スター・ウォーズ:悪意の継承   作:皇帝大好き

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解放

アボラ島にある研究室へ自由に出入りする許可を得てからというもの、シディアスは度々この場所を訪れるようになった。

 

表向きの理由は、研究室に所蔵されている数多のシス・ホロクロンや古代の学術書から、暗黒面の知識を吸収するためだ。実際、彼は底なしの飢餓感をもってそれらを読み漁り、シスの深淵なる力を我が物としつつあった。

だが、彼の真の目的は違う。研究にのみ熱中するプレイガスでさえ、コルサントの金融関連の処理に出向かねばならない時が度々ある。そんな確実に不在となる時、且つ居場所を監視できる時を狙い、研究室の最奥に鎮座する鳥籠へ足を運ぶこと。それこそがシディアスの真の目的であった。

 

プレイガスは予告通り、ソウジャンと呼ばれる月に新たな研究室を作り上げた。ソウジャンがある星系は登録こそされているが、それを見つけることが出来るのは、どこを探せばいいかを知り、その座標を明らかにするデータをどう解読すればいいか分かっている者だけ。プレイガスの新しい隠れ家としてはこれ程相応しい場所はないだろう。

プレイガスは新たな研究室でほとんどの時間を過ごしている。だが、アボラ島の研究室に全く立ち寄らないわけではない。時折置き忘れた資料を取りに戻ってくることがある。プレイガスと決して遭遇しない様にするには、シディアスの監視の目があるコルサントにプレイガスが訪れる機会を窺うしかなかったのだ。

 

シディアスはプレイガスに、鳥籠の少女と会話するところを見られたくなかった。それが師への明確な裏切り行為に思えたからだ。

 

生命の苦痛とミディ=クロリアンの波動がむせ返るように渦巻く実験室の中で、そこだけが完全に「死」を保っている。特殊な磁場シールドに覆われた鳥かごの中。重力を無視して膝を抱え、ただ虚空を見つめて宙に浮く少女。

 

「……あら、また来たのね。シディアス」

 

足音すら立てずに近づいた彼を、少女は振り返りもせずに迎えた。一切の起伏がない、精巧な大理石の像が発したような無機質な声。

シディアスは不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと檻の前に立った。

彼は幾度となくこの得体の知れない存在――自身を『フォースの願望』と呼んだ少女と、プレイガスの目を盗み対話を重ねてきた。彼女は自身のことを詳細に語らない。正確にはこちらの質問に答えてはいるが、こちらの前提知識の有無に頓着しない。一方的に彼女の中の事実を語るのみ。彼女のことを知るためには、彼女の答える言葉をかき集め、それを解読する知識をどこからか身に着ける必要性があった。

 

そしてシディアスの努力が実を結ぶこととなる。シディアスは、ようやく彼女の正体を把握しつつあった。

彼女の口から語られたのは、かつてジェダイの神話にのみ記された、フォースを具現化したような家族『ザ・ワンズ』の存在。フォースの調和を保つ「父」、ライトサイドの象徴である「娘」、そしてダークサイドの象徴である「息子」。シディアスは以前、銀河に散らばるジェダイの遺跡で、その存在が壁画に描かれているところを見たことがある。確かにあの壁画には、三人の人物が描写されていた。

 

だが、彼女はそのどれでもなかった。彼女の周囲を取り巻くのは、暗黒面の冷たさとは似て非なる、絶対零度の「空白」。フォースそのものをキャンバスごと消滅させる漂白剤のような気配だった。

プレイガスの最初の見立ては間違っていなかった。だが彼女と深く対話しなかった師は、それが記録にも無い存在であることを見落としたのだ。結果、これ程強大な存在だと言うのに、プレイガスはこの少女をもはや研究材料として扱うことすら止めた。彼女の存在が、如何にシスであるシディアス達への福音であるか気づきもしなかったのだ。

だからこそ、シディアスは師との差を埋めるために、今日も少女との対話を続ける。

 

「お前は以前、自らを『フォースの死』だと言ったな」

 

シディアスは、彼女の中心にある底なしのブラックホールを覗き込むように目を細めた。彼女を完璧に掌握し、己の野望のための道具として組み込むためには、彼女の行動原理を根底から理解する必要があった。

 

「光でも闇でもなく、すべての終わり。お前はただそのためにあると、自分自身を定義し続けている。だが、幾度話を聞いてみても、お前の真の望みが分からない。破壊と口にしても、それはお前の義務感でしかないように感じる。そこにお前の熱量を感じない」

 

政治の基本は、相手の本当の望みを知ること。その望みを知れば、後はそれを叶える叶えないにしろ、相手をコントロールすることが容易になる。腐敗した元老院の中を泳ぎ回るシディアスにとって、それはもはや呼吸の様に自然な行為であった。幸いこの少女に対しては、どうやら言葉を飾る必要性は無い。幾度もの邂逅でシディアスにはそれが分かっていた。

シディアスはただ静かに少女を見つめ続ける。

 

「私がお前に感じるのは、果てしない停滞というよりは、ひどく不安定な……底なしの『飢餓』のように感じられる。お前は一体、何を渇望しているのだ?」

 

この少女の正体は分かった。だが、彼女自身のことが未だに見え切らない。

少女は言った。自分は「フォースの死を望む衝動」だと。フォースを滅ぼすために生まれたという事実、それだけが自分を定義すると。

成程、理屈はシディアスにも理解できた。歪ではあるが、調和、ライトサイド、ダークサイド、それらとは全く違う破壊の概念。それが彼女の司る、言うなれば『ザ・ワンズ』の権能と言えるのだろう。彼女は自身をそう定義し、事実その通りの存在として生まれてきたのだろう。

 

だが、それを語る少女自身は、それに対して決して感情を見せようとはしなかった。言い換えれば熱量と表現できるものだ。少女は我々とは完全に別物であるが、どうやら「生きている」ことに変わりはなさそうだった。こうして鳥籠の中に閉じこもり思案に耽っていることからも、何かしらの思惑や感情があるはずだ。シディアスはそれを見極める必要があると感じていた。だからこそ、単刀直入に尋ねる。この少女はそれだけで、自分の内を曝け出すだろうと直感で感じ取っていた。

 

少女の漆黒の瞳が、わずかにシディアスの方へ向けられた。

その瞬間、シディアスの背筋をかつてない悪寒が駆け抜けた。焦点の合っていない虚ろな瞳の奥に、虚無という言葉だけでは片付けられない、深く、重く、張り裂けそうなほどの「凄絶な苦悩」が渦巻いていたからだ。

だが同時に、それは少女が見せた確かな感情と言えるものだった。シディアスが見たのは、これが2度目のことだった。

 

「……破壊よ」

 

鈴の音のような声が、微かに震えた。それは彼女が初めて見せた揺らぎ。

 

「私の中にあるのは、ただ純粋な、すべての破壊への衝動。星を砕き、命を散らし、銀河のすべてを無に帰したいという叫び。それが私を形作る本能。だって、私はフォースが自らを終わらせるために生み出したものなのだから」

 

だが、と少女は自嘲するように目を伏せた。

 

「……そんなこと、不可能。ここは静かだから、いくらでも考える時間があった。でも、いくら考えても答えが出ない」

 

その言葉には、絶望すら通り越した、途方もない徒労感が滲んでいた。

 

「仮に私がこの銀河のすべての惑星を灰にして、すべての生物を殺し尽くしたとしても……フォースそのものは死なない。宇宙はあまりにも広大で、生命はどこかでまた芽吹く。私がどれだけ破壊を繰り返しても、フォースの根源的な死には絶対に繋がらない。それ程フォースは巨大な存在で、私はそれに比べて酷く小さい存在。衝動はあっても、それの行きつく結末を見ることが決してできない」

 

シディアスは息を呑んだ。破滅。少女の言葉をそのまま受け取っていたが、考えてみればそれが何を意味しているか判然としないことに気が付いたのだ。

フォースの死とは何か。シディアスにはそれが何か、定義することすら出来ない。生と死などという概念を超越した存在が、この世から無くなることは決してない。フォースとは言うなれば世界そのものだ。そのフォースに身を任すのがジェダイであり、支配しコントロールするのがシスだ。対立している二者だが、フォースの存在そのものの有無は議論する余地もなければ、この世から消え去るなど想像もしていない。何故ならそれが消えることなどあり得ないからだ。この銀河だけではなく、宇宙に存在する数多の銀河にも存在しているもの。同じく超越した概念のような存在であれば、あるいはその消滅と言う土俵に立ちえたやもしれない。だが、少女は確かに我々より超越した存在ではあるが……肉体を持っている以上、決してフォース全体と並び立てる程の存在ではない。同じくフォースの中に存在する小さな一部。それが少女の限界点なのだ。

 

酷い矛盾。それ以外に表現できない。

彼女の抱える絶望の正体。それは、あまりにもスケールが大きく、そしてあまりにも残酷な「自己矛盾」だった。

 

「私は悟らざるを得ない。私は実現不可能な目的のために生み出された。果たすことのできない使命と、決して満たされることのない破壊衝動だけを与えられた、宇宙のバグ。……シディアス。私は一体、何のために生まれてきたのかしら?」

 

底なしに暗い瞳で、少女はシディアスを見つめ続ける。

 

「目的を果たせないのなら、なぜ私にこんな衝動が備わっているの? 父様も、兄様も、姉様も……私を恐れ、理解しようともせず、ただ遠ざけた。私は……何のために、ここに在るの? 貴方は私の渇望を聞いた。私には破壊に対する熱量が無いと言った。これがその答え。私は自身が何であるか知ってはいるけど、それ以上でもそれ以下でもない。それが何であるか、私にも知識はあっても理解は出来ていないのだから。私はただ、答えが欲しい。それが私の渇望と言えるのでしょうね」

 

それは、神にも等しい存在であるはずの彼女の口から紡がれた、あまりにも人間らしく、哀絶な魂の叫びだった。

自己の存在意義(レゾンデートル)の完全なる喪失。行き場のない破壊衝動に内側から身を焼かれながら、決して到達できない終着点を永遠に彷徨い続ける無間地獄。それが、彼女という存在の恐るべき本質だった。

 

シディアスは、鳥かごの鉄格子越しに、静かに彼女を見つめていた。

もしこの場にいるのがジェダイであれば、彼等はどうしただろうか。益体もなくシディアスはそんなことを考えた。おそらく彼女の抱える破壊衝動を恐れ、慈悲という名の封印を施そうとしただろう。凡俗な者であれば、彼女のスケールの大きすぎる苦悩を前に理解を拒み、存在そのものを拒絶したことだろう。

だが、シディアスの中に湧き上がったのは、恐怖でも困惑でもなかった。

 

(……同情、か。この私が)

 

シディアスは内心で、ひどく歪んだ自嘲の笑みを漏らした。

少女を己の野心に利する道具とする。ただそれだけのつもりだった。だが、今シディアスの中に、確かな少女自身に対する強い興味と執着が湧き始めていた。

彼女の境遇は、自分とあまりにも酷似している。スケールは違うが、本質は何も変わらない。故郷ナブーでの若き日。シディアス――パルパティーンの持つ異常な才能と、内側に秘めた果てしない支配欲を、父コシンガをはじめとする凡俗な家族は全く理解できなかった。彼らはパルパティーンの特異性をただひたすらに恐れ、世間体という型に押し込めようとし、ついには彼を異端の怪物として拒絶した。

あの家族を自らの手で惨殺し、その血潮を浴びた夜、シディアスは真の自由を得た。

 

目の前の少女も同じだ。言葉は少なかったが、少女も家族から恐れられていたことが窺い知れた。ザ・ワンズという、世界の調和などという下らない運命に囚われた「家族」に見放され、自身の強大すぎる衝動の扱いに戸惑い、自分の存在意義を求めて鳥かごの中で膝を抱えている。

 

ようやく彼女の本質が分かってきた。破滅は結局は彼女に付随する能力でしかない。今の彼女の本質は、神にも等しい力を持ちながら、結局は「生まれたばかりの赤ん坊」に過ぎないのだ。

ただ純粋な破壊衝動に振り回されているだけで、そこに明確な意志や「悪意」が存在しない。そうシディアスは彼女の本質を理解した。

 

だが、それならば。

 

(……もし、この純粋で途方もない破壊衝動に、私と同じ『悪意』を乗せることができたら、果たしてどうなる?)

 

シディアスの精神の最も深い闇の底で、暗く、恐ろしく、そしてとてつもなく甘美な欲望が鎌首をもたげた。

ただのバグとして生まれた彼女を、自分の色に完全に染め上げる。圧倒的なまでの破壊の力に、他者を蹂躙し、恐怖させ、支配する悦びを教え込み、シスの狂気を一滴残らず注ぎ込む。そうすれば彼女は、ジェダイどころかフォースの歴史そのものを脅かす、銀河史上最悪で最強の「バケモノ」へと化けるはずだ。

 

それは、野望のための兵器を作ろうという打算的な考えすら超越した、ある種の「親」や「師」としての、極めて歪んだ倒錯的な欲求だった。

この赤ん坊の成長を見守りたい。彼女の純白の虚無を、自分の手で漆黒の悪意に染め上げ、共に銀河を絶対的な恐怖で支配したい。

だからこそ、シディアスが最初に口にしたのは、彼女の答えの無い悩みを完全に、そして暴力的なまでに否定するものだった。

 

「……下らないな」

 

重苦しい沈黙を切り裂き、シディアスの口からこぼれ落ちたのは、骨の髄まで凍りつかせるような冷酷極まりない一言だった。

少女が、ゆっくりと顔を上げる。その虚ろで底なしの漆黒の瞳を、シディアスの燃え盛るような黄みを帯びた眼光が真っ向から射抜いた。彼は決して檻に触れようとはせず、ただ絶対的な支配者としてそこに毅然と立ち、言葉という名の暗黒の呪縛を紡ぎ始める。

 

「お前は自分で気づいているはずだ。その問いに答えなどないことに。それなのに、あらかじめ与えられた『存在意義』という錆びついた鎖に、自ら喜んで縛り付けられている。フォースの死だの、神々の役割だの、宇宙のバグだの……そんな数式のような概念など、心底どうでもいいことだ! 思考の檻に引きこもり、叶わぬ運命を嘆くしか能のない哀れな人形よ。いいか、よく聞け。この宇宙に、元から定められた『善』も『悪』も存在しない。正しい役割など、最初からどこにも用意されてはいないのだ。あるのはただ一つ。自らの意志で強大な力を求める者と、力を持たぬが故にただ運命に流され、踏みにじられる弱者。……世界はただ、それだけで構成されている」

 

シディアスは両腕を大きく広げ、神をも畏れぬ傲慢さで堂々と宣言した。

彼の背後の薄暗い空間に、まるで巨大な怪物の影のような圧倒的な暗黒面のオーラが幻影となって立ち昇り、実験室のミディ=クロリアンたちが恐怖に震え上がる。

 

「私はシスだ。私はこの銀河のすべてを壊し、既存の秩序を徹底的に蹂躙し、すべての命を私の足元にひれ伏させたい。だがそれは、誰かに与えられた崇高な使命でもなければ、宿命でもない。ただ、私自身がそう望むからだ! 私にはそれを為すだけの圧倒的な力があり、私の野望を阻むすべての有象無象を排して、我がエゴを押し通す至高の歓喜を知っているからだ!」

 

そこでシディアスはスッと両腕を戻し、少女に向けて微笑みかけた。それは、彼が元老院やナブーの民衆に見せる、あの精巧に計算され尽くした政治家の仮面では決してなかった。冷酷無比な暗黒卿の最も深い内側から滲み出た、親が我が子の成長を、師が愛弟子の真の覚醒を確信した時にだけ浮かべる、ひどく歪で、しかしどこまでも熱を帯びた「真実の微笑」だった。

 

「お前は、究極の目的が達成不可能だと絶望し、嘆いている。確かに、お前という一個体の規模では、フォースそのものに物理的な死を与えるという究極の本懐には、永遠に達せられないのだろう。お前がどれほど足掻こうとも、フォースはあまりにも巨大で、お前はあまりにも小さい。だが、考えてみろ。お前がどれほど星を砕こうともフォースが死なないということは、お前の内にある『すべてを破壊したい』という飢えは、未来永劫決して満たされることがないということだ。……ならば、それは絶望か? 否だ! そんな呪いのような目的など、今すぐこの場で棄ててしまえ。決して届かない果実を求めて飢えるのをやめろ。果たすべき義務を完全に失ったその時、お前は初めて、真の意味で自由になる! 永遠に満たされないということは、言い換えれば『永遠に喰らい続け、破壊し続ける快楽を貪れる』ということではないか! お前は純粋に楽しめばよいのだ!」

 

「……楽しむ?」

 

少女は呆然と呟いた。

その戸惑いの防壁を木端微塵に叩き潰すように、シディアスは鉄格子へとにじり寄り、顔を限界まで近づけた。シールド越しに二人の視線が深く交差する。

 

「そうだ。真の目的に繋がらないとしても、お前の中にはすべてを破壊したいという強烈な衝動がある。それをお前は『義務』としてではなく、ただ純粋な『娯楽』として楽しめばよいのだ! 生き物として生まれた理由など、血眼になって探す価値もない。事実、お前は私の下に初めて現れた時、私の未来を視て『興味深い』と言ったではないか。残念ながら、私の力ではフォースそのものに死を与えることは出来ない。だがそれが分かっていながら、お前は私の紡ぐ破滅の未来に、確かに視線を留めた。それは何故だ?」

 

シディアスは確信していた。彼女の素養は、単なる全自動の破壊装置などではない。

彼女が感情を初めて見せたのは、決して今日ではない。シディアスが家族を惨殺し、自らの手で世界の運命を動かし始めたあの血塗られた夜なのだから。

 

(貴方のやり方は、ただ星を壊すよりずっと……そう、興味深い。貴方は世界をただ物理的に消すんじゃない。生き物たちの運命を腐らせて、絶望させて、自らの意志で闇に堕ちるように仕向けていく……そんな予感がする)

 

あの時、彼女がシディアスに放った言葉。あの大理石のような顔に浮かんだ冷たい笑みを、シディアスは決して忘れることはない。

 

「お前はあの時、私に向かって笑ったはずだ。私のやり方は、ただ星を物理的に壊すよりもずっと興味深いと。生き物たちの運命を内側からじわじわと腐らせ、徹底的に絶望させ、自らの意志で真っ逆さまに闇へと堕ちるように仕向けていく……その壮大で残酷な破滅の芸術を、お前は予感し、胸を躍らせたのだ。その魂の震えを、ただの義務だと言い張るつもりか? 否だ! 破壊は、お前にとって単なる課せられたタスクなどではない。それの行き着く結末が無意味に終わると分かっていても、その過程を、蹂躙を、遊興とする極上の趣向が、お前の内には確実に存在しているのだ! それをこのダース・シディアスが肯定しよう!」

 

シディアスの声はさらに低く、そして深く、ルイナの精神の最も柔らかく無防備な部分へと容赦なく染み込んでいく。ザ・ワンズの家族が誰一人として触れようとせず、恐れて遠ざけた彼女の「個」としての飢餓を、彼は全肯定しながら力ずくで引きずり出していく。

 

「まずは私がこの手で銀河を燃やし尽くす様を、特等席で眺め、愉快に笑えばいい。お前の家族が懸命に守ろうとした『調和』のセカイを、私がこの手でパズルのようにバラバラに分解してやる。お前は私の力の一部となり、私の最悪の影となり、共にこの宇宙を絶対的な恐怖と絶望で塗りつぶしていけばいいのだ。その行為の中に、お前だけの、お前なりの『新しい意味』を見出せばいい。誰に理解されずとも、宇宙の法則に背こうとも、お前自身がそこに極上の快楽を感じるのなら……それこそが、お前が今ここに存在する、唯一にして絶対の理由となる!」

 

善悪の彼岸を超えた、神をも恐れぬ絶対的な自己肯定。運命という名の神話の完全なる否定。

シディアスは、冷たい鉄格子越しに、ゆっくりと、しかし確固たる意志を込めて自らの右手を差し伸べた。

 

「……どうだ? いつまでもその狭い鳥かごの中で、出来もしない神々の使命とやらに縛られ、無表情のまま永遠に嘆き続けるか? それとも、私の傍で、この銀河という最高に贅沢な玩具を、私と共に思う存分叩き壊して遊ぶか?」

 

その声は、毒蛇が耳元で囁くようにひどく甘く、暗黒面の深淵よりもどこまでも蠱惑的だった。

シディアスは、自らの差し出した手を見つめる少女の、その虚ろな漆黒の瞳の奥に初めて明確な「悪意の炎」が灯る瞬間を、破裂しそうなほどに高まる高揚感と共に、ただじっと待ち受けていた。

 

 

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