ガンダムビルドダイバーズ:EXPLODE   作:貸出票

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第二話です。前回は大人しめだったので今回からドカン!といこうと思います。


空に咲く華

「ガクさん?!聞こえますか!ガクさん!!」

 

なんとかギリギリで助かっているかもしれない、そんな一縷の望みを抱きながら震える指で通信のボタンを何度も何度も押し込み、声を張り上げる。しかしガクの声が返ってくることはなく、モニターに表示されるのも無機質な『NO SIGNAL』の文字だけだった。その冷たい輝きが胸を締め付ける。

 

脳内を駆け巡る嫌な考えを振り払いながら、滲む視界の中呼びかけ続ける。

 

「お願いですから返事を…」

 

「無駄さ」

 

「っ誰!?」

 

見知らぬ声に反応して正面に向き直ると、そこには全身を光すらも飲み込むような漆黒の装甲で覆った異様な雰囲気を放つMSが行く手を塞ぐように立ちはだかっていた。

 

「そんじゃあオマエも俺たちのポイントになってもらうぜぇ!」

 

目の前のMSから発せられたと思しき野太い声が、混乱の最中にあるスバルの耳に届くと同時に漆黒の機体が右手を振り上げ鞭のようなものをアルデバランに振り下ろした。

 

「きゃああああああっ!!」

 

その瞬間、金属同士が高速でぶつかる轟音がコクピットを突き抜け、機体が凄まじい衝撃に襲われる。そのまま落下し地面に叩きつけられても勢いは収まらず何軒かの廃墟を轢き潰した後ひときわ大きいビルの外壁に衝突して漸く運動が停止した。

 

コックピットの内壁は黄色に発光し、機体が少なくないダメージを受けたことをパイロットに伝えんとしている。仮想の体にはないはずの心臓の音がやけにうるさく聞こえる。

 

今の攻撃でいくつかのカメラがやられたのだろう大部分が暗転したモニターに視線を移すと、狭まった視界に漆黒の影がじわりと姿を現す。その背後には仲間と思われるよく似た機体二機を引き連れていた。

 

「どうだい俺のグフイグナイテッド・シャドウの一撃の味は?まったく初心者狩りはたまらんなぁ!ステルス機で隠れて撃ち落とすだけで楽にポイントが手に入るんだから。笑いが止まらねえよ…へへっ。」

 

さっきの声が嘲るように言ったがもはやスバルの耳には届いていなかった。

 

(嫌だ…怖いよ…誰か…誰か助けて…)

 

手に力が入らず、視界は流れる涙でゆがみ切っていた。

 

反撃しようにも二丁のビームライフルはさっき落としたのか手元にない。なにより心が動いてくれなかった。無理もない。社会に出たこともない少女が初めて飛び込んだ右も左もわからない世界でNPDではない本物の人間の悪意に晒されているのだ。これで戦意を失うなという方が酷だろう。

 

漆黒の機体ーグフイグナイテッド・シャドウがビームソードを抜き放ち、焦らすようにゆっくりと歩を進めてくる。

 

仮想世界の『死』はもうそこまで迫っている。

 

(ごめんなさいガクさん…もうダメです…)

 

視界が暗く沈み、『死』を受け入れようとしたその時、声が聞こえた。

 

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優しいでも頼もしさも感じさせる声。胸にか細い、けれども確かな光が灯った。これまでの人生がフラッシュバックする。

 

「そう…私は…何もできない自分を変えたくて…」

 

頬を伝う涙を袖で乱暴に拭い、操縦桿を握りしめる。もう放すことのないように。迫る悪意に立ち向かうために。

 

「あの時見た空を…自分の翼で飛びたくて…」

 

主の意思に呼応するかのように、アルデバランのカメラに光が戻る。比較的無事な右のアームで腰のビームサーベルの柄をつかむ。

 

依然手の震えは止まらない、しかしその視線だけは逸らさない。

 

「私はまだ!自分の翼で飛んでない!ここで終われないっ!!」

 

スバルの瞳に怯えの色はもうなく、戦う意志だけが輝いている。残ったスラスターのすべてを悲鳴を上げるように噴き上げ、アルデバランが瓦礫を吹き飛ばしながら一直線に手前の敵に肉薄する。

 

「やあああああっ!」

 

「なにぃっ!?」

 

思わぬ攻勢に面食らった先頭のグフの動きが一瞬止まる。彼女はその隙を逃さない。

 

機体の右手でビームサーベルを引き抜き、上段から一気に振り下ろした。メガ粒子の刃がわずかな抵抗を残しグフのビームソードを持つ右腕を根元から断ち切った。切り落とされた右腕が赤く灼けた切断面を晒しながら鈍い音を立て地面に落ちる。振り抜いた勢いを殺さずアルデバランはその巨体をぶつけにいった。

 

右腕を失ったグフが吹き飛ばされ、それまで後ろで控えていた二つの影が動き出す。一機は手負いの味方を庇うように前に出て盾を構え、もう一機は満身創痍のアルデバランにとどめを刺さんと接近する。

 

「ぐっ…やれ!ソイツを殺せ!!」

 

怒声が通信越しに聞こえてくる。仲間のグフが引き抜きざまに放ったビームソードの一太刀は何とか機体を屈めることで回避し接近、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

緑とピンク、二色の光が交差し眩い火花が視界いっぱいに弾ける。

 

「アルデバラン!あなたと一緒に飛んで見せる!!」

 

サーベルを握る腕がパワーを増していく。鍔迫り合いの不利を悟ったのか相手はバックステップで距離を取った。

 

「このまま決めるっ!」

 

追撃のため左足で大きく踏み込んだその瞬間、機体からバキンッと嫌な音がして機体全体が大きく揺れ、支えを失ったように前のめりに崩れ落ちた。モニター越しに確認すると、初撃でダメージを受けていた左の膝関節がついに限界を迎えたのか完全に断裂していた。

 

「そんな…あと少しなのに!」

 

声に悔しさが滲む。倒れこんだアルデバランの頭部目掛け、グフが無慈悲にも刃を振り下ろしてくる。避けることも防ぐことも不可能。それでもスバルが戦意を失うことはなかった。操縦桿を握りしめながら目の前の敵を睨み続ける。

 

今度こそ『死』が迫り、スバルの視界が暗転するーーーことはなかった。

 

真横から飛んできたマイクロミサイルが轟音と共にグフの肘から先を吹き飛ばしたからだ。

 

「……え?」

 

目の前の光景に思考が追い付かずスバルの喉から呆けた声が漏れる。完全に不意を突いた一撃に慌ててグフがミサイルの飛来した方向を向くが、遅れてきた二発目三発目を頭と腹に食らい爆散する。

 

煙が少しづつ薄れる中から現れたのは、大量の火器に全身に纏った紺色の巨体。

 

「すまない、待たせてしまった。それと…ここまでよく頑張った。」

 

通信から聞こえてきたのはあの頼もしく、優しい声。

 

「ガク…さん…?生きて…」

 

震える声と共に熱い雫が頬を伝う。

 

「もう限界だろう。下がって、後は俺がカタをつける。」

 


 

限界を迎えたアルデバランを守るように紺色の巨体ーHB(ヘビーボンバー)が地を踏み鳴らし立ち塞がる。

 

「てめぇはさっき撃ち落としたはず…」

 

「ああ、それのことか。破損した武装を誘爆直前に切り離してね、レーダーの探知範囲外に逃れるたんだ。武装の爆発を君たちは機体のものだと思い込んだワケ…昔使った手さ。そのおかげで駆けつけるのが少し遅れてしまったがね。」

 

焦りを孕んだ敵の問いに対し薄く笑みを浮かべながらガクは答える。HB(ヘビーボンバー)の機体をよく見ると装甲各部には爆発の爪痕が残り、右腕の肘から先は失われていた。

 

「それが何だってんだ!片腕で何ができる?やれ!!」

 

自らを鼓舞するように張り上げられた声に反応し、残った五体満足のグフがビームソードを抜き襲いかかる。

 

「遅えよ」

 

それに対しガクは一言つぶやくとHB(ヘビーボンバー)の姿勢を低くし這うように地面を駆けた。目にもとまらぬ速さでグフの脇を通り抜けると同時にサイドアーマーのスペツナズ・ナイフを引き抜く。そして逆手に持ったそれを敵機の背中に勢いよく突き立てた。

 

鋭利な刃が装甲を易々と貫き、確かな手ごたえが操縦桿から伝わってきた。ナイフから手を離すと背中側からコクピットを一突きにされたグフは力なく大地に沈む。

 

「これで二つ…と、残るはアンタだけだ。初心者狩りが逆に狩られる気分はどうだ?」

 

「…は?」

 

それは最早、戦いの体すらなしていなかった。あまりに一方的な、言葉にするならば『処理』がふさわしいだろう。

 

(私とは…次元が違う!)

 

一連の攻防を一歩引いて眺めていたスバルは瞬きすら忘れるほど彼の動きに魅入っていた。極限まで無駄を削ぎ落し、効率的に目の前の相手を無力化することに特化した身のこなしは恐怖をあおる一方、ある種の美しさすら感じられた。いったいどれだけの場数を踏み、どれほどの修羅場をくぐればあの境地に至ることができるのか想像もつかない。

 

残ったグフのパイロットは信頼する仲間二人が刹那の間にやられた事実が呑み込めぬまま機体を駆り、半狂乱になりながら叫ぶ。

 

「クソッ!弱ええ奴を狩って何が悪い!?俺たちはよ…俺たちはぁっ!」

 

無事な左腕でHB(ヘビーボンバー)に掴みかかるが最低限の身のこなしでよけられた挙句、すれ違いざまに足を刈られ無様に倒れこむ。ガクはその様子を冷え切った眼で見降ろしながら吐き捨てるように言う。

 

「…別に俺は『初心者狩り』行為を非難したいわけじゃない」

 

「何…?」

 

「俺の戦ってきた所では不意打ち、だまし討ちは日常茶飯事だったからな。それに初心者狩り(それ)はマナー違反ではあるがルール違反ではない。だがな…」

 

淡々とした声色に、怒りの色が明確に滲む。

 

「三人で寄ってたかって女の子泣かすのは()()()()()ガンプラ(これ)は人泣かすためにあるんじゃねえッ!!」

 

「ひいっ?!」

 

ガクから放たれた怒気に押され、グフは残った手で慌てて盾を拾い逃げるように距離を取る。それに対し、二本目のスペツナズ・ナイフを抜きそのトリガーを引いた。小気味よい破裂音と共に刀身が発射され盾に突き刺さり、そのまま内部で炸裂した。

 

「がああっ!?」

 

その威力は盾を粉砕するだけに留まらずグフの残った左前腕部ももぎ取っていった。

 

(まずい…勝てっこねえ…逃げないと!)

 

なりふり構わずHB(ヘビーボンバー)に背を向け逃走を試みるグフ。彼我の圧倒的な実力差に戦意はとっくに失われていた。

 

「逃がすものかよ……なんだ?」

 

突如レーダーが新たな敵の接近を知らせる。見るとそれはNPDの操る六機のリーオーだった。どうやらビギナーミッションの中ボスが戦闘の気配に誘われ集まってきたらしい。

 

(しめた!こいつらを身代わりにすれば俺は逃げ切れる!)

 

グフのパイロットの口元が歪む。逃げるグフ、HB(ヘビーボンバー)に向かっていくリーオー。しかしガクは動揺するどころか不敵に笑うと大きく息を吸い、舞台の上の役者のように高らかに声をあげる。

 

「集まってくれたところ悪いがーーショウは幕切れだ。最後はスターマインで決めようか!発射前誘導補助(エングレイブ・ルート)システム起動!!」

 

ガクの手元に特殊コンソールが展開され、それを迷いのない指先がまるで鍵盤を奏でるように叩く。一連の動作を終えると、操縦桿を握り直し攻撃態勢に移る。

 

「せいぜいこの灰色の空を彩りな。」

 

ガクがトリガーを引くと、HB(ヘビーボンバー)の至る所のハッチが開放され風を切る音と共に夥しい数のミサイルが発射された。それらは流星のように軌道を描きながら六機のリーオーとグフに殺到する。

 

「やめろ!来るな!来るなぁぁぁぁ!」

 

グフのパイロットの断末魔が爆音に呑まれ消えると同時に、廃墟の空を深紅の大輪が彩る。激しくも美しいその光景にスバルは目を離せなかった。

 

「フッ…ハハハ…フハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

炎の花弁が舞い落ちる中、ガクの高笑いだけが戦場に響き渡った。

 

やがて笑い声が途切れ、HB(ヘビーボンバー)は静かにスバルの方に向き直る。

 

…ふぅ。ブランク有りの初日ならこんなものだろう…

 

小さくつぶやくその声に先ほどまでの冷徹さと狂気は感じられなかった。微笑みを浮かべながらゆっくりとアルデバランの方へ歩を進める。

 

「スバル、改めて…本当によく頑張ったね。」

 

ガクの優しい声に、張り詰めていた緊張が途切れ全身から力が抜ける。スバルはコクピットの中でへたり込む。

 

【MISSION COMPLETE! CONGRATULATIONS!】

 

軽快な電子音と共に空中にウインドウが現れ、ミッションの完了を示すメッセージが淡く光る。

 

「これでミッションも終わりのようだね、一緒にロビーに戻ろう。」

 

機体に片膝をつかせ、静かに掌を差し出す。今になって本当に戦闘が終わったと理解したことにより、スバルがこらえていた恐怖と不安、安堵が涙となって溢れた。

 

「……っ、ひ……っ、ひぐ……っ……」

 

「……あれ?」

 

「うぇぇぇ……っ……!本当に…心配して…うぇぇぇぇん!」

 

子供のように泣きじゃくるスバルに、戦闘中とは打って変わって狼狽するガク。泣き止もうと思っても涙が勝手に溢れて止まらなかった。

 

その後、立つことすらままならぬアルデバランを非実体化させ、HB(ヘビーボンバー)に二人で乗ってロビーに戻るまでの間。中々泣き止まぬスバルを何とか必死になだめるガクの姿があった。

 


 

 

ロビーに帰還した二人は報酬の受取を終え、空いたスペースで一息ついていた。

 

「落ち着いたかい?」

 

「はい…なんとか」

 

まだ赤い目を擦りながら返事をするスバル。その手にはビギナーミッションの特別報酬である、『OZ』のマークがあしらわれたネックレスがしっかりと握られていた。報酬受け取りの際に「これは君が持つべきだ」とガクに通常報酬と一緒に押し付けられたものだ。

 

ガクはスバルの正面に立つと真面目な表情になり、勢いよく頭を下げた。

 

「初めてのGBNなのに、怖い思いをさせて本当に申し訳ない!」

 

「そんな!頭を上げてください!!」

 

慌ててやめさせようとするが、ガクは中々頭を上げようとしない。

 

「悪いのはガクさんじゃありません!」

 

「いや俺が悪い。俺が君を見失わなければ、もっと早く駆けつけられていれば、君を危険に晒すこともなかった。気が済むまで責めてくれていい、ただガンプラのことは嫌いにならないでほしい!この通りだ。」

 

「……えいっ!」

 

下げられたままのガクの後頭部にスバルは軽くチョップを落とし、トスッと軽い音がした。するとようやくガクは困惑しながら後頭部に手を当て頭を上げた。

 

スバルは腰に手を当て少し怒ったように続ける。

 

「何度も言います。ガクさんに非はありません。それでも自分が許せないっていうなら今のが罰ってことにして下さい!」

 

そういうとスバルはガクの目をまっすぐ見つめながら表情を緩めた。

 

「それに、嫌いになるわけありません。あなたのおかげで私は大きな一歩を踏み出せたんですから。」

 

「そうか…ありがとう。」

 

ガクは安心したように答えた。いつの間にかGBNに夕暮れが訪れ、ロビーに差し込んだ赤い夕陽が二人の影を伸ばす。

 

そんな中、ガクが視線を泳がせながら照れくさそうに話を切り出した。

 

「えーっと、よければでいいんだけど…俺とフレンドになってくれないかな?」

 

その頬はほんのり赤く染まっていた。あまりの戦闘時との落差にスバルは小さく吹き出してしまう。

 

「ふふっ」

 

「なんだよ、笑うことないでしょー。」

 

不貞腐れたようにそっぽを向く彼に余計笑いがあふれてしまう。

 

ひとしきり笑った後、ネックレスをインベントリにしまい完全に拗ねてしまったガクの手を取る。

 

「はい!なりましょう、フレンド!」

 

弾むような声で返事をすると、ガクは自分のものより1周り小さい掌を握り返した。

 

「これからもよろしくお願いしますね。ガクさん!」

 

「ガク、でいいよ。」

 

「わかりました、ガク!」

 

「こちらこそよろしく、スバル。」

 

スバルの笑顔につられて、ガクも満足げに笑った。

 

眩い残陽が二人を照らしていた。それは彼らのこの世界での第一歩を祝福しているようにも見えた。




ふう…これで何とか一区切りですね。

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