夕陽の差し込む空き教室の中、置かれた大きな筐体の前に学生服を着た3人の少年が立っていた。
「先輩方、本当に辞めちゃうんですか?俺、もっと先輩と一緒にバトルしたいっす!先輩だって…」
その中で一番小柄な少年が他の二人に泣きそうになりながら問いかける。それに対し紺色の髪の少年が諭すように答える。
「俺だってまだ離れたくないさ、GPDは好きだし試したい武装があれば戦いたい相手も山ほどいる。」
「だったら!」
「だからこそ…だよ。」
紺色の髪の少年は傍らの作業台の上の愛機に愛おしそうに触れながら続けた。
「楽しい時はいつか終わる、何事にも必ず終わりは来る。それを受け入れなきゃいけない瞬間はあるんだ。だから、せめて最後は楽しく
それまで沈黙を保っていた丸眼鏡の少年が口を開く。
「それに加えて俺たちはもう高3だ。ずっと楽しいことばかりやってるわけにはいかない。GPDのプレイヤーも段々減ってきている。ここらが潮時なのさ。…そんな顔するな、俺たちはここで同じ時間を過ごした仲間だ。その事実が消えるわけじゃない。」
二人の意思は固く変えられないと悟った小柄な少年は涙をこらえながら笑顔を作った。その表情から三人で過ごした時間が彼にとってどれほど大切だったのか窺える。
「なら…もう始めちゃいましょう。最後の戦いだからって手加減しないっすよ?容赦なく黒星で終わらせてやるっす!」
その声は少し震えていたが二人はあえて気づかないふりをした。
「その意気だ。こちらも全力で行く。」
小柄な少年と紺色の髪の少年、二人は筐体を挟んで向かい合うとそれぞれのガンプラをその上に置いた。眼鏡の少年はそんな二人を微笑みを浮かべて見守っている。
「ありがと…な。」「どうしたんすか急に?」「言いたくなっただけだ。」
窓の外では青い葉が夕陽を受けてきらめいている。
これから夏に差し掛かろうというよく晴れた日のことだった。この夕陽を彼らはきっと忘れない。
「これで今日の講義は終わり。課題を忘れるなよー。」
教授の声が響き渡り、講義室が喧騒に包まれる。
「やばい…思いっきり寝てた…」
「どうやら昨夜はずいぶんとお楽しみだったようだな。」
「誤解を招く言い方はやめろ
緑のジャケットに銀縁の丸眼鏡をかけた、鋭い目つきの青年――
「これは…ファンネルミサイルに榴弾砲か?」
「ああ、昨日のダイブではいろいろあってな。手数が欲しくなった。」
「お前の爆発への『こだわり』のことは知っているが…これはまた扱いの難しいモノを…」
雑談しながら荷物をまとめ講義室を出た。時計の針は三時を示している。二人は大学の構内を出ると同じ方向に歩き出した。
「今日も潜るのか?」
「そのつもり。お前は?」
「せっかくだ、付き合おう。背後を固める奴が必要だろ?用事も済んだことだしな。」
季節は夏に差し掛かり、街は粘つく暑気に包まれていた。されど二人は歩を緩めない。その背中はさながら戦場へ向かう兵士のようでもあった。
「暑い…倒れるかと思いました…」
ちょうど同じ頃、スバル――
「お嬢様?!ご連絡いただければいつものようにお車でお迎えに上がりましたものを!」
息は荒く、まさに疲労困憊といった様子だ。それを見つけた使用人が慌てて駆け寄る。
「すみません、とってもいい天気なので歩いて帰ろうと思って…」
「それで健康を害しては何にもなりません!」
「あはは…それもそうですね…」
荷物を預かろうとする使用人を手で制し、ふらつく足で自分の部屋に向かう。もともと彼女は体が丈夫な方ではない、それ故普段は高校の送り迎えは車での送迎に頼っている。それなのに突然30分弱もかけて歩いて帰ってきたとなれば使用人が驚くのも無理のないことだろう。
「あと…今日も作業に集中したいので放っておいてください。夕方ごろには出てきますから。」
そう伝えると彼女は自室に姿を消した。閉め切られた扉を見つめながら使用人は静かに嘆息する。
「前はこんな無茶をなさる方ではなかったのに…私は心配です…」
そんな心配の一方、昴はハンカチで額の汗をぬぐいながら四苦八苦して作り上げた愛機を手に取った。
「今日もよろしくお願いしますね、アルデバラン。」
トーラスを想起させる大きなカメラアイが少し光った気がした。
「見つけた!俺好みのミッションだ!」
ガクと宵真――もとい
「ふむ…上級者向けの討伐ミッションか。フィールドはジャブロー地下か…確かにお前の火力なら制圧は容易だろうな。」
「これなら大量の敵と戦いつつランク上げも並行できる、最高じゃないか?」
ミッションの受注が完了し、今すぐ出撃するかを問うウインドウが出現する。すぐさま『出撃』を選択すると視界が白い光に包まれる。再び目を開くと二人はそれぞれのガンプラのコクピット内に転送されていた。
「敵は三十体の水陸両用MS群、そいつらの全滅後に出現するボスエネミーを倒せばミッションクリアだ。俺が突っ込んで暴れるから後方から支援と攪乱を頼む。」
「全く…お前は変わらんな。少し安心したよ。」
重苦しい音を上げながら2つの機体が運ばれ、カタパルトに固定される。片方はガクの
「ガク、
「ナハト、クロノス・フリューゲル飛翔する。」
黒と紺、カタパルトで加速された二つの影が仮想の空を舞う。しかし二人は想像をはるかに超えた激戦が待ち受けることを知る由もなかった。
地鳴りのような爆発音がジャブローの地下に木霊し、焼け焦げた装甲の破片と赤黒い炎があたりを埋め尽くす。
「なんか敵多くなーーーーい?!」
ガクの叫びは響き渡る爆音にかき消されていった。二人がジャブロー地下に侵入し、水陸両用MS群と戦闘を開始して二十分近くが経過していた。
「三十体って話だったよな!?俺もう五十近く吹き飛ばしてる気がするんだけどぉ!」
「数えていたがお前が五十一体、俺が四十二体の計九十三体だ。誤差で済まされる範囲はとっくに超えているな。」
クロノス・
「どうする?いったん引くか?お前の残弾もそろそろ厳しくなってきただろう。」
二人の機体からは残弾・エネルギーが残り少ないことを知らせるアラートが鳴り響いている。本来、
「そうだな…一度引く。こいつらを黙らせてからな!」
「その残弾でどうするつもりだ!?」
「こうするのさ!!」
そう言うとガクはナハトが探査で見つけた敵の包囲が薄い部分に爆撃を集中し退路を開いた。その意図をくみ取ったナハトが機体をそこに滑り込ませると、
放たれたミサイルが向かうのは迫りくる敵機の群れーーではなくその頭上の岩盤に走る亀裂だ。それら着弾すると同時に、戦闘の余波により少なくないダメージを受けていた岩盤は轟音と共に崩れ始めた。降り注ぐ巨大な瓦礫が次々と敵機を押しつぶし、後続が這い出てくる水路を塞いでいく。
「ざまあ見やがれ!一網打尽だ!!」
「下がれ!巻き込まれるぞ!」
その光景を背に二機はクロノス・
「……やべ」
「ガク!?」
通信がノイズにまみれ、ガクの声が途切れる。ナハトは反射的に振り返るが時すでに遅かった。わずかに離脱の遅れた
「…まあアイツなら大丈夫だろう。」
彼のガクへの扱いは割と雑であった。
「さて、状況が読めん。どう動くべきか…」
クロノス・
「それにしてもさっきの異常な敵の量…特殊条件による敵機追加というわけでもなさそうだ。挙動が不自然すぎる。NPDの暴走…最近増加していると聞くバグの影響か…?」
ナハトがメニューを開き、ミッションの詳細を確認するも受注時との内容の変化は見られなかった。
「アイツなら…こういう時迷わずボスのもとに向かうだろうな。」
ボスエネミーがフィールド上に出現した知らせが送られていたことを確認すると、クロノス・
狭い通路を抜けると少し開けた空間に出た。足を踏み入れると視界の端で影が動き物陰に隠れるのが見えた。
「何者だ?!」
ナハトは反射的にスラスターを吹かし、影との距離を一気に詰める。接近と同時に右手から発振させたビームサーベルを突き付ける。
「わわっ!敵じゃありません!」
「プレイヤー…か?」
そこにいたのは二丁のビームライフルを携えた白色のガンプラ――アルデバランだった。
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