失った」と宣伝すればいい。この場はあくまで、ルイナを今後の計画のために自分の傍へ置く建前を作る「お披露目」に過ぎなかったのだ。
だが、結果はどうだ。大して教え込んでもいないというのに、初めて臨む表舞台で、これほどまでに完璧に他者を惑わす演技をやってのけた。真実の感情を逆手に取り、欺瞞のドレスを着せて銀河の頂点に立つ者たちを翻弄するその邪悪な才覚に、シディアスは深い感銘を覚え、己の選択が間違いでなかったことを確信していた。
やはり彼女には、他者の破滅を心から楽しむ、シスとしての至高の素養が備わっている。
その時、歓談する議員たちの背後から、重く、張り詰めた気配が近づいてきた。
議員たちが自然と道を開ける。そこに現れたのは、ジェダイ騎士団の代表としてこの夜会に参加していたジェダイ・マスター、サイフォ=ディアスであった。
彼は高潔で鋭い眼差しを持っていたが、その奥には、常に銀河の未来に対する言い知れぬ焦燥感と、彼を苛む凄惨な予知夢の残像が揺らめいていた。サイフォ=ディアスは、輪の中心で涙を浮かべるルイナの言葉を、少し離れた場所からじっと聞き入っていたのだ。
サイフォ=ディアスはパルパティーンに一礼すると、ルイナの前へと歩み寄り、その高い身長を屈めて彼女の目線に合わせるように深く腰を落とした。その表情には、ジェダイとしての純粋な正義心と、深く傷ついた子供に対する痛切な同情が溢れていた。
「幼き者よ。ルイナと言ったね。辛い話をさせてしまったな。だが、もう安心するがいい。ここは辺境と違い安全だ。何より、君の養父であるパルパティーン議員は、元老院の中で最も清廉な人物と言われている。これからはコルサントの光の下で、心の傷を癒やすといい。フォースは君を導いてくれることだろう」
サイフォ=ディアスが差し伸べた温かい言葉。しかし、ルイナの耳に届くその言葉は、彼女の絶対零度の精神をただ退屈に逆撫でするだけであった。
(これがシディアスの言っていたジェダイ。シディアスの敵。つまり私の敵。……なんと愚かな人。私は貴方に聞こえるように話していたのよ。シディアスの計画を進めるために、操ることが容易そうなジェダイ。シディアスは貴方がそういう存在であると考えていたわ。ならば、私はその手伝いをしてあげる。私が貴方を、美しき破滅へと導いてあげる)
ルイナは、涙に濡れた瞳でサイフォ=ディアスを真っ直ぐに見つめた。そして、彼の内面にある「焦燥」と「正義感」の歪みを瞬時に見抜くと、その胸の奥底へ向けて、最も鋭利な言葉のナイフを突き立てた。
「マスター・ジェダイ……。ありがとうございます。仰る通り、私は救われました。……でも、私の故郷にいたお友達や、優しかった近所の人たちは、誰も救われませんでした。みんな、炎の中で泣き叫びながら、バラバラになって死んでいったのです」
ルイナの声が、悲痛な震えを帯びて空中庭園に響く。周囲の雑音が、彼女の告白によって水を打ったように静まり返っていく。パルパティーンは、自身の計画になかった行動を即興で取り始めたルイナに一瞬驚きの視線を送った。だが、彼女がサイフォ=ディアスの正義心を逆手に取ろうとしている意図を瞬時に読み解き、心の中で深い愉悦の笑みを浮かべた。
「私、ずっと信じていたんです。銀河共和国は優しくて、正義の味方であるジェダイ様たちが、悪い人たちから私たちをいつでも守ってくれるって……。いつか助けがやってくる、この戦争をジェダイ様が終わらせてくれるって、ずっと待っていたんです。でも、誰も来ませんでした。お家が燃えている時も、みんなが殺されている時も、ジェダイ様たちの影さえ見えなかった。どうしてですか……? どうして共和国は、こんな酷いことをする人たちを放っておくのですか? どうしてジェダイ様たちは、ただ遠くから私たちが死んでいくのを見ているだけだったのですか……!?」
ボロボロと大粒の涙を流しながら、純粋な疑問の形をとって放たれた、あまりにも残酷な弾劾。
その言葉は、サイフォ=ディアスの胸中に、凄まじい衝撃となって突き刺さった。
「それは……」
サイフォ=ディアスは言葉を詰まらせた。ルイナの涙ながらの訴えは、彼が日頃から抱き、ジェダイ評議会に対して幾度となくぶつけてきた「不満」そのものだったからだ。
現行の法律、元老院の肥大化した官僚主義、そして「平和の守り手」を自称しながらも、元老院の許可がなければ軍事介入すらできないジェダイ騎士団の足枷。悲劇が目の前で起きているにもかかわらず、手続きの遅れや政治的配慮を理由に、ただ傍観を決め込むしかない現状。ジェダイが制度の狭間で取りこぼしてきた命は、それこそ星の数ほどあった。
目の前の少女が流す涙は、共和国の無能さと、ジェダイ騎士団の独善が生み出した「宿痾(しゅくあ)」の象徴に他ならなかった。
サイフォ=ディアスの拳が、ローブの袖の中で強く握りしめられる。彼の脳裏に、銀河が戦争の炎に包まれる凄惨な予知夢が再びフラッシュバックした。彼の胸中には、この悲劇的な状態を放置し続ける元老院への激しい憤りと、現実から目を背け続けるジェダイ評議会の同胞たちへの、燃え盛るような怒りが沸き起こっていた。
「……マスター・サイフォ=ディアス、この子が失礼なことを申しました。本当に申し訳ない。ですが……どうかこの子をあまり責めないであげてください」
絶妙なタイミングで、パルパティーンが沈痛な面持ちで割って入った。彼はルイナを優しく自らの背後へと庇い、サイフォ=ディアスに向けて、深く、重い溜息をついてみせた。
「彼女の言葉は、あまりにも過酷な現実です。無論、責任がジェダイの皆様にあるとは言いません。我々政治家にこそ責任がある。ですが……責任逃れと罵られるかもしれないが、我々にもどうすることも出来ない現実があるのです。なぜなら……今の我が共和国には、このような辺境の悲劇を未然に防ぎ、暴虐を働く者たちを即座に鎮圧するための『力』が、根底から欠落しているのですから。そう――我々には、共和国独自の軍隊がない」
パルパティーンの言葉に、サイフォ=ディアスはハッとして顔を上げた。
「軍隊、ですか……」
「ええ。私は本来、対話による解決を信じるナブーの一議員であり、武力による統治や、共和国が常備軍を持つことには断固として反対の立場をとってまいりました。平和とは、相互の信頼によって築かれるべきものだと。……ですが」
パルパティーンは言葉を一度切り、背後にいるルイナの頭を愛おしそうに撫でた。その表情は、自らの理想と残酷な現実の間で激しく苦悩する、一人の哀れな理想主義者のそれであった。
「この子の苦しみ、あるいは辺境で日々繰り返される、誰にも知られぬ悲劇を目の当たりにするたびに……私は、自らの信じてきた理想が、ただの傲慢な『間違い』だったのではないかと、夜も眠れずに考え込んでしまうのです。強大な悪を抑え込み、銀河の秩序を真に維持するためには、圧倒的な、そしていかなる利権にも左右されない『強力な軍隊』が必要なのではないか……とね。ですが、元老院がそれを承認することなど、天地がひっくり返ってもあり得ないでしょう。そして情けないことに、私もいざそのような軍備拡張の法案が提出されれば、やはり反対の立場を取ってしまうに違いない。そうでなければ、今まで私が信じて歩んできた政治家としての歩みが、根底から崩れてしまうからです」
パルパティーンの声は静かだったが、サイフォ=ディアスの魂の最も脆い部分を的確に侵食していった。
軍隊。そうだ。これからの暗黒の時代を生き抜くためには、ジェダイの思想だけでは足りない。共和国そのものを守るための、絶対的な武力が必要なのだ。サイフォ=ディアスの心の中で、パルパティーンの言葉が強烈な共鳴を誘い出していく。
「……尤も、理想的な軍隊など、一朝一夕に作れるものではありません。ましてや、腐敗した議員たちの息がかかった軍隊では何の意味もない。これは所詮、夢物語でしかないのです。そう思いませんか、マスター・ジェダイ?」
パルパティーンは、まるで他愛のない世間話でもするかのように、サイフォ=ディアスの耳元へ近づき、声を極限まで潜めた。
「ですが……実は最近、一部の辺境を巡る金融ギルドの者たちから、奇妙な噂を耳にしましてね。銀河の標準星チャートからは意図的に外された、未知の海洋惑星があるのだとか。名は……確か『カミーノ』。そこに住む先住民たちは、高度なバイオ・エンジニアリングと、宇宙で右に出る者のいない『クローン技術』を有しているそうです。一部の富豪のみがその存在を知り、彼らに個人的な依頼をしているのだとか。彼らは、莫大な資金さえ支払えば、生みの親に対して絶対的な忠誠を誓う、完璧な兵士の軍隊を秘密裏に製造することができるという……。ふふ、まるでお伽話ですがね」
カミーノ。クローン技術による、絶対的な忠誠を誓う完璧な軍隊。
その言葉が放たれた瞬間、サイフォ=ディアスの脳細胞に、雷撃のような衝撃が走った。
ジェダイ評議会にも、元老院の腐敗した議員たちにも邪魔されず、ただ銀河の平和と正義のためだけに一糸乱れぬ動きをする、完璧な軍隊のビジョン。それこそが、迫り来る暗黒から銀河を救うために、彼が狂おしいほど求めていた「答え」そのものではないか。
「パルパティーン議員。その、カミーノという惑星の話は……」
サイフォ=ディアスが狂気を孕んだ目で詰め寄ろうとした時、パルパティーンは「おっと、これ以上はただの政治家の妄想です」と悪戯っぽく微笑み、言葉を遮った。
「皆様、少々見苦しいところをお見せしてしまいました。ですがルイナはまだ心の傷が癒えていないのです。どうかご容赦ください。さあ、ルイナ。少し冷えてきたね。温かい飲み物でも持ってこよう。マスター・サイフォ=ディアス、不躾な娘の非礼をお許しください。我が共和国の未来が、貴方のような高潔なジェダイの手によって守られることを、切に願っておりますよ」
パルパティーンは慇懃に一礼すると、ルイナの手を引いて、ゆっくりと議員たち、そしてサイフォ=ディアスの前から歩み去っていった。
取り残されたサイフォ=ディアスは、ただ一人、呆然と立ち尽くしていた。彼の頭の中では、先ほど少女が流した涙と、「カミーノのクローン軍隊」という言葉が、まるで呪いのように激しく渦巻いていた。彼を決定的な行動へと突き動かす狂気の種子は今、完璧な深さにまで植え付けられたのだ。
人混みの奥へと消えていくパルパティーンの背中で、ルイナは一瞬だけ、誰にも気づかれぬように後ろを振り返った。
彼女の漆黒の瞳の奥で、極彩色の悪意の炎が愉しげにパチパチと爆ぜる。その視線は、自らの言葉によって完全に精神の均衡を崩し、破滅への一歩を踏み出そうとしている高潔なジェダイの姿を、冷酷に、そして心底愛おしそうに見つめていた。
「見事だったぞ、ルイナ。……少々驚かされたが、素晴らしい演技だった。あの様子であれば、あのジェダイが我々の思惑通りに動くのは時間の問題だ」
前を向いたまま、パルパティーンが脳内に直接響く暗黒面の思念で、愛弟子を激しく絶賛した。
「楽しかった。あのジェダイの男、自分の正義の重さに耐えかねて、今にも壊れそうだった。だから、彼にとって最も都合の良い『救いのアイデア』を与えてあげた。これで彼は救われたと錯覚し、自ら進んで罠に飛び込む。……その心を、後から絶望に再び染め上げる瞬間が、今から本当に楽しみ」
ルイナはパルパティーンの手を強く握り返し、その精巧な人形のような顔に、この上なく残酷で、美しい微笑みを浮かべた。
「あの男の動向はよく監視しておこう。些細な動きも見逃さぬようにな。……さて、サイフォ=ディアスへの種蒔きが終わったとなれば、次はトレード・フェデレーション(通商連合)だ。いくら裏で完璧なクローン軍が造られたところで、それと戦う『表向きの敵』がいなければ、ゲームは成立しないからな。銀河を破壊し尽くす大戦を引き起こすために、彼ら貪欲な虫ケラどもにも、大いにひと肌脱いでもらわなくてはならん」