無事夏休みに入ったので投稿頻度上げていければと思ってます。
あと今回はちょっと長めの1話完結です。
|「や…やっと完成した…」
作業机のスタンドライトだけが照らす薄暗い部屋で寝間着姿の青年――
「これが
作業机の上には多数の作業器具やジャンクパーツ、プラ板などが散乱しており、その中心にたった今完成したとみられる二つの物体が置かれている。一つはド・ダイがベースの
「細かいアレコレもヨシッと……あ。」
ぺらぺらと設計図の記されたノートをめくっていた手が止まり、雅空の表情が凍り付く。開かれたページには前述の二つに加え、別の一つの装備の設計が記されていた。つまるところ作り忘れである。
「………どうしよ」
ノートを手に立ち尽くす雅空。ちなみに明日(厳密にはもう今日なのだが)はしっかり大学の講義がある。まともな人間なら別の日に回して今日はもう床に就こうとするだろう。しかし彼は昔から物事を中途半端な状態で放っておくことを嫌う男であった。それが自身の愛するガンプラであればなおさらだ。
「……これだけ作って寝る絶対。」
誰も聞いてない決意表明をして雅空は再び作業机の前に椅子に腰を落とした。窓の外では虫の音だけ静かに鳴っている。結局その部屋からは朝まで作業音が絶えることはなかったという。
「……で、そのザマってわけか。」
「………はい」
雅空と宵真が通う大学の食堂で宵真は、机に突っ伏してうめき声をあげる雅空を前に蕎麦を啜っていた。ジャブロー地下での出来事から一週間たった平日のお昼時、食堂は昼食を食べに来た学生で溢れかえっており、ざわめきと食器の音が絶えず響いている。
「それで?件の装備は完成したのか?」
宵真が呆れた表情で尋ねると、雅空は我が意を得たりとばかりに勢いよく顔を上げた。
「そりゃもちろん!
饒舌に話し始めた雅空だが、すぐに吐き気に襲われうめき声と共に再び机に伏すことになった。
「1日徹夜しただけでそうはならないだろ…。」
「多分…日頃の不摂生が祟ってる…。」
「馬鹿がよ。」
宵真はそう吐き捨てると自らの食事を再開する。そんな二人がついているテーブルに近づく影があった。
「やっほー二人とも、ここ空いてる?」
「別に構わん。」
「あー………
雅空が重たい頭を上げ声のした方を見ると、そこにはグレーのシャツの上から白のカーディガンを羽織った、快活な印象を与える女学生が定食の乗ったお盆を持ってこちらを覗き込んでいた。肩にかかるかかからないくらいの長さのミントグリーンの緩く波打った髪が光を受けて柔らかく揺れている。
「それじゃ、お隣失礼して…っと。」
その女学生――雅空の幼馴染である
「どしたの?珍しく調子悪そうだけど。」
「アホがアホやっただけだ。放っておけ。」
鏡花はぐったりとしている雅空の様子を見て不思議そうに尋ねたが、宵真の返答は素っ気ない。それを気にした様子もなく鏡花は自分の昼食を食べ始めた。お互いに遠慮をしないこの三人はいつもこんな調子であった。
「それで…今日もGBN、潜るのか?」
(ピクリ)
宵真が話題を戻すと、雅空は体を起こし答える。GBNというワードに反応して鏡花の肩が小さく跳ねた気がしたが、雅空は気づかない。
「ああ…潜る。というかそのために急いで完成させたんだからな、ガッツリ戦闘はちょっと厳しいかもだけど。」
「なら観光でもするか、宇宙のマップを見て回るなんてどうだ?」
「いいね…そうしよう。」
「……あのさぁ。」
二人は突然会話に割って入った鏡花の方を向くと、彼女は頬杖をつき半眼で雅空を睨んでいる。訳が分からず雅空が頭に疑問符を浮かべていると、鏡花は大きくため息をついて手に持ったスマホの画面を見せてきた。そこに映し出されているのは使用ガンプラとダイバー情報だった。プレイヤー名は『キョウカ』となっている。
「GBNのダイバーアカウントじゃん、やってたの?」
真意を測りかねて問いかける雅空に彼女はもう一度大きくため息をついた。
「……ちょっと前から始めてました。」
「??? だったら言えばよかったのに。」
呆れて目を伏せる鏡花、見ると宵真も天を仰いでいる。
「ずっと誘ってくれるの待ってたのに…」
「なんて?」
「うるさい!とにかく今日は一緒にダイブするから!!」
「あっはい。」
拗ねて顔を背け食事に戻る鏡花。目を白黒させる雅空。宵真はそんな親友からそっと目を逸らし独りごちる。
(ここ最近、傍から見ても割とわかりやすくアピールしてたと思うんだがなぁ…。)
戦闘の勘は鋭いくせにこういうところは鈍いのだから救えない、宵真は親友のクソボケ気質の矯正を内心諦め、食事に集中することにした。
ガクと鏡花改め
「すまーん、急な予定が入ったー(棒)」
らしく不参加である。キョウカは宵真の気遣いに内心感謝しながら隣を歩くガクの横顔を窺う。当のガク本人はさっきまでの醜態が嘘のように目を輝かせ、あたりを見回している。
「ここ初めて来たんだよなぁ…すげー、あっギガンにガッシャじゃん!あそこ行こうぜ!」
子供のようにはしゃぐガクの姿に少し頬が緩む。
ガクとは幼いころからの仲である彼女、実は高校時代に彼と趣味を共有したくてガンダムシリーズを履修してガンプラに手を出したはいいものの、GPDの戦闘のたびに機体が損壊し修理が必要という初心者に厳しすぎる仕様によりガンプラバトルへの参加を断念した過去があった。そんな彼女にとって戦ってもガンプラが壊れず初心者が参加するハードルの低いGBNの登場はまさに天恵であった。
長い付き合いでありながら二人で一緒に何かをするということが少なかったが、これでようやく同じ経験を共有できるのだ。その事実が彼女にはとても嬉しかった。ガクの想像以上の鈍感さによって予定が後ろにずれ込んだのはこの際忘れることにした。今こうして共に居られるそれだけでお釣りがくる。
「はいはい、一緒に行こう。」
一足先に駆けだしたガクを追って小走りで道の先のMS工場を模したアミューズメント施設へ向かう。この先のグラナダでのデート(彼の方にそういう意識はないだろうが)への期待で胸を膨らませながらガクの手を取る。
都市をおおう天蓋の向こうには星々が爛々と輝いていた。
「どうしてこうなっちゃうかな…!?」
キョウカは自身のガンプラ――フォビドゥン・ディアーナのコクピットにいた。フォビドゥンガンダムをベースに一部ガンダムアシュタロンのパーツを取り入れ近接戦に特化させた機体で、原型機にあったレールガンとニーズヘグがオミットされ代わりに盾部分に実体刃のハサミを、腰にサーベルラックを、手持ち武器として対艦刀を薙刀状に改造した対艦槍を追加している。
「勝手にミッションに突撃したのは悪かったよ。」
隣にはガクの機体――ガンダム・
なぜ二人がガンプラに載ってグラナダ近辺の宙域を飛んでいるのかというと、二人で楽しく様々な施設を回っていた途中、偶然コンビ限定のイベントミッションをガクが発見し、キョウカが止める間もなく参加を選んでしまったからだ。
「あたし、バトルは苦手なんですけどぉ!」
一度、興味本位でGPDに手を出してガンプラを壊してしまった経験からキョウカはガンプラバトルに少し苦手意識を持っていた。
「ごめんごめん、ちゃんとフォローするから!まあその必要はないと思うけど。」
「言ったからね!ちゃんと助けてよ!」
「はいはいっと…見えてきたね。」
ミッションの内容はシンプル。指定された宙域に行き、配置された敵二体を撃破するだけ。二機が指定の宙域に侵入したことにより敵NPDが現れた。
【ENEMIES APPEARD:GQuuuuuuX&Red Gundam】
「なるほど…MAV戦ってワケね。俺は赤いガンダムに行くから白い方はよろしくね!」
「さっきフォローするって言ったよねぇ!?」
「アハハハハハ!」
「笑い事じゃない!」
「先手はいただくぜ!」
「へぇ…そんじょそこらの敵とは違うようだな!」
ガクはそれを見て楽しくなってきたとばかりに笑う。
一方、キョウカはジークアクスの猛攻撃に防戦一方だった。一定の距離を保ちながらビームライフルを絶えず放ってくるジークアクス、キョウカの
「もう…ガクの馬鹿!いきなりこんな…きゃっ!?」
ビームが効いていないことに気が付いたのか、ジークアクスは距離を詰め
その様子を見た赤いガンダムは
「なるほど倒せそうな方に集中して頭数を減らす、合理的な判断だ。思い通りにはさせないが!」
それを見てガクもキョウカと合流すべく機体を転進させる。そして二機はほぼ同時に僚機と合流を果たした。制御を失い回転する
「大丈夫か?一度距離をとるぞ。」
「うう…目が回る…。」
ガクは目眩ましの照明弾をありったけ発射すると
二機は敵から離れ、グラナダ近海のデブリ帯に身を隠していた。周囲にはMSや戦艦の残骸が多数浮遊しており、ここならばそう簡単に見つかることはないだろう。
「ふう…なんとか撒いたか。大丈夫か?」
「……死ぬかと思った…………。」
深呼吸し息を整えるキョウカをよそに武装を確認するガク。弾薬の消費は2割ほど、まだまだ十分に戦闘を継続できる範疇である。リボルビングハウザーの状態を見ていると不意にキョウカが呟いた。
「ねえ…さっきの戦い、ガクは結構余裕あったでしょ。」
「………」
「ミッションに参加したのもわざと…違う?」
「………」
「そんなに私と一緒は嫌で「それは違う。」
キョウカの言葉を遮ったガクの声は真剣そのものだった。
「お前と一緒にいるのは楽しい、これは嘘じゃない。でも俺たちが夢中になってるガンプラバトルのことも知って欲しいって思った。俺たちは心の底からガンプラバトルが好きだから。」
「ガク…」
「だから強引に参加させたのは完全に俺の我儘だ。お前がGPDでガンプラぶっ壊したことがあるって知ってたのに…ごめん。」
「……謝らないでよ、それならそうと言ってくれれば私も………あれ?」
昔からそうだ、手先は器用なくせにこういう所は不器用。そんな幼馴染に嘆息しながらも、その変わらなさに安心しつつ疑ったことを謝罪しようとしたキョウカはガクの言葉のある一点が引っかかった。
「…GPDの件、ガクには言ってないよね?なんで知ってるの?」
「お前の姉ちゃんから聞いたけど…?」
「あのバカ姉貴っ!!」
脳内にシスコン気味な姉の顔が浮かぶ。ガクには隠しておきたかった秘密をバラされたことに頭を抱えるキョウカ。それもそうだろう、挫折の体験などあまり人に知られて気持ちのいいものではない。ガクは咳払いをして機体を来た方へと向けた。
「とにかく…残りは俺一人でやる。キョウカはここで待ってて、この埋め合わせは必ずするから。」
「はい、ストップ。」
「えっ」
一機でさっきの宙域の方に発進しようとする
「幼馴染なら知ってるでしょ、あたしがやられっぱなしじゃ気が済まない性格だってこと。」
「でもバトルは苦手だって…」
「たしかにバトルは苦手だし、うまくやれる自信もない、避けてた部分もある。」
その疑問にキョウカは通信越しにガクの目を正面から見つめて答える。
「でもガクの『ガンプラバトルが大好きだ』って思い、あたしも理解したい。大切な…友達だから。」
その言葉にガクは自嘲気味に小さく笑う。
(そうだった、キョウカはこういう人だった。こんな回りくどいことせずに、最初に正面から言うべきだったな。)
「わかった、なら一緒に行こう。」
振り返り、手を差し伸べる
「勝手した罰として、あたしにちゃんと合わせてよ。」
その手を
「わかった。それじゃあ出撃だ!」
ミッション指定宙域、ジークアクスと赤いガンダムはお互いをフォローできる距離を保ったまま周囲を警戒していた。すると何かが急速に接近するのを感知した。それは先ほど見失った二機だった。
「ガク、行くよ!」「合わせるから好きに動け!」「言われなくても!」
バックパックを被った強襲形態の
「まずは白いの!!」
ゲシュマイディッヒ・パンツァーを前面に展開し、放たれたビームの砲火を歪曲させながら突貫する
高い推力をフル活用した体当たりにジークアクスが吹き飛ぶ。MAVのフォローのため、間に割って入ろうとする赤いガンダム。
「俺を忘れちゃあ困るぜっ!」
「キョウカ!そっち行ったぞ!」「わかってる!」
慣れないながらなんとかビットから放たれたビームを躱すが、その隙に体勢を立て直したジークアクスがビームサーベルを抜き放つ。
迫るジークアクスと二条のビーム、しかしキョウカは怯まない。
「さっきの借り、倍にして返すよ!」
バックパックを背部に移動させ強襲形態からMS形態に戻ると二つの盾でビームを受け、対艦槍でサーベルと鍔迫り合いをする。二つの光の刃が交わり火花が散る。
(思い出せさっきのガクの動きを…ここだっ!)
鍔迫り合いをしたまま、腰を捻り前蹴りをジークアクスに叩きこむ。リーチの長い対艦槍を装備しているからこそできる芸当だ。再び吹き飛ぶジークアクス。すぐさま
「そこっ!」
動揺したのか反応の遅れたビットを対艦槍を持つのと逆の手で掴むとそのまま加速をかけてもう片方に叩きつけた。爆散する二基のビット、その一連の攻防を見たガクは内心感嘆する。
(やっぱりお前は
「俺も行くか!」
ガクは、ビームライフルを構えて接近する赤いガンダムに向けてリボルビングハウザーの照準を合わせ、引き金を引く。すぐさま巨大な砲身から弾が発射され赤いガンダムに向かっていく。敵はそれを先程と同じように軌道変更により回避、お返しとばかりにビームライフルの引き金を引く。
だがビームが発射されることはなかった。なぜならリボルビングハウザーから発射された散弾がビームライフルの銃身を蜂の巣にしたからだ。
「榴弾と散弾の切り替え式だっ!」
使用不能になったビームライフルを放棄しビームサーベルでの接近戦に移行しようとする赤いガンダム。ガクは通信でキョウカに声を飛ばす。
「そろそろ決めるぞ!」「わかった!」
リボルビングハウザーを捨て、背中の近接武器を手に持つ
二機はビームサーベルを手に向かってくるそれぞれの相手に対してとどめに入る。
先に動いたのは
ガギンッ!という音と共にシールドが叩き割られ刃が腕に食い込む。しかし受け止めることには成功した。
「点火。」
ガクの声と共にハルバードの弾倉内の弾一つが炸裂し根元で火花が弾け、刃が再加速する。そのままハルバードは食い込んでいた腕を断ち、赤いガンダムの胴体を両断した。
一方、
「これでとどめっ!」
その体勢のままバックパックの前部に取り付けられたプラズマ砲『フレスベルグ』を接射する。ゼロ距離で放たれたそれを防ぐ手段はジークアクスにはない。
ほぼ同時に爆発するジークアクスと赤いガンダム。
【MISSION COMPLETE】
ミッションの完了を示すウィンドウが表示されファンファーレが鳴り響く。
二人は顔を見合って笑いあうと機体でハイタッチした。新たなファイターの誕生を祝福するように、二人を星の光が照らしていた。
「はぁ~~なんか凄く疲れた…」
「お疲れ様。」
「大体ガクのせいだからね!」
「それは悪かったって。」
二人はミッション終了後、グラナダを出て極東のロビー近くまで戻ってきていた。空は夕暮れが迫り、赤い夕陽が差している。そのとき一緒に歩いていたガクが夕陽を背に、どこか落ち着かない様子で歩みを止める。
「えーっと、それで…その…」
「何?言いたいことがあるならはっきり言ってよ。」
歯切れが悪くなったガクに、キョウカが訝し気に返事を催促すると、彼は意を決したように真剣な顔になって言った。
「やってみてどうだったガンプラバトルは…?」
キョウカは一瞬、虚を突かれた顔をして、それからふっと笑った。
「超楽しかったよ、また一緒にやろ。」
肩から力が抜け、安心したような、嬉しいような表情になるガク。二人はまた並んで歩きだす。
気が付くともうロビーの入り口が見えている。そこにはナハトとスバルが二人で手を振っていた。
「あれ?ナハト、用事はもういいのかな?」
「……ホントに気づいてないんだ」
「何がだよ?」
キョトンとするガクに呆れるキョウカ。ガクは彼女の手を掴んで走り出す。
「まあいいや、行こうぜスバルのこと紹介しなきゃだし。」
「はいはい、わかったわかった。」
手を繋いで駆けだす二人。その足取りは軽い。彼らのGBNにおける物語はまだ始まったばかりだ。