スター・ウォーズ:悪意の継承 作:皇帝大好き
ナブーの首都シードの絢爛たる王宮から遠く離れた、湖畔の影に沈む郊外の離宮。
かつて王家の静養地として使われていたその古びた館は、いまや王冠を剥ぎ取られ、王宮から追放されたアーズ・ヴェルナにとって、世間の冷眼から身を隠すための惨めな檻に過ぎなかった。
薄暗い執務室の窓辺で、ヴェルナは冷え切ったグラスを握りしめ、夜の静寂が広がる湖面を見つめていた。
はるか彼方、シードの方向から風に乗ってかすかに届くような気がするのは、新女王の誕生を祝う愚かな民衆の狂乱と熱狂の余韻だろうか。つい先日まで自分が頂点に君臨していたナブーの街は、いまや14歳の幼い少女、パドメ・ネイベリーの即位に沸き立っていた。即位と同時に、あの小娘はアミダラの名を贈られ、今ではパドメ・アミダラと名乗っている。
「愚民どもめ……何も知らんくせに。何も見えておらんくせに……!」
ヴェルナは低く掠れた声で吐き捨て、グラスの中の琥珀色の強い酒を喉へと流し込んだ。
灼けるようなアルコールの刺激も、胸の奥底でドロドロと渦巻く黒々とした屈辱、怒り、そして絶望の冷たさを消し去ることはできなかった。
なぜ、こうなった。
どこで自分は掛け違えたのだ。
かつて、アルス・ヴェルナという男には、間違いなく高く気高き理想があったのだ。
ナブーは美しく、伝統と平和を重んじる理想郷であった。しかしそれは同時に、銀河社会の急速な潮流から取り残された、辺境の閉鎖的な小国に過ぎないことを意味していた。銀河が急速に繋がり、巨大な貿易網と政治的思惑が交錯する時代において、孤立を貫くことは緩やかな衰退と死を意味する。ナブーの豊かな自然と文化を守りつつ、銀河社会の表舞台で確固たる地位を築くためには、重い扉を開き、銀河へと躍り出る「開国」しか道はない。ヴェルナは本気でそう信じていた。
そして、その壮大な志を分かち合い、若きヴェルナを王座へと押し上げてくれた二人の中核人物がいた。
一人は亡くなった両親の地盤を引き継ぎ、新進気鋭の若手政治家として卓越した弁舌とカリスマ性を発揮していたシーヴ・パルパティーン。
もう一人は、銀河規模の巨大金融機関「ダマスク・ホールディングス」を率い、裏社会から政治の枢軸までを支配する闇の権力者、ヒーゴ・ダマスク。
彼らとともに歩み始めた「ナブー開国」の道筋は、当初、眩いばかりの希望に満ち溢れていた。
ナブーの地表深くに眠る、極めて純度の高い貴重なエネルギー資源――プラズマ。この資源を国際市場へと開放し、大規模な採掘と輸出を行うこと。それによって莫大な富をナブーにもたらし、銀河元老院におけるナブーの発言力を飛躍的に高めること。それが彼らの共有していた大義であった。
実際、開国が推し進められると、シードの街には新時代の風が吹き荒れた。新しい貿易協定が結ばれ、美しい建築が立ち並び、ナブーは一躍「銀河で最も魅惑的な新興惑星」として脚光を浴びた。ヴェルナ自身も、ナブーを新時代へと導いた名君として、民衆からの絶大な支持を享受していたはずだった。
だが――夢の実現の裏に潜んでいた代償は、あまりにも巨大で、そして毒に満ちていた。
ナブーには、自前で惑星規模の採掘プラントを建設する資金も、莫大なプラズマを運搬するための巨大な星間船団も存在しなかった。結果として、採掘インフラの構築と物流の全権を握ったのは、銀河貿易を独占する強欲な巨大企業体――通商連合だった。
一度その蜘蛛の巣のような構造に組み込まれてしまえば、ナブーの主権など形骸化するのに時間はかからなかった。
通商連合はナブーのプラズマを不当な底値で買い叩き、銀河市場で巨額の暴利を貪った。ナブーが得るべきはずの富は掠め取られ、経済の心臓部を通商連合に握られたナブーは、実質的な経済植民地へと落とし込められていったのだ。
豊かになるべきナブーは、みるみるうちに極貧惑星に成り下がった。
ヴェルナとて、その凄惨な搾取の構造を黙って指をくわえて見過ごしていたわけではない。
世間や政敵たちは、ヴェルナが通商連合から膨大な裏金――いわゆる「協賛金」という名の賄賂を受け取り、私腹を肥やしていると糾弾した。確かに、金を受け取っていたことは事実だ。だが、それらは単なる個人的な贅沢のためなどでは断じてなかった。
巨大な権力と無慈悲な資本が渦巻く銀河政治の泥沼において、通商連合の強欲な幹部たちの機嫌を繋ぎ止め、ナブーへの唐突な経済封鎖や武力介入を食い止めるための、苦渋の「潤滑油」だったのだ。ナブーの経済と民の暮らしを即座の破綻から守るためには、己の手を泥で汚し、醜い悪役を演じ続ける以外に道がなかったのである。
(私は……ナブーの平和と未来を守るために、自ら泥をかぶっていたのだ! 誰よりもこの星を思い、苦しい選択をし続けてきたのだ!)
ヴェルナは怒りと悔しさに体を震わせ、空になったグラスを執務机の上に叩きつけた。硬質ガラスが甲高い音を立てて割れ、手刺の皮膚に鋭い痛みが走るが、そんな痛みなどどうでもよかった。
自分は決して、ただの腐敗した愚王などではなかった。
従順な傀儡のフリをしながら、ヴェルナは密かに、通商連合の支配という呪縛からナブーを解き放つための「反撃の刃」を研ぎ続けていたのだ。
ナブーには昔から本格的な軍隊が存在しない。「平和主義」という甘美な美名のもとに骨抜きにされた治安維持部隊では、万が一通商連合が強硬手段に出た際、抵抗することすらできずにひれ伏すことになる。だからこそ、ヴェルナは王室の限られた予算を密かにやりくりし、国家の主権を守るための裏工作を進めた。
ナブー王室護衛隊の装備更新という名目を掲げ、極秘裏に王立エンジニアリングに設計・発注をかけた最新鋭機――N-1スターファイター。
クロームの美しい曲線美の裏に、圧倒的な機動性と強力なブラスター・キャノンを秘めたあの幾何学的な戦闘機こそは、通商連合に対し「ナブーはただでひれ伏す従順な羊ではない」と突きつけるための、毒針であり最後にして唯一の切り札になるはずだった。
だが――あまりにも悲しいことに、民衆はその真意を理解しようとはしなかった。
「税金を投じた腐敗した王室の道楽」
「通商連合との不透明な密約によって生じた、莫大な使途不明金の隠蔽」
表面的な情報と、どこからか流れてくる不自然なスキャンダルに煽られた民衆は、ヴェルナの苦心も、密かな防衛計画の真実も顧みることなく、ただ彼を「ナブーを外敵に売り飛ばし、血税で兵器を弄ぶ腐敗の象徴」として激しくなじり、罵倒した。それどころか、兵器は通商連合に対するものではなく、貧困にあえぐ民衆を弾圧するための物と見なされていた。
「なぜだ……どうしてこれほどまでに、全てが裏目に出る……! 私はナブーのために……ナブーの未来のために……!」
ヴェルナは頭を抱え込み、暗い部屋の中で悲痛な叫びを漏らした。
泥をかぶり、悪名を背負い、たった一人で巨大な敵に対抗する準備を進めていたというのに、救おうとした民衆自身から石を投げられる絶望。どれほど言葉を重ねても、誰も彼の言葉に耳を傾けようとはしなかった。
そして――絶望のどん底にいた彼に、息の根を止める決定的な報せが届いた。
コルサントの元老院からもたらされたその報せは、他ならぬ、あのシェヴ・パルパティーン議員による演説の記録だった。
地元の選出議員であるパルパティーンが、コルサントの夜会で、故郷ナブーの政治的混乱と王室の深刻な腐敗を深く憂い、ヴェルナ王の「無能と独裁」を暗に、しかし決定的に批判したというのだ。
その報せを耳にした瞬間――ヴェルナの脳内で、これまでバラバラに散らばっていた不自然なパズルのピースが一気に、そして完璧な組み合わさった。
なぜ、パルパティーンが自分を非難する?
あのシーヴ・パルパティーンが。常に温厚で、控えめな笑みを浮かべ、誰に対しても腰を低くして接していたあの男が。かつては共にナブーの輝かしい未来を熱く語り合い、ヴェルナが王位に就くための工作を誰よりも献身的に裏で支えてくれたはずの腹心が。
巨大な政治の荒波の中で、自分と同じ大義を抱き、この玉座の裏に隠された孤独な戦いと苦悩を唯一理解してくれていると、そう信じ切っていた男が。
だが、振り返って考えると、全てがおかしかったのだ。
ナブーのプラズマ資源を輸出するという壮大な計画を立ち上げた際、莫大な資金力を持つヒーゴ・ダマスクを絶妙なタイミングで引き合わせたのは誰だったか?
他でもない、パルパティーンだ。
ダマスク・ホールディングスの介入により、結果として通商連合という巨大な怪物をナブーに招き入れることになった時、不安を口にするヴェルナに対して、
『これもナブーが銀河社会で確固たる地位を築くための、ほんのわずかな犠牲に過ぎません』
と、甘く囁いたのは誰だった?
パルパティーンだ。
そして、通商連合の理不尽な要求と容赦のない搾取が始まり、ナブーの経済が首を絞められ始めた時。
『王よ、今は耐え忍ぶ時です。連中の要求を跳ね除ければ、即座に封鎖が始まります。彼らの差し出す協賛金を一旦は受け取り、彼らを油断させつつ、裏で力を蓄えるのです。私腹を肥やしているという汚名は、いずれ歴史が雪いでくれましょう』
そう言って、毒の塗られた賄賂を受け取るよう、もっともらしい理屈でヴェルナの背中を押したのは、一体誰だったか。
「パルパティーン……ッ!」
今ならば分かる。すべては、最初から奴に仕組まれていたのだ。
通商連合との協定も、賄賂による汚職の構図も。
そして何より、ヴェルナが己の命と名誉を懸けて極秘裏に進めていたはずの『N-1スターファイター』の開発計画。あんなにも厳重に情報統制を敷いていたにも関わらず、なぜか「民衆を弾圧するための兵器」「税金の無駄遣い」という最悪の捻じ曲げられ方をして世間に流出した。
王室の極秘情報にアクセスでき、かつ世論をあそこまで完璧に誘導できるだけの力と人脈を持った人間など、ナブーには一人しかいない。
奴は最初から、ヴェルナを使い捨ての駒としか見ていなかったのだ。
ナブーを銀河の表舞台に引きずり出し、通商連合という強欲な外敵を引き込み、民衆の中に怒りと不満、そして出口のない閉塞感をギリギリまで溜め込ませる。そのすべての憎悪を吸収する「醜悪で腐敗した愚王」という泥の器が必要だったのだ。
ヴェルナという生贄が民衆の憎悪を一身に集め、時代が極限まで煮詰まったその瞬間。
奴はヴェルナを見せしめのように叩き潰す。
そして、その後釜に据えられたのは誰だ?
大人の薄汚れた駆け引きを一切知らない、14歳の無垢な少女、パドメ・ネイベリー。
長年の腐敗と停滞に喘ぎ、絶望していた民衆が最も喉から手が出るほど欲していた「完全なる純真」と「変革の光」。パルパティーンは、ヴェルナという極悪の泥を反面教師として引き立て役に使い、パドメという聖女を降臨させることで、見事なまでにナブー民衆の心を100%掌握してみせたのだ。
「騙したな……! 私を、私の理想を、ナブーの民を……ッ!!」
震える手で頭を抱え込む。
なんという恐ろしい男だ。あの柔和な笑顔の裏で、どれほどどす黒い野心を煮えたぎらせていたというのか。
パルパティーンは単なる野心家ではない。人の心を、恐怖を、希望を、まるで盤上の駒のように完璧に計算し尽くし、弄ぶ怪物だ。
パドメ・アミダラという新しい女王すらも、あの男にとっては容易に操れる美しい人形に過ぎない。純真で正義感の強い少女であればあるほど、元老院という泥沼の中でパルパティーンの「温かな助言」に依存せざるを得なくなる。
ヴェルナを切り捨てた彼は今、ナブーの民衆からは「腐敗を正した英雄」として称賛され、新女王からは「頼れる恩師」として全幅の信頼を置かれている。
起死回生を狙って実施した選挙すら、パルパティーンの書いたシナリオの一部に過ぎなかった。いや、自分が選挙という手段に打って出るように、巧妙に心理的な誘導をかけられていたのだ。己の決断だと思っていたことすら、すべてあの男の指先でコントロールされていた。
ヴェルナの胸の奥底で、底知れぬ恐怖と、それを上回る激しい憎悪が燃え上がった。
このまま黙って朽ち果てるわけにはいかない。
自分はすべてを失った。名誉も、王座も、民の信頼も。だが、真実を知った。
パルパティーンの正体を。あの男がナブーを、いや銀河そのものを自らの野望のために食い物にしようとする悪魔であることを。
「……まだだ。まだ終わらんぞ、パルパティーン」
ヴェルナは血走った目で暗い部屋の中を睨みつけ、よろめきながらも立ち上がった。
証拠は残っているはずだ。かつてのダマスクとの裏取引の記録、パルパティーンの通信ログの不審な痕跡。それらをすべてかき集め、元老院の政敵たちにリークしてやる。自分が破滅しようとも、あの怪物の皮を剥ぎ取って道連れにしてやる。
そう決意し、外部への極秘回線を繋ぐべく、執務机の奥にある通信端末へと血の滲む手を伸ばそうとした。
その時だった。
重く分厚い木製の扉が、ギギギ……と不気味な軋み音を立てて、静かに内側へと開いた。
「何だ? 勝手に入ってくるなとあれ程……」
ノックも無しに部屋に入るなど、無礼以外の何物でもない。ヴェルナは怒りのまま無礼者に声を荒げようとして……出来なかった。
何故ならば、そこに立っていたのは、明らかにこの離宮にいるはずの無い者だったからだ。
暗く沈んだ廊下の闇の中から、ゆったりとした、しかし一切の迷いがない足取りで、一つの影が執務室の中へと足を踏み入れてきた。
ランプのほの暗い光が、その異形の侵入者の姿を浮かび上がらせる。
ヴェルナは目を見開き、言葉を失った。ナブーの歴史や銀河の種族に関する知識を総動員しても、目の前に立つエイリアンが、なぜこのような場所に、これほどの殺気を纏って現れたのか理解が追いつかなかった。
そこに立っていたのは、著しく長身で痩せこけた体躯を持つエイリアンだった。
頭部は毛髪が一切なく、後頭部に向かってドーム状に大きく丸く肥大化している。その皮膚は不気味な薄ピンク色を帯びており、顔面には鼻構造がほとんどなく、代わりに平坦なスリットが存在していた。そして何より異様なのは、まぶたの存在しない、巨大で底知れない漆黒の二つの目だった。感情というものを一切削ぎ落としたようなその黒い瞳が、捉えどころのない冷徹さでヴェルナをじっと見つめている。
銀河標準で言えば、「ビス」と呼ばれる知性種族の特徴だった。本来ならば音楽や科学技術に秀でた平和的な種族として知られているはずの存在。しかし、目の前にいるこのビスから放たれているのは、芸術の気配などでは断じてなく、死の匂いそのものだった。
「だ……誰だ……っ!? お前は……何者だ! 護衛はどうした!?」
ヴェルナは怯えを隠しきれず、声の震えを必死に抑え込みながら、思わず一歩後ずさった。腰が引きつり、執務机の縁を掴んでどうにか立ち姿勢を保つ。
この離宮の廊下には、かつて王室護衛隊としてヴェルナに忠誠を誓った腕利きの兵士たちが配備されているはずだった。万が一の襲撃に備え、アラートも鳴るように設計されていたはずだ。だが、悲鳴一つ、ブラスターの発射音一つ聞こえなかった。静寂を破ったのは、ただこの扉が開く音だけだったのだ。すでに外の護衛たちがどうなったのか、考えるだけでも背筋に冷たい蛇が這い回るような恐怖が走る。
ビスのエイリアンは、ヴェルナの叫びに対しても顔色ひとつ変えなかった。大きな漆黒の目が、あざ笑うかのようにわずかに細められただけだった。彼は返答を急ぐ風でもなく、優雅とすら言える動作でゆっくりと執務室の中央へと歩みを進めてきた。その足音は恐ろしいほどに小さく、絨毯の上を滑るかのようだった。
「哀れだな……」
ビスの口から漏れたのは、低く共鳴するような、どこか浮世離れした質感の不気味な声だった。その言葉には、ヴェルナに対する侮蔑というよりも、死にゆく存在に対する冷淡な同情の色が混じっていた。
「お前は自分が何故死ぬかも知らぬ。一体何に利用されたかも知らぬ。本当に哀れだ……。まるで俺自身を見ているようで、嫌になる」
「質問に答えろ! 誰の差金だ! パルパティーンか……!? それとも通商連合か!?」
ヴェルナの悲痛な詰問に対し、ビスは感情の籠もらない小さな首振りをしてみせた。
「私の名は……ヴェナミス。……ダース・ヴェナミスだ」
その名を聞いても、ヴェルナには何もピンとこなかった。『ダース』という称号の持つ忌まわしい意味すら、一介のナブーの政治家である彼には定かではなかった。だが、その言葉に宿る圧倒的な重圧だけは、全身の細胞を恐怖で震え上がらせるに充分だった。
ヴェナミスは、まるで長年の友人に身の上話でもするかのように、あるいは暗闇に向かって独り言を呟くかのように、淡々と語り始めた。
「俺自身……つい最近まで、己がこうして生きて息をしていることすら奇跡のようなものなのだ。ひたすら眠らされていた。どれほどの年月が流れたかも分からぬ永遠にも等しい時間、意識を刈り取られ、実験用モルモットのように生と死の狭間に繋ぎ止められてな……」
ヴェナミスの大きな黒い目が、遥か遠くの過去を追想するようにわずかに揺れた。
「私をその悪夢のような暗黒の昏睡から引きずり出し、解き放った者がいた。奴は自らを……『ダース・シディアス』と名乗っていた」
ヴェナミスの平坦な鼻孔から、シューという低い呼気が漏れる。
「シディアス……くく、滑稽なことだ。私の知るシスの系譜において、存在すべき師はただ一人。私に教えを授けた偉大なる師、ダース・テネブラス。そして、私を罠に嵌め、あの忌々しい実験体として闇に閉じ込めた邪悪なる同門、ダース・プレイガス……。私が知るシスはその二人だけだ。シディアスなどという名は聞いたこともなかった」
ヴェルナは息を詰まらせ、ただ呆然とヴェナミスの異質な独白を聞いていた。テネブラス、プレイガス、シディアス――提示される謎の名称の数々を、ヴェルナが理解することはない。だが目の前の男の言葉は、銀河の裏側に横たわる恐ろしい暗黒の歴史を示唆していると直感的に感じていた。
ヴェナミスは言葉を続けた。その声からわずかに同情の色が消え、絶対的な冷徹さが戻ってくる。
「解放された私に、そのシディアスと名乗る男はこう告げた。『我が命令に従い、忠実な刺客として働けば、生かしてやり、真のシスの道を開いてやる』とな……。私には選択肢などなかった。そして、そのシディアスが私に下した最初の命令こそが――この離宮に潜み、お前という男の息の根を止めることだったのだ」
「な……なんだと……!?」
「お前が一体なぜ、あのシディアスの逆鱗に触れたのかは知らん。お前がどんな政治的立ち回りを行い、どのように奴の計画を損なおうとしたのか、俺には興味もない。俺には政治は分からん。マスターが俺に教えたのは、ただフォースの深淵と、ライトセーバーの扱いだけだ。ただ、これだけは分かる。……運が悪かったな、アーズ・ヴェルナ」
ヴェナミスは深く息を吐き出し、まるで決まり切った運命の最後の一幕を処理するかのように、ゆったりと右手を伸ばした。
「お前も、そしてこの俺も……あの怪物の手のひらで踊らされる、哀れな駒に過ぎんのかもしれんな」
ヴェナミスの長い指先が、ベルトから外された金属製の円筒状の柄――ライトセーバーを握りしめた。
次の瞬間。
スィィィィン――ッ!
激しい電子音とともに、漆黒の頭蓋を持つビスの目の前に、一筋の光芒が放たれた。
それは見る者の目を焼き切るような、禍々しく、どす黒いブラッド・レッドの光。
血のような赤色に染まったライトセーバーのプラズマ刃が、ブゥゥン……と低い重低音を響かせながら空気を加熱していく。
その赤光は、すべてを失い、真実に辿り着いたばかりの元国王アーズ・ヴェルナの絶望に満ちた顔を、冷酷に照らし出していた。