立ち並ぶ廃墟と化したビルの間を進む一機のガンプラがあった。ガクの駆る
「いねぇな~~~、ホントにここで合ってるのか…?」
ぼやきながら何かを探すようにあたりを見回すガク。ここは戦闘が可能なエリアであるため、何かしらの電波妨害が行われているのかレーダーの効きが悪い。おまけに空には分厚い雲がかかっており、昼のはずなのに薄暗いときている。周辺は見渡す限りの廃墟で人の気配はなく、乾いた風が吹きすさんでいた。
「いったん出直して詳しいやつ連れてくるべきかなぁ………ん?」
探査を繰り返すも結果は芳しくない。途方に暮れるガクの耳に突如何か大きなものが崩れる音が入ってくる。かなり遠いがもしかするとお目当ての人物の手掛かりになるかもしれない。彼は急いで機体を音のした方に転進させる。そしてビルの間を数キロほど移動すると。
「………ビンゴ!」
思わず口角を上げたガクの目の前には、いくつもの巨大なビルが断面図のような綺麗な切り口を晒しているという異様な光景が広がっていた。
そしてその光景の中心には鮮血を浴びたかのような真っ赤なガンプラが一機佇んでいた。
話は数時間前に遡る。
「フォースを組みたいと思います!」
「どうした急に」「?」「いきなり呼び出したのはそのため?」
グラナダでの一件からおよそ一週間後、キョウカ、ナハト、スバルの三人はガクによりロビーのいつもの場所に呼び出されていた。そして先の一言が集めた張本人、ガクの第一声であった。
「いや、フォースっていうチームみたいなシステムがあることを最近知ってさ。拠点を持てたり、専用ミッションがあったり楽しそうじゃん?それにみんなと一緒に戦って、ソロも悪くないけどチーム戦もやっぱりいいなと思ったんだ。」
少し恥ずかしそうに視線を泳がせながら言うガクに、ナハトは嘆息しながら彼の肩に手を置いた。
「まあ俺は元からお前とアイツ以外と組む気はなかったからな。改めてよろしく頼む。」
それにキョウカとスバルも続く。
「それじゃアタシも。」「私でよければよろしくお願いします!」
二人がすんなり加入を決めたのが意外だったのか、面食らうガクは心配そうに二人に声をかける。
「……別に先約があるとか、嫌だったら断っていいんだよ?」
「誘った側のくせに何言ってんの、アタシもアンタ以外と組む気はないの。それに…」
話の途中でキョウカは腰を落とし、隣のスバルの肩に手を回した。
「スバルちゃんもこう言ってるんだからアンタは素直に喜べばいいの!ねー?スバルちゃん。」
キョウカのスキンシップにスバルは嬉しいようなくすぐったいような様子で続いて言う。
「私も、組むならガクとがいいです!」
それを聞いたガクは緊張を緩めた。
「ありがとう、二人とも。にしてもホントに仲いいな…」
キョウカとスバルの二人は以前のグラナダの一件のあとにガクの紹介で知り合ったばかりのはずだが、彼の知らぬ間にずいぶんと仲を深めていたようだ。
「そういうわけだ、頼りにさせてもらうぞリーダー。」
仲睦まじげな二人に対抗するように肩を組んでくるナハト。するとスバルといちゃついていたキョウカがふと思い出したように顔を上げる。
「……たしかフォース戦って五人必要なんじゃなかったっけ?あと一人足りなくない?」
「一応五人以下でもフォースを組むことはできますけど、フォース戦となると人数不利になっちゃいますね。」
「それなんだよなぁ…」
またガクの表情が曇る。彼は基本的にワンマンアーミー気質なのでGBN内の知り合いはこの3人しかいなかった。スバルとの初対面のようなことをするのはかなりのレアケースである。
「……ナハト、誰かいい人知らない?」
「そんな彼女探しみたいな…」
キョウカの突っ込みをよそに、ナハトは想定内だというような余裕ありげな表情で懐からメモを取り出した。
「そういうと思って情報は集めてある。」
「マジ?!助かる!で、どんな人?入ってくれそう?」
「落ち着け。」
目を輝かせるガクをなだめながら、メモを開いてスバルに渡す。キョウカもスバルの肩越しにそれを覗き込んだ。
「ソロのダイバーだけど結構お強い人なんですね…」
「どれどれ…強っ!超上級者向けミッションをいっぱい単独クリアしてるじゃん!でもこの人本当に入ってくれるの?」
メモに目を通した二人が驚きの声を上げる。
「俺にも見せてくれよ」
ガクが覗き込もうとするとナハトはメモをスバルから受け取り畳む。そして楽し気に口角を上げた。彼がこういう表情をするのは決まってよからぬことを考えているときだ。
「特定できるだけの情報は教えてやる、あとは会ってからのお楽しみだ。入ってくれるかはお前次第だ。安心しろお前も知ってる奴さ。」
「誰なんだよそれ?」
「会えばわかる。」
話を濁すナハトにガクはただ首を傾げるしかなかった。
二人はついて行きたがったが、ナハトが「一人の方がいい」というのでこうしてガクが一人で出向いて今に至る。
深紅のガンプラを見下ろしながらガクは通信を繋ぎ、目の前のガンプラに呼びかける。
「その機体色見たら思い出したぜ、『飛鳥の辻斬り』。降りて話でもしようや。」
「………その声にその装備、『爆弾魔』か。」
通信越しに向こうの呟く声が聞こえた。ガンプラを非実体化させ、歩いて近づくと向こうもそれに倣い、降りてきた。
黒の袴に身を包んだ若い男だ。黒髪を後ろでひとくくりにしており、腰には二振りの刀を差している。その姿はさながら時代劇の中の侍のようだった。鋭く赤い瞳がガクを捉える。
「久しぶりだなー
「…リアルネームで呼ぶな、ここではイザナだ。」
親し気に話しかけるガクに、その男――イザナは表情を動かすことなく答える。お世辞にも好意的な反応には見えない。
「悪い悪い。一応自己紹介しておくか、俺はガクだ。まあリアルと一緒だがな。」
「……貴様と無駄話に興じるつもりはない、要件を言え。」
ガクが話題を変えるもイザナの反応は素っ気ない。
(俺こんな嫌われるようなことしたかな…?)
「そんじゃ本題に入ろう。単刀直入に言う、俺の作るフォースに入ってくれないか?」
本題を切り出したガクはイザナの表情を窺うが、彼の表情筋が動くことはなかった。ただ少し目を伏せて顎に手を当て考え込むような素振りを見せただけだった。
「……我もちょうどフォースに興味が湧いていたところだ、ここらで腰を落ち着けるのも吝かではない。」
「ほんとに?!やった!」
「ただし条件がある。」
喜んだのもつかの間、そう簡単に物事が運ぶこともなく。ガクは目くばせでその言葉の先を促すと、イザナはそっと腰の刀に手をかけた。
「
「従えるとかそういう話じゃないんだけどな~。まあいいさ、要するに俺が勝てば要求を呑んでくれるって事だろ。今すぐやるか?」
イザナの視線の鋭さが増す。ガクの瞳からは先ほどの喜色が抜け落ち、ただそこには冷徹に相手を見定める戦士の瞳があった。
「ああ、幸いにも機体の状態も万全だ。」
「OK、俺もだ。」
イザナが手元のウインドウを操作し、ガクのもとにタイイチの勝負の誘いが送られてくる。それを受諾すると二人は互いに背を向けて反対の方向へ歩き出した。
100mほど離れた所で二人は同時に向き直りそれぞれのガンプラを実体化させ乗り込む。
ガクの機体はいつも通りのガンダム・
対するイザナの機体は深紅に染められたイフリートがベースのガンプラだ。ただ全身が高速近接戦闘に合わせての軽量化とスラスター類の強化がされており元機体より華奢な印象を受ける。一部にはマスラオやヴァルキュリア・フレームのパーツも使われているようだ。左腰にはEパックのついた大きな鞘が下げられており、一振りのビームソードが納刀されている。右腰には日本刀型の実体剣を下げている。
深紅と紺の二機はにらみ合い、勝負の始まる時を待つ。場は静寂に包まれ聞こえるのは空虚な風の音だけだ。
【1on1 BATTLE START! 】 【3】 【2】 【1】
無機質なシステム音声が時を刻む。
【0! READY FIGHT!!】
「イフリート・紅蓮、イザナ。」「ガク、ガンダム・
「参る!!」「出る!!」
戦いの火蓋はここに切って落とされた。
「断ち切れッ!飛剣!!」
勝負開始とほぼ同時にイザナのイフリート・紅蓮は左腰のビームソードを凄まじい速度で抜刀する。しかし彼我の間はおよそ100mもある、通常の斬撃武器が届く距離ではない。
そう、
「ッ!!」
大きな鞘から逆袈裟に抜き放たれたビームの刃が伸びる。一瞬で100m以上の長さになったそれをガクは反射的に機体をよじることで何とか回避する。
これこそが彼の持つ特殊技能「
刃を延長できるのは時間にして1秒に満たない。イザナの卓越した技術によりその短い時間で抜刀と解放のタイミングを完璧に合わせることで実現が可能となるのがこの「風薙」だ。少なくとも彼の知る限りこの技を扱えるのは彼自身を除いて他にいない。
そんな渾身の一刀を躱されたというのにイザナの口元には笑みが浮かんでいた。
「それでこそだ!天咲!!俺の一刀を初見にて防いだ唯一人の男!」
「腕は落ちていないようだな!出雲!!」
斬撃を回避したそのままの勢いで回り込み、ミサイルを放つガク。だがそれらは納刀しながら放たれた紅蓮のバルカンにより撃ち落とされる。
「遮蔽物のないここじゃ分が悪いな…」
ガクは機体を転進させ廃墟のビル群に侵入した。
「身を隠すつもりか!」
イザナもそれを追う。ビル群の中は見通しが悪く、レーダーもうまく働かない。すぐに
「そう遠くには行っていないはず…ならば!」
一方、ガクはビル群の中でもひと際大きいビルの陰に機体を潜ませていた。
「近接戦は特化しているあちらが有利、かといって距離をとってもアレが飛んでくる。遠距離斬撃の射程外から削るしかないか…」
武装を確認しつつイザナを崩す目算を立てていたその時、彼の背中に冷たい感触が走る。
「ッ!まさか?!」
一拍遅れて何かがこちらに風を切り高速で迫る音が耳に入る。ガクは自身の直感に従い、左手の大楯を音のした方に向け、防御姿勢をとった。
その直後、背にしていたビルを切り裂き、光の刃が現れる。それはビルを断ち切った勢いのまま大楯に到達する。
「くっ!!」
少しでもダメージを軽減するために後ろに跳び、斬撃を受け流そうとするガク。一瞬の攻防の後、その光の刃は大楯を横一文字に切断し消えていった。大楯こそ失ったものの本体の損傷はほとんどなかったのはガクの操縦技術のお陰と言えるだろう。
(あっぶねえ…障害物越しで威力が落ちてなかったら今頃真っ二つだ…)
すぐさま斬撃の飛んできた方向から敵の位置を割り出そうとするガク、だがイザナが彼にそんな隙を与えてくれるはずもなかった
ザンッと少し上の離れた所で斬撃の音が響く。ガクが上を見上げるとついさっき背にしていたビルの上方に切れ込みが入っていた。おそらくイザナの「風薙」によるものだろう。その切れ込みはビルの
「そういう事かよっ」
ガクが急いでそのビルから距離を取ろうとしたのと同時に、基幹部分に重大なダメージを受けたビルがこちら側に倒壊する。巨大な鉄筋コンクリートの塊が地面に叩きつけられ、灰色の砂埃が視界を覆う。間一髪で崩壊に巻き込まれるのを逃れたガクはリボルビングハウザーを構える。
「ならばこっちも同じ手を使わせてもらう!角度修正、威力計算、軌道入力、行け!!」
土煙から抜けた
ガクの狙った一帯は大崩壊による土煙と瓦礫に包まれる。
(さあ…そのままでは瓦礫に押しつぶされるぞ。空中に上がってこい、その瞬間を狙撃してやる!)
ガクの狙い通り一帯に立ち込めた土煙を抜けて深紅の機体が上昇してくる。
(来たっ!!)
その機体に狙いを定める、引き金を引けばすぐさまリボルビングハウザーから砲弾が音速を超える速度で飛び出し、敵を粉砕するだろう。そうなればガクの勝ちだ。
だが彼は引き金を引くのを躊躇った、なぜならば。
スコープに捉えたイフリート・紅蓮と目が合った。それはおかしなことではない、自分は今高所に陣取っているのだ。見つかるのはおかしいことではない。
彼が躊躇ったのは、そのイフリート・紅蓮が空中で
「不味いっ!!」
ガクの判断は速かった。すぐにスコープから目を離して射撃姿勢を解除し、緊急回避を行う。それとほぼ同時だった、さっきまで彼のいた場所を光の刃が切り刻むのは。あのまま砲撃していたなら放たれた砲弾ごと切り捨てられていただろう。
「空中で抜刀とは…味な真似を!」
咄嗟に飛びのいたため、転がり落ちるように高台から降りる
(今のは完全に切ったと思ったのだがな…)
「どうした?こんなものか『爆弾魔』」
「いいや、ちょうど体も温まって来たとこだ。いくぜぇ出雲!!」
「来い!天咲!!」
イフリート・紅蓮が再び刀に手をかけ、
まだ一撃も与えられていないという状況であっても彼の闘志は衰えない。それどころか一層熱く燃え上がる。それに呼応するようにイザナの鼓動も高まっていく。
灰色の大地に深紅と紺が激突する。